仮の番契約

りあやな煮工房

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暁月と架月#3

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「……つがい……」
 番とは本来、二つのものが組み合わさって一組になること。
 また、動物の雄と雌の一組、というのが一般的だ。


 しかし、「神における番」の意味合いは少々異なる。

「〝神の番契約〟は、かなり複雑なんだ。僕達神は、男でも発情期があり、妊娠する事ができる。つまり、男同士でも子供ができるということ。でも厄介なのが、あまりにも神気量に差があると、神気量の少ない神は、神気量の多い神に逆らえない。だから天帝が架月を犯したら、無理矢理にでも神気が番と認め、番契約が成立し、子供を宿してしまう。―〝神の本能〟には誰も抗えないんだ」
「………ッ!!」
 架月はギリ、と唇を強く噛んだ。
 このままでは、天帝の子を孕んでしまう。そうでなくとも、日頃から欲の捌け口にされている架月は、誰かしらの子を孕んでしまう可能性だってある。
「だから、早急に番をつくる必要がある」
「……っ、ですが……、」
 架月は言葉を詰まらせた。天帝や香霧くらいの神気量であればすぐに番になる神が見つかるだろうが、自分は神気も無いに等しく、奴隷のような存在だ。そんな自分に、番など見つかるのだろうか。
「番は、神気が惹かれ合う者同士で成り立つ場合が多い。―そういうひとはいるかい?」
「………」
 目をつぶって考え込む架月の脳裏に、ある神の姿が浮かんだ。
 その男は、先程すれ違った神とよく似ている。
(……いや、あのひととは、そういう関係じゃない……)
「いえ、いません」
「……そう。じゃあ、やり過ごす方法を教えよう。まず、発情期間中は誰にも会わないこと。発情期で番のいない神の神気は強力なものだから、周りの神達に気づかれてしまう。そうなったら当然犯され、最悪番契約を結んでしまう事になる。もちろん、仕事も駄目。次に、発情期が終わるまではは性交は禁止。その状態で性交してしまったら、本当に契約が成立してしまうからね。―でも」
 そこまで言ったところで、香霧は声のトーンを落とした。
「発情期間中は体が疼いて仕方ない。陰茎や後孔はもちろん、腹の奥が疼いて疼いて堪らない。それはもう、気が狂う程にね。それに加えて中を満たして欲しくなる。つまり、誰かに挿入してもらわないと欲が満たされる事はない。この、精神が壊れてしまう位に辛い発情期を、たったひとりで乗り越える事は出来る?」
「……ッ!!」
 
それきり、架月は黙り込んでしまった。
(……まあ、無理もないか……)
 香霧はゆっくりと煙管を咥え、そして大きく息を吐き出す。
 発情期なんて自分には関係ないと思っていた架月にとっては、信じがたい事実だろう。神気量が少ないなら、なおさらだ。
(……僕も、初めて発情期が来た時は、動揺したし)
 昔の事を思い出し、香霧は、心臓のあたりをさする。
「…………香霧様も、ひとりで乗り越える事が出来たんですよね?」
 長い沈黙を破ったのは、架月の声だった。
「……まあ、そうなんだけど。僕の場合は、事情が事情でね……。でも、かなり辛いよ?」
「それでしたら大丈夫です。辛い事には慣れていますので」
「……、」
 その、泣きはらしたような三日月色の瞳に、香霧は言葉を呑んだ。
「……そう。じゃあ、処理の仕方を教えよう。先程、性交はダメと言ったけど、手淫なら問題ない。というか、発情期をひとりでやり過ごす手段は正直これしかない。……でも、一日中抜くハメになるよ。……僕が番になってあげたいけど、僕はもう、んだ。ごめんね」
「…………分かりました」
「―……!」
 覚悟が揺らぐ架月の瞳の色に、そろそろ腹を括らねば、と香霧は小さく笑う。
「……架月は、本当に強いね。僕なんかより、ずっと強い。分かった。協力する。僕は発情期特有の甘いにおいに充てられる事もない。だから、処理の仕方に迷ったら、安心して僕の元へおいで」
「……っ、ありがとうございます……」
「……」
 架月の表情に、香霧は何か言いたげだったが、やがて優しく笑って頭を撫でた。
「今日はもうお休み。色々と疲れたでしょう?……これからどんどん辛くなってくるから、寝られる内に寝ちゃいな」
「……はい。丁寧に教えていただき、ありがとうございます」
 そう言って架月は深々と頭を下げる。
「……うん。部屋まで送ろうか? 大丈夫?」
「いえ、大丈夫です。お気遣いいただき、ありがとうございます」
「そう。……架月。くれぐれも
 香霧は架月の右手首を握り、軽く神気を込めた。金色の神気は架月の体を一通り巡って、再び右手首に集まった。それは、普段神気を視認する事が出来ない架月でも、認識出来る程、強力なっものだった。
「……はい。あの、香霧様、これは……?」
「この神気は、架月を守るためのもの。何かあればすぐに対応出来るようにね。まあ、お守りのようなものだと思っておいて」
「はい、ありがとうございます」
「……本当に長い戦いになるよ。発情期は大体一週間程と言われているけど、神によって差はかなりある。三日で終わる神もいれば一ヶ月発情している神もいる。ましてや架月は若いし初めての発情期。何が起こるか分からない。だから、本当に注意して。軽い気持ちで性交なんてしては駄目だよ。分かったね?」
 そう諭す香霧の美しい紫目はいつになく神妙で、架月も緊張した面持ちで頷いた。
「はい。ありがとうございます。では、失礼します」
「うん。何かあったらすぐに言ってね」
「はい」
 
架月は立ち上がると、香霧に一礼してから診療室を後にする。
 去って行く架月の背中を見つめながら、香霧は目を細めてやや険しい表情を浮かべた。


(……僕の神気を架月に分けた理由はもちろん彼を守るためのもの。だけど本当の目的は、架月を監視するため。架月を信頼していない訳ではないけど、発情期間中に一度も性交をしないとは到底思えない。……きっと架月は、と―……)
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