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第二章 モモとダンジョン
第60話 ベルンと休憩(5)
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ベルゼゼは私たちに向かって、ゆっくりと山道を歩いてくる。
隣には馬に乗った将校らしき人間の男が従っており、その後ろにはリザードマンやオークを含む亜人の兵が追従していた。
「隊長、お久しぶりです」
敵の軍服に身を包み、ベルゼゼは私にむかって軽く礼をして挨拶をしてくる。その姿に私が呆然としていると、ジャムが彼女に向かって叫んだ。
「ベルゼゼ、お前!」
「あっ、ジャム先輩……いや、私のほうが年上なんで敬語でお願いしますね」
ベルゼゼはジャムに向かってニヤリと笑うと、冷静にそう言ってのける。
ベルゼゼは15歳のはずだ、見た目も…………。
「そうか、晩成型か」
私の言葉にベルゼゼは我々を小馬鹿にしたように拍手した。
「正解です。さすがですね、ベルン隊長」
彼女は私に向かってそう言う。エルフの成長は20歳くらいまでは人間とほぼ同じで、それからはゆっくりと歳をとっていくものだ。大体寿命は150歳くらい。
しかし、まれに早熟型や晩成型で見た目が早く老けてしまったり、若いままだったりする者もいるのだ。彼女はその若いままのタイプらしい。すっかり騙されていたわけだ。
そんな彼女は不意に後ろを向くと、周囲のリザードマンより一回り大きいリザードマンに指示を出す。
「指揮官の女はまだ遠くに行ってないはずです」
「そうか、わかった。いくぞ!」
彼は野太い声で仲間にそう命令すると、指揮官が向かったであろう方角に向かって森の中を急ぎ走りだした。
ここは一本道。馬で逃げる方向はすぐにわかってしまう。
そんな彼らを目で追いつつ、私たちは残りの敵兵を警戒した。
「ちっ」
上官に向かって行く敵兵を見て、不満そうに舌打ちするミルダ。そんな彼女に向かって、私は言った。
「行ってください」
「で、でも……」
「大丈夫です」
躊躇するミルダに私はそう答えた。彼女にはあんな指揮官でも守らないといけない理由があるのだろう。ミルダがいても、圧倒的不利には変わらないのだ。
「わかった」
彼女はそう言うとリザードマンたちを追いかけ走り出す。人間の足では彼らに追いつけないと思うが、ぎりぎり指揮官を救い出せるかもしれない。彼女も将校だ。それなりに戦闘訓練も受けており、簡単にやられることは無いだろう。
「追わなくていいんですか?」
ベルゼゼは味方にミルダを追わせようともせずに、私に向かって平然とそう言った。
「そっちこそ、このまま行かせていいのか?」
彼女が行った方角を見て聞き返す私。するとベルゼゼと敵兵たちは、余裕の笑みを浮かべた。
「彼女一人が行ったところでどうにもなりませんよ……しかし、こんな簡単に魔法部隊に潜入できるなんて思いませんでした」
彼女は何やら私に向かってそう答えると、さらに語りだした。
「我々はカルロス帝国の魔法部隊にさんざん苦しめられましたからね。一個部隊だけでも潰せればと情報収集のために潜入したのですが、いやあ、簡単でした。亜人だということで、特に身元の確認も無く入隊できたので、罠かと思いましたよ。年齢も簡単にごまかせましたし」
確かに亜人だとろくに身元の確認もなく、簡単に入隊できるのは確かだ。
私は苦々しい顔で彼女の顔を見つめる。すると彼女は自軍の将校と目を合わせ、頷いてみせると私に向かって聞いてきた。
「さて、たった四人でどうします? 降参しますか?」
この戦力差では勝ち目はない。無駄死にするよりかは降参するか……そう考えた時だった。
「隊長! 伏せてください!」
その言葉に私は頭を下げ、後ろを振り返る。するとニコが両手をまっすぐ敵軍に向けて立っていた。そして鋭い目で敵を見据えたニコは、微笑みを浮かべながら私に言った。
「隊長……ジャムと逃げてください」
「えっ!」
その言葉とともにジャムは私の腕を思い切り引いた。そしてそのまま私を抱きかかえるように、山道の脇、森の中へと転がり込む。
「追え!」
私たちの行動を見て、敵の将校がそう言った時だった。
