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暁月と架月#5
しおりを挟む「――ッ、っ、はっ、あっ、はあ…っ!」
暗い架月の自室に、苦しそうな喘ぎ声が響く。
(……っ、おかしい……っ! 全然治まらない……っ!!)
いつもなら一度出せばすぐに治まるのに、今は何度射精しても終わりが見えなかった。それどころか、吐精すればする程さらに興奮し、充血していく。用意していた大量の懐紙も、もう底をついてしまった。
自室に精液特有の嫌なにおいが立ち込める。むせ返るような濃いそれに、架月は顔をしかめた。
本来なら自分の代わりに暴行された暁月を心配するべきだろうが、そんな事がどうでもよくなる位の強い肉欲に支配されていた。
(……っうそ、……なんでまだ勃ち上がってくるの……?)
架月の気持ちとは裏腹に、彼の若いそれは酷く熱を持ち、ドクドクと脈打っていた。
(~~~ッ⁉ なんで⁉ なんで……ッ⁉ もう……嫌ッ……)
大粒の涙を流しながら、暴れる異物のようなそれを一心不乱に扱き出す架月の脳裏に、香霧の言葉が蘇る。
〝発情期をひとりでやり過ごす事は正直架月には無理だと思う〟
(……あぁ、やはり私には無理だ……)
諦めたように手を止め、大きく息を吸い込んだ。射精したのか、していないのか、判断がつかない。
しかし、もうどうでもよかった。
――ここで、命を断ち切ればよいのだ。
簡単な事なのに、何故思いつかなかったのか。
神の命は永遠だと言われているが、それは高位の神のみだ。
自分には関係ない。
架月は小さなナイフを手に取ると、自分の喉元に突き立てる。刃先が少し食い込み、ちり、と痛みを孕む。
その時。
架月の右手首が光を放ち、握っていたナイフが弾き飛ばされた。
神の意識は、そこで消えた。
誰かが呼んでいる気がする。
その声は、騒がしくも、どこか馴染み深い、呼吸がしやすい音。
「――っ、架月! 架月っ!! 大丈夫かよ……っ? 架月!!」
「…………ん…………」
体を激しく揺さぶられて、架月はのろのろと重い瞼を開いた。
「架月!! よかった、生きてた……!!」
「……あれ、暁月さん……? 何で……」
乾いた瞳で暁月を見やると、その満月は濡れているようだった。
「死んじゃったかと思った……っ!!」
その言葉で、架月はようやく今までのいきさつを思い出した。
(……そうか、私……。発情期が辛すぎて……死のうと……)
そこまで回顧したところで、架月はハッと我に返った。
発情期は、誰とも会ってはいけないのだ。
そればかりか、暁月はしっかりと架月の両手を握っていた。
誰にも、触れさせてはいけないというのに。
「…………っ、」
急に怖くなった架月は青ざめたまま、固く口を結ぶ。しかし、その手は震えていて、簡単に暁月にも伝う。
「……な、なぁ、お前、今日どうしたんだよ? 具合悪い? 俺に何か出来る事ある?」
(……暁月さんに、出来る事……)
平静を装ってはいるが、正気を失っている架月はもう、正常な判断が出来なくなっていた。
「……て、ください」
「―え? 今、何て……」
「……私の事を抱いてください」
「……え、」
ドクン、と暁月の心臓が、一瞬だけ動きを止めた。
「…………お願い、暁月さん。あなたにしか頼めない」
架月は三日月色の瞳を濡らして、助けを求めるように暁月に手を伸ばす。
「……うん。……分かった」
暁月は凍った月のように冷たい架月の手を取ると、そのまま寝台へ押し倒す。
「――あらら。“神の禁忌“に触れてしまったね……」
そうつぶやいて、煙管を咥えながら、香霧は窓の外を見やる。
星の影一つない夜空に、残月だけが居座っている。
その月は何故か、暁色に染まっていた。
「……架月、今日本当にどうしたんだよ? お前から誘ってくるなんて珍しいじゃん……」
「……別に、何でもありませんよ……」
早くしろと言わんばかりに、架月は既に溶けきった後孔を曝け出す。
発情期になってからそこは一度も触れていないというのに、熱い蜜が滴って仕方ない。
「……そ、そう……? でも……」
「いいから、早く挿れてください」
暁月の言葉を遮り、架月は冷たく言い放つ。その態度に暁月は少し驚いていたが、それに気づかない程、架月は焦っていたのだ。
「……っ、うん、分かった……」
暁月は戸惑った様子のまま、紺色の襦袢の前を寛げ、ゆるく熱を持ったそれを握る。
「……い、挿れるぞ……?」
やや疑問形の言葉に、架月は頷きだけで返す。
早く架月を楽にしてあげたい一心で、暁月はやけに甘い香りが立つ後孔に、熱の先端を沈めた。
その途端。
「――っ⁉」
ほぐしていない割に、その中はとても熱く、まるで待ち望んでいたように暁月の芯を柔らかく受けとめた。
それと同時に、二人の神気が徐々に溶け合い、混じっていくのを感じた。
「……っ! あっ、ああっ!!」
架月はビクビクと体を震わせたまま、甘い声をいくつも咲かせる。
