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わたくしたちの結婚式から一ヶ月。
本来であれば「ハネムーン」として、南方のリゾート地で甘い時間を過ごすべき期間ですわ。
ですが、わたくしの手元にあるのは、観光ガイドではなく、アルトワ王国南部の「物流・観光資源・経済成長率」を網羅した極秘資料の束です。
「……殿下。出発前に確認いたしますが、この『新婚旅行』の目的は、南方の港湾都市における関税の最適化、および新規観光ルートの需要予測調査、ということでよろしいかしら?」
わたくしは、特注の「事務作業も可能な移動用ドレス」に身を包み、馬車の中でヴィンセント殿下に問いかけました。
隣に座る殿下は、相変わらずの美しい顔で、呆れたような、でも愛おしくてたまらないといった表情を浮かべています。
「リーマ。……普通、新婚旅行の目的は『愛する妻と、日常を忘れて愛を語らうこと』なんだよ。……君の計画表には、砂浜での昼寝の時間さえ『地域住民へのヒアリング調査』って書かれているじゃないか」
「当然ですわ。何もしない時間は、人生における機会損失ですもの。……それに殿下、砂浜で横たわりながら、現地の流通価格の変動について語り合う。……これほど贅沢で知的なバケーションが他にあるとお思い?」
「……。……君と結婚して、俺の常識は完全に『最適化』という名の荒波に揉まれているよ」
ヴィンセント殿下は苦笑しながら、わたくしの手から資料を取り上げ、代わりに指を絡めました。
その指先の温度に、わたくしの論理回路がまた少しだけ熱を帯びます。
南方の港湾都市、サン・ポルテに到着したわたくしたちを待っていたのは、潮風と……そして、案の定立ち込めていた「横領と怠慢の匂い」でした。
「おやおや、ヴィンセント殿下! そして噂の『鉄の王太子妃』様! ようこそ、我が街へ。……ここでは難しい数字のことは忘れ、海の幸と美酒を堪能していただきたい!」
出迎えた市長のギラン男爵は、脂ぎった顔で愛想を振りまきました。
わたくしは、彼が差し出した歓迎のワイングラスを受け取ることなく、街の背後にそびえる巨大な倉庫群を一瞥しました。
「男爵。……歓迎の宴は結構ですが、その前に一つだけ計算を合わせさせていただけます?……あそこの第三倉庫、昨年の修繕費として国庫から三〇〇〇ゴールド引き出されていますが。……現在の外壁の経年劣化具合から推測するに、実際にかかった費用はせいぜい三〇〇ゴールド。……残りの九割は、どこへ『蒸発』いたしましたの?」
「な、……な……!? な、何を仰る、妃殿下! あれは特殊な魔法防錆塗料を……!」
「特殊な魔法防錆? ……あら、面白い。……その塗料の配合成分を教えていただけます? わたくし、その成分があなたの愛用している最高級馬車の塗装と『完全一致』することに、全財産を賭けてもよろしくてよ?」
わたくしが最高に優雅な、そして冷徹な笑みを浮かべると、市長の顔は一瞬で土土気色に変わりました。
「新婚旅行」初日、開始からわずか五分。
わたくしの「無双」は、南国の太陽よりも眩しく、そして容赦なく炸裂したのでした。
「……リーマ。……やっぱり君を連れてきて正解だった。……リゾート地でのんびりするより、君がこうして悪党を追い詰めている姿を見ている方が、俺にとっては最高の『エンターテインメント』だ」
ヴィンセント殿下が、崩れ落ちる市長を無視して、わたくしの肩を抱き寄せました。
「殿下、不謹慎ですわ。……ですが、不透明な資金を回収できたことで、わたくしたちの旅行費用は実質無料(タダ)になりましたわね。……利益率一〇〇%のハネムーン。……これこそが、わたくしが目指すべき『愛の形』ですわ」
「ははは! ……じゃあ、浮いた予算で、今夜は君が一生忘れられないような『不合理で熱い夜』をプレゼントさせてくれ」
「……。……。……それについては、……じっくりと、……仕様を検討させていただきますわ」
わたくしは顔を赤くし、彼の胸に顔を埋めました。
たとえ場所が変わっても、立場が変わっても。
わたくしたちの「幸せの計算式」は、これからも常に最高値を更新し続けていく。
……さあ、次はどこの「ゴミ」を片付けましょうか、旦那様?
