アイスみたいにぜんぶ溶かして

コーヤダーイ

文字の大きさ
4 / 4

4

しおりを挟む
 不意打ちを狙ったキスは唇を軽く合わせただけだったが、十分に甘かった。



 アイスを食べるときの顔も、すぐ真っ赤になるところも、びっくりしたその顔も。全部がかわいくてたまらず、最後のひとさじを食べさせる代わりにもう一度唇を奪った。



「ごちそうさま」



 真っ赤になって震えているのは、きっと嫌だからじゃない。俺は初心で照れ屋の野生動物をそっと観察する。口をパクパクさせているから、何か言いたいことがあるんだろうか。



「好きだよ、わたるさん」



 とりあえず俺の気持ちを伝えておく。たぶん彼は自分に自信のないタイプの人だから、こういう人にはまず自信をつけさせることが大事だ。仕事でも恋愛でも何でもいい、自分に自信を持てば実はものすごく伸びるタイプ。

 誰かに愛されてるってことが、彼の自信に繋がればいい。もっともっと俺の愛を押し付けたくなって、だけど怪我のこともあるしさすがにそれは引かれるだろうと、グッと我慢をする。



「まきさん、あーん」



 声を掛けられて見れば俺の口元に自分のアイスを運ぶ彼がいた、ひとまず口を開けてアイスをもらう。美味しい?と聞かれたから美味しいと答えれば、嬉しそうにもう一口アイスを運んできてくれた。

 首を横に振ってわたるさんも食べてと言えば、そのアイスを素直に口にする。確認してからあーん、と口を開ければいそいそとアイスを運んでくれた。



 最後のひと匙を大事に口に入れると、彼はふぅと満足気な息をついた。じっと見つめていれば視線に気づいた彼がふっと微笑む。



「好き、わたるさん。キスしてもいい?」

「ちょ、ちょっとだけなら……」



 一歩前進、大きな一歩だ。俺は食いつきすぎて嫌われないように、なるべくそっと、できるだけ優しく彼にキスをした。



 彼の息が微かに熱を帯びるのを感じて、そっと目を開ける。切ない顔の彼と目が合って、その視線にあてられる。



「わたるさん、キスするときは目ぇ閉じて」

「ぁ、ごめんなさ、」

「謝らなくていい、大丈夫。俺がわたるさんに見られてたら、止まれなくなりそうなだけ」



 話ながらもキスを続ければ、彼がぎゅっと目を閉じた。頬も耳も首筋までも赤く染まって、唇から甘い息を吐いている彼は、あぁ本当に美味しそうだ。

 俺の頭にも腰にもたくさんの血液が流れて彼の身体をまさぐろうとした時、ふっと義兄からの忠告を思い出した。



 彼がそれでいいと言うなら保護者の必要な子どもじゃないんだ、構わないだろう。だが24時間は絶対に脳に刺激や振動を与えるような動きは取らせるな、間違えば彼が死ぬぞ。



 溜まっていた身体中の熱がすっと引いて、俺は彼から唇を離した。熟れた果物みたいに艶の出た下唇にもう一度だけ吸いついて、頭の痛みはどうかと彼に尋ねた。



「……ぁ……、大丈夫、です」

「これ以上したら、本当に俺止まれないから。頭の傷良くなったらもう少しだけ続き、してもいい?」

「うん、治ったらその、また……したい、です」

「駄目っ、わたるさんがかわいすぎる!」



 思わず抱きしめれば力が強すぎたのか、彼からおかしな声が出た。俺が笑えば、ふふっと恥ずかしそうに彼も笑った。

 真面目な顔に戻った彼が、自分にはあまり人と付き合った経験がなくて、男性としたこともないと話してくれた。



「この年で恥ずかしいんですけど。さ、先に話しておいた方がいいと思って」

「全然恥ずかしくなんてないでしょ。俺はむしろ嬉しいけど」

「え、あ、ぅ……」

「ゆっくりでいいから逃げないで。何かあれば、わたるさんの言葉で聞かせて」



 俺の腕の中で彼が小さく頷いて、そっと身体の力を抜いた。











 そのまま強引になし崩し的な囲い込みに成功し、一週間後に彼が義兄の診察を受ける頃には同棲の準備もほとんど済んでいた。彼には元々そんなに荷物がなかったから、一人暮らしの部屋の布団を処分してプラスチックの衣装箱とテレビを車で移動させれば、引っ越しは終わってしまった。



