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27.同じ時を、共に
しおりを挟む島に着いたジルは、生まれ育った古城へとやってきました。
もちろん、昔住んでいた頃の面影はあまりありません。
それでも……懐かしさで、胸がいっぱいになります。
ーーコツ、コツ、
城内を懐かしそうに歩いていると、謁見の間へとたどり着きました。
『ジル、愛してるよ』
『あなたったら、ジルばかり可愛がるんだから』
ふと、遠い昔の思い出がよみがえりました。
とても仲の良かった父と母は、ジルの憧れでした。
「ただいま戻りました、お父様、お母様」
今は誰もいない、玉座のあった場所へと向かって、微笑んでそう言います。
……この城へ帰れば、泣いてしまうから。
だからジルは、あの日、城を出た日以来、この場所へは帰れませんでした。
ーーコツ、コツ、
足を進め、城の外へと出ると、噴水の跡らしき場所が目に映ります。
『オレはライトと同じ騎士で親友のトゥルーだ、よろしく』
このあたりで、騎士トゥルーと出会ったことを思い出します。
「ふふ、トゥルー様の生まれ変わりとも出会えるだなんて、思ってませんでした」
思わず、笑みがこぼれます。
騎士トゥルーは、とても律儀な人物でした。
騎士ライトが留守にしている間……どれだけ、彼の存在に救われたことでしょう。
『チチッ……』
小鳥は、怪我しているにも関わらず、騎士ライトに助けを求めるために飛び立ってくれました。
……命尽きるその時まで、そばにいてくれました。
「あなたの事も忘れた事はなかった。ずっとそばにいてくれてありがとう……ハク」
言葉は通じませんでした。
それでも
“大丈夫”だと、“そばにいる”と……最後まで言ってくれていた気がします。
ーーコツ、コツ、
そこから少し歩くと、城内で働く者や騎士たちが住む建物の跡がありました。
『勘違いさせちゃって、ごめんなさい。
私はアリス。ライトの妹なの』
ここで、初めての親友アリスと出会った事を思い出します。
いつも元気な笑顔で、支えてくれました。
「また友達になってくれて、ありがとう」
生まれて初めての、親友でした。
そして……
ジルは、庭園へと続く道に出ます。
『ジル、見せたいものがあるんだ。着いてきて』
そう言って、ジルのために庭園を用意してくれた兄の優しい微笑み。
「お兄様には、今でも感謝しています……」
生まれてからずっと、ジルのことを守ってきてくれました。
そんな兄のことを、心から慕っていました。
……ジルは一歩一歩、ゆっくりと庭園へと向かいました。
数百年という月日が経った今、そこにはもう何もないかもしれません。
それでも、庭園は騎士ライトと出会った……大切な場所です。
『あなたはおじい様だけでなく、ライト様の人生まで振り回すおつもりですか?』
歩きながら思い出すのは、リナ姫に言われた忠告の言葉。
「あなたの言う通り、私はライト様の人生を振り回してしまったわ」
少し、苦笑いを浮かべました。
リナ姫の忠告を聞いてさえいれば、騎士ライトは死なずに済んだのではないか、と今でも考える時があります。
……けれど、騎士ライトは忠告など聞かなかったでしょう。
そういう、人だったのです。
「……良かった。ちゃんと、残ってたのね」
庭園は、つるやツタが生い茂っていましたが、ちゃんと残っていました。
庭園の中に入り……騎士ライトと初めて出会った時の事を、思い出します。
ジルの手をとり、手の甲へと軽く触れるだけのキスをしました。
『も、申し訳ありません、ジル姫』
真っ赤になるジルに向かって謝る騎士ライトを思い出し、フッと笑みがこぼれます。
生まれて初めて、愛した人でした。
石でできたベンチに腰かけると、ジルは横になりました。
……今はただ、この場所にずっといたいのです。
唯一、自分のいるべき場所だと思うのです。
この先どうするかは、何も決めていません。
「……ライト様……シェイド……」
……ジルは再び、急激な睡魔に襲われて
そのままゆっくりと、目を閉じました。
「……う……」
まばゆい光が降り注ぎ、ジルは静かに目を開けます。
どこか、懐かしくて暖かい光でした。
「ジル姫……、ジル姫?」
遠く離れたところから、名前を呼ばれました。
優しく、懐かしいその声に
……心が、震えます。
「……ライト、様……?」
間違えるはずが、ありません。
振り向くと……
遠い、遠い過去の記憶のままの、優しい微笑みをした騎士ライトが、立っていたのです。
「……ッ!」
気づいた時には、足が勝手に動いてました。
よろけながらも駆け寄るジルは、騎士ライトの体に
……強く、強く抱きつきました。
「……ライト様ッ……」
「姫ッ……」
何も……
もう、何もいりません。
そう、思いました。
騎士ライトは、ジルの体を強く抱きしめ返します。
そして、
「あなたを今度こそ、幸せにします」
「え……?」
ソッと体を離すと、騎士ライトはそう約束しました。
