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最適解#1
しおりを挟む水を打ったように静かな架月の部屋に、ごくりと唾液を飲み込む音がこだまする。
「神の規律に反する、すなわち〝禁忌〟に触れてしまったという事になる。お前達に残された選択肢は二つ。それは―暁月と架月が、番契約を結ぶ。そしてもう一つは、存在ごと消滅する……。この二つだ。つまり、番を作って生きるか、死ぬかの二択になる。―さあ、どうする?」
「…………ッ!?」
戦慄が走った。
身体は呼吸の仕方を忘れたようで、息を吸う事も吐く事も出来ない。まるで誰かに無理矢理心臓を握り潰されているみたいだった。
「……っ、」
震えたまま、架月は暁月に視線を向ける。彼も驚いて声も出せずにいたが、答えは既に決まっているように見えた。
「さあ、どうする? あまり猶予はあげられないんだ」
「――ッ!?」
急かすような香霧の言葉に、架月の心臓が大きくうねりを上げた。
(……っ、どうする……っ!? 私は、どうしたい……?)
混乱する頭の中で。様々な言葉が、まるで走馬灯のように蘇る。
”――”
その言葉を思い出した架月は、妙に納得したように微かに笑い、三日月色の瞳は、やがて光を失っていく。
(……ああ、そうだ、私は―……)
架月の心臓のあたりから黒色の稲妻が発生し、パチパチと音を立てた。
そして二人は顔を上げると、真っ直ぐ香霧を見つめた。
「―答えは決まったかい?」
「はい」
暁月と架月は、声を揃えて同時に答えを出した。
「俺は架月と番契約を結ぶ」
「私は死ぬ事を選びます」
二人の答えは、異なっていた。
「…………そう」
「……死ぬって何だよっ!? 何でそうなるんだよ!」
怒りを帯びた暁月の声が、香霧の言葉を遮った。暁月は架月の両肩を強くと掴み、泣き出しそうな表情を見せた。
「……お前は死にたいの!? 俺は生きたい……ッ!!」
「……別に、あなたは生きればいいじゃないですか。私の生死など、あなたには関係ない」
「~~っ、何だと……?」
架月に冷たい言葉を返され、暁月は明らかに苛立ったように低く唸る。
「落ち着いて、二人とも」
仲裁に入ったのは、今までのやり取りを静かに聞いていた香霧だった。
「二人で同じ罪を犯したお前達が、別々の選択をする事は出来ない。暁月が生きるなら、架月も生きる。その逆も然り……。二人で二人なりの最適解を見つけなさい」
「………………」
俯く暁月と架月の頭を香霧は優しく撫でる。
「これはあくまで僕の意見だけど、君達の神気の相性は悪くない。番には向いていると思う。あとは君達次第。ちゃんと相手と、本音に向き合いな。そうすれば、自ずと答えは見えてくる」
導くような香霧の言葉に、暁月と架月は唇をかみしめた。
窓の外では光が満ち溢れている。どうやら残月が朝を連れてきたようだ。その光景に香霧は目を細めながら、二人の肩を優しく叩いた。
「もう夜が明けてしまったし、今日は少し休みな。頭を冷やす時間も大切だよ。―お前も、それでいいね?」
香霧は今までずっと黙っていた黒髪の神を振り返る。
「ああ。構わない」
「よし、この話は一旦これでおしまい! さっ、二人はゆっくり休むんだよ~! じゃあね!」
明るい調子でそう言うと、香霧と黒髪の神は、光の中に姿を消した。
「―さて、お前はこれからどうするの? 僕は仕事に戻るけど」
架月の部屋を後にした二人の神は、コツコツと靴音を響かせながら天王庁の廊下を歩く。
「…………俺は、少し寄る所がある」
大分間を置いてからその神は答えた。その声は、少しだけ苛立ちを含んでいる。
「……。そう。じゃあ、気をつけてね」
「ああ」
短く答えると、黒髪の神は踵を返し、どんどん遠ざかっていく。
「…………」
その背中を、香霧は心配するような、寂しそうな瞳で見つめていた。
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