婚約破棄で純愛アップデート、偽装婚約から真実の婚約へ

恋の箱庭

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わたくしがヴィンセント殿下の執務室で、隣国との関税率の推移を美しいグラフにまとめていた時のことです。
一通の、わが祖国の王印が押された極秘親書が届けられました。

「……おや、リーマ。君の元婚約者の国から、ようやく『最後通告』が届いたようだよ」

ヴィンセント殿下が、面白そうにその手紙をわたくしのデスクに置きました。
わたくしはグラフを描く手を止め、その親書を指先でつまみ上げました。

「最後通告、ですか。……わたくしの予測モデルによれば、あと二週間は持つはずでしたが。……少し、自滅のペースが速すぎましたわね」

中身を確認すると、そこには目も当てられないような惨状が記されていました。
セドリック殿下が強行した「愛による政治」の結果、王宮の事務機能は完全に停止。
さらに、わたくしが事前にバラ撒いておいた「爆弾」……いえ、不適切な会計処理の証拠が、次々と爆発したとのことです。

「……ふむ。マリアベル様、国庫から引き出した金で、ドレスを三〇着も新調しようとして、財務官に刺し違える覚悟で止められたのですか。……命知らずな行為ですわね」

「それだけじゃないよ、リーマ。……セドリックの奴、君が管理していた『重要機密文書』を、何を勘違いしたのか『マリアベルとの愛の交換日記』の保管場所に指定して、すべて紛失したらしい」

「……。……。……救いようのない、データの破損(バグ)ですわ」

わたくしは深くため息をつきました。
機密文書を紛失。……それは、一国の王太子として再起不能を意味する致命的なミスです。
国王陛下もついに堪忍袋の緒が切れたようで、セドリック殿下の廃嫡と、北方の辺境地への追放が決定したとのことでした。

「それで、あのマリアベルという女性はどうなったんだい?」

「ええ。……彼女は『聖女』を自称して民衆を煽ろうとしたようですが、わたくしが匿名でリークしておいた『彼女の過去の借金リスト』と『お茶を淹れる以外の無能さ』が民衆にバレて、現在は修道院……という名の更生施設へ送られたそうですわ」

「ははは! 君の事前の根回し、本当に容赦がないね。……まるで、緻密に計算されたチェスの詰みを見ているようだ」

ヴィンセント殿下が、わたくしの背後に回って肩を抱き寄せました。
その手の温もりが、冷徹な報告書を読んでいたわたくしの心を、ふわりと溶かしていきます。

「……殿下。わたくし、復讐をしようと思ったわけではありませんの。……ただ、『不適切な要素』を排除し、世界の『最適化』を図っただけですわ」

「それが一番怖いんだよ、リーマ。……でも、そんな君だからこそ、俺はこの国の未来を安心して預けられる」

殿下はわたくしの頬に軽くキスを落とすと、その親書を暖炉の火へと放り込みました。
かつての婚約者の、そして自分を虐げた女の「破滅」が、オレンジ色の炎に包まれて消えていきます。

「……これで、君の過去はすべて灰になった。……満足かい?」

「……。……ええ。……これからは、新しいデータの蓄積に集中できますわ。……特に、殿下との『幸せの平均値』をどれだけ向上させられるか、という難題にね」

わたくしが少しだけ照れながら答えると、ヴィンセント殿下は歓喜に満ちた声を上げてわたくしを抱き上げました。

「ははは! 今の言葉、最高に愛の数値が高いよ、リーマ! ……よし、今夜は祝杯だ! ……かつてのゴミの山が消えたことを祝ってね!」

「……。殿下、不謹慎ですわ。……ですが、……シャンパンの銘柄は、わたくしが選ばせていただきますわよ?」

「ああ、望むところだ!」

わたくしの人生から、最後に残っていた「ノイズ」が完全に消去されました。
ゴミの山が崩壊した跡地には、今、ヴィンセント殿下と共に築く、美しく論理的な未来が広がっています。

……さて、明日の予定を立てましょうか。
まずは、殿下の「甘すぎる愛情表現」の頻度を、どのように作業効率と両立させるか。
それが、わたくしに課せられた次なる最大の「バグ取り」になりそうですわ。
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