けれど……ジルは、戸惑った表情を浮かべます。
その表情の意味が分かっているのか、騎士ライトは苦笑いをしました。
「生まれ変わった私は、少々口も性格も悪いですが……」
そう話す騎士ライトの体が
……うっすらと、透け始めました。
「ライト、様……?」
……もうそろそろ別れの時間なのだと、ジルは気づきます。
「それでも、あなたを想う気持ちは」
「いや……ライト様っ消えないで……! もう……置いていかないで下さい……!」
ジルの体から離れ、騎士ライトはとても……とても幸せそうに微笑みます。
そして
「愛しています。
これからはずっと……
同じ時間を、共に生きましょう」
スッと、頬を伝うジルの涙を指で触れました。
けれど、もう感触はありません。
「私も……愛しています」
ジルもまた、涙を流しながら……微笑みました。
騎士ライトが顔をゆっくりと近づけてきて
ジルは静かに、その目を閉じます。
…………。
一瞬だけ……
唇が触れ合った気がしました。
「……おい! ……おいジル! しっかりしろ!!」
うっすらと目を開けると
今までに見た事のない、シェイドの切羽詰まった表情が、ぼんやり映りました。
「……シェイド……?」
ジルが目を開けて名前をつぶやくなり、強く体を抱きしめてきます。
「……くそっ……心配させんなって言ってんだろ……!!」
「…………」
少しだけ、シェイドの体が震えているように感じました。
どれほど、心配した事でしょう。
「私……」
……ジルは、やっと騎士ライトの言っていた事が真実なのだと気づいたのです。
『生まれ変わった私は、少々口も性格も悪いですが……』
『……それでも、あなたを想う気持ちは』
ジルは、シェイドの体を恐る恐るですが抱きしめ返します。
すると
……更に強く、抱きしめられました。
息ができないほど、強く。
そして
サワサワと、周りの緑が風に揺れる音にかき消されるほど小さな声で、
「……愛してんだよ……」
そう、シェイドは告げました。
……言葉が、何も出てきません。
どうしても、涙があふれてしまうのです。
「……ッ……」
何とか言葉を発そうとするジルに、シェイドは苦笑いをしました。
「……お前、泣きすぎ」
ジルのふわふわとした髪に触れながら、いつもと違う、優しい声で言います。
とても優しい声は……騎士ライト、そのものでした。
シェイドはようやく体を離すと、ジルの涙を指でグイグイと拭ってくれます。
「……悪かったよ、冷たくして」
その言葉に、ジルはゆっくりと首を横に振りました。
確かに、はじめはとても冷たかったけれど
……本当のシェイドは優しい人なのだと、既に知っているからです。
「女なら誰でもいいっての、あれ……嘘だから」
「……え?」
「お前でないと、無理」
シェイドらしからぬその言葉に、ジルはみるみる頬を赤く染めました。
「け、けど……、彼女は……?」
シェイドの言葉を、信じていないわけではありません。
それでも、やはりふと思い出してしまうのは、ナミの存在です。
恋人がいるから、ジルはシェイドの元から去ろうと決意したのですから。
しかし、シェイドはジルの言葉に不思議そうな表情をして、
「彼女? ……あぁ、あの女? あいつは振った」
あっけらかんとした態度で、そう言ってのけます。
「……ふ、振った? 恋人じゃ、ないの?」
「誰がそんな事言った?」
「だって……彼女に告白された時に、断ってなかったから、」
「は? 寝ぼけてて反応が鈍かっただけだっての」
そうです。
ナミとの事は、ジルの勘違いだったのです。
……でも。
ジルがゆっくりとシェイドの体に抱きつくと、シェイドは強く抱きしめ返します。
「……ッ、」
あたたかい、懐かしい温もりに
騎士ライトと同じ香りに
……胸が、苦しいほど締め付けられました。
「愛してるの……シェイドッ……でも、でも私は数百年も昔に死んでいたはずの過去の人間で、」
「もういい。……何も考えんな」
シェイドは、ジルの言葉をさえぎります。
そして、ジルの耳元で……
「これからはずっと……
同じ時間を、共に生きる」
そう、ささやきました。
***
……遠い昔
騎士ライトはジル姫を想い
命をかけて愛しました
後悔があったというのなら
それはジル姫と共に生きたかった事
それだけでした
別れたくありませんでした
ずっとそばにいられるだけでよかったのです
ただ愛しただけだったのです
しかし、その願いは叶いませんでした
だから
来世でも愛する事を誓いました
愛するジル姫といつか共に生きる日を夢見て
……その誓いを胸に
ジル姫はたった一人待ち続けました
気が遠くなるような、長い時間を
そして
数百年という時を経て……
二人はめぐり合う事ができました
この遥かなる、時の中で
これから二人は
同じ時を共に生きていくでしょう
共に命尽きる時まで
何があろうとも
二度と離れる事はないでしょう
ずっと
ずっと……
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