殿下、私の名前わかりますか?婚約破棄された悪役令嬢。

恋の箱庭

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事件から一夜明け、宰相府の空気はこれまでにないほど澄み渡っていた。

私はいつものように、完璧に整頓されたデスクで一杯のコーヒー(最高級の豆をギルバートが私物として持ち込んだもの)を啜っていた。

「……ふむ。想定通りの着地だな」

私はルークから届けられた「最終処分決定通知書」に目を通し、満足げに頷いた。

そこに記された内容は、実に見事な「因果応報」の四文字を体現していた。

「スコット。陛下からの伝言だ」

ギルバートが執務室に入ってくるなり、私の隣に腰を下ろした。

「『今回の件、実に見事であった。特にあの偽金を見破った眼力、褒美を取らせたいので後で顔を出すように』とのことだ」

「褒美? 現金なら非課税枠でお願いしたい。あるいは、宰相府の計算機の新調費用でもいいぞ」

「……君は本当に、ロマンがないな」

ギルバートは苦笑しながら、私の手元にある通知書を覗き込んだ。

「それで、あの三人の末路は?」

「まず側近のバロン。通貨偽造および国家反逆の共謀罪で、終身刑。資産はすべて没収され、国庫へ。……回収額は五〇〇〇万ゴールドをわずかに超えた。利息分もきっちり取ったぞ」

「さすがだな。で、ミミー・ピンキーは?」

「彼女は男爵家を廃嫡。本人の希望通り(?)『労働の尊さを学ぶ』ために、北方の開拓地にある更生施設へ送られた。主な業務は一日一〇時間のジャガイモの皮剥きと、石運びだそうだ」

「……彼女の細い腕では三日も持たんのではないか?」

「甘いな、ギルバート。彼女のあの粘着質な性格は、単純作業に向いている。案外、ジャガイモ剥きのスペシャリストとして覚醒するかもしれん」

私は冷淡に言い放ち、最後の一人を指差した。

「そして……ジェラルド殿下だ」

「ああ、陛下も一番頭を悩ませておいでだったが」

「王位継承権の永久剥奪。さらに、王都から遠く離れた聖域での『精神修養』という名の幽閉が決まった。監視役には、王国一厳しいと言われる教育係の老騎士がついたそうだ」

「あの『鬼のハンス』か。……殿下、三日で泣き言を言うだろうな」

私はフンと鼻で笑った。

「泣き言を言おうが何をしようが、彼にはもう、浪費する金も、甘やかしてくれる取り巻きもいない。ただひたすらに、己の無能さと向き合う日々だ。……これ以上の『ざまぁ』があるか?」

「……恐ろしい女だ。だが、最高に魅力的だよ」

ギルバートが私の頬に指を這わせる。

私はそれを軽く払い、手帳を開いた。

「そんなことより、ギルバート。今回の事件による収支報告だ」

「……今、いい雰囲気だったんだが」

「業務優先だ。聞きなさい。殿下の王室費がカットされたことにより、年間で約三億ゴールドの予算が浮く。これを教育とインフラ整備に回せば、王国のGDPは来期、二パーセントの成長が見込める」

私はビシッと手帳を叩いた。

「これぞ、真の『ざまぁ』の恩恵だ! 無能な王族を排除することが、これほどまでに国益に叶うとはな!」

「ははは! 全くだ。君と結婚して、私の胃痛は消え、国庫は潤った。……まさに女神だな」

「女神ではない。敏腕会計士だ」

私はコーヒーを飲み干し、立ち上がった。

「さあ、ざまぁは完了した。次は、この浮いた予算の具体的な配分案を作成するぞ。ルーク! 第三会議室を押さえろ!」

「はっ! 了解しました、スコット様!」

「……やれやれ。私の妻は、勝利の余韻に浸る暇すら与えてくれないらしい」

ギルバートは肩をすくめながらも、その瞳には深い愛情と信頼を宿して、私の後に続いた。

こうして、私を陥れようとした悪党たちはすべて排除された。

後に残ったのは、最強の宰相夫妻と、かつてないほど効率的に回り始めた王国。

そして、私の机に置かれた「新しい万年筆」の滑らかな書き味だけだった。

「……あ。そうだ、ギルバート」

「なんだ?」

「殿下が幽閉先で使う筆記用具だが、一番安い再生紙と、すぐ芯が折れる鉛筆にしておいた。無駄遣いは厳禁だからな」

「……君、本当に性格が悪い(最高だ)」

私たちは笑い合い、新たな書類の山へと立ち向かっていった。
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