やせ男とアイちゃん

こんさん

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やせ男とアイちゃん その2

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「おはようございまーす」

何の変哲もない、一日の始まり。

いつもの時間に起きて、いつもの時間に出社し、いつもの席に座る。

準大手メーカーの工場で、半年前から派遣として働き始めた。
自動機械を使った仕事が主と言うこともあり、職場には女性が多い。
年齢の若い子からおばちゃんまで、バラエティーに富んでいる。

その中でも、永瀬さんはピカイチの可愛らしさだ。
男性陣は皆、彼女を意識して仕事しているのが伝わる。

誰にでも明るく接し、こんな俺にも、いつも笑い掛けてくれる。

一方の孝志は…

痩せ男で低身長。お洒落とは無縁の空気感を遺憾なく発揮し、そのモテなさぶりは、人々に広く認知されている。

う~む。今日も永瀬さん、輝いてるなぁ。
まぁ、俺と並んでも不釣り合い極まりないんだけど…

朝から自虐。


「おはようございます」

遠くで無機質な、聞き覚えのある声が聞こえる。

孝志は首を伸ばし、声のする方向へ視線を送る。

(沢口さんだ)

昨日の今日で、何ともバツが悪い。
トイレに逃げ込もうかと、席を立とうとした瞬間、

「おはようございます」

既に沢口さん?

(えっ?早歩きしてきた?)

「お…おはようございます」

彼女は黙ってこちらを見ている。

「お…おはようございます」

もう一度、少し大きめに声を出す。


「身体鍛えた方がいいですよ」

そういうと、スタスタと歩いて行ってしまう。

(は?朝から何なんだよ!)
(おい!待て!)

と心で叫ぶ。

何だか、やり場のない怒りが込み上げてくる。
永瀬さんに比べて、なんて可愛げのない女だ。

彼女は陰で、「アイちゃん」と呼ばれているのを知っている。
でも、名前のどこにも「アイ」に繋がる読み方も文字もない。

どうやらAI(人工知能)から来ているらしいと、最近知った。

あの無機質な感じ、無表情な言葉遣いから、初期型AIの「アイちゃん」らしい。

身長は孝志より10cmは高いか?
顔は小さいのに、身体は孝志の3倍はありそうな迫力。

(ふん、アイちゃんも少しは痩せれば?)

目の前に居ないアイちゃんに、心で悪態をつく。

とは言え、自分のひ弱さを指摘されたことが、心に響いていた。

自覚してるだけに、腹が立つ
(くっそぉ、見返してやる)

人間の最大の原動力は「怒り」だ!


そう言えば、駅のすぐそばに「スポーツジム」がオープンしてた気がする。
ネットで調べると、すぐにヒットした。

今日の帰り、早速入会だ!

-目指せ細マッチョ!-



「お疲れさまっした~」

孝志は、勢いだけでジムの門をくぐる。

受付に向かうと、見覚えのあるシルエットが…

(あれ?アイちゃんだ。なんで?)

(やばい、隠れなきゃ)

思わず、観葉植物の陰に隠れる。
こんな時、華奢な身体が役に立つ。

ってか、何で俺はいつも隠れようとするのか?

観葉植物に溶け込んで、アイちゃんの様子を伺っていると、

「いらっしゃいませ~」

すぐ後ろで、もの凄~く良く通る声で、声を掛けられる。

「お客様は、初めてですか~?」

(いや、この距離感で、声デカすぎだろ)

「あぁ、はい…」

ふと、カウンターを見ると、アイちゃんと目が合う。

はぁ…隠れた意味なし。

「声を掛けてくれて、ありがとう」

満面の笑みを浮かべている店員に、無表情でお礼を言うと、カウンターへ向かう。

アイちゃんがこっちを見ている。

孝志は目を合わせられない。

(この威圧感…今の自分に欲しいっす)
(黙ってないで、何か言ってくれ~)

いたたまれない気持ちに、思わず背を向ける孝志。

「ふっ」

鼻で笑う声が聞こえたような気がした。

振り返った時、そこにはアイちゃんの姿は無かった。

(くぅぅ!やっぱり、とことん腹が立つ!)
(この怒りを、エネルギーに変えて!)

-目指せ細マッチョ!-

初日から、怒りをマシンにぶつけ、孝志の戦いが始まった。

続く…
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