舞風学園演劇部 1年編 青春の開演

舞風堂

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第四章 映画を作ろう

第十四幕 演劇部と動画撮影部、合同企画?!

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 九月上旬。
 二学期が始まり、秋の気配が近づく舞風学園。
 放課後の多目的室に集まった演劇部の5人。

「さーて! いよいよ文化祭! 伝説の第四章、ド派手にぶち上げるよーっ!」

 いつもの調子で、ひのりが勢いよく開幕を宣言した。
 だが――七海はノート片手に、渋い顔で言った。

「……ひのり、ちょっと落ち着いて聞いて。実は、舞台が使えないの」

「えっ……?」

「体育館のステージ、軽音部のライブ機材が常設されることになったわ。バンドの転換だけで手一杯で、演劇のセットを組んだりバラしたりする時間は取れないって」

「そ、そんな……」

 ひのりがガクリと膝をつく。

「文化祭で演劇って、青春のド定番じゃん……! スポットライト浴びて、最後は紙吹雪の中で『ありがとうございましたー!』ってやるのが夢だったのにぃ……!」

「わかる、それめっちゃ憧れるやつ……」
 紗里も机に突っ伏して嘆く。

「教室も展示で埋まってるし、中庭はダンス部だし……。せっかく5人揃ったのに、披露する場所がないなんて……」
 みこも悲しげに眉を下げた。
 部室に重い沈黙が流れる。
 “場所がない”という現実は、彼女たちの熱意を消してしまうには十分すぎる壁だった。
 その時、沈黙を破ったのはみこだった。
「……なら、映画は?」
 全員が顔を上げる。
「映画なら、場所も時間も関係なく撮れるよ。教室のプロジェクターがあれば上映できるし……私たちの演技、形に残せる」
 その言葉に、ひのりがバッと顔を上げた。

