1 / 1
初とーこ
しおりを挟む
いきなりだがぼくは、羽玖の彼氏だった。
……少なくとも、ぼくの中では、ずっとそうだった。
廊下ですれ違うとき、ふいに名前を呼ばれる。
「透、今日さ、プリント借りてもいい?」
それだけで、ぼくの一日は救われた。
手を貸すと、指が少し触れた。
羽玖は笑ってた。ぼくも笑った。
それはただのクラスメイトとしての会話だったのかもしれない。
でも、ぼくにとってはあれは愛だった。
最初に「付き合ってるの?」って訊かれたのは、たしか放課後の図書室で。
友達の由香が、ぽつりと笑いながら言ったんだ。
「ねぇ透、あんたと羽玖くんって、付き合ってるの?」
「……え、うん」
即答だった。
だって、そうだと思ってたから。
由香は「マジで!?」って声を上げた。
大げさな驚き方だったけど、それもたぶん、喜んでくれてるんだと思った。
だけど、次の日にはクラス中がざわついていた。
「ねぇ、羽玖と透って付き合ってるらしいよ」
「え、マジ? 羽玖ってそういうタイプだっけ?」
廊下を歩くたびに、ひそひそとした声が耳に入る。
目が合うと、すぐに逸らされる。
由香のグループの子がこっちを見て、笑ってた。
ぼくは、少しだけ、胸が苦しくなった。
でも、それも恋の一部なんだと思ってた。
教室の席に座ると、羽玖がこっちを向いていた。
「……透。あのさ」
「うん」
「……誰かに、何か言った?」
羽玖の声は、いつもより低かった。
穏やかだけど、どこか、壁があるような声だった。
ぼくは何も悪いことはしていない。
好きな人と付き合ってる。それを、ただ口にしただけだ。
「……ううん。言ってないよ」
ぼくは嘘をついた。
【羽玖視点】
最近、透のことが気になっていた。
最初はただ、「静かな子だな」と思っていただけだった。
毎日ちゃんとノートを取っていて、字がきれいで。
たまにぼくが忘れ物をすると、すっと貸してくれる。
声は小さいけど、話す内容は的確で、ちょっと面白かったりもした。
だから、話しかけるのは自然なことだった。
「透、プリント借りてもいい?」
「うん」
「サンキュ」
それだけのやりとりが、なんだか心地よくて。
透はよく笑ってくれたし、俺も嫌じゃなかった。
でも。
……いつからだろう。
廊下で誰かと話してると、視線を感じるようになった。
後ろを振り返ると、教室のドアの陰に透が立っている。
一言も喋らず、じっと、ぼくだけを見ている。
それが2回、3回……。
帰り道。校門を出た先で、透が待っていた日もあった。
「偶然だよ」と笑っていたけれど、ぼくは知らなかった。
透の家が、反対方向だということを。
……そして、噂。
「羽玖と透が付き合ってるって」
心当たりはなかった。
でも、透は何かを知っているようだった。
「……透。あのさ、誰かに何か言った?」
ぼくの問いかけに、透はすこし間を置いて、首を振った。
「ううん。言ってないよ」
目を逸らしながら。
声が、震えていた。
最初はだれかの悪ふざけだと思い無視していたけど、廊下を歩くたびに名前を囁かれるようになって、少し腹が立った
その後噂がはっきりするまで透と距離をとりたかった
【透視点】
「ねえ、どうして無視するの」
羽玖は、ぼくを無視するようになった。
朝、「おはよう」と言っても、目を合わせてくれない。
席に座ると、机を少しずらされた。
授業中、何度か顔を見たけど、もう羽玖はぼくのことなんて見ていなかった。
ぼくは、きみの彼氏なのに。
——由香が悪いのかもしれない。
あんなふうに言うから。
「ねえ透、ホントに付き合ってんの? 羽玖くん、否定してたけど」
羽玖が否定? なんで?
それって、恥ずかしいからだよね?
周りに知られるのが、嫌なだけだよね?
……そんな気持ちで、放課後の教室に残って、羽玖の机の中にそっと手紙を入れた。
名前は書かなかった。羽玖なら、わかってくれると思ったから。
──────以下、透が書いた手紙──────
羽玖へ
最近、どうしたの? ぼく、なにか悪いことしたかな?
おはようって言っても返事してくれないし、ノート貸そうとしても無視するし、
この前なんか、わざと遠回りして帰ったでしょ?
