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暁月と架月#4
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「―……」
香霧の部屋を後にし、自室までの廊下を、架月は憔悴した様子で歩いていた。その、三日月色の瞳は光を失い、黒い闇を纏っている。
(……ッ、このっ、私が……? 発情期……?)
歩き慣れているはずなのに、ここがどこなのか、分からない。
力を入れて歩いているはずなのに、何故か、力が入らない。
架月は、へなへなとその場に座り込んでしまった。
(……天帝に孕まされる……?)
そう思うと一瞬で呼吸の仕方を忘れ、架月は苦しそうに胸元を押さえてうずくまった。
「……ッ、ァッ、……ハア……ッ、」
このままでは、過呼吸になってしまう。頭では分かっていても、体は全く言う事を聞かなかった。どうすればいいのか分からず、架月は荒い呼吸を続けていると、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえた。
「オイ! 架月!!」
ほっとしたのも束の間、その声色に架月はサッと顔色を変えた。
「……っ、烟弦、様……っ」
烟弦と呼ばれたその男は、薄褐色の肌に寝癖のついた黒髪を適当に束ね、左側の前髪を生え際から耳にかけて三つに編み込んでいた。
「架月! 今までどこ行っていたんだよ⁉ 俺の分の仕事もやらせようと思っていたのになぁ!」
烟弦は怒気を孕んだ大声で言いながら架月の胸ぐらを掴んだ。
「……っ、も、申し訳ありません……っ」
烟弦と架月は、上司と部下の関係だ。しかし、それは決して良い関係性ではなかった。
さらに呼吸を荒げる架月を心配する素振りもなく、烟弦は彼を殴ろうと握った拳を高く突き上げた。
「―……ッ!!」
〝発情期間中は誰にも会わない事〟
〝発情期はね、他人に触れられた所が敏感になって仕方ないんだ〟
脳裏に蘇る、香霧の言葉。
「~~~っ、やめてくださいっ!!」
広い廊下に、バシッという鈍い音が響いた。
「……あ?」
架月が、烟弦の手を振り払ったのだ。
烟弦は低く唸る。
「……っあ、も、申し訳ありませ……っ」
「……オイ貴様。今、自分が何をしたか分かってんのか?」
怒りを露わにした烟弦が架月を乱暴に押し倒した。
「奴隷の分際で! 俺の手を振り払うなんて良い度胸だなぁ!! 身の程を知れよ、クソ雑魚が!!」
烟弦は大声を張り上げながら架月の漢服を破く。
「もういい。犯すわ」
「……ッ⁉」
その一言で、一瞬にして血の気が引いていった。
性交してはいけないのに。発情期なのに。誰とも会ってはいけないのに。そんな考えばかりが架月の脳内を支配していく。
(……っ、香霧様との約束を破ってしまう……)
そう思うと、自然に涙が滲んだ。何も分からない自分のために、色々と教えてくれた香霧にも申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
烟弦は、既に勃ち上がっているそれを握って嫌な笑みを浮かべている。
(……ああ、このひとの子供は、孕みたくない……)
そう思っても烟弦には届くはずもなく、架月はギュッと目をつぶって痛みに耐えようとした、その時。
「―架月っ!!」
香霧でも烟弦でもない声が架月の耳に届いた。
それは、騒々しくも聞き慣れた、いつもの声。
「……っ、暁月、さん……」
暁月は仲裁するように烟弦と架月の間に割って入ると、酷く驚いた様子の彼を振り返る。
「ッ、架月! 逃げろ……っ!」
「……、え……」
状況が飲み込めずにいる架月に、暁月はもう一度逃げろと叫んだ。その顔が、満月色の瞳が、いつになく真面目で。
架月は黙って頷いた。
