ティアラの花嫁

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11.匂い

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「--今日からどうぞよろしくお願いいたします」

見合いの日から、数日が経って。
今日は、レティシアがティアラ国に入国する日らしい。

ちなみに、式は三ヶ月後だ。

「ああ……よろしく」
「お忙しいのに、わざわざありがとうございます。……こんなに素敵なお部屋、使わせていただいて良かったのでしょうか?」
「気にするな」

両親にせかされてレティシアの部屋を訪れたオレに、相変わらず綺麗な姿勢でお辞儀をするレティシアなんだが。

その赤い唇に、違和感を感じる。
傷があったからだ。

「……怪我したのか?」
「あ……噛んでしまって。じきに治りますから気になさらないで下さい」
「そうか」

その赤くて艶やかな唇を見てると、

「シオン様? ……ッ、」

無性に触れたくなる。

オレは願望の赴くまま、レティシアの唇に自分の唇を強く押し付けた。

はじめは驚いたのか体を強張らせていたレティシアだが、拒否するわけでもなく、ゆっくりと目を閉じた。
……が、

「んっ……ッ、」

角度を変えて、舌を差し込んで。
深く唇を重ねると、表情を歪めた。

「あー……痛い?」
「す、少し……」

……それは悪いことをした。

ならば、と今度はゆっくりと出来る限り優しめに唇を重ねてみる。

「……ん……」

レティシアはギュッとオレの服を握りしめるが、痛そうではない、と思う。
……良かった。

なんて、オレがホッとしながらレティシアの唇を堪能してると……
意識してしまう、彼女の甘い匂い。

なんで、レティシアはこんなに甘い匂いがするんだ?

……オレは、基本甘いものが苦手だ。
苦手なんだが。

「やっぱり、いい匂いだ」

レティシアの匂いは好きだと、気づいた。

すぅー、とレティシアの首筋に顔を埋めて匂いを嗅いでそうポツリと本音をもらすと、

「あ、あの、私……長旅で汗をかいてますし、は、恥ずかしいですから、」

しどろもどろに言いながら、オレから離れようとするレティシア。

……?

「なにが恥ずかしいんだ?」

今更、なんて思うのも無理ない。
オレは首を傾げて、心底不思議に思いながら聞いてみる。

「レティシアの匂い、好きだ」

思ったことをそのまま口に出す。
すると、

「……ッ、」

みるみる耳まで赤く染まるレティシアが、目に映って。
……なんか、こそばゆい。

「……私もですよ?」
「ん?」

そう、ポツリと口にすると。
レティシアは背伸びをして、オレの首筋に顔を埋めてきて。

「シオン様の匂い……私も好きです」
「ッ、!」

頬が赤くなるのを感じた……。

けど、嫌じゃない。
むしろ、ふわふわとした心地いい感覚を覚える。

「……たしかに、恥ずかしいか」

オレがなんとなく後頭部をかきながら、そう口にすると、レティシアはおかしそうにクスクスと笑った。

そしてオレたちは顔を見合わせると、もう一度、どちらからともなく唇を重ねた。
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