わかってるよ。恥ずかしいんだよね。
男同士って、からかわれるし、羽玖はそういうの苦手だから。
でも、ぼくは我慢してる。
ずっと我慢してる。
もっと一緒にいたいのに、教室じゃ声もかけられない。
隣に座っても、手もつなげない。
だから、こうして書いてるんだよ。
羽玖が無視するなら、ぼくも無視するよ。
羽玖がいなくても、大丈夫なふりをするよ。
……でも、ほんとはずっと見てるからね。
羽玖のこと、見てるから。
ぼくたち、付き合ってるんだよ。
それだけは、忘れないで。
透より
──────────────────────────────
授業はあっという間に終わり、気づけば放課後の時間になっていた。
教室の窓から橙色の夕日が差し込む頃、ぼくは深いため息をひとつついた。
机の中には、まだ受け取られていない羽玖への手紙がひっそりと隠れている。
それなのに、羽玖はどこにいるんだろう。いつものように最後まで教室に残らず、ぼくの視界からすっと消えてしまった。
「羽玖……どこにいるの?」
ぼくは席を離れ、足が自然と校舎の廊下を駆けていた。言葉にできない不安が胸を締め付け、切なさが波のように押し寄せる。
廊下の向こう、グラウンドの端にいる羽玖を見つけた。野球の試合に夢中で、汗が頬を伝っている。
「羽玖!」
ぼくは声の限り呼びかける。
だが、振り向くことなく、冷たい声が返ってきた。
「ごめん、今は話せない」
それでも、諦められなくて、気持ちのすべてをぶつけた。
「僕たち、付き合ってるんだよね?」
はくはしばらく沈黙したあと、小さくため息をつき、やっと答えた。
「わかった。1時間後、音楽室で待ってて」
嫌々ながらも約束を取りつけ、ぼくは教室へ戻る。
時計の針が刻む秒が、いつもより長く感じられた。胸には不思議と、喜びが混じっていた。
……少なくとも、ぼくの中では、ずっとそうだった。
廊下ですれ違うとき、ふいに名前を呼ばれる。
「透、今日さ、プリント借りてもいい?」
それだけで、ぼくの一日は救われた。
手を貸すと、指が少し触れた。
羽玖は笑ってた。ぼくも笑った。
それはただのクラスメイトとしての会話だったのかもしれない。
でも、ぼくにとってはあれは愛だった。
最初に「付き合ってるの?」って訊かれたのは、たしか放課後の図書室で。
友達の由香が、ぽつりと笑いながら言ったんだ。
「ねぇ透、あんたと羽玖くんって、付き合ってるの?」
「……え、うん」
即答だった。
だって、そうだと思ってたから。
由香は「マジで!?」って声を上げた。
大げさな驚き方だったけど、それもたぶん、喜んでくれてるんだと思った。
だけど、次の日にはクラス中がざわついていた。
「ねぇ、羽玖と透って付き合ってるらしいよ」
「え、マジ? 羽玖ってそういうタイプだっけ?」
廊下を歩くたびに、ひそひそとした声が耳に入る。
目が合うと、すぐに逸らされる。
由香のグループの子がこっちを見て、笑ってた。
ぼくは、少しだけ、胸が苦しくなった。
でも、それも恋の一部なんだと思ってた。
教室の席に座ると、羽玖がこっちを向いていた。
「……透。あのさ」
「うん」
「……誰かに、何か言った?」
羽玖の声は、いつもより低かった。
穏やかだけど、どこか、壁があるような声だった。
ぼくは何も悪いことはしていない。
好きな人と付き合ってる。それを、ただ口にしただけだ。
「……ううん。言ってないよ」
ぼくは嘘をついた。
【羽玖視点】
最近、透のことが気になっていた。
最初はただ、「静かな子だな」と思っていただけだった。
毎日ちゃんとノートを取っていて、字がきれいで。
たまにぼくが忘れ物をすると、すっと貸してくれる。
声は小さいけど、話す内容は的確で、ちょっと面白かったりもした。
だから、話しかけるのは自然なことだった。
「透、プリント借りてもいい?」
「うん」
「サンキュ」
それだけのやりとりが、なんだか心地よくて。
透はよく笑ってくれたし、俺も嫌じゃなかった。
でも。
……いつからだろう。
廊下で誰かと話してると、視線を感じるようになった。
後ろを振り返ると、教室のドアの陰に透が立っている。
一言も喋らず、じっと、ぼくだけを見ている。
それが2回、3回……。
帰り道。校門を出た先で、透が待っていた日もあった。
「偶然だよ」と笑っていたけれど、ぼくは知らなかった。
透の家が、反対方向だということを。
……そして、噂。
「羽玖と透が付き合ってるって」
心当たりはなかった。
でも、透は何かを知っているようだった。
「……透。あのさ、誰かに何か言った?」
ぼくの問いかけに、透はすこし間を置いて、首を振った。
「ううん。言ってないよ」
目を逸らしながら。
声が、震えていた。
最初はだれかの悪ふざけだと思い無視していたけど、廊下を歩くたびに名前を囁かれるようになって、少し腹が立った
その後噂がはっきりするまで透と距離をとりたかった
【透視点】
「ねえ、どうして無視するの」
羽玖は、ぼくを無視するようになった。
朝、「おはよう」と言っても、目を合わせてくれない。
席に座ると、机を少しずらされた。
授業中、何度か顔を見たけど、もう羽玖はぼくのことなんて見ていなかった。
ぼくは、きみの彼氏なのに。
——由香が悪いのかもしれない。
あんなふうに言うから。
「ねえ透、ホントに付き合ってんの? 羽玖くん、否定してたけど」
羽玖が否定? なんで?
