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入学式
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短い夏が終わり、学校へ入学する日になった。世界に一冊しかない革表紙の手書き本によると、入学式というのがあって、説明を聞いたら昼前には終わるそうだ。準備していた制服に着替えると、いよいよ知らない場所に一人で行くのだ、という気持ちになる。
昨日から、「何かあったらすぐ帰っておいで」と何度もいうドミトリーの方が、緊張しているのか青い顔をしている。そのたびに「はい」と答えるが、自分のことよりドミトリーの体調の方が気になる。こんなに青い顔をして、仕事に行けるのだろうか。
「仕事行くのむり。つらい。ヤーデも学校辞めちゃいなさい」
いつものように玄関でうずくまって抱えられる。ドミトリーの働く省は、図書館とは反対方向にある。入学式で初日なので、遠回りになるが出勤ついでに図書館横にある学校まで一緒に行く予定だ。そのため早めに出発するはずが、ドミトリーはなかなか立ち上がらない。
「学校なんていかなくてもいいんだからね。嫌だったらいつでも帰っ」
「ドミトリーさん、ぼくはだいじょうぶ。だから行きましょう、ね?」
「……ん」
何度目かの帰っておいでを遮って諭すと、ようやく立ち上がった。ヤーデは大丈夫だろう、なにしろしっかりした子だ。もはや大丈夫でないのはドミトリーだけである。ヤーデとしっかり手を繋いだドミトリーが、背を丸めたまま玄関扉を開けた。
ドミトリーが名残惜しげに振り向きながら去っていくのを、手をふり姿が見えなくなるまで見送る。大きく息を吸い込んで、ヤーデはひとりで学校の門を通った。
学校には七年間在籍することになる。入学式で新入生として講堂の椅子に座っているのは、六十人ほどだった。今年は新入生の数が多い、とは教壇に立った学校長の挨拶で聞いた。学年が上がるごとに試験があり、不合格者は次の学年に上がれない。もう一年だけ同じ学年にいてもいいが、たいていは辞めてしまうらしい。七年間のうち、ふるいにかけられた生徒は数を減らし、卒業試験はさらに厳しいという。
「もちろん厳しいだけではない。優秀な者には学校から特待生制度で、授業料免除がある。さらに学力がじゅうぶん備わっている生徒は、飛び級することも可能だ」
一部の新入生たちが、授業料免除というところでざわついた。ヤーデも授業料免除を目指したいと思った。飛び級というのも気になる、飛び級すれば七年通わなくて済むのだろうか。あとで確認しよう。
「そんなわけで、この学校を卒業したというだけで、人から一目置かれるようになるだろう。もちろん卒業生たちのその後の努力あってのこと。皆も一人残らず卒業できるよう、精進なさい。そして信頼のおける友をつくり、短くはない学校生活を大いに楽しみなさい」
入学式のあとは教室に移動する。講堂に入る前に名前を確認され座る席を示されたのだが、それがすでに組ごとにわかれていたらしい。ヤーデは一組だった。一組はこちら、青い旗を振って声をあげる上級生の案内について歩く。
「なぁ、おまえ一組?」
歩いていると隣の男の子から声をかけられる。
「うん。きみも?」
新入生はどの子もみんな小さいのだが、隣の男の子は少し背が高い。周りもざわざわ好きに喋りながら歩いているので、話してもだいじょうぶなのだろう。立ち止まりそうになる子どもがいると、青い旗の上級生が「前を見て進むように」と声をかけている。
「おれ、アントン。アントン・ゴレツカっつーの」
「ぼくヤーデ。ヤーデ・ドミトリー」
「よろしくな、ヤーデ」
「うん。アントンもよろしく」
差し出された手をそっと握り返す。アントンの手はヤーデより少し大きくて、ごつごつしていた。