「オイ暁月!! お前も何やってんだ⁉ 何で架月を逃がしてんだよ⁉」
さらに逆上した烟弦は、暁月の胸ぐらを掴み、そのまま床に叩きつける。
「……ッ!!」
暁月が起き上がろうとする前に、彼の腹を思い切り蹴りつけると、烟弦はさらに怒号を飛ばした。
「テメエも雑魚神のクセにッ!! 俺に逆らうなッ!! クソがッ!!」
「……っ、架月に……っ、触るな……ッ!」
「ああ⁉ 訳分かんねー事言ってんじゃねーよ!!」
怒りが頂点に達した烟弦は、暁月の漢服を乱暴に破り、強引に足を開かせた。
「……ッ⁉ オイ、何……っ」
「何って、これは指導だよ。お前は悪い事をしたから俺がちゃんと正しい事を教えてやらないとなぁ?」
気味の悪い笑みを浮かべながら烟弦は、まだ何も知らない暁月の後孔に肉棒を突き立てた。
「~~~ッ⁉」
暁月の声にならない悲鳴が天王庁内に鳴り渡る。
「――お前達。そこで何をしている」
すると突然、凜とした低い声が、辺りに響いた。
その声を聞いた途端、あの烟弦でさえも恐ろしさに震え上がった。
「……あ、貴方様は……っ」
一方、架月はなんとか天王庁内にある自室に辿り着いていた。
「……っ、はっ、はあっ、はあ……っ、」
股座が、熱い。熱すぎて、どうにかなってしまいそうだ。架月は自室に入るなり、扉に背を預けてその場に座り込んだ。
「……っ、あっ、はぁっ、うあ……っ、」
性急な手つきで漢服を寛げると、目に飛び込んできたのは、今までにないくらいに勃ち上がったそれだった。
「……っ、な、なにこれ……っ」
目の前の状況に、架月は酷く動揺した。前述した通り、彼は性交で快感を覚えた事もなく、勃起するという現象も、かなり稀なのだ。
それなのに、架月の陰茎は反り返って腹につきそうな程にそそり立ち、先端からはぬるついた液が溢れ出ている。
(……うわ……。まあ、何回か出せばすぐ終わるでしょ)
そう思い込むと、架月は既に震えている熱棒に手を伸ばした。
――架月はまだ、知らなかった。
『発情期』の本当の意味も、これが地獄の始まりだという事も。
香霧の部屋を後にし、自室までの廊下を、架月は憔悴した様子で歩いていた。その、三日月色の瞳は光を失い、黒い闇を纏っている。
(……ッ、このっ、私が……? 発情期……?)
歩き慣れているはずなのに、ここがどこなのか、分からない。
力を入れて歩いているはずなのに、何故か、力が入らない。
架月は、へなへなとその場に座り込んでしまった。
(……天帝に孕まされる……?)
そう思うと一瞬で呼吸の仕方を忘れ、架月は苦しそうに胸元を押さえてうずくまった。
「……ッ、ァッ、……ハア……ッ、」
このままでは、過呼吸になってしまう。頭では分かっていても、体は全く言う事を聞かなかった。どうすればいいのか分からず、架月は荒い呼吸を続けていると、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえた。
「オイ! 架月!!」
ほっとしたのも束の間、その声色に架月はサッと顔色を変えた。
「……っ、烟弦、様……っ」
烟弦と呼ばれたその男は、薄褐色の肌に寝癖のついた黒髪を適当に束ね、左側の前髪を生え際から耳にかけて三つに編み込んでいた。
「架月! 今までどこ行っていたんだよ⁉ 俺の分の仕事もやらせようと思っていたのになぁ!」
烟弦は怒気を孕んだ大声で言いながら架月の胸ぐらを掴んだ。
「……っ、も、申し訳ありません……っ」
烟弦と架月は、上司と部下の関係だ。しかし、それは決して良い関係性ではなかった。
さらに呼吸を荒げる架月を心配する素振りもなく、烟弦は彼を殴ろうと握った拳を高く突き上げた。
「―……ッ!!」
〝発情期間中は誰にも会わない事〟
〝発情期はね、他人に触れられた所が敏感になって仕方ないんだ〟
脳裏に蘇る、香霧の言葉。
