もう随分昔の話

コーヤダーイ

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こたつ

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 こたつというものは、日本が世界に誇ることのできる暖房器具だと思う。

 暗闇をロマンチックにライトアップするだとか、そんなものなんかよりよっぽど後世に残したいものが、俺にとってのこたつだ。



 そんなことを俺の部屋のこたつに座って切々と語るのは、そう、いつもの田中だ。

 同じ地元の大学に無事合格し大学生になった俺は、隙間風の入るボロいアパートで、一人暮らしを始めた。

 田中は実家から電車に乗って通っているが、まぁその実ほとんど、俺の部屋に入り浸っている。

 狭い部屋には、俺とはサイズの合わない田中の服や下着が置いてあるし、洗面台代わりのキッチンの流しには、田中の歯ブラシがある。



 向き合ってこたつに座り、無言のまま互いの顔をぼーっと見ていた俺たちだったが、こたつの天板にあごを乗せていた田中が、ふいにこたつ布団をまくると消えた。

 こたつの他には灯油ストーブがあるが、今夜はつけていない。

 田中が座っていたのは窓際だから、やはり隙間風で寒かったのだろうかと、灯油ストーブに手を伸ばそうとしたとき。

 こたつの中でぐいと足を引っ張られた。



「ぅわわっ? お、おい田中引っ張るなって!」

 田中が潜っている狭いこたつで暴れるわけにもいかず、俺はそのままズルズルとこたつの中へと引きずりこまれた。

「せまい」

「あたりまえだろっ、こたつの中に大の男二人で潜るとかありえないだろうが」

 俺が親戚からもらってきたこたつは大昔ばあちゃん家で見たような、昔懐かしいオレンジ色に暖かく光るタイプだ。

 オレンジ色に照らされた田中は、なんでだか説明できないけど、すごくいやらしく見えた。



 どちらからともなく顔が近づいて、唇を合わせていた。

 恥ずかしさとか、照れくささとか、いつも感じているそんなものを忘れて、とにかく田中と俺の凹凸の隙間を埋めなければならない、と使命感に燃えた。



 人の顔には凹凸がある。出ているところと、引っ込んでいるところ。

 もうつまり、そういうでこぼこしたところが全部互いにくっついてフラットになって、ただの丸い球体みたいになればいいと思った。



 夢中になって凹凸を埋め合い、舌を絡めてこぼれそうになる唾液を嚥下した。

 うっすらと汗をかいて目を開けてみれば、オレンジ色の田中は相変わらず、すごくいやらしく見えて、俺はあわててもう一度目を閉じる。

「あつい」

 唇をつけたまま田中が話すから、俺も口の中にいる田中の舌を押し出して、あたりまえだろと言う。

 唇を離そうとしたら、ザラリと舌が合わさって後頭部をつかまれた。







 後頭部をホールドされたまま、片方の手はパーカーの中へとぐっと入り込む。こたつに引っ張られた時点で、すでにほとんどがめくれていたパーカーの裾は、やすやすと田中の侵入を許していた。