「おれんちは父ちゃんが鍛冶屋なんだ。おれもできることは手伝ってるからさ」
手のひらにあるタコを指してから、何かを振り下ろす仕草をしてみせる。あぁそれで、とヤーデは納得して頷く。
「おまえんちは?」
答えようとしたとき、上級生が立ち止まった。「ここが一組の教室。机に自分の名前があるから確認して、各自席につくように。さぁ入って」教室の入り口には青い旗がささっていて、一と書いてあった。
話が途中になってしまったが仕方ない、同じクラスならあとで話せるだろう。ぞろぞろと入室する波に押されながら、机に自分の名前を探す。
「あった」
ヤーデの席は一番前で左端の席だった。席につき、さきほど話したアントンを目で探す。アントンは後ろの方に座っていて、隣に座った子と話していた。
上級生が席を見つけられない子に、机の場所を教えている。座った子は好き勝手にしゃべっており、教室はたいそう賑やかだ。
開いたままの入り口から、体の大きな濃いヒゲを生やした男の人が、ぬっと頭をかがめて入ってきた。もじゃもじゃの髪、よれよれの服で、存在感がすごい。教壇に立つと、あれほど騒いでいた子どもたちが、しんと静まりかえっていた。
「えー、一組担任のオスカー・エンゲルスだ。たくさん学べ、そしてちゃんと卒業しろ。俺からは以上。あとは順に自己紹介、そこの窓際一番前、お前からいけ」
戸惑う生徒を見渡して、ヤーデと目が合うと顎でしゃくった。自分はどっかと椅子に座る。
「ほれ、立って自己紹介」
「はい。……ヤーデ・ドミトリーです。勉強をがんばりたいです」
立ち上がったヤーデは、後ろを向き全体を見回して挨拶をした。ぱっと見た感じ、一組は二十人ほどだった。女の子も数人座っていて、挨拶をするヤーデを見ていた。
「座ってよし、次。その横のお前、いけ」
ヤーデの隣の男の子がすっと立ち上がり、くるりと後ろを向くと「パトリック・フォン・フックスだ」と名乗り、すぐに座った。座ってから、なぜかヤーデをじっとにらんだ。貴族の子は、はじめて会うなと思って見ていたヤーデと目が合うと、ついと頭の方に視線をそらした。彼は短く切った茶髪を額になでつけているので、ヤーデのふわふわ動く髪が気に入らないのかもしれない。
ヤーデもドミトリーのようなまっすぐな髪に憧れるが、どう櫛を通してもふわふわと浮いてしまうので仕方ないのだ。なんとなく自分の髪に手をやって、なでつけてみた。手をはなした瞬間にふわりと浮いてしまったけれど。
自己紹介はそのまま次の列まで進んでおり、キャシーという女の子が好きな食べ物のことを話していた。名前だけでなくてもよかったのか、と思ったのはヤーデだけではなかったようで。それ以降の子どもは、将来の夢だとか、親の爵位を付け加えたりしていた。
最後の男の子が座ると、エンゲルス先生が立ち上がった。
「えー、全員終わったな。一年一組は二十人だ、来年一人も欠けていないことを願う。これから学校生活について説明を行う、ちゃんと聞け、理解しろ。必要ならメモをとれ、いいな」
案内してくれた上級生が、各机に素早く冊子を置いていった。ヤーデは携帯ペン入れを取り出し、ペンを持つと冊子を開いた。隣席の貴族、フックスはメモをとらないようだ。冊子を開いただけで先生の話を聞いている。
一年間の流れと、授業について簡単に説明したあと、明日必要な持ち物を忘れないよう注意される。
「このあとは学校内を案内する、明日から授業で移動もあるから迷うなよ」
エンゲルス先生のあとについて、ぞろぞろと子どもたちが歩いていく。後ろに案内の上級生がついていて、遅れそうな子やおしゃべりに夢中な子を、列に戻していた。
校内を一通り見て回り、教室に戻ってくると、たくさんの教科書がそれぞれの机に乗っていた。名前を書いたら、教室を出た廊下にある扉つき荷物入れに入れて、今日は終了である。