「~~~っ、やめてくださいっ!!」
広い廊下に、バシッという鈍い音が響いた。
「……あ?」
架月が、烟弦の手を振り払ったのだ。
烟弦は低く唸る。
「……っあ、も、申し訳ありませ……っ」
「……オイ貴様。今、自分が何をしたか分かってんのか?」
怒りを露わにした烟弦が架月を乱暴に押し倒した。
「奴隷の分際で! 俺の手を振り払うなんて良い度胸だなぁ!! 身の程を知れよ、クソ雑魚が!!」
烟弦は大声を張り上げながら架月の漢服を破く。
「もういい。犯すわ」
「……ッ⁉」
その一言で、一瞬にして血の気が引いていった。
性交してはいけないのに。発情期なのに。誰とも会ってはいけないのに。そんな考えばかりが架月の脳内を支配していく。
(……っ、香霧様との約束を破ってしまう……)
そう思うと、自然に涙が滲んだ。何も分からない自分のために、色々と教えてくれた香霧にも申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
烟弦は、既に勃ち上がっているそれを握って嫌な笑みを浮かべている。
(……ああ、このひとの子供は、孕みたくない……)
そう思っても烟弦には届くはずもなく、架月はギュッと目をつぶって痛みに耐えようとした、その時。
「―架月っ!!」
香霧でも烟弦でもない声が架月の耳に届いた。
それは、騒々しくも聞き慣れた、いつもの声。
「……っ、暁月、さん……」
暁月は仲裁するように烟弦と架月の間に割って入ると、酷く驚いた様子の彼を振り返る。
「ッ、架月! 逃げろ……っ!」
「……、え……」
状況が飲み込めずにいる架月に、暁月はもう一度逃げろと叫んだ。その顔が、満月色の瞳が、いつになく真面目で。
架月は黙って頷いた。
「オイ暁月!! お前も何やってんだ⁉ 何で架月を逃がしてんだよ⁉」
さらに逆上した烟弦は、暁月の胸ぐらを掴み、そのまま床に叩きつける。
「……ッ!!」
暁月が起き上がろうとする前に、彼の腹を思い切り蹴りつけると、烟弦はさらに怒号を飛ばした。
「テメエも雑魚神のクセにッ!! 俺に逆らうなッ!! クソがッ!!」
「……っ、架月に……っ、触るな……ッ!」
「ああ⁉ 訳分かんねー事言ってんじゃねーよ!!」
怒りが頂点に達した烟弦は、暁月の漢服を乱暴に破り、強引に足を開かせた。
「……ッ⁉ オイ、何……っ」
「何って、これは指導だよ。お前は悪い事をしたから俺がちゃんと正しい事を教えてやらないとなぁ?」
気味の悪い笑みを浮かべながら烟弦は、まだ何も知らない暁月の後孔に肉棒を突き立てた。
「~~~ッ⁉」
暁月の声にならない悲鳴が天王庁内に鳴り渡る。
「――お前達。そこで何をしている」
すると突然、凜とした低い声が、辺りに響いた。
その声を聞いた途端、あの烟弦でさえも恐ろしさに震え上がった。
「……あ、貴方様は……っ」
一方、架月はなんとか天王庁内にある自室に辿り着いていた。
「……っ、はっ、はあっ、はあ……っ、」
股座が、熱い。熱すぎて、どうにかなってしまいそうだ。架月は自室に入るなり、扉に背を預けてその場に座り込んだ。
「……っ、あっ、はぁっ、うあ……っ、」
性急な手つきで漢服を寛げると、目に飛び込んできたのは、今までにないくらいに勃ち上がったそれだった。
「……っ、な、なにこれ……っ」
目の前の状況に、架月は酷く動揺した。前述した通り、彼は性交で快感を覚えた事もなく、勃起するという現象も、かなり稀なのだ。
それなのに、架月の陰茎は反り返って腹につきそうな程にそそり立ち、先端からはぬるついた液が溢れ出ている。
(……うわ……。まあ、何回か出せばすぐ終わるでしょ)
そう思い込むと、架月は既に震えている熱棒に手を伸ばした。
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