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「……皆様、準備はよろしいかしら? 本日の戦場ランチ、主菜は『騎士のスタミナ・ガーリックステーキ』ですわよ!」
私は砦の広場に並んだ騎士たちの前で、誇らしげにバスケットを掲げた。
中からは、およそ戦場に似つかわしくない、食欲を暴力的に刺激するニンニクと焦がし醤油の香りが漂っている。
「おい、アマリリス……。これから命のやり取りをしに行くって時に、ステーキ弁当かよ」
ゼクスさんが呆れたように笑いながら、それでも一番大きな包みを手に取った。
「あら、腹が減っては戦はできぬと、どなたかがおっしゃっていましたわ。それに、そのステーキには私のトランクに眠っていた『特製スパイス』をたっぷり振りかけてありますの。食べれば力がみなぎり、寝ている間も剣を振り回したくなるほどですわよ」
「それはただの不眠症じゃねえか! ……まあいい。確かに、この匂いを嗅いだだけで負ける気がしねえな」
ゼクスさんは包みを開け、肉を豪快に口に放り込んだ。
「……っ! 熱い、けど美味い! なんだこれ、力が湧いてくる……というか、今すぐ誰かを殴りに行きてえ!」
「あら、乱暴ですわね。でも、その意気ですわ。さあ、皆様も召し上がれ!」
騎士たちが一斉に弁当にかじりつく。
彼らの瞳には、かつての「野良犬」としての卑屈さはなく、一流の食事によって養われた「自信」が満ち溢れていた。
「お嬢様、行ってくるぜ! このステーキの代金は、王子の鼻っ柱をへし折ることで支払わせてもらう!」
「無事に戻ってきたら、デザートにはとびきり甘いタルトを用意しておきますわね」
私のその一言で、騎士たちの士気は限界を超えて爆発した。
彼らは歓声を上げながら、まるでピクニックにでも行くような軽やかな足取りで、砦の麓へと向かっていった。
一方、麓の街道では。
ウィルフレッド王子率いる「アマリリス討伐隊」が、重い鎧を鳴らしながら行軍していた。
「……はぁ、はぁ。まだ着かないのか。この森は湿気が多くて、私の美しい髪がうねってしまうではないか」
王子は白馬の上で、扇子を使いながら不機嫌そうに呟いた。
「王子、もう少しでございます。しかし、偵察隊の報告によれば、誘拐犯どもは砦を要塞化し、何やら怪しげな儀式を行っているとのことで……」
「儀式だと? ふん、どうせ魔女アマリリスが呪いでもかけているのだろう。不潔な女め、私の前に引きずり出して――」
その時。
森の奥から、風に乗って「えも言われぬ芳醇な香り」が漂ってきた。
「……なんだ? この匂いは。空腹を刺激する、この暴力的なまでの肉の香りは!」
王子の側近たちが、ごくりと唾を飲み込んだ。
彼らは長旅の疲労と、まずい携帯食糧のせいで、胃袋が限界を迎えていたのだ。
そこへ、茂みを掻き分けてゼクスさん率いる騎士団が姿を現した。
「……よう、王族の皆様方。こんな辺境まで、わざわざ俺たちの『ランチタイム』を邪魔しに来たのか?」
ゼクスさんは、口元にステーキのタレを少しつけたまま、不敵に笑った。
彼の後ろに控える騎士たちは、全員がツヤツヤの肌と、バラの香りを漂わせ、磨き上げられた鎧を光らせている。
「な、なんだ貴様らは! 本当に誘拐犯なのか!? その清潔感は一体どういうことだ!」
側近の叫びに、ゼクスさんは鼻で笑った。
「俺たちの主人は、身だしなみにうるさくてな。……野郎ども! お嬢様に『情けない男』と思われないよう、一気に片付けるぞ!」
「おおおー!!」
猛獣のような咆哮と共に、騎士たちが突撃を開始した。
戦いは、一方的なものだった。
空腹と疲労で動きの鈍い正規軍に対し、ニンニクパワーで全開の「野良犬騎士団」は、まさに無双の働きを見せた。
「ひいっ! 来るな! バラの香りをさせて斬りかかるな! 不気味すぎる!」
「これが誘拐犯の力か!? ありえん、我が国の精鋭部隊が、たかが数人のならず者に……!」
王子は馬から転げ落ち、泥まみれになりながら這いずり回った。
「あ、アマリリスはどこだ! あの魔女に、私にこんな恥をかかせた呪いを解かせろ!」
「呪いじゃねえよ、王子さん。これはただの『教育の成果』だ」
ゼクスさんが王子の目の前に剣を突き立て、冷ややかに言い放った。
「お前が捨てた『悪役令嬢』はな、今や俺たちの女神なんだよ。二度とその汚い口で彼女の名前を呼ぶんじゃねえ」
第一陣の敗退。
王子は命からがら逃げ出したものの、その心には深い恐怖と、そして信じられないほどの「敗北感」が刻まれていた。
砦のバルコニーから戦況を眺めていた私は、ふぅと小さく息をついた。
「あら、意外と早く終わってしまいましたわね。これではタルトの生地が、まだ寝かせ足りませんわ」
