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数年後。
グリム辺境伯領は、かつての「地獄の入り口」という汚名を完全に返上していた。
今やここは、世界中から研究者や商人が集まる『魔導産業都市』として栄えている。
特産品は、高品質な魔石、ドラゴンの素材を使った加工品、そして謎のアイデア商品(例:爆発しない安全な暖房器具など)。
街は活気に溢れ、人々の笑顔が絶えない。
ただし。
一つだけ、変わらないものがあった。
ドオォォォン!!!
今日も城の塔から、景気の良い爆発音が響き渡る。
「きゃははは! ママ、もっと! もっと大きく!」
「ええ、いいわよアルタイル! 次は『七色に光る爆煙』を見せてあげるわ!」
中庭で、煤だらけになって笑う二つの影があった。
一人は、変わらぬ美貌と狂気を保ったまま、母親になった私、カプリ。
そしてもう一人は、黒髪に赤い瞳を持つ、天使のように愛らしい(が、手には実験用のスパナを持った)4歳の息子、アルタイルだ。
「ギャオオ!(僕も混ぜろ!)」
その頭上を、牛ほどのサイズに成長したエンシェント・ドラゴンのルビィが、楽しげに旋回している。
ルビィはアルタイルの良き相棒であり、最高のベビーシッター(兼・護衛)だ。
「こら、お前たち! また庭をクレーターにする気か!」
執務室の窓から、シリウス様が顔を出した。
歳を重ね、少し渋みを増したその姿は、相変わらずカッコいい。
眉間の皺は苦労の証だが、その表情は以前のような険しいものではなく、呆れと愛情が入り混じったものだ。
「あらパパ! 見て、アルタイルが『自動追尾泥団子』を発明したのよ! 才能があると思わない?」
「その才能の方向性を修正したいんだが! ……はぁ」
シリウス様はため息をつきつつも、窓から飛び降りた(身体能力も健在だ)。
そして、アルタイルをひょいと抱き上げる。
「パパ! 泥団子、パパにあげる!」
「ありがとう。……執務机の上には置くなよ?」
「うん! 枕の下に入れる!」
「やめろ!」
シリウス様がアルタイルの頬にキスをし、それから私の方を見て、優しく目を細めた。
「カプリ。顔が真っ黒だぞ」
「あら、勲章ですわ。……旦那様も、少し老けました?」
「誰のせいだと思ってる。……まあ、退屈はしないがな」
彼はハンカチで私の顔を拭きながら、愛おしそうに呟いた。
平和だ。
かつて「悪役令嬢」として断罪され、「人食い辺境伯」の元へ追放されたあの日。
誰がこんな未来を想像できただろうか。
地獄だと思っていた場所は、私にとって最高の楽園(実験場)だったのだ。
「ねえ、旦那様」
「ん?」
私はシリウス様の腕に寄り添い、空を見上げた。
青い空に、私たちの作った(爆発した)煙が、白い雲のように流れていく。
「この辺境も、だいぶ住みやすくなりましたわね」
「ああ。君のおかげだ」
「温泉も掘ったし、ドラゴンも飼い慣らしたし、子供も生まれたし……やりたいことは大体やり尽くしましたわ」
「そうだな。……で、次は何を企んでいる?」
シリウス様がニヤリと笑う。
さすが旦那様。
私のことがよくわかっていらっしゃる。
私は不敵な笑みを浮かべ、杖を空へと突き上げた。
「次は……『世界征服(の魔法)』でも作ってみましょうか!」
「は?」
「世界中の人間を、強制的に『幸せな気分(脳内麻薬ドバドバ)』にさせる広域結界魔法です! これがあれば戦争なんてなくなりますわ!」
「それ、ただの洗脳兵器だろ! やめろ!」
「あら、いいアイデアだと思ったのに。じゃあ、『全人類猫耳化計画』は?」
「もっとやめろ!!」
シリウス様のツッコミが中庭に響く。
アルタイルが「ねこみみー!」と喜び、ルビィが「ギャオ!」と炎を吐く。
使用人たちが「また始まった」と笑いながら見守っている。
これが、私たちの日常。
騒がしくて、破天荒で、とびきり幸せな、グリム辺境伯家の物語。
「……やれやれ」
シリウス様は呆れながらも、私の肩を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「まあ、世界征服だろうが何だろうが……一生付き合うよ、カプリ」
「ふふ、言質を取りましたわよ? 覚悟してくださいね、私の最愛の実験体(パートナー)さん!」
私は彼にキスを返した。
爆発音と笑い声に包まれて、私たちはこれからも、この辺境で伝説を作り続けていくのだろう。
悪役令嬢カプリ・ヴァン・ローゼの華麗なる転身。
それは、ハッピーエンドのその先まで、まだまだ続いていくのである。
グリム辺境伯領は、かつての「地獄の入り口」という汚名を完全に返上していた。
今やここは、世界中から研究者や商人が集まる『魔導産業都市』として栄えている。
特産品は、高品質な魔石、ドラゴンの素材を使った加工品、そして謎のアイデア商品(例:爆発しない安全な暖房器具など)。
街は活気に溢れ、人々の笑顔が絶えない。
ただし。
一つだけ、変わらないものがあった。
ドオォォォン!!!
