ティアラの花嫁

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12.世話係

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***

「……私がレティシア様のお世話係、ですか?」

レティシア様がティアラ国へやってくるという日の朝。
いつものように噴水前を掃除していたら、シオン様直々にそのような話を聞かされたの。

「私では役不足では?」

私はただの使用人なのに、次期王妃となるであろうレティシア様の侍女にだなんて。
ほかに適任はいくらでもいると思うのだけれど。

私が戸惑っていると、

「オレが一番信頼できる若い女は、エルマだ」
「え……」
「彼女の身の回りの世話を頼んだぞ」

シオン様はサラリと、そんな事を口にして。
背伸びをしながら、「昼には来るそうだ」とだけ言い残して立ち去ってしまって……。

残された私はというと……頬が熱くて、仕方ないなかった。

私は……一番、信頼されてるの?
そんなそぶり、一度でも見せてくださったこと、あった?

……嬉しい。
嬉しくて、たまらない……!

「こ、こうしてはいられないわ」

侍女の話が正確なのかどうか、ちゃんと確認しなくては。
それに、身の回りの世話を頼む、だなんて簡単に言っていたけれど。

ただの使用人だった私に、ちゃんと務まるのかしら……?
それに……それに、レティシア様のお世話をするということは。

ふと思い出すのは、あのお見合いの日の、寄り添うように歩き出すお二人の後ろ姿。

……あのような仲睦まじい姿を、間近で見るということ。

ズキン、と胸がまた痛むのを感じた。


「--今日からレティシア様のお世話をさせていただきます、エルマと申します。何かご用がありましたら、なんなりとお申し付けください」

馬車から降りるレティシア様をお出迎えし、ご挨拶……するのはいいんだけれど。

……シオン様が、どこにもいらっしゃらないのはどういう事なの??

「レティシアです。分からないことばかりでご迷惑をおかけすると思いますが、どうぞよろしくお願いします」

私に対して丁寧に挨拶をしてくれるレティシア様は、やっぱり……とても綺麗な方。

目が合うと、ニコリと笑いかけてくれて……護衛の兵士たちがデレッと締まりのない顔になってしまうのも仕方ないわね。

「シオン様は……」
「シオン様はお忙しいみたいですね。後ほど、お部屋にご案内いたします」

シオン様の姿がないことに、少し不安げな表情を浮かべるレティシア様に、つい慌ててそうフォローしてしまった。

まったく!
婚約者ができても、マイペースなところは相変わらず、なのね。
まだ破談にならないとも限らないのに、大丈夫なの?

……なんて心配は、全くの無用だったみたい。


「--レティシアの匂い、好きだ」

レティシア様の荷物を部屋まで持って行くと、中からなんだか仲よさげな話し声が聞こえてきて。

思わず、ノックしようとした手を下におろした。

……シオン様のあんな甘い声、初めて聞いたわ。
優しい声や、苛立った声、面倒くさそうな声……色んな声を聞いてきたけれど。

こんなに胸が締め付けられるような声は……初めて。

「……たしかに、恥ずかしいか」

恥ずかしい……?
って、何をしてるのかしら。

…………。

そこからは、何も聞こえなかった。
いいえ、聞こえないフリをしていたのかもしれない。

……もう中に入ってもいいわよね?

なんとなく焦ってトントン、とノックをする。
と、バタン、と珍しく焦った表情をしたシオン様が、部屋のドアを開けて。

「……エルマか」
「はい。レティシア様のお荷物を……」
「そうか。じゃあ、オレは仕事が残ってるから後は頼む」
「? ですが今日のご予定は、」

確か、何もないはず。
強いて言うなら、城をご案内するように陛下に言われていたはず。

……私がそれらを口にするよりも先に、シオン様は足早に部屋をあとにした。

面倒くさくなったのかしら……。

「レティシア様?」

中にいるレティシア様へと声をかけようとして、私はやっと気付いたの。

レティシア様の服が、髪が、少し乱れていることに。
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