待ち侘びた快感に、架月の屹立からは大量の白濁が飛ぶ。
「……ッ! 暁月さんっ、ここまでっ、来て……っ!」
何とか言葉を続けながら、架月は自身の腹をなぞる。
「……っ!」
そこは丁度、へその辺りだった。
暁月は黙って頷くと、さらに興奮した熱芯を推し進めた。
「~~っ!! あっ、んん、……きもちいい……っ」
「……っほ、本当……?」
初めて聞いた“気持ちいい“という言葉に、暁月は素直に嬉しくなった。
暁月と架月は、ある時から夜の関係を続けている。
誘いも約束もする訳ではないが、毎晩暁月が架月の部屋に訪れてはどちらからともなく手を重ね、熱を伝え合い、同じ香りを纏った。
そのセトモノのような戯れ合いの中で、架月が“気持ちいい”と言った事は一度もなかった。だからこそ、暁月は報われた気がしたのだ。
「~~っ俺も、気持ちいい……っ!」
そう言いながら、暁月はきゅんきゅんと戦慄く中壁を擦り続けた。
「……あっ、あっ、……イ、キそ……!」
背中を反らせながら痙攣していた架月は、突然体を起こし、暁月にしがみついた。
「……っ、暁月さんの……っ、もっと奥までっ……欲しい……っ!」
「――っ!!」
硬い熱棒をさらに興奮させながら、暁月は架月の細い腰を掴み、もう進めないはずの奥へと踏み込んだ。
「……っ!? ひあっ、……っああ……ッ!」
「……っあ、架月っ、架月……っ!」
甘美な熱に導かれるようにして、暁月の熱塊の先端が奥に届いた瞬間、二人は強い快感に襲われた。
「――番契約を交わしていない者同士が、〝そこ〟まで入り込んではいけないよ……」
暁月と架月は、今までに感じた事のない、圧倒的な快楽に我を忘れて興奮の極致にまで昂ぶっていく。
「~~~っあっ、ああっ、ぎょうげつ、さっ――ッ!!」
「~~~っ!! ああっ、イクッ、……かげつ――ッ!!」
暁月が奥に思い切り熱棒を突き付けると、そこが激しく痙攣し、ふたりは弾けるような絶頂を迎えた。
「……っ、はっ、はぁ……っ、はぁ……っ、」
静まり返った部屋に、荒い呼吸音だけが響く。
暁月の肉棒からは未だに大量の白濁が流れていて、架月の奥を満たしていく。それを心地良いと思いながら、ふたりは唇を重ねた。
すると、暁月のそれの根元が硬くなり、まるで施錠をするように膨らみ始めた。
「……ねぇ、暁月さん、」
架月が何かを言いかけたその時、バチンという音が耳をつんざき、二人は一気に現実に引き戻された。
「――その続きを、君達はしてはいけないよ」
そこに現れたのは、香りと威厳を纏った、ふたりの神の姿だった。
「……ッ!! 香霧様……ッ!! 申し訳ありませんっ……!! これは、その……っ、」
架月は酷く動揺し、暁月が羽織っている襦袢で繋がっているところを隠そうとした。だが、言い訳をしようにも、約束を守れなかった欲のにおいが残っている。言い逃れは出来ない。
「……。とりあえず、暁月は架月から抜いて、ふたりとも服を着て、そこに座りなさい」
「……はい……」
柔らかいが少し怒りを含んでいるような香霧の声音にふたりは震え上がり、ちんまりと寝台の上で正座をした。
「……本来ならお前達の行為は〝神の規律〟に反する。架月は今、発情期で、番のいない神は性交をしてはならない。理由は―」
「え、架月、発情期だったの⁉ だからどおりで甘いにおいがしたのか」
「―!……」
香霧の言葉を遮って何気なく言った暁月の一言に、全知の神は何やら考え込んだ。
「……暁月と架月は、毎晩閨を共にしているんだよね?」
「……ッ⁉ いっいや、毎日って訳じゃないですけど……まあ、はい。そういう事になりますね……」
慌てふためきながら架月が答える。自分達がそういう関係であるという事は、自分達しか知らないはずなのに。
「発情期に入る前から、架月からこの甘い匂いがしていた? それとも、発情期に入ってから?」
ずいぶん真面目な質問を暁月に投げかける。暁月は腕を組みながら、うーんと考え込み、やがて明るく答えた。
「架月が発情期に入ってからですかね!」
「! ―そう。やはり」
香霧は何かを確信したように、重みのある声を響かせた。
「暁月。それに架月。番のいない神は、発情期に他の神と交わってはならない。〝神の規律〟には、そう記されている。理由は、神の暴走を防ぎ、この世界の崩壊を避けるため。発情期は特に、神気が暴走しやすいからね。発情期の神は、〝神の本能〟に逆らえない……。あらゆる天変地異を引き起こし、世界を終わらせる事だって容易に出来る。―だから僕は気をつけろ、と言ったんだ」
「……ッ!!!」
事の重大さに気づいた架月は、ザッと血の気が引き、ぐらりと目眩がした。自分は、何て事をしてしまったのだろう。変な汗が止まらなかった。
見かねた香霧が口を開く。
「お前達に残された選択肢は二つ。それは――……」
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