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黎編

13話 気持ち悪い

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そして────一ヶ月間にもあたる、黎の嘘&監視生活が始まった。
朝、帰りの登校は勇太が付き添い、休み時間、昼休みは勇太と亮がそばにいた。トイレは亮が常に一緒にいた。

そして────一ヶ月間が経とうとしていた。

「…それで、おれが駆り出された訳だね。」
「…あぁ。すまない、飛鳥君。」

黎の隣には複雑骨折で病院に入院していた飛鳥がいた。

「いや、いいよ。」
「本当に…申し訳ない。それにしても、飛鳥君、よくこんな短時間で治ったな…。」
「あー、それは…。勇太君が一ヶ月前にいきなり病院に現れて…『一ヶ月間で直さないと殺す』って脅されて…。毎日、ブルブル震えて生活しながらリハビリしてたら…自動的に治ったんだよね…。」

そう話す飛鳥君の目は死んでいた。

「…本当に…すまなかった。」

黎がとても申しわけなさそうに声を出す。
飛鳥君は『ごめん、ちょっと勇太君に嫌みを込めて言っただけで黎君は悪くないよ。』と言ってくれた。

「それにしても…びっくりしたよ。黎君と勇太君が付き合ってるって…聞いたから。」
「あ、それはっ…」
「嘘、だよね。」

飛鳥君の言葉におれはぴくりと反応してしまう。

『だよねっ』と飛鳥君はわらった。

「だって…勇太君、亮君のことすごく好きなのに…。いきなり心変わりはないと思ったから。」
「そうだ。」
「それに…おれは亮君には黎君と結ばれてほしいって思ってるから。」

飛鳥君はにこっと笑って俺の顔をみていた。

「えっ…?」

おれは戸惑い、首を傾げた。その姿を見て飛鳥君はうんうんと頷いた。

「そっか、まだ自覚はないんだ。」

「…?」

さっきから飛鳥君の言っていることがわからない…。

「飛鳥君?」
「んーん。なんでもないよ。」

飛鳥君はクスッとおれを見ると笑みを浮かべた。

「それにしても…、勇太君は黎君に優しいよね。」

飛鳥君はいきなりそう呟いた。


「…?そうか?」

優しい?と言われ疑問が生まれた。

「そうだよ。おれなんかこんな物みたいな扱いなんだから。」

飛鳥君はそういってにこっと笑った。

「勇太君が、大切な人、亮君の隣に自分以外の人を好意的に置くことは…初めてなんだよ。」
「そ…、うなのか?」
「うん、勇太君は警戒心が高いからね。亮君のことを大切にするが故に亮君に守るものを少なくしているんだ。」
「どういうことだ…?」
「亮君に守ってほしい人が増えることを怖がっているんだよ。」
怖がっている…?弟が…?

「だから、亮君の隣に置いて、なおかつ君を守ろうとしている。
それは、君を
────────信用、してるんじゃないかな?」
「信用…?」

おれは勇太に信用されるようなことを何かしただろうか?
いや、何もしていない…。
「何も…思い当たらない…。」
「なら、無意識のうちに何かしたんじゃない?」
「そう…だろうか。 」

おれは飛鳥君の言葉を曖昧に答えた。


「それで…なんで勇太君と付き合ってるなんて嘘をつかなければならなくなったの?」
「あぁ、それは───」

おれは飛鳥君に事情を話し始めた。


「…でも、そっかぁ。お兄さんに監禁されちゃうから…。」
「あぁ。」
「じゃあ────やっぱり。」
「え?」

飛鳥君は納得したように呟いた。

「監禁された生徒っていうのは───黎君のことだったんだ。」

「え?」
おれはその言葉に強く反応した。だって…。

「なんで…飛鳥君が、そのことを知っているんだ?」

「え?」

おれがそう問いかけると飛鳥君もびっくりしたような顔をした。

「だって…有名な出来事だったからね。知ってるよ。」
「有名…?」
おれは疑問が隠せずにいた。どうして?なんで??

「噂が立ったんだ。真面目な生徒会長が不登校になった。
それは────どうしてだったのか、その生徒の意志だったのか…。」
「っ…!」

どうして…飛鳥君が、そのことを知っているんだ?

「───もしかして、知らなかった?」

飛鳥君はそういうとおれと目を合わせた。

「黎君はとっても有名だったよ。生徒会長で、でも────、それは壊されてしまったけど…。」
「えっ…?」

そして、飛鳥君はおれと距離を縮め

「だって黎君とおれは────」

そう、話し始めたときだった──。

ダンっ!!!!

いきなり音がなった。後ろからか?そう思ったときには…遅かった。

「えっ…?」
隣にいた飛鳥君は後ろに倒れていた。

「ぐっ…!?」

はっとした瞬間に後ろを見ると、そこにはおれの大嫌いなあいつが立っていた。

「れーくん、久しぶりですね。」

その声におれは苛立ちが隠せなかった。あいつだ…!おれの身体の全身が震えだった。
その震えを抑えるかのようにナイフを構える。

おれのナイフの音にそばにいた飛鳥君はビクッと体を震わせた。
おれはその反応に反応してしまった。

そして、ナイフを出すことが出来なかった。

飛鳥君に───、怖がらせてしまうと思ったのだ。

「へぇ。」

その様子をあいつは見ていた。

「れーくんは、自分の意志を殺してでも守ろうとする友達が出来てしまったんですね…。残念。」

正先生はそういうと飛鳥君に近づこうとする。

「なっ…!?」

おれが気づいたときには遅かった。

「ぐ、わぁっぁっ!!!??」

飛鳥君の身体が一瞬光った。はっとして見ると飛鳥君はその場に倒れ込んだ。

なにを────した?

「お前っ…!!」
「れーくん、反応が遅いです。れーくんのせいで飛鳥君、倒れちゃったじゃないですか。」

そういうあいつの手にはスタンガンが握られていた。


「な、なにを…!?」
「れーくん、私はいったはずですよ?お友達は…つくってはいけないと。」

あいつはそういうと両手で人差し指と人差し指を合わせてバッテンのポーズをした。

「お友達をつくると自分の弱みが出来るんです。だから…そばに置くのは危険なんです。
それに────れーくんに悪影響を与える。」

あいつはおれをぎろっと見つめていた。なのにあいつの表情は何も変わらずにこにこしていた。

「れーくん、行きますよ。私の言うことを聞かなかった罰を与えないと…」
「くるなっ!!」

おれはあいつに向かってナイフを構えた。

あいつを…おれは、殺すっ。

ぎろっと睨みつけるとあいつはにこにこと楽しそうに笑った。

「あー、その顔。大好きです。大好き、可愛い、可愛いかわいいかわいいかわいいっ…!!
前みたいにほいほい私の言葉を疑いなく聞くれーくんも好きですが…私に警戒しすぎて震えちゃうれーくんもかわいいっ!」

はぁはぁっと息を吸って吐いているあいつの姿に目をつぶりたくなった。

気持ちが悪い…。嫌だ、どこかにいってほしい…。

「お前を…今度こそ、殺す。」
「れーくん、そんなの無駄ですよ?」
「黙れ。」
「だって…れーくんは僕に勝てたことないでしょう?」

あいつはにやにやしながらおれの様子を見ていた。

気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!!
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