 平らな胸を撫でられて、俺についているわずかな乳首が指先に触れ、そこがすでにツンと立ち上がっていることを知る。



 脇腹を撫でながら、おそらくは親指の先でクンと押されて、俺はうめいた。

 うめいたついでに田中の顔を避け、胸のあたりを確認してみれば、田中の指も俺の身体もすべてがオレンジ色に染まっていた。



 いやらしい。あまりにいやらしすぎる。いやらしさを感じすぎて、はだけた胸の先をピッと舐められて、俺は喘ぎ声をあげてしまった。



 瞬間的に、田中のスイッチが切り替わるのがわかる。

 それまではたぶん、こいつなりに遊んでいたんだと思う。



 田中はいつも余裕だ。俺の事をじっと観察して、その反応を見ている研究者って感じ。

 決して無理じいはしないし、どんなときだって俺の意思を尊重してくれるんだけど、実は逃げ道なんてないことも、俺は知っている。



 本気で俺を喰いにきた田中の熱のあまりの熱さに、俺は逃げた。

 なんでだか命の危険を感じて、俺は逃げようとした。



 両腕を伸ばして、こたつの布団をめくり上げようとする。

 そうはさせじと両腕を抑え込んだ田中が俺に乗り上げようとして、その背中がゴツリとこたつを天板ごと持ち上げた。



 斜めになったこたつの天板から、乗っていたミカンの落ちて転がる音がした。

 田中がはっと我に返って、こたつの布団をめくってくれた。

 冷たい部屋の空気が一気に入ってきて、布団のめくれたこたつの中は、同じ色で灯っているのに、もう何も感じなかった。



 俺たちは無言のまま、こたつから這い出して、田中がごめんと謝った。

「そっちのミカン拾って」

 俺は転がったミカンを集めながら、田中に言った。



 太陽しか見えないような熱い場所で、強烈な夕陽を浴びながら今の田中ではない田中を受け入れたことがある。身体には重いモノがたくさん付いてて、それがまた熱くて。そっちの田中はすごく怖い顔をしていて、俺たちは熱いところで一つになったあと、ものすごい快感が突き抜けていって、そこでたぶん俺は田中に噛みつかれたんだと思う。