ヤーデは自分の荷物入れの扉の、ヤーデ・ドミトリーと書いてある名札をそっとさわった。教科書にもぜんぶヤーデ・ドミトリーと書いた。ぜったいに卒業するぞ、と決意を新たにする。
帰ろうとすると、「おい、ドミトリー」と呼び止められた。ドミトリーの名前を耳にし、一瞬ドミトリーがいるのかと辺りを見回し、それが自分を指すのだと気づく。ドミトリーと呼ばれるのは初めてであり、なんだか照れくさかった。
「はい」
振り返ると、隣の席にいた貴族、フックスがいた。学校には貴族の子も、そうでない子もいる。同級生として学校にいるうちは、貴族への挨拶や丁寧な言葉は禁止されている。ヤーデはフックスのことを、何と呼んだらいいのかわからず困った。ヤーデをドミトリーと姓で呼んだのだから、同じように呼ぶべきなのだろうか。
「ええと、フックス、さん? でいいですか? 隣の席の」
フックスの眉間に皺が寄る。
「……それでかまわない」
かまわない、という表情ではないが、本人がいいというのだから、いいのだろう。
「フックスさん、なんでしょう」
「きみの親はなんだ、どうやって試験の勉強を教わった」
「? ドミトリーさんは魔法使いですけど。試験の勉強は本を読みました」
「もしや魔法使いには、特別な勉強法でもあるのか?」
「? いいえ? ドミトリーさんは仕事で忙しいので、試験の勉強は教わってないです」
「嘘をつけ! 本を読んだだけで、この僕より優秀な成績で入学するなどありえないだろう」
「? なんのお話かしりませんけど、ぼく嘘はつきません」
さきほどからフックスの言っている意味が、さっぱりわからなかった。成績は公表されていないのに、優秀とはどういうことだろう。聞かれるたびに首をかしげていたら、フックスの額に青筋がたった。
「もういいッ! このふわふわ頭め。次の試験は負けないからなッ」
ヤーデに人差し指をつきだして、自分が言いたいことだけを言って早歩きで去ってしまった。
「なんだったんだろう?」
結局言っている意味が、ひとつもわからなかった。貴族には貴族だけが知る学校の話でもあるのだろうか。メレネ婦人が知っていたら聞いてみようと思う。明日の忘れ物がないよう、もう一度メモを見返してから学校をあとにした。
昨日から、「何かあったらすぐ帰っておいで」と何度もいうドミトリーの方が、緊張しているのか青い顔をしている。そのたびに「はい」と答えるが、自分のことよりドミトリーの体調の方が気になる。こんなに青い顔をして、仕事に行けるのだろうか。
「仕事行くのむり。つらい。ヤーデも学校辞めちゃいなさい」
いつものように玄関でうずくまって抱えられる。ドミトリーの働く省は、図書館とは反対方向にある。入学式で初日なので、遠回りになるが出勤ついでに図書館横にある学校まで一緒に行く予定だ。そのため早めに出発するはずが、ドミトリーはなかなか立ち上がらない。
「学校なんていかなくてもいいんだからね。嫌だったらいつでも帰っ」
「ドミトリーさん、ぼくはだいじょうぶ。だから行きましょう、ね?」
「……ん」
何度目かの帰っておいでを遮って諭すと、ようやく立ち上がった。ヤーデは大丈夫だろう、なにしろしっかりした子だ。もはや大丈夫でないのはドミトリーだけである。ヤーデとしっかり手を繋いだドミトリーが、背を丸めたまま玄関扉を開けた。
ドミトリーが名残惜しげに振り向きながら去っていくのを、手をふり姿が見えなくなるまで見送る。大きく息を吸い込んで、ヤーデはひとりで学校の門を通った。
学校には七年間在籍することになる。入学式で新入生として講堂の椅子に座っているのは、六十人ほどだった。今年は新入生の数が多い、とは教壇に立った学校長の挨拶で聞いた。学年が上がるごとに試験があり、不合格者は次の学年に上がれない。もう一年だけ同じ学年にいてもいいが、たいていは辞めてしまうらしい。七年間のうち、ふるいにかけられた生徒は数を減らし、卒業試験はさらに厳しいという。
「もちろん厳しいだけではない。優秀な者には学校から特待生制度で、授業料免除がある。さらに学力がじゅうぶん備わっている生徒は、飛び級することも可能だ」
一部の新入生たちが、授業料免除というところでざわついた。ヤーデも授業料免除を目指したいと思った。飛び級というのも気になる、飛び級すれば七年通わなくて済むのだろうか。あとで確認しよう。
「そんなわけで、この学校を卒業したというだけで、人から一目置かれるようになるだろう。もちろん卒業生たちのその後の努力あってのこと。皆も一人残らず卒業できるよう、精進なさい。そして信頼のおける友をつくり、短くはない学校生活を大いに楽しみなさい」
入学式のあとは教室に移動する。講堂に入る前に名前を確認され座る席を示されたのだが、それがすでに組ごとにわかれていたらしい。ヤーデは一組だった。一組はこちら、青い旗を振って声をあげる上級生の案内について歩く。
「なぁ、おまえ一組?」
歩いていると隣の男の子から声をかけられる。
「うん。きみも?」
新入生はどの子もみんな小さいのだが、隣の男の子は少し背が高い。周りもざわざわ好きに喋りながら歩いているので、話してもだいじょうぶなのだろう。立ち止まりそうになる子どもがいると、青い旗の上級生が「前を見て進むように」と声をかけている。
「おれ、アントン。アントン・ゴレツカっつーの」
「ぼくヤーデ。ヤーデ・ドミトリー」
「よろしくな、ヤーデ」
「うん。アントンもよろしく」
差し出された手をそっと握り返す。アントンの手はヤーデより少し大きくて、ごつごつしていた。
「おれんちは父ちゃんが鍛冶屋なんだ。おれもできることは手伝ってるからさ」
手のひらにあるタコを指してから、何かを振り下ろす仕草をしてみせる。あぁそれで、とヤーデは納得して頷く。
「おまえんちは?」
答えようとしたとき、上級生が立ち止まった。「ここが一組の教室。机に自分の名前があるから確認して、各自席につくように。さぁ入って」教室の入り口には青い旗がささっていて、一と書いてあった。
話が途中になってしまったが仕方ない、同じクラスならあとで話せるだろう。ぞろぞろと入室する波に押されながら、机に自分の名前を探す。
「あった」
ヤーデの席は一番前で左端の席だった。席につき、さきほど話したアントンを目で探す。アントンは後ろの方に座っていて、隣に座った子と話していた。
上級生が席を見つけられない子に、机の場所を教えている。座った子は好き勝手にしゃべっており、教室はたいそう賑やかだ。
開いたままの入り口から、体の大きな濃いヒゲを生やした男の人が、ぬっと頭をかがめて入ってきた。もじゃもじゃの髪、よれよれの服で、存在感がすごい。教壇に立つと、あれほど騒いでいた子どもたちが、しんと静まりかえっていた。
「えー、一組担任のオスカー・エンゲルスだ。たくさん学べ、そしてちゃんと卒業しろ。俺からは以上。あとは順に自己紹介、そこの窓際一番前、お前からいけ」
戸惑う生徒を見渡して、ヤーデと目が合うと顎でしゃくった。自分はどっかと椅子に座る。
「ほれ、立って自己紹介」
「はい。……ヤーデ・ドミトリーです。勉強をがんばりたいです」
立ち上がったヤーデは、後ろを向き全体を見回して挨拶をした。ぱっと見た感じ、一組は二十人ほどだった。女の子も数人座っていて、挨拶をするヤーデを見ていた。
「座ってよし、次。その横のお前、いけ」
ヤーデの隣の男の子がすっと立ち上がり、くるりと後ろを向くと「パトリック・フォン・フックスだ」と名乗り、すぐに座った。座ってから、なぜかヤーデをじっとにらんだ。貴族の子は、はじめて会うなと思って見ていたヤーデと目が合うと、ついと頭の方に視線をそらした。彼は短く切った茶髪を額になでつけているので、ヤーデのふわふわ動く髪が気に入らないのかもしれない。