 診察も問題なしと診断されたし、義兄からも同棲おめでとうと声を掛けられ、晴れて全快祝いだ。

 夕べから煮込んでおいた牛タンのシチューに火を通しつつかき混ぜながら、俺は鼻歌を歌っている。食事の支度をしながら妄想するのも何だが、今日はわたるさんを好きなだけ構い倒せるのだと思えば気分も上がる。



 怪我をした日から実は毎日俺の家で一緒に寝ている。一緒に寝てはいるが怪我の心配もあったので、ほとんど手を出していないのだ。2日前にようやく額のこぶがなくなって、嬉しそうに前髪を持ちあげて額を見せてきた彼に欲情して思わず押し倒し、拒否された。



 正確には彼が言葉にして拒否したのではなく、身体がブルブルと震えだしたのだった。詳しくは話してくれなかったが、昔怖い思いをしたらしい。心の準備をするので少しだけ待ってくださいと言われ、いつまでも待つつもりだった。

 ところが今日、義兄の診察を終えた帰りの車の中で彼が言ったのだ。



「まきさん、今夜おれのこと、もらってくれますか」



 驚きすぎて運転中だというのに彼の表情を確認して、車線をはみ出した。あっ、危ないから前見てと注意され、ちょっと待ってと車を路肩に停めた。



「わたるさん、今何て?」

「も、もういっかい言わせるの?」

「よく聞こえなかった、お願い」



 真っ赤な顔で、だけどしっかりと彼は言ってくれた。



「今夜おれのこと、もらってください」



 嬉しくて助手席に座る彼に無理やり抱き着けば、ふぎゅっとおかしな声が聞こえた。











 牛タンのシチューは結局昼食に食べた。彼には言っていないが、たぶん今夜は疲れてしまって夕飯どころじゃなくなるだろう。男同士で身体を繋げるときには受ける側の方が大変だ、体力を使うし身体には負担を掛けるのだから、先に栄養を摂ってもらう。



 昼食後しばらくしてから、彼が自分でも調べてみたんだけど、やっぱりよくわからないから聞いてもいいかと言われて尋ねられたのは、体内の洗浄方法と拡張についてだった。



「全部俺がやるから。なるべくわたるさんに負担がないようにする」



 これが一夜限りの相手だとしたら面倒だから今夜はパス、と言いかねない作業も、相手が彼であれば何とも思わなかった。むしろこの行為すらも彼の初めてなのだと思えば、俺はより丁寧に洗浄を終えた彼の後ろを解していった。



 浴室で一度白濁を吐きだし、すっかり息の上がってしまった彼を背負って、ロフトへの階段を上がる。寝具にゆっくり彼を降ろすと身体中桃色に染まった彼が、俺を見て一度だけふるりと震えた。



「わたるさん、怖い?」



 と聞けば首を振って、まきさんなら怖くない、とかわいいことを言う。優しく優しくキスをしてとろけさせ、浴室でよく解れた彼の後ろにローションをまとわせた指をつぷりと入れていった。

 怖くなければ後ろ向きで入れた方が痛くないらしいけどと言ったのだが、まきさんの顔が見えた方が怖くないからこのままで、などと俺を煽るようなことばかり言う。



 向き合った彼の腿を俺の腿に乗せて、ゆっくりと彼の中に入っていく。絶対にひどいことはしないから、俺を信じて身体の力をできるだけ抜いてと言い含めたら、彼は素直に俺の言葉に従った。

 真っ直ぐにゆっくりと進めば、やがて根元まですっぽりと彼の中に包み込まれる。全部入ったよと腿を撫でれば彼の中がぐねりとうねって、一瞬で持っていかれそうになった。



 ゆっくり中から引き出して、またゆっくりと中へ進む。何度か繰り返しただけで暖かくうねる彼の中へ全てを吐き出してしまいたくなる。

 下腹に力を入れて射精感に堪えると、中で掠めたのか彼が短い声を上げた。同じところを通るように意識して擦れば、彼は背中を反らせてダメ、ダメと首を振る。



「駄目じゃないでしょ、わたるさん」

「あっ、だってぇっ、んんっ……」

「そういうときは駄目じゃなくって、気持ちいいって言うんだよ」

「……ぁっあっ、き、気持ちい、」



 素直に気持ちいいと口にする彼は、たまらなく愛おしい。俺は身体を倒すと彼の頭を撫でて、キスを落とした。



「うん、気持ちいいね」

「気持ちいいっ、まきさん大好き、すごく、気持ちいっ……」



 キスの最中にぎゅっとつぶっていた目を開けてそんなこと言われたら。

 もう優しくするのは無理だった。



 頭を撫でていた手で彼の身体が上にずり上がらないように固定して、俺は自分のタイミングで腰を振った。彼には快楽だけを追わせるつもりだったのに、そんな優しさなんて忘れ去って俺は自分のためだけにガツガツと腰を打ち付け、彼の喘ぐ声がただの音になっても気づかずただ射精するために腰を振り続けた。