 俺が無意識に首に手をやっていると、田中がもう一度ごめんと謝った。

「謝んなって。熱すぎただけ」

 座ってミカンでも食おうぜと言えば、田中も頷いて拾ったミカンを手に、座り直した。







 最近料理の腕を上げてきた田中が、夕飯にはチンジャオロースを作ってくれた。昔はベチャッとしたチャーハンしか作れなかったくせに、本気を出した田中は料理もうまかった。

 狭いキッチンに小さな棚を作り付けて、その中に田中専用の調味料が小さな瓶に入って並んでいる。

 俺にはぜんぶ同じに見える調味料を、パッパと手早く振りかけながらクルクルと混ぜている。フライパンからは回した換気扇が拾いきれなかった、香ばしい匂いが届いてくる。



 フラフラと匂いに吸い寄せられて田中に近づき、背後からフライパンの中を覗き込んだ。油をまとってテラテラと仕上がったチンジャオロースを、田中が素早く大皿へと移した。

 熱いままのフライパンをザッと洗ってから、コンロに戻す。

 流れるような動作の田中の背中に抱きついて、腕を腹に回して俺はまとわりついた。

「田中すごい。かっこいい。なんでもできる」

「そうか? 惚れ直した?」

「うん、好き。結婚して」

「いいよ」









 これは俺たちがよくやる、一連のコントみたいなものだ。

 今日もサラリと流して、俺たちは白飯とチンジャオロースの乗った大皿をこたつに運んで、ペットボトルのお茶で流し込みながらガツガツと食べた。

 田中の作ったチンジャオロースは、めちゃくちゃ旨かった。







 提出するレポートをやりながら、結局こたつで寝てしまったらしい。せまい部屋だからこたつを脇にどけないと、布団が敷けないのだ。

 しっかり者の田中はこたつの電源をきり、風邪をひかないようにだろう、俺にだけ掛け布団が掛かっていた。

 ボロいアパートは雨風をしのげるってだけで、明け方の室温は外と同じだ。俺はこたつの向こう側で、毛布をかぶって寝ている田中を見た。



 灯油ストーブをつけてトイレに行き、テレビをつけた。

 俺の部屋の窓には、光は通るけど外から見えないとかいう白いカーテンがついてるだけだから、部屋の中は十分明るい。

 俺は田中が起きるまでどうしようか、と考えながらポットに水を入れた。インスタントコーヒーを入れて飲み終わっても、田中は起きない。



 何せ俺たちが運命の絆でこうして一緒にいられるのは、最後なのだ。

 一緒にいる一秒だって大事なんだってことを、俺はわかっている。

 今日明日は休みだが、こいつもしかして昼まで寝るつもりかと、俺は田中を起こそうと毛布をまくった。



 まくった毛布を、俺は一度そっと戻した。

 仰向けに寝る田中の田中が、スウェットパンツを驚くほど押し上げていた。

 夕べはキス以外何もしていない。

 数えてみれば、今週は授業やレポートがやたらと大変で、田中はずっとこの部屋にいたのに、俺たちは一回もいたしていなかった。



 一週間田中を受け入れることも、熱くて柔らかい田中の中に受け入れられることもなかったのだと気づくと、急にシたくなった。

 ムラムラして、田中が起きないかな、とじっと顔を見て待ってみたり、トイレで抜こうとして集中できず萎えたまま戻ってみたり。

 トイレでは萎えた俺の俺も、田中の無防備な寝顔を見たら、いきり勃った。



 結局俺はよく眠っている田中の顔を見ながらしようと思いつく。

 お互い抜き合うことはしても、田中の前でオナニーなんてしたことない。



 寝ている田中の前で勃起させたモノをポロリと出して、寝顔をおかずにして抜こうとしていることに、罪悪感を感じた。

 それでいてビンビンに勃ち上がって、こたつの布団へと汁をこぼした俺の俺に、ほんとにバカだなと思う。



 テレビのなかではふざけるコメンテーターと、盛り上げようと笑い声を立てるアナウンサーの掛け合いが、流れている。

 画面が切り替わって美しい景色があふれ、音楽が静かに流れ出す。

 電車に乗って旅に出ようとかいうコマーシャルが終わると、人気者だという若手俳優がペットボトルをあおる映像がガシャガシャと切り替わる。



 雑音を耳から流して、俺はじっと田中を見つめた。触る前から勃ち上がって震え汁を垂らし、もう痛いくらいだ。

 俺はローションを手にとって、封を開けるとチューブの先を四つん這いになった尻に突っ込んだ。

 自分の指でほぐそうとすれば、当然前には触れない。俺の動きに合わせてブルブルと揺れつつ汁を垂らすが、自分ではいいところには届かないから、イクにイけない。



 後ろに欲しくて欲しくて、俺は寝ている田中のスウェットパンツをずり下ろした。ポロリと現われる大きなモノが、とても愛おしいように思えた。



 ぱくりと咥えて先端を刺激し、幾度か喉まで使ってしごいてから、口を離す。苦い我慢汁も、田中のものなら苦みも旨味に感じてくるから不思議だ。



 もうとにかく、俺は田中のモノを自分の後ろに欲しくてたまらなくて、口元を手の甲で拭いながら田中にまたがると、先端をしっかり孔にあてがって、ゆっくり腰を落としていった。



 身体の力は抜いているつもりなのに、孔にうまく挿らない。

 ぐっと孔で迎えに行けば、ブルンと滑って先端が外れてしまう。

 もどかしさに悶えて涙目になれば、片手で支えている田中のモノがククッと動いた。



 え? と思うと同時に腰をつかまれて、片手を自分で添えた田中の硬いモノが、ズブリと侵入してきた。

 両手で腰を持たれた俺が、導かれるままに腰を落としていけば、ズ、ズズ、と体内に田中が進んでいくのがわかる。

 自分の重みで根元までしっかりと飲み込めば、ようやくあるべきところに還ったような、おかしな気分になった。



「てか、起きてたの、田中。趣味わるいよ」

「ごめんごめん、鈴木があんまりかわいいことするから」

 どこまで一人で見せてくれんのか、楽しみにしてたと言いながら、田中が下からゆるりと突き上げた。

「んっ、一人じゃ、できなかっ、たよ」

「途中まで上手だったでしょ。我慢すんの大変だった」

「ぁっ、ひどい、」



「ひどい? もう嫌? したくない?」

 突き上げるのを止めて、眉毛を下げて田中が聞く。

 ずるいやつだ。

 嫌なわけがない、もっとしたい。



「……もっと欲しい」

「鈴木、かわいい。好き。愛してる」

 身体を起こした田中に、ぎゅうぎゅうと強く抱きしめられて、そのままイきそうになった。

 俺にだって意地がある。

 ぐっとこらえて、気持ちいいところにあたるように、俺も腰を使いはじめた。

「知ってる。田中……めちゃくちゃにして」

「……りょーかい」

 互いに腰を揺らして、一緒に果てた。



 テレビの音が耳に戻ってきて、まだ朝の番組なんだと気づく。

 あがった息を整えながら、俺は田中に一世一代のプロポーズをした。

「そいで、……やっぱり結婚して」

「りょーかい」



 俺たちはこの日、結婚した。









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