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- 27章 -
- 謹賀新年-
しおりを挟む中には2段程の段差があり上段は柵の高さと殆んど変わらない高さだ。1番下の段差と柵との間にあるスペースも足1つぶんあるかないかくらいしかない。
柵自体も脛辺りまであるかないかだ。
ここも安積が見せたかった1つなのだろう。段差に腰掛け柵に手を置くと、池を指差し後ろに立っている面々へと輝かしい笑顔を向けた。
「ほら、見て!鯉っ!!」
「本当だ。よく見ると色々な柄の子が居るんですね」
「黒、白、黄色…と、なんだあれ。なんか色々混ざってるの」
「むっちゃん大雑把っw」
「鯉は鯉だろ。なぁ?」
「そうだな。鯉は鯉だ」
「がっくんまでっww」
座り込んだ安積の隣に鈴橋が腰を下ろし、その後ろから班乃と植野が立ったまま池を覗き込む。そして地味に慎重に、柱に手を起いた市ノ瀬もまた安積の指差す池を覗き込んだ。
「さっき睦月が言った黒いのが茶鯉で、黄色が山吹黄金、白がプラチナ、混ざってるのが…大正三色とか、昭和三色とか色々あるみたいですね。柄の大きさで品種は変わるそうです」
「へぇ!あんま気にしたことなかったけど、柄探しながら見るのも面白いかもっ!」
「「鯉は鯉だろ」」
「ぶれないねぇ、君たちww」
鯉は鯉。別にそこまで細かく見なくても風情を感じるのには十分だ。
歩き通しで疲れた体を漸く座らせると、鈴橋の口からは自然と溜め息が生まれでた。それと共に疲労を吐き出すと辺りをぼんやりと見渡してみる。
木々に囲まれ緩やかな風に揺れる水面と、時間という概念などなさそうに優雅に泳ぐ鯉や鴨が落ち着きと平穏をもたらしてくれる気がする。
「ちょっと便所行ってくるわ」
「…ぁっ、俺もっ!」
「あぁ…えぇ、ごゆっくり」
お手洗いを宣言した市ノ瀬と、それに連れ立った安積が然り気無く目配せしあって居たのを感じとり、“ 行ってらっしゃい ” ではなく、敢えて “ ごゆっくり ” と送り出す。
恐らく、2人だけの時間が欲しかったのだろう。
が、ここに “ 1人 ” 残される自分の身の事も少しは考えて欲しい。
気まずさを感じながら植野へと目を向けると、その視線に気がつき “ どうしたの? ” という表情を浮かべる。しかし直ぐになにかを感じ取ったかのようににこりと笑い、1匹の鯉を指差した。
「あれ、なんて言うんだろう? 頭だけなんか赤いの。なんか日本の国旗みたいなやつ!」
「…えと、丹頂って言うみたいですよ」
「へぇ!」
「…少しだけ席外しますね」
「えっ? …うん」
…優しさに泣きそうだ。
『いや、まぁ、もちろん…比喩なんですけど』
“ 気にしないで良いよ ”
“ 一緒に楽しもうよ ”
ここに居て良いと、言われた気がした。
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