私は手元の時計を確認し、優雅に次の作業へと取り掛かることにした。
私は砦の広場に並んだ騎士たちの前で、誇らしげにバスケットを掲げた。
中からは、およそ戦場に似つかわしくない、食欲を暴力的に刺激するニンニクと焦がし醤油の香りが漂っている。
「おい、アマリリス……。これから命のやり取りをしに行くって時に、ステーキ弁当かよ」
ゼクスさんが呆れたように笑いながら、それでも一番大きな包みを手に取った。
「あら、腹が減っては戦はできぬと、どなたかがおっしゃっていましたわ。それに、そのステーキには私のトランクに眠っていた『特製スパイス』をたっぷり振りかけてありますの。食べれば力がみなぎり、寝ている間も剣を振り回したくなるほどですわよ」
「それはただの不眠症じゃねえか! ……まあいい。確かに、この匂いを嗅いだだけで負ける気がしねえな」
ゼクスさんは包みを開け、肉を豪快に口に放り込んだ。
「……っ! 熱い、けど美味い! なんだこれ、力が湧いてくる……というか、今すぐ誰かを殴りに行きてえ!」
「あら、乱暴ですわね。でも、その意気ですわ。さあ、皆様も召し上がれ!」
騎士たちが一斉に弁当にかじりつく。
彼らの瞳には、かつての「野良犬」としての卑屈さはなく、一流の食事によって養われた「自信」が満ち溢れていた。
「お嬢様、行ってくるぜ! このステーキの代金は、王子の鼻っ柱をへし折ることで支払わせてもらう!」
「無事に戻ってきたら、デザートにはとびきり甘いタルトを用意しておきますわね」
私のその一言で、騎士たちの士気は限界を超えて爆発した。
彼らは歓声を上げながら、まるでピクニックにでも行くような軽やかな足取りで、砦の麓へと向かっていった。
一方、麓の街道では。
ウィルフレッド王子率いる「アマリリス討伐隊」が、重い鎧を鳴らしながら行軍していた。
「……はぁ、はぁ。まだ着かないのか。この森は湿気が多くて、私の美しい髪がうねってしまうではないか」
王子は白馬の上で、扇子を使いながら不機嫌そうに呟いた。
「王子、もう少しでございます。しかし、偵察隊の報告によれば、誘拐犯どもは砦を要塞化し、何やら怪しげな儀式を行っているとのことで……」
「儀式だと? ふん、どうせ魔女アマリリスが呪いでもかけているのだろう。不潔な女め、私の前に引きずり出して――」
その時。
森の奥から、風に乗って「えも言われぬ芳醇な香り」が漂ってきた。
「……なんだ? この匂いは。空腹を刺激する、この暴力的なまでの肉の香りは!」
王子の側近たちが、ごくりと唾を飲み込んだ。
彼らは長旅の疲労と、まずい携帯食糧のせいで、胃袋が限界を迎えていたのだ。
そこへ、茂みを掻き分けてゼクスさん率いる騎士団が姿を現した。
「……よう、王族の皆様方。こんな辺境まで、わざわざ俺たちの『ランチタイム』を邪魔しに来たのか?」
ゼクスさんは、口元にステーキのタレを少しつけたまま、不敵に笑った。
彼の後ろに控える騎士たちは、全員がツヤツヤの肌と、バラの香りを漂わせ、磨き上げられた鎧を光らせている。
「な、なんだ貴様らは! 本当に誘拐犯なのか!? その清潔感は一体どういうことだ!」
側近の叫びに、ゼクスさんは鼻で笑った。
「俺たちの主人は、身だしなみにうるさくてな。……野郎ども! お嬢様に『情けない男』と思われないよう、一気に片付けるぞ!」
「おおおー!!」
猛獣のような咆哮と共に、騎士たちが突撃を開始した。
戦いは、一方的なものだった。
空腹と疲労で動きの鈍い正規軍に対し、ニンニクパワーで全開の「野良犬騎士団」は、まさに無双の働きを見せた。
「ひいっ! 来るな! バラの香りをさせて斬りかかるな! 不気味すぎる!」
「これが誘拐犯の力か!? ありえん、我が国の精鋭部隊が、たかが数人のならず者に……!」
王子は馬から転げ落ち、泥まみれになりながら這いずり回った。
「あ、アマリリスはどこだ! あの魔女に、私にこんな恥をかかせた呪いを解かせろ!」
「呪いじゃねえよ、王子さん。これはただの『教育の成果』だ」
ゼクスさんが王子の目の前に剣を突き立て、冷ややかに言い放った。
「お前が捨てた『悪役令嬢』はな、今や俺たちの女神なんだよ。二度とその汚い口で彼女の名前を呼ぶんじゃねえ」
第一陣の敗退。
王子は命からがら逃げ出したものの、その心には深い恐怖と、そして信じられないほどの「敗北感」が刻まれていた。
砦のバルコニーから戦況を眺めていた私は、ふぅと小さく息をついた。
「あら、意外と早く終わってしまいましたわね。これではタルトの生地が、まだ寝かせ足りませんわ」
私は手元の時計を確認し、優雅に次の作業へと取り掛かることにした。
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