 思う存分吐精して肩で息をついて、やっと自分が何をしたか思い出した。彼の頭を抱きかかえ動きを封じ、無理に開かせた足は俺の身体で押されて力なく空中で揺れていた。慌ててどけば涙の跡がついた真っ赤な顔した彼が、せっくすってとっても激しいんだねと枯れた声で言うと、咳き込んだ。



「ごめんっ!わたるさん、ほんとにごめんなさい!俺つい夢中になっちゃって、気遣いを忘れた」

「ううん、おれもその、気持ち良かったから。あの、ちょっと激しかったけど、でも気持ち良かった」

「今日はわたるさんに気持ちいいことだけ感じてもらおうって、俺思ってたのに。余裕なくてほんとにごめんね。苦しかったでしょう?」

「でもまきさん、あれもせっくすなんでしょ?おれ途中でよくわかんなくなっちゃったけど、まきさんは気持ち良かった?」

「気持ち良かったあぁ、わたるさんほんとにごめんねぇ」



 まきさんが気持ち良かったならよかった、と彼が涙の跡がついたままの顔でへにゃりと笑って、俺はその顔を見てまた惚れ直した。



「次は絶対に暴走しない、わたるさんにほんとに気持ちいいことだけ感じてもらうように、俺頑張るから」



 そう宣言すると、彼が両手を広げて伸ばしてきた。

 誘われるままに抱きしめられにいけば耳元で彼が、じゃあ今からお願いしますと囁いた。


しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

まっちゃん
2023.09.17 まっちゃん

甘ーい!めちゃめちゃニヤニヤしながら一気に読んでしまいましたー♡

素敵な作品ありがとうございました!ムーンよりたくさん作品あるんですね。じっくり読ませていただきまーす

2023.09.18 コーヤダーイ

そうなんですよ、このお話は甘い甘い、とにかく甘くて溶けるアイスみたいなお話なんです。

わたしの書く話は、ものによっては残酷な表現があったり、おじさんがいたりしますので、その辺りをよくご確認の上読んでくださいませ・・・!
地雷などありましたら、どうぞくれぐれも、お気をつけになってください!!

感想ありがとうございました。

解除

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

「大人扱いしていい?」〜純情当主、執務室で策士な従兄の『相性確認』にハメられる〜

中山(ほ)
BL
「ルイン、少し口開けてみて」 仕事終わりの静かな執務室。 差し入れの食事と、ポーションの瓶。 信頼していた従兄のトロンに誘われるまま、 ルインは「大人の相性確認」を始めることになる。

脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない

綿毛ぽぽ
BL
 アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。 ━━━━━━━━━━━ 現役人気アイドル×脱落モブ男 表紙はくま様からお借りしました https://www.pixiv.net/artworks/84182395

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

アプリで元カノを気にしなくなるくらい魅力的になろうとした結果、彼氏がフリーズしました

あと
BL
「目指せ!!魅力的な彼氏!!」 誰にでも優しいように見えて重い…?攻め×天然な受け ⚠️攻めの元カノが出て来ます。 ⚠️強い執着・ストーカー的表現があります。 ⚠️細かいことが気になる人には向いてません。 合わないと感じた方は自衛をお願いします。 受けは、恋人が元カノと同級生と過去の付き合いについて話している場面に出くわしてしまう。失意の中、人生相談アプリの存在を知る。実は、なぜか苗字呼び、家に入れてもらえない、手を出さないといった不思議がある。こうして、元カノなんか気にしなくなるほど魅力的になろうとするための受けの戦いが始まった…。 攻め:進藤郁也 受け:天野翔 ※誤字脱字・表現の修正はサイレントで行う場合があります。 ※タグは定期的に整理します。 ※批判・中傷コメントはご遠慮ください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。