婚約破棄で純愛アップデート、偽装婚約から真実の婚約へ

恋の箱庭

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アルトワ王国、建国以来最高に「効率的」で、かつ「美しい」と言われる日がやってまいりました。
わたくしとヴィンセント殿下の婚礼の儀当日です。

鏡の前に立つわたくしの姿は、数週間かけて算出した「最も品格を維持しつつ、動作の機能性を損なわない」究極のドレスに包まれておりました。
総重量八・五キログラム。わたくしの脚力と、大聖堂のバージンロードの摩擦係数を考慮すれば、一分間に三〇メートルの速度で歩行するのが最適です。

「……完璧ですわ。心拍数、血圧、肌のキメ。すべてが計画通りの最高値を叩き出しております」

わたくしが自らの状態を最終チェックしていると、背後の扉が開き、正装に身を包んだヴィンセント殿下が現れました。
その姿を見た瞬間、わたくしの精密な演算回路が一瞬だけ火花を散らしました。

「……殿下。……その軍服姿の視覚的インパクト、事前のシミュレーションを大幅に上回っております。わたくしの瞳孔が不必要に拡大してしまいましたわ」

「ははは。……最高の褒め言葉だね、リーマ。……今日の君は、どの数字やグラフよりも、俺の心を乱す『破壊的な美しさ』だ」

ヴィンセント殿下は、わたくしの手を取り、その指先にそっと唇を寄せました。
……不合理です。今日、この瞬間のためにあらゆる準備を整えてきたというのに、彼のたった一言で、わたくしの「冷静さ」という名の防壁が瓦解していくのですから。

大聖堂の扉が開くと、そこには国中の貴族や、招待された民衆が詰めかけておりました。
バージンロードを進むわたくしの視界に、参列者たちが大事そうに抱えている「記念品(整理整頓術の読本)」が見えました。
……素晴らしい。これでこの国の家計管理能力は底上げされ、数年後にはGDPに好影響を与えることでしょう。

祭壇の前で、わたくしたちは神に誓いを立てました。
司教様が「健やかなる時も、病める時も……」と定型文を読み上げます。

「……はい、誓います。わたくしは、ヴィンセント殿下の人生における『最大最強の資産』として、彼の治世を最適化し、永続的な幸福を理論的に構築することを約束いたしますわ」

わたくしの誓いの言葉に、会場に一瞬、妙な沈黙が流れました。
しかし、隣に立つヴィンセント殿下は、これ以上なく幸せそうに微笑み、わたくしの手を力強く握りました。

「俺も誓うよ。……リーマ。君が導き出すどんな答えも、俺は信じる。君が描く未来の設計図を、俺のすべてを懸けて実現しよう。……たとえそれが、どれほど不合理で熱い愛の形であってもね」

そして、約束の「誓いのキス」。
わたくしは事前に、「情緒的満足度向上のための五秒間の延長」を許可しておりましたが。

「……っ。……殿下、五秒を……大幅に、超過しておりますわ……!」

唇が離れた時、わたくしの思考は完全にオーバーヒートしておりました。
沸き起こる万雷の拍手と歓声。
かつて「悪役令嬢」と呼ばれ、婚約破棄され、絶望の淵に立たされていたはずのわたくし。
今、そのわたくしの隣には、計算外の熱を注ぎ続けてくれる最高の理解者がいます。

「リーマ。……幸せかい?」

披露宴の最中、テラスで夜風に当たりながら、ヴィンセント殿下が問いかけました。

「……。……幸せ、という概念は多分に主観的なものであり、定量化は困難です。……ですが。……現在のわたくしの精神的充足度をグラフ化すれば、おそらくこの王宮の屋根を突き抜けるほどの上昇トレンドを描いている、とだけ申し上げておきますわ」

「ふふっ。……なら、これからの人生、そのグラフを一度も右肩下がりにさせないのが、俺の生涯の『主要タスク』だね」

ヴィンセント殿下が、わたくしの腰を引き寄せ、月明かりの下で見つめ合いました。

「……。……期待しておりますわ、殿下。……わたくしの算盤を、一生狂わせ続けてくださることを」

不合理で、非効率で、そして何よりも愛おしい。
わたくしの新しい人生の貸借対照表には、今、一言だけこう記されています。

『愛:測定不能。ただし、永遠に計上されるものとする』

こうして、元・悪役令嬢リーマ・フォルテシモの「隣国無双」は、世界で最も幸せな「永久契約」へと結実したのでした。
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