今日も城の塔から、景気の良い爆発音が響き渡る。
「きゃははは! ママ、もっと! もっと大きく!」
「ええ、いいわよアルタイル! 次は『七色に光る爆煙』を見せてあげるわ!」
中庭で、煤だらけになって笑う二つの影があった。
一人は、変わらぬ美貌と狂気を保ったまま、母親になった私、カプリ。
そしてもう一人は、黒髪に赤い瞳を持つ、天使のように愛らしい(が、手には実験用のスパナを持った)4歳の息子、アルタイルだ。
「ギャオオ!(僕も混ぜろ!)」
その頭上を、牛ほどのサイズに成長したエンシェント・ドラゴンのルビィが、楽しげに旋回している。
ルビィはアルタイルの良き相棒であり、最高のベビーシッター(兼・護衛)だ。
「こら、お前たち! また庭をクレーターにする気か!」
執務室の窓から、シリウス様が顔を出した。
歳を重ね、少し渋みを増したその姿は、相変わらずカッコいい。
眉間の皺は苦労の証だが、その表情は以前のような険しいものではなく、呆れと愛情が入り混じったものだ。
「あらパパ! 見て、アルタイルが『自動追尾泥団子』を発明したのよ! 才能があると思わない?」
「その才能の方向性を修正したいんだが! ……はぁ」
シリウス様はため息をつきつつも、窓から飛び降りた(身体能力も健在だ)。
そして、アルタイルをひょいと抱き上げる。
「パパ! 泥団子、パパにあげる!」
「ありがとう。……執務机の上には置くなよ?」
「うん! 枕の下に入れる!」
「やめろ!」
シリウス様がアルタイルの頬にキスをし、それから私の方を見て、優しく目を細めた。
「カプリ。顔が真っ黒だぞ」
「あら、勲章ですわ。……旦那様も、少し老けました?」
「誰のせいだと思ってる。……まあ、退屈はしないがな」
彼はハンカチで私の顔を拭きながら、愛おしそうに呟いた。
平和だ。
かつて「悪役令嬢」として断罪され、「人食い辺境伯」の元へ追放されたあの日。
誰がこんな未来を想像できただろうか。
地獄だと思っていた場所は、私にとって最高の楽園(実験場)だったのだ。
「ねえ、旦那様」
「ん?」
私はシリウス様の腕に寄り添い、空を見上げた。
青い空に、私たちの作った(爆発した)煙が、白い雲のように流れていく。
「この辺境も、だいぶ住みやすくなりましたわね」
「ああ。君のおかげだ」
「温泉も掘ったし、ドラゴンも飼い慣らしたし、子供も生まれたし……やりたいことは大体やり尽くしましたわ」
「そうだな。……で、次は何を企んでいる?」
シリウス様がニヤリと笑う。
さすが旦那様。
私のことがよくわかっていらっしゃる。
私は不敵な笑みを浮かべ、杖を空へと突き上げた。
「次は……『世界征服(の魔法)』でも作ってみましょうか!」
「は?」
「世界中の人間を、強制的に『幸せな気分(脳内麻薬ドバドバ)』にさせる広域結界魔法です! これがあれば戦争なんてなくなりますわ!」
「それ、ただの洗脳兵器だろ! やめろ!」
「あら、いいアイデアだと思ったのに。じゃあ、『全人類猫耳化計画』は?」
「もっとやめろ!!」
シリウス様のツッコミが中庭に響く。
アルタイルが「ねこみみー!」と喜び、ルビィが「ギャオ!」と炎を吐く。
使用人たちが「また始まった」と笑いながら見守っている。
これが、私たちの日常。
騒がしくて、破天荒で、とびきり幸せな、グリム辺境伯家の物語。
「……やれやれ」
シリウス様は呆れながらも、私の肩を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「まあ、世界征服だろうが何だろうが……一生付き合うよ、カプリ」
「ふふ、言質を取りましたわよ? 覚悟してくださいね、私の最愛の実験体(パートナー)さん!」
私は彼にキスを返した。
爆発音と笑い声に包まれて、私たちはこれからも、この辺境で伝説を作り続けていくのだろう。
悪役令嬢カプリ・ヴァン・ローゼの華麗なる転身。
それは、ハッピーエンドのその先まで、まだまだ続いていくのである。
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