「魔力砲!」
ニコたちは敵に向かって両手を突き出すと、必死の形相でそう叫んだのだった。
隣には馬に乗った将校らしき人間の男が従っており、その後ろにはリザードマンやオークを含む亜人の兵が追従していた。
「隊長、お久しぶりです」
敵の軍服に身を包み、ベルゼゼは私にむかって軽く礼をして挨拶をしてくる。その姿に私が呆然としていると、ジャムが彼女に向かって叫んだ。
「ベルゼゼ、お前!」
「あっ、ジャム先輩……いや、私のほうが年上なんで敬語でお願いしますね」
ベルゼゼはジャムに向かってニヤリと笑うと、冷静にそう言ってのける。
ベルゼゼは15歳のはずだ、見た目も…………。
「そうか、晩成型か」
私の言葉にベルゼゼは我々を小馬鹿にしたように拍手した。
「正解です。さすがですね、ベルン隊長」
彼女は私に向かってそう言う。エルフの成長は20歳くらいまでは人間とほぼ同じで、それからはゆっくりと歳をとっていくものだ。大体寿命は150歳くらい。
しかし、まれに早熟型や晩成型で見た目が早く老けてしまったり、若いままだったりする者もいるのだ。彼女はその若いままのタイプらしい。すっかり騙されていたわけだ。
そんな彼女は不意に後ろを向くと、周囲のリザードマンより一回り大きいリザードマンに指示を出す。
「指揮官の女はまだ遠くに行ってないはずです」
「そうか、わかった。いくぞ!」
彼は野太い声で仲間にそう命令すると、指揮官が向かったであろう方角に向かって森の中を急ぎ走りだした。
ここは一本道。馬で逃げる方向はすぐにわかってしまう。
そんな彼らを目で追いつつ、私たちは残りの敵兵を警戒した。
「ちっ」
上官に向かって行く敵兵を見て、不満そうに舌打ちするミルダ。そんな彼女に向かって、私は言った。
「行ってください」
「で、でも……」
「大丈夫です」
躊躇するミルダに私はそう答えた。彼女にはあんな指揮官でも守らないといけない理由があるのだろう。ミルダがいても、圧倒的不利には変わらないのだ。
「わかった」
彼女はそう言うとリザードマンたちを追いかけ走り出す。人間の足では彼らに追いつけないと思うが、ぎりぎり指揮官を救い出せるかもしれない。彼女も将校だ。それなりに戦闘訓練も受けており、簡単にやられることは無いだろう。
「追わなくていいんですか?」
ベルゼゼは味方にミルダを追わせようともせずに、私に向かって平然とそう言った。
「そっちこそ、このまま行かせていいのか?」
彼女が行った方角を見て聞き返す私。するとベルゼゼと敵兵たちは、余裕の笑みを浮かべた。
「彼女一人が行ったところでどうにもなりませんよ……しかし、こんな簡単に魔法部隊に潜入できるなんて思いませんでした」
彼女は何やら私に向かってそう答えると、さらに語りだした。
「我々はカルロス帝国の魔法部隊にさんざん苦しめられましたからね。一個部隊だけでも潰せればと情報収集のために潜入したのですが、いやあ、簡単でした。亜人だということで、特に身元の確認も無く入隊できたので、罠かと思いましたよ。年齢も簡単にごまかせましたし」
確かに亜人だとろくに身元の確認もなく、簡単に入隊できるのは確かだ。
私は苦々しい顔で彼女の顔を見つめる。すると彼女は自軍の将校と目を合わせ、頷いてみせると私に向かって聞いてきた。
「さて、たった四人でどうします? 降参しますか?」
この戦力差では勝ち目はない。無駄死にするよりかは降参するか……そう考えた時だった。
「隊長! 伏せてください!」
その言葉に私は頭を下げ、後ろを振り返る。するとニコが両手をまっすぐ敵軍に向けて立っていた。そして鋭い目で敵を見据えたニコは、微笑みを浮かべながら私に言った。
「隊長……ジャムと逃げてください」
「えっ!」
その言葉とともにジャムは私の腕を思い切り引いた。そしてそのまま私を抱きかかえるように、山道の脇、森の中へと転がり込む。
「追え!」
私たちの行動を見て、敵の将校がそう言った時だった。
「魔力砲!」
ニコたちは敵に向かって両手を突き出すと、必死の形相でそう叫んだのだった。
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