本来であれば「ハネムーン」として、南方のリゾート地で甘い時間を過ごすべき期間ですわ。
ですが、わたくしの手元にあるのは、観光ガイドではなく、アルトワ王国南部の「物流・観光資源・経済成長率」を網羅した極秘資料の束です。
「……殿下。出発前に確認いたしますが、この『新婚旅行』の目的は、南方の港湾都市における関税の最適化、および新規観光ルートの需要予測調査、ということでよろしいかしら?」
わたくしは、特注の「事務作業も可能な移動用ドレス」に身を包み、馬車の中でヴィンセント殿下に問いかけました。
隣に座る殿下は、相変わらずの美しい顔で、呆れたような、でも愛おしくてたまらないといった表情を浮かべています。
「リーマ。……普通、新婚旅行の目的は『愛する妻と、日常を忘れて愛を語らうこと』なんだよ。……君の計画表には、砂浜での昼寝の時間さえ『地域住民へのヒアリング調査』って書かれているじゃないか」
「当然ですわ。何もしない時間は、人生における機会損失ですもの。……それに殿下、砂浜で横たわりながら、現地の流通価格の変動について語り合う。……これほど贅沢で知的なバケーションが他にあるとお思い?」
「……。……君と結婚して、俺の常識は完全に『最適化』という名の荒波に揉まれているよ」
ヴィンセント殿下は苦笑しながら、わたくしの手から資料を取り上げ、代わりに指を絡めました。
その指先の温度に、わたくしの論理回路がまた少しだけ熱を帯びます。
南方の港湾都市、サン・ポルテに到着したわたくしたちを待っていたのは、潮風と……そして、案の定立ち込めていた「横領と怠慢の匂い」でした。
「おやおや、ヴィンセント殿下! そして噂の『鉄の王太子妃』様! ようこそ、我が街へ。……ここでは難しい数字のことは忘れ、海の幸と美酒を堪能していただきたい!」
出迎えた市長のギラン男爵は、脂ぎった顔で愛想を振りまきました。
わたくしは、彼が差し出した歓迎のワイングラスを受け取ることなく、街の背後にそびえる巨大な倉庫群を一瞥しました。
「男爵。……歓迎の宴は結構ですが、その前に一つだけ計算を合わせさせていただけます?……あそこの第三倉庫、昨年の修繕費として国庫から三〇〇〇ゴールド引き出されていますが。……現在の外壁の経年劣化具合から推測するに、実際にかかった費用はせいぜい三〇〇ゴールド。……残りの九割は、どこへ『蒸発』いたしましたの?」
「な、……な……!? な、何を仰る、妃殿下! あれは特殊な魔法防錆塗料を……!」
「特殊な魔法防錆? ……あら、面白い。……その塗料の配合成分を教えていただけます? わたくし、その成分があなたの愛用している最高級馬車の塗装と『完全一致』することに、全財産を賭けてもよろしくてよ?」
わたくしが最高に優雅な、そして冷徹な笑みを浮かべると、市長の顔は一瞬で土土気色に変わりました。
「新婚旅行」初日、開始からわずか五分。
わたくしの「無双」は、南国の太陽よりも眩しく、そして容赦なく炸裂したのでした。
「……リーマ。……やっぱり君を連れてきて正解だった。……リゾート地でのんびりするより、君がこうして悪党を追い詰めている姿を見ている方が、俺にとっては最高の『エンターテインメント』だ」
ヴィンセント殿下が、崩れ落ちる市長を無視して、わたくしの肩を抱き寄せました。
「殿下、不謹慎ですわ。……ですが、不透明な資金を回収できたことで、わたくしたちの旅行費用は実質無料(タダ)になりましたわね。……利益率一〇〇%のハネムーン。……これこそが、わたくしが目指すべき『愛の形』ですわ」
「ははは! ……じゃあ、浮いた予算で、今夜は君が一生忘れられないような『不合理で熱い夜』をプレゼントさせてくれ」
「……。……。……それについては、……じっくりと、……仕様を検討させていただきますわ」
わたくしは顔を赤くし、彼の胸に顔を埋めました。
たとえ場所が変わっても、立場が変わっても。
わたくしたちの「幸せの計算式」は、これからも常に最高値を更新し続けていく。
……さあ、次はどこの「ゴミ」を片付けましょうか、旦那様?
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