ヤーデもドミトリーのようなまっすぐな髪に憧れるが、どう櫛を通してもふわふわと浮いてしまうので仕方ないのだ。なんとなく自分の髪に手をやって、なでつけてみた。手をはなした瞬間にふわりと浮いてしまったけれど。
自己紹介はそのまま次の列まで進んでおり、キャシーという女の子が好きな食べ物のことを話していた。名前だけでなくてもよかったのか、と思ったのはヤーデだけではなかったようで。それ以降の子どもは、将来の夢だとか、親の爵位を付け加えたりしていた。
最後の男の子が座ると、エンゲルス先生が立ち上がった。
「えー、全員終わったな。一年一組は二十人だ、来年一人も欠けていないことを願う。これから学校生活について説明を行う、ちゃんと聞け、理解しろ。必要ならメモをとれ、いいな」
案内してくれた上級生が、各机に素早く冊子を置いていった。ヤーデは携帯ペン入れを取り出し、ペンを持つと冊子を開いた。隣席の貴族、フックスはメモをとらないようだ。冊子を開いただけで先生の話を聞いている。
一年間の流れと、授業について簡単に説明したあと、明日必要な持ち物を忘れないよう注意される。
「このあとは学校内を案内する、明日から授業で移動もあるから迷うなよ」
エンゲルス先生のあとについて、ぞろぞろと子どもたちが歩いていく。後ろに案内の上級生がついていて、遅れそうな子やおしゃべりに夢中な子を、列に戻していた。
校内を一通り見て回り、教室に戻ってくると、たくさんの教科書がそれぞれの机に乗っていた。名前を書いたら、教室を出た廊下にある扉つき荷物入れに入れて、今日は終了である。
ヤーデは自分の荷物入れの扉の、ヤーデ・ドミトリーと書いてある名札をそっとさわった。教科書にもぜんぶヤーデ・ドミトリーと書いた。ぜったいに卒業するぞ、と決意を新たにする。
帰ろうとすると、「おい、ドミトリー」と呼び止められた。ドミトリーの名前を耳にし、一瞬ドミトリーがいるのかと辺りを見回し、それが自分を指すのだと気づく。ドミトリーと呼ばれるのは初めてであり、なんだか照れくさかった。
「はい」
振り返ると、隣の席にいた貴族、フックスがいた。学校には貴族の子も、そうでない子もいる。同級生として学校にいるうちは、貴族への挨拶や丁寧な言葉は禁止されている。ヤーデはフックスのことを、何と呼んだらいいのかわからず困った。ヤーデをドミトリーと姓で呼んだのだから、同じように呼ぶべきなのだろうか。
「ええと、フックス、さん? でいいですか? 隣の席の」
フックスの眉間に皺が寄る。
「……それでかまわない」
かまわない、という表情ではないが、本人がいいというのだから、いいのだろう。
「フックスさん、なんでしょう」
「きみの親はなんだ、どうやって試験の勉強を教わった」
「? ドミトリーさんは魔法使いですけど。試験の勉強は本を読みました」
「もしや魔法使いには、特別な勉強法でもあるのか?」
「? いいえ? ドミトリーさんは仕事で忙しいので、試験の勉強は教わってないです」
「嘘をつけ! 本を読んだだけで、この僕より優秀な成績で入学するなどありえないだろう」
「? なんのお話かしりませんけど、ぼく嘘はつきません」
さきほどからフックスの言っている意味が、さっぱりわからなかった。成績は公表されていないのに、優秀とはどういうことだろう。聞かれるたびに首をかしげていたら、フックスの額に青筋がたった。
「もういいッ! このふわふわ頭め。次の試験は負けないからなッ」
ヤーデに人差し指をつきだして、自分が言いたいことだけを言って早歩きで去ってしまった。
「なんだったんだろう?」
結局言っている意味が、ひとつもわからなかった。貴族には貴族だけが知る学校の話でもあるのだろうか。メレネ婦人が知っていたら聞いてみようと思う。明日の忘れ物がないよう、もう一度メモを見返してから学校をあとにした。
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