人食い熊、襲来!

Mr.ビギニング

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駐在所の巡査 田島

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M村の駐在所は、村の中心、学校の道路を挟んだ向かい側にある。
通学路なので、毎朝駐在所の前をたくさんの小学生・中学生が登校していく。

「ふわあ~」と俺は欠伸をした。椅子の背もたれに体重をかけて伸びをすると、
背もたれがぎしっと軋んだ。
俺は田島元助。この駐在所に勤務する警官だ。階級は巡査。

先輩の荒巻巡査長は、ストーブに手をかざしたまま、うたた寝をしている。
勤務中の態度ではないが、別に咎めようとは思わない。
M村は平和だ。殺人事件は50年ほど起きていない。

駐在所の主な仕事は、木に登って降りられなくなったペットの猫を助けたり、
「家の鍵を排水溝に落としちゃった~」と言って泣き叫ぶ小学生のために
ドブさらいをすることぐらい。
うわー、俺も眠くなってきたーと呟き、二度目の欠伸をしようとしたとき、駐在所の入口のドアが開き、冷たい外気が侵入してきた。ジャンパーを羽織った中年の
男性が入ってくる。

M村で民宿を営んでいる田村さんだ。
「いやー、冷えるねえ」といって、相談者用の椅子に腰を下ろす。
「どうしたの、田村さん。また奥さんと喧嘩?」と先ほどまで寝ていた荒巻先輩が
冷やかした。
「ははは、違うんだよ。頼み事があってな・・・・」と田村さんが話し始めた。

田村さんの民宿に宿泊予定だった客が、来ないのだと言う。
昨夜の9時半に到着する予定で、田村さんと奥さんは部屋の準備を整えて待っていたそうだが、何の連絡もなく、まだ来ないそうだ。
現在時刻は午前8時。約11時間も遅れている。

「しっかし、まだスキー場はオープンしてないのに、なにしに来ようと
したんだろうな」と荒巻先輩が首をかしげる。
「そりゃああれだ。きっとオープン前にこっそり滑ろうと思ってるんだろう。
ったく近頃の若い人は、ルールなんてお構いなしだ」と言い、田村さんが
ため息をついた。

「で、もしかしてほかの宿に泊まってるんじゃないかと思って、
朝から村中の宿を回ったんだが、どこも客なんかいなくってよ。
駐在所に相談に来たんだ」
「うーん。考えられる可能性としては、来れなくなったのに連絡をしていないか、山道で立ち往生しているのかもしれん。毎年スキーシーズンになると、タイヤが
雪にはまったとか、スリップして事故を起こしたとか、そういう客がいるだろ」
「ああ、いるな」と田村さんが頷く。

「という訳だ田島。ちょっと山道を探してこい」
急に話を振られ、俺はちょっとビックリした。
「俺ですか?」
「パトカーでちょっくら山道の捜索に行ってくれ」
嫌ですとも言えず「わかりました・・・・」と気のない返事をして席を立つ。
壁に掛けられたパトカーのキーを取り、制服警官用の紺のジャンパーに袖を通した。

駐在所脇に止められたパジェロのパトカーに乗り、キーを回した。
暖房のスイッチを入れ、車内を温める。
アクセルを軽く踏み、パトカーは山道を目指して走り出した。



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