「それだぁああああ!!!」

 さっきまでの落ち込みが嘘のように、ひのりが叫ぶ。

「自主制作映画!? 場所がないなら、世界全部を舞台にしちゃえばいいじゃん!」

「なるほど……それなら土曜日とかに撮影すればいいし、解決策としてはアリね」

「でも機材は? ウチらスマホしかないよ?」

 紗里の疑問に、ひのりはニカっと笑い、壁の向こうを指差した。

「あるじゃん! 機材持ってる人たち!お隣の動画撮影部に協力してもらおうよ!」

「……あの子たちなら、確かに」
 七海が納得したように頷く。

「で、監督は……やっぱ唯香ちゃんだよね!」

「えええええ!?」
 ──こうして、“場所がない”というピンチを逆手に取った、文化祭へ向けての新たな挑戦が始まった

 翌日の放課後、演劇部の5人はすでに揃っていた。長机に円を描くように並んで座り、ホワイトボードには「文化祭企画会議」と七海の字で書かれている。

「……来るかな、動画撮影部の人たち」

 紗里がソワソワと椅子を揺らしながら呟いた。

「さすがに来るでしょ。あたしたちから正式に依頼出したんだし!」

 ひのりは机の上で両手をパタパタと仰ぎながら言った。唯香は静かにうなずいている。

 すると――

「失礼しまーす」

 ドアが開き、明るい茶髪のポニーテールの少女が軽いカメラを手に入ってきた。

「動画撮影部部長の冴木あさひでーす! 呼んでくれてありがと!」

「元気だね……」とみこが小声で呟く。

 続いて、ツインテールで機材を抱えた少女が入室する。

「中島りつです。よろしく」

 最後に、落ち着いた雰囲気のショートヘアのメガネの少女が静かに会釈した。

「名塚真帆です。協力できると聞いて、少し楽しみにしてました」

「C組の宝さんと同じだよね?」と七海が確認すると、「うん」と真帆は微笑む。

「それじゃ、座ってください。今日はお願いがあって来てもらいました」

 3人が席につき、演劇部と動画撮影部が初めて同じテーブルにつく――そんな瞬間だった。

「じゃあ、さっそく本題に入ろっか」

 ひのりが勢いよく立ち上がり、両手で机をバン!と叩いた。
 その表情は、すでに何かに取り憑かれたような輝きを放っている。

「今回、文化祭で演劇部は《自主制作映画》を作ることにしたの! だから、動画撮影部に協力してほしいんだ!」

「ちょっとひのり、落ち着いて」

七海が制止する。

「映画……!」
 あさひの目がキラリと光る。

「おもしろそうじゃん、それ!」

「でしょ!? でね、私がやりたいのは――」
ひのりはホワイトボードの前に立ち、カラーマーカーで殴り書きを始めた。

『SF』『バトル』『爆破』――

「えっと、なんかどんどん物騒になってない……?」

 りつが眉をひそめるなか、ひのりはノンストップで語り出した。

「見たことないような超能力バトルとかさ、空からロボットが降ってくる感じの演出で……で、撮影は砕石場か工場跡地! ヒロインは記憶を失ってて、そこに謎の敵が――」

「待て待て待て!」

 七海がバシッと机を叩いた。

「予算、いくらかかると思ってんのよそれ!」

「えっ……」

 ひのりの口が「へ」の字に曲がる。

「火薬って簡単に使えないし、砕石場なんてまず借りられないし、VFXにいたっては……この動画撮影部にハリウッドスタジオでもあると思ってんの?」

「うっ……」

 まるで夢から現実に急降下するように、ひのりは黙り込んだ。

「そもそも文化祭の予算って1部活あたり上限決まってるからね」

 真帆が冷静に補足する。

「ロボットCGとか爆破シーンの外注とかは、現実的じゃないかも」

「くっ……現実って、厳しい……」

 ひのりは椅子に沈み込んで、まるで全ての希望を失った顔で天井を仰いだ。

「でも、アイデアとしては嫌いじゃない」

 ふと、あさひがニカッと笑って言った。

「むしろ、そこまで振り切ってる方が撮ってて楽しいよね。もちろん、できる範囲でね」

「……ほんと!?」

「やるからには面白く撮りたいし。でも、私たちができることも限られてるし――脚本とか演出とか、ちょっと現実的な路線で話し合ってみよっか?」

 七海がうなずく。

「そうね。とりあえず、まずは“何を撮るか”をちゃんと決めて、役割分担とかもしていきましょう」


休憩ムードになった頃、りつがぽつりと言った。

「思ったけど、演劇部ってみんなキャラ強いね。映えるわ」

「えっ、キャラ?」
ひのりが目を丸くする。

「本宮さんは“勢いで全部動かす主人公”。七海さんは参謀。紗里さんはムードメーカー。みこさんは癒し系で、たまに強いとこ出るタイプ」

「う、うぅ……恥ずかしい……」
みこが頬を染める。

真帆が唯香を見て言った。

「宝さんは……カメラ越しでも分かる“本物”」

「……昔の話よ」
唯香は控えめに微笑んだ。

あさひもうなずく。

「立ってるだけで画面の空気変わるんだよね。プロってすごいなって思う」

唯香は少し照れつつ、「まだ一年生よ、私も」とだけ返す。

その空気のまま、あさひがふと言った。

「ところでさ、演劇部の部長って誰なの?」

一瞬沈黙。

「……決めてなかったわね」
七海が苦笑する。

「自然とひのりちゃんが引っ張ってたから、部長かと思ってた!」
紗里が手を叩く。

「え、私!? 妄想爆走系だよ!?」
ひのりが慌てふためく。

「でも、企画を動かしたのは本宮さんの勢いでしょ?」
あさひが笑って背中を押す。

唯香もうなずいた。

「……その力、あると思う」

七海が机の中央に手を置く。

「じゃあ――ここで決めましょう。
 本宮ひのりを、部長として認めるってことで」

「賛成!」
「異論なし」
「いいと思う」

満場一致だった。

ひのりは一瞬きょとんとして――
やがて胸を張って宣言した。

「……じゃあ! 本宮ひのり、今日から部長やります!!」
 
 その宣言に、部屋の中から拍手が湧き起こる。

「文化祭、絶対成功させようね!」

 ひのりが両手を広げて言うと、あさひが笑って答えた。

「任せなさい、部長さん!」

 こうして、演劇部の新たな体制と文化祭への挑戦が、正式に“幕を上げた”のだった。

「で、撮影場所って、どうするの?」

 文化祭映画プロジェクトが本格的に動き出し、七海がノートを開きながら言った。

「砕石場なんかは当然無理だけどやっぱ背景って大事じゃん」

「うちの学校の中だけじゃ、雰囲気出すの難しそうだよね」

 みこが小声でつぶやく。

「そうなんだよ~! せめて廃墟とか、無機質なビルの屋上とか……」
 ひのりがぐぬぬと頭を抱える。

「でも、屋上って鍵かかってるし、勝手に使えないよ」

「近くに森とか河原とかあったっけ?」と紗里。

「うーん……野外で撮ると、音が入るのも気になるんだよね」

 あさひがハンディカメラをいじりながら言った。

「風とか蝉の声とか、マイクめちゃ拾っちゃうから、セリフもノイズだらけになる可能性あるし」

「じゃあ、室内で工夫するしかないか……でも室内で“それっぽく”するのも限界あるし」

 七海が頬杖をついて考え込んでいた時、りつがふと口を開いた。

「ねえ、LEDウォールって知ってる?」

「なんか最近の映画で背景に巨大なスクリーン使って合成してるやつ?」

「そう。『マンダロリアン』とかで有名になったやつね。グリーンバックじゃなくて、撮影時に“背景”がリアルタイムに映ってるやつ」

「ええっ! そんなハイテクなことうちらでできるの!?」

 ひのりが前のめりに聞いた。

「本物のLEDウォールは無理。でも、近いことなら“風”にはできるかも」

 りつがカバンからノートPCを取り出し、手早く操作しながら続けた。

「プロジェクターで教室の壁に背景映すとか、大型モニターを設置して風景動画をループ再生するとか。あと、背景映像を合成前提で編集して、照明で雰囲気を出すとかね」

 真帆がそれを聞いて静かに補足する。

「“スクリーン越しに撮る”んじゃなくて、“その場にあるように見せる”ってことよね。動きのある背景をうまく光と合わせれば、印象が変わる」

「それっぽく見せるのって、意外とアイデア次第なのかも……!」

 七海が目を細めてうなずいた。

「じゃあさ、廃墟とか無機質な背景の動画素材を事前に撮っておいて、それを背景に映して演技するとか、できる?」

「うん。たとえば、美術室の一角を使って“異空間”っぽく演出できるかも」

「すごい……それ、なんか本当に映画っぽい!」

 紗里が目を輝かせる。

「演劇部が演技して、動画撮影部がセットと演出で世界を作るって、めっちゃいいコラボじゃん!」

「撮影用の照明、ちょっと貸してもらえるよう手配するね。教頭先生が機材に理解あるから、相談してみる」

 あさひがメモを取り始めた。

「脚本が固まってきたら、それに合わせて必要な背景動画とかも用意するから」

「りつ、頼れる~!」

 ひのりが感動したように言うと、りつは軽く口元を緩めて言った。

「……ま、妄想を現実に変えるのは、私の仕事だから」

「かっこいいな、おい……」

 みこがポソッと呟くと、部屋中から笑いが漏れた。

 ──こうして、撮影場所の問題は“アイデアと技術の工夫”で乗り越える方向に進み始める。

 演劇部と動画撮影部、それぞれの得意を武器に、夢は少しずつ形になっていこうとしていた。

 七海がパソコンに撮影計画の表を打ち込みながら、ふと口にした。

「……で、監督って誰がやるの?」

 再び沈黙。

「脚本はみんなで考えるにしても、演出とか、カット割りとか、現場で指示出す人は必要でしょ」

「うーん……私、演出は好きだけど、カメラの知識はないな~」と紗里。

「私も……裏方得意だけど、映像の現場仕切るのはちょっと……」と七海が言いかけたそのとき。

「唯香ちゃん、やってみたらどうかな」

 みこが、ぽつりと呟いた。

 全員の視線が、一斉に唯香に向く。

「……私?」

「うん。だって、前に言ってたよね。映画監督のお父さんから、“ちょっとだけ撮り方教わったことある”って」

 みこの記憶力が鋭く光った。

「そういえば……!」と紗里が目を見開く。

「それに、唯香さんって、演技する側の目線も持ってるからさ。カメラ越しにどう見えるかとか、光の当て方とか、自然にわかってる気がする」

 あさひが腕を組んでうなずく。

「しかも、演技の間とか空気を“感じてる”の、カットを見てても伝わってくるよ。演出って、演技を“導く”仕事だし、向いてると思う」

「でも……」

 唯香は一瞬、視線を伏せた。

「確かに、撮影が嫌になって逃げたこともある。だけど――」

 ゆっくりと顔を上げ、まっすぐ前を見る。

「今は……自分の意志で“撮る側”に立ってみたいって思う。誰かに指示されるんじゃなくて、自分の目で見て、自分の言葉で“こうしたい”って言ってみたい」

 その言葉に、誰もが一瞬言葉を失った。

 あさひが静かに息を吐く。

「……かっこいいな、宝唯香」

「それってさ、子役だったからとかじゃなくて、今の唯香ちゃんが言うから、すごく響くんだよね」

 みこが微笑んだ。

「じゃあ……決まり?」

 七海が周囲を見渡すと、誰も異を唱えなかった。

「監督、宝唯香。異論――なし」

「ふふ……なんだか、責任重大ね。でも……やってみる」

 唯香が静かに、でも確かにうなずいた。

「監督ってさ、演出だけじゃなくて、人の心も見る仕事だと思う」

 あさひが真剣な目で言った。

「期待してるよ。唯香監督」

「うん。演劇部と動画撮影部で、一緒に“ひとつの映画”を作りましょう」

 唯香が手を差し出すと、まずひのりが手を重ね、続いて七海、紗里、みこ、あさひ、りつ、真帆が集まっていく。

「文化祭まで、あと3週間。やるしかないっしょ!」

 ひのりが声を上げる。

「演劇部初の映画作品、舞風の文化祭で――」

「――世界一、胸が熱くなるやつを撮ろう!」

 その小さな円卓の上で、8人の手がひとつに重なった瞬間――

 夢が、現実になり始めた。

 七海がホワイトボードに「脚本会議」と書き加えた。

「じゃあまず、どんな物語にするかから決めようか」

 唯香が、ひのりに目を向ける。

「主人公像は、すでにある程度浮かんでるんでしょ?」

「うん! 未来から来た記憶喪失の少女! 使命を思い出していく過程で……世界の命運がかかってるの!」

「ちょっと盛りすぎじゃない?」

 七海が呆れ気味に突っ込むと、

「でもその路線、悪くないよ」と真帆が言った。

「映像としても引きがあるし、SF設定なら多少演技が拙くても“それっぽく”見える利点がある」

「記憶喪失って設定も、説明ゼリフを自然に入れやすいしな」と、りつも頷いた。

「なら、世界観をちゃんと設定しないとね」

 七海が手元のタブレットを起動する。

「どこで何が起きてるのか、背景設定がブレると安っぽくなるから」

「背景は、スクリーンで映すタイプでどう?」

 あさひが言った。

「さっき話してたLEDウォールみたいな。さすがにフルセットは無理だけど、黒バックで合成用に撮って、必要な背景はこっちで作れば雰囲気出せるかも」

「それ、いけそう?」

「予算内なら、やれる範囲でね。重機の爆破は無理だけど、空を飛ぶっぽい演出とかはがんばればいける」

「マンダロリアン方式だね」

「知ってたんだ、あさひちゃん」と、みこがくすっと笑う。

「スターウォーズ、大好きだから。ああいうの憧れるよ」

 その瞬間、あさひの瞳が少しだけ、子供のような光を宿した。

「私、ずっとこういうのに関わってみたかったんだ。中学の頃、演劇も文化祭も、あんまり全力でやったことなくて……。今なら、本気でのめり込める気がする」

 そう言って、あさひは自分のキャップを直す。

「じゃあ、ここがあたしの“青春”ってことで!」

 部屋の空気が、一気に熱を帯びた。

「うん、やろう! とびきり面白いやつ!」とひのり。

「そのためには、まずプロットと構成ね」と七海。

「……キャラ設定も詰めておかないと」と唯香。

 こうして、5人+3人の“演者と撮影者たち”は、一つの夢に向かって物語を描き始めた。

 一通りの話し合いが終わり、時計の針は夕方を指していた。

「じゃあ……今日は最後に、ちょっと“テスト撮影”してみようか」

 唯香が立ち上がり、カメラの前で軽くストレッチをするひのりに視線を送った。

「えっ、私がやるの?」

「当然でしょ。主演候補なんだから」と七海。

「何でもいい。動きの確認と、光の入り方とかカメラのテストも兼ねてるから」と、あさひがカメラを構えながらウィンクする。

「じゃあ……いきまーす」

 唯香が、まっすぐにひのりを見る。

「カメラ、よーい……アクション!」

 一瞬の静寂。

 ひのりの表情が、ふっと切り替わった。
 彼女は手をぐっと前に出し、演劇部の舞台では見せたことのない“ヒーロー”的なポーズを決める。

「この世界は、もう誰にも渡さないっ!」

 ――一歩踏み出し、虚空を見据えるように叫ぶ。

「たとえ記憶を失っても、あたしの中には“誰かを守りたい”って気持ちが、残ってるんだよ……!」

 その迫力に、動画撮影部の3人が思わず声を漏らした。

「……これ、すごいな」

 りつが低く呟く。

「想像してたより、ずっと“カメラ映え”するじゃん……」

 あさひはカメラのファインダー越しに、ひのりの表情をしっかりと捉えていた。

「動きもいい。カット割り次第で、もっと引き立つ」

 唯香は、ひのりの演技を目で追いながら、短く頷いた。

「……使えるわ。これ、素材としても」

「素材って!?」
 ひのりがポーズを解いて、じたばたしながら振り返った。

「いやいや、褒めてるの!いい映像になってるってこと!」

「ならちゃんと言ってよねっ!」

 和やかな空気が流れた多目的室。
 でもその中には、はっきりとした“手応え”があった。

 テスト撮影が終わり、カメラをチェックしているあさひたち。ひのりは机に突っ伏しながらも、満足そうに息をついている。

 唯香は一人、窓際でカメラ越しに映ったひのりの表情を思い返していた。

 七海が手元のノートにメモを走らせながら呟く。

「……何を伝えたいか、そこをはっきりさせれば脚本は書ける」

 その言葉に、唯香がゆっくりと振り返る。

「伝えたいこと――か」

 窓の外はもう夕暮れ、校庭が茜色に染まっていた。

 そこへ、あさひが声をかける。

「映画ってさ、正直、めちゃくちゃ大変だけど……」

「それでも、撮ってよかったって思える瞬間、絶対あるよ」

 それは、あさひ自身がずっと味わいたかった“何か”への渇望だった。

 唯香が静かに答える。

「じゃあ、私たちでその“瞬間”をつかみに行きましょう」

 それぞれが顔を見合わせ、小さく笑う。

 やがて――

 ひのりが、ふと顔を上げて、宣言のように言った。

「絶対、最高の映画にしよう。あたしたちの、たった一度の文化祭だもん!」

 ──その言葉に、誰も異論はなかった。

 撮影はこれから。脚本もこれから。
 でも彼女たちは、確かに“幕が上がる前”に立っていた。

続く。
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