それって、恥ずかしいからだよね?
周りに知られるのが、嫌なだけだよね?
……そんな気持ちで、放課後の教室に残って、羽玖の机の中にそっと手紙を入れた。
名前は書かなかった。羽玖なら、わかってくれると思ったから。
──────以下、透が書いた手紙──────
羽玖へ
最近、どうしたの? ぼく、なにか悪いことしたかな?
おはようって言っても返事してくれないし、ノート貸そうとしても無視するし、
この前なんか、わざと遠回りして帰ったでしょ?
わかってるよ。恥ずかしいんだよね。
男同士って、からかわれるし、羽玖はそういうの苦手だから。
でも、ぼくは我慢してる。
ずっと我慢してる。
もっと一緒にいたいのに、教室じゃ声もかけられない。
隣に座っても、手もつなげない。
だから、こうして書いてるんだよ。
羽玖が無視するなら、ぼくも無視するよ。
羽玖がいなくても、大丈夫なふりをするよ。
……でも、ほんとはずっと見てるからね。
羽玖のこと、見てるから。
ぼくたち、付き合ってるんだよ。
それだけは、忘れないで。
透より
──────────────────────────────
授業はあっという間に終わり、気づけば放課後の時間になっていた。
教室の窓から橙色の夕日が差し込む頃、ぼくは深いため息をひとつついた。
机の中には、まだ受け取られていない羽玖への手紙がひっそりと隠れている。
それなのに、羽玖はどこにいるんだろう。いつものように最後まで教室に残らず、ぼくの視界からすっと消えてしまった。
「羽玖……どこにいるの?」
ぼくは席を離れ、足が自然と校舎の廊下を駆けていた。言葉にできない不安が胸を締め付け、切なさが波のように押し寄せる。
廊下の向こう、グラウンドの端にいる羽玖を見つけた。野球の試合に夢中で、汗が頬を伝っている。
「羽玖!」
ぼくは声の限り呼びかける。
だが、振り向くことなく、冷たい声が返ってきた。
「ごめん、今は話せない」
それでも、諦められなくて、気持ちのすべてをぶつけた。
「僕たち、付き合ってるんだよね?」
はくはしばらく沈黙したあと、小さくため息をつき、やっと答えた。
「わかった。1時間後、音楽室で待ってて」
嫌々ながらも約束を取りつけ、ぼくは教室へ戻る。
時計の針が刻む秒が、いつもより長く感じられた。胸には不思議と、喜びが混じっていた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~
TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】
公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。
しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!?
王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。
これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。
※別で投稿している作品、
『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。
設定と後半の展開が少し変わっています。
※後日譚を追加しました。
後日譚① レイチェル視点→メルド視点
後日譚② 王弟→王→ケイ視点
後日譚③ メルド視点
運命よりも先に、愛してしまった
AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。
しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、
2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。
その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
分厚いメガネ令息の非日常
餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」
「シノ様……素敵!」
おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!!
その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。
「ジュリーが一番素敵だよ」
「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」
「……うん。ジュリーの方が…素敵」
ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい
「先輩、私もおかしいと思います」
「だよな!」
これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる