4 / 26
駐在所の巡査 田島
しおりを挟む
M村の駐在所は、村の中心、学校の道路を挟んだ向かい側にある。
通学路なので、毎朝駐在所の前をたくさんの小学生・中学生が登校していく。
「ふわあ~」と俺は欠伸をした。椅子の背もたれに体重をかけて伸びをすると、
背もたれがぎしっと軋んだ。
俺は田島元助。この駐在所に勤務する警官だ。階級は巡査。
先輩の荒巻巡査長は、ストーブに手をかざしたまま、うたた寝をしている。
勤務中の態度ではないが、別に咎めようとは思わない。
M村は平和だ。殺人事件は50年ほど起きていない。
駐在所の主な仕事は、木に登って降りられなくなったペットの猫を助けたり、
「家の鍵を排水溝に落としちゃった~」と言って泣き叫ぶ小学生のために
ドブさらいをすることぐらい。
うわー、俺も眠くなってきたーと呟き、二度目の欠伸をしようとしたとき、駐在所の入口のドアが開き、冷たい外気が侵入してきた。ジャンパーを羽織った中年の
男性が入ってくる。
M村で民宿を営んでいる田村さんだ。
「いやー、冷えるねえ」といって、相談者用の椅子に腰を下ろす。
「どうしたの、田村さん。また奥さんと喧嘩?」と先ほどまで寝ていた荒巻先輩が
冷やかした。
「ははは、違うんだよ。頼み事があってな・・・・」と田村さんが話し始めた。
田村さんの民宿に宿泊予定だった客が、来ないのだと言う。
昨夜の9時半に到着する予定で、田村さんと奥さんは部屋の準備を整えて待っていたそうだが、何の連絡もなく、まだ来ないそうだ。
現在時刻は午前8時。約11時間も遅れている。
「しっかし、まだスキー場はオープンしてないのに、なにしに来ようと
したんだろうな」と荒巻先輩が首をかしげる。
「そりゃああれだ。きっとオープン前にこっそり滑ろうと思ってるんだろう。
ったく近頃の若い人は、ルールなんてお構いなしだ」と言い、田村さんが
ため息をついた。
「で、もしかしてほかの宿に泊まってるんじゃないかと思って、
朝から村中の宿を回ったんだが、どこも客なんかいなくってよ。
駐在所に相談に来たんだ」
「うーん。考えられる可能性としては、来れなくなったのに連絡をしていないか、山道で立ち往生しているのかもしれん。毎年スキーシーズンになると、タイヤが
雪にはまったとか、スリップして事故を起こしたとか、そういう客がいるだろ」
「ああ、いるな」と田村さんが頷く。
「という訳だ田島。ちょっと山道を探してこい」
急に話を振られ、俺はちょっとビックリした。
「俺ですか?」
「パトカーでちょっくら山道の捜索に行ってくれ」
嫌ですとも言えず「わかりました・・・・」と気のない返事をして席を立つ。
壁に掛けられたパトカーのキーを取り、制服警官用の紺のジャンパーに袖を通した。
駐在所脇に止められたパジェロのパトカーに乗り、キーを回した。
暖房のスイッチを入れ、車内を温める。
アクセルを軽く踏み、パトカーは山道を目指して走り出した。
通学路なので、毎朝駐在所の前をたくさんの小学生・中学生が登校していく。
「ふわあ~」と俺は欠伸をした。椅子の背もたれに体重をかけて伸びをすると、
背もたれがぎしっと軋んだ。
俺は田島元助。この駐在所に勤務する警官だ。階級は巡査。
先輩の荒巻巡査長は、ストーブに手をかざしたまま、うたた寝をしている。
勤務中の態度ではないが、別に咎めようとは思わない。
M村は平和だ。殺人事件は50年ほど起きていない。
駐在所の主な仕事は、木に登って降りられなくなったペットの猫を助けたり、
「家の鍵を排水溝に落としちゃった~」と言って泣き叫ぶ小学生のために
ドブさらいをすることぐらい。
うわー、俺も眠くなってきたーと呟き、二度目の欠伸をしようとしたとき、駐在所の入口のドアが開き、冷たい外気が侵入してきた。ジャンパーを羽織った中年の
男性が入ってくる。
M村で民宿を営んでいる田村さんだ。
「いやー、冷えるねえ」といって、相談者用の椅子に腰を下ろす。
「どうしたの、田村さん。また奥さんと喧嘩?」と先ほどまで寝ていた荒巻先輩が
冷やかした。
「ははは、違うんだよ。頼み事があってな・・・・」と田村さんが話し始めた。
田村さんの民宿に宿泊予定だった客が、来ないのだと言う。
昨夜の9時半に到着する予定で、田村さんと奥さんは部屋の準備を整えて待っていたそうだが、何の連絡もなく、まだ来ないそうだ。
現在時刻は午前8時。約11時間も遅れている。
「しっかし、まだスキー場はオープンしてないのに、なにしに来ようと
したんだろうな」と荒巻先輩が首をかしげる。
「そりゃああれだ。きっとオープン前にこっそり滑ろうと思ってるんだろう。
ったく近頃の若い人は、ルールなんてお構いなしだ」と言い、田村さんが
ため息をついた。
「で、もしかしてほかの宿に泊まってるんじゃないかと思って、
朝から村中の宿を回ったんだが、どこも客なんかいなくってよ。
駐在所に相談に来たんだ」
「うーん。考えられる可能性としては、来れなくなったのに連絡をしていないか、山道で立ち往生しているのかもしれん。毎年スキーシーズンになると、タイヤが
雪にはまったとか、スリップして事故を起こしたとか、そういう客がいるだろ」
「ああ、いるな」と田村さんが頷く。
「という訳だ田島。ちょっと山道を探してこい」
急に話を振られ、俺はちょっとビックリした。
「俺ですか?」
「パトカーでちょっくら山道の捜索に行ってくれ」
嫌ですとも言えず「わかりました・・・・」と気のない返事をして席を立つ。
壁に掛けられたパトカーのキーを取り、制服警官用の紺のジャンパーに袖を通した。
駐在所脇に止められたパジェロのパトカーに乗り、キーを回した。
暖房のスイッチを入れ、車内を温める。
アクセルを軽く踏み、パトカーは山道を目指して走り出した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる