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25.嘘
しおりを挟む泣きつかれたジルは、それからの記憶がありませんでした。
ただぼんやり覚えているのは……
ゆらゆらと揺れる中、シェイドの顔を見上げていたこと。
「ん……」
次にジルがうっすらと目を開けると、窓からは眩しいくらいの朝日が差し込んでいました。
「……朝? 私、昨日……?」
すぐに、意識がはっきりします。
昨日の夜まで、イリアと二人で話をしていて、そして、シェイドがやってきて……。
「……ここは?」
そこまで思い出して、今の状況にようやく気がつきました。
ベッドの中、ふと視線を隣にやると
……シェイドが、ジルの隣で寝ていたのです。
「ッ、きゃああ!!」
思わず悲鳴を上げてしまいました。
ジルの悲鳴に、シェイドが眉間にシワを寄せながら目を覚まします。
「……うっせぇな……」
動揺して真っ赤になっているジルに気がつくと、少し呆れた表情を浮かべます。
そしてあくびをしながら、
「……別に何もしてねぇよ。お前、部屋解約したっていうから、オレの部屋に連れて帰った」
そう言ってムクリと起き上がると、動揺するジルの目を見ました。
シェイドと目と目が合い……思わず、そらしてしまいます。
「お前、なんで」
シェイドが何かを言おうとすると
ジルは慌ててベッドから降りて、自分の荷物を手にしました。
「おい……」
「あ……ありがとう、泊めてくれて」
シェイドのそばにいると、気持ちが揺らいでしまいます。
「……お前、町出てどうすんだよ」
シェイドもベッドから降り、ジルの元に歩み寄りました。
けれどジルは振り向こうともせず、ドアに向かいながら答えます。
「興味、ないんでしょ?」
「……それは……」
それは、初めてシェイドに会った時に言われたこと。
自分で口にするのが、こんなに辛いとは思いませんでした。
グッと、歯を食いしばって涙をこらえます。
そして、ドアの前でようやく振り返ると、シェイドに微笑みました。
精いっぱいの、笑顔でした。
「……幸せになって、シェイド」
本当は……一緒に、生きたかったけれど。
ジルは過去の人間であり、シェイドは現世の人間です。
シェイドはもう新しい人生を歩み、恋人だっています。
騎士ライトが、ジルの運命の人だったというのなら
次に生まれ変わった時こそ……
共に、生きることができるのかもしれないと、思いました。
ーーガチャ……
ドアを引き、開けようとすると、
「行くな」
後ろから、シェイドがドアを手で押し閉めます。
「……シェイド……?」
ドアとシェイドとの間に挟まれてしまい、身動きがとれません。
ジルは何故か、振り向けませんでした。
……いいえ。
振り向いてはいけない気がしたからです。
しかし
「ッ、」
シェイドに強く肩を掴まれ、無理やり振り向かされ
視線が重なり合い……
時が止まったような、そんな錯覚さえ覚えました。
そして
唇に押し付けられた、柔らかい感触。
「……んっ……」
それは……騎士ライトとの、最初で最後に交わした甘く優しい口づけとは、全く違うものでした。
激しく、乱暴な口づけでした。
(恋人が、ナミがいるのに……どうして?)
ふと、出会った時に言われたことを思い出します。
『別に、女なら誰でもいいけど?』
……この口づけに、特別な意味などないのでしょう。
「……ッ嫌!」
ジルは顔を背け、シェイドの体を押し返します。
「誰でもいいなら……私じゃなくたっていいでしょ……?」
「違う、オレは」
「私にはライト様だけなの」
何か言おうとするシェイドの言葉をさえぎり、そう、言いました。
……嘘です。
騎士ライトとシェイドへの気持ちは、同じもの。
それでも、そう言わなくてはならない気がしたのです。
……すると。
シェイドの、いつか見た寂しげな表情が目に映りました。
「……そうかよ。……分かった、勝手にしろッ」
シェイドは掴んでいたジルの肩をパッと放すと、部屋から出て行きました。
「あ……」
ジルは追いかけようとしましたが、思いとどまります。
自ら、シェイドとの別れを決意したからです。
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