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しばらくそんな日が続いた。その間に思った事、それは、言葉を話したい。だった。喋れれば、男の人の名前だって、この場所だって、なんだって聞けるから。まずは何より名前だ。名前を聞きたい。よし、喋る練習をしよう。男の人の真似をして、


「おいしい、あまい、かりゃい、みりゅく、おやしゅみ、おいしい、あまい、かりゃい、みるく、おやしゅみ…………」難しい。でも、単語だけなら伝わるかも。男の人が帰ってきたら驚かせちゃお!ふふ~


まだかなまだかな~?玄関に座って待っていると、だんだん瞼が重くなってきた。むう、帰ってきたら直ぐにおかえりって言って驚かせたい。寝たらダメよ。寝たらダメ。…………寝た…ら、ダメ……なのよ…………


赤ん坊side  終



精霊王side


家に帰ると、玄関に赤ん坊が座っていた。待っててくれたの?かわいい。ありがと。でも、こんなとこで寝たら風邪ひく。はやく、あっためないと。


赤ん坊を抱き上げてベットに寝かせる。


……雪の日に見つけたこの子は、酷く冷たくて、直ぐにでも無くなってしまいそうだった。分からないけど、絶対に失えないと思った。だから、いつもなら絶対にしない事をしたんだと思う。


抱き上げて、その上自分の上着で包んで、頬ずりまでして。精霊の中でも、いや、この世で1番冷たくて、なににも関心を見せないと言われ続けた…………、闇の精霊王の、僕が。


この子は、不思議だ。何より大事で、かわいくて、いつになっても僕の頭の中にい続けている。僕が、初めて愛した子。ふふ、僕にもこんな気持ちがあったんだね。この子といると、初めての事ばかり。ご飯も、お風呂も、寝るときも、ずっと一緒にいたい。


最近は、精霊王としての仕事に行くときに離れなければいけないのが1番の悩みだ。心配だし、なにより、腕にできる隙間が寂しくてしかたない。寂しい、なんて気持ちも初めてだ。この子じゃないとこの寂しさは無くならない。この腕に、この子以外を入れたいなんて思わない、いや絶対に入れたくない。


もう少しこのこの子が大きくなったら仕事場にも連れて行く。今はこの子の負担になるといけないからしないけどね。この子がいたら普段の何倍も仕事が捗るだろうし、僕が何をやっているのか知ってほしい。あ、でも、残酷な所は見せない方がいいよね。怖がるかもしれないし、万が一嫌われたら暴走して世界を滅ぼしちゃうかも。


綺麗な部屋を用意しよう。この子専用の。血の匂いも絶対に届かないようにしないとな。


そんな事を考えながら赤ん坊の頭を撫でていると、しだいに眠くなってきた。また明日、おやすみ、愛しい子。
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