14 / 28
14
しおりを挟む
「……皆様、おはようございます。昨夜のパーティーはいかがでしたかしら?」
私は、砦のバルコニーから、広場で雑魚寝している数千人の兵士たちに向かって声をかけた。
朝日を浴びた広場は、鎧の輝きよりも、転がっている空のワイン樽と肉の骨の方が目立っている。
「ううっ……。お嬢様、声が頭に響きます……。でも、人生で一番幸せな夜でした……」
最前列で泥のように眠っていたバルカス将軍が、這いずるようにして起き上がった。
彼の立派な髭には、昨夜のローストビーフのソースが乾いてこびりついている。
「あら、将軍。将軍ともあろうお方が、ソースをつけたまま朝のご挨拶だなんて。ゼクスさん、彼に洗顔用のバラの香水とおしぼりを持ってきて差し上げて?」
「……。了解した。おい、将軍様のお通りだぞ、道を開けろ。……道っていうか、転がってる連中をどかせろ!」
ゼクスさんが呆れ顔で、兵士たちの間を縫うようにして歩いていく。
昨夜の「おもてなし攻撃」により、侵略軍は完全に無力化されていた。
「……さて。将軍、少しお話がありますの」
私は、ようやく身だしなみを整えたバルカス将軍を、特設のティーテーブルへ招いた。
「アマリリス殿……。いえ、アマリリス様。昨夜のことで確信いたしました。貴女様は魔女でも魔王でもない。……ただの、恐ろしく料理が上手で、おせっかいな公爵令嬢ですな」
将軍は、差し出されたコンソメスープをすすりながら、深く溜息をついた。
「ようやく分かっていただけて光栄ですわ。それで、将軍。私の父であるフローライト公爵と、例の元婚約者……ウィルフレッド王子は今、どこにいらっしゃいますの?」
「……。王子はここから数キロ離れた後方の本陣で、震えながら『アマリリスが国を焼いている』と国王陛下に報告を続けておられます。陛下……貴女のお父上も、その嘘を信じて、さらなる増援を要請しようとしているようです」
「まあ。お父様までそんなデマを」
私は、そっとティーカップを置いた。
「娘が馬車で寝ていただけで『国家転覆の魔王』になるなんて、我が家の教育方針にはありませんでしたのに。……これは、直接お会いして、誤解を解(と)かなければなりませんわね」
「直接会う、だと? アマリリス、お前、本陣に乗り込む気かよ!」
ゼクスさんが身を乗り出して叫んだ。
「当たり前ではありませんか。放っておいたら、私、今度は『銀河を滅ぼす暗黒神』くらいに格上げされてしまいそうですもの。その前に、王子の口を美味しいお菓子で塞いで差し上げなくては」
「しかし、アマリリス様。本陣にはまだ、王子の息のかかった近衛兵たちが残っています。彼らは我々のように、胃袋で説得できるほど話が通じるかどうか……」
バルカス将軍が懸念を口にする。
私はふふ、と不敵に微笑んだ。
「話が通じないのなら、通じるまで『おもてなし』を続けるだけですわ。……皆様、準備はよろしいかしら? これから王子の本陣まで、パレードを敢行いたしますわよ!」
「パレード……? 進軍じゃなくて、パレードかよ」
ゼクスさんが頭を抱えたが、その表情にはどこか楽しげな色が混じっていた。
「よし、野良犬騎士団! それに元聖騎士団の連中も! お嬢様の『真相究明パレード』の準備だ! 武器は磨け、ただし鞘からは抜くな! 一番いい服を着て、一番いい香りを漂わせろ!」
「「「「「おー!!」」」」」
砦の中に、再び活気が戻った。
私はトランクを開け、中から「究極の和解用スイーツセット」の材料を取り出した。
(待っていなさいな、ウィルフレッド王子。私の名誉を汚した罪、たっぷりの生クリームとバターで償わせて差し上げますわ)
一方で、王国の本陣。
「……陛下! 見えました、あの光です! アマリリスが隣国の魔術師たちと協力して、我が軍を焼き尽くしている光景です!」
ウィルフレッド王子は、遠くでキラキラと輝く(パーティーの残光)を指差し、国王に訴えていた。
「……。なんということだ。あのアマリリスが、それほどまでに邪悪な力を持っていたとは。我が娘ながら、信じがたい……」
公爵でもある国王は、苦渋に満ちた表情で天を仰いだ。
そこへ、地響きのような音が聞こえてきた。
「む? なんだ、あの音は。……行進曲か?」
「陛下! 報告します! 前方より、大量のバラの花びらを撒き散らしながら、得体の知れない黄金の馬車が接近中! ……あ、あれは、バルカス将軍の軍勢を従えた、アマリリス様です!!」
「……何だと!?」
王子の顔から、一気に血の気が引いていった。
私は、砦のバルコニーから、広場で雑魚寝している数千人の兵士たちに向かって声をかけた。
朝日を浴びた広場は、鎧の輝きよりも、転がっている空のワイン樽と肉の骨の方が目立っている。
「ううっ……。お嬢様、声が頭に響きます……。でも、人生で一番幸せな夜でした……」
最前列で泥のように眠っていたバルカス将軍が、這いずるようにして起き上がった。
彼の立派な髭には、昨夜のローストビーフのソースが乾いてこびりついている。
「あら、将軍。将軍ともあろうお方が、ソースをつけたまま朝のご挨拶だなんて。ゼクスさん、彼に洗顔用のバラの香水とおしぼりを持ってきて差し上げて?」
「……。了解した。おい、将軍様のお通りだぞ、道を開けろ。……道っていうか、転がってる連中をどかせろ!」
ゼクスさんが呆れ顔で、兵士たちの間を縫うようにして歩いていく。
昨夜の「おもてなし攻撃」により、侵略軍は完全に無力化されていた。
「……さて。将軍、少しお話がありますの」
私は、ようやく身だしなみを整えたバルカス将軍を、特設のティーテーブルへ招いた。
「アマリリス殿……。いえ、アマリリス様。昨夜のことで確信いたしました。貴女様は魔女でも魔王でもない。……ただの、恐ろしく料理が上手で、おせっかいな公爵令嬢ですな」
将軍は、差し出されたコンソメスープをすすりながら、深く溜息をついた。
「ようやく分かっていただけて光栄ですわ。それで、将軍。私の父であるフローライト公爵と、例の元婚約者……ウィルフレッド王子は今、どこにいらっしゃいますの?」
「……。王子はここから数キロ離れた後方の本陣で、震えながら『アマリリスが国を焼いている』と国王陛下に報告を続けておられます。陛下……貴女のお父上も、その嘘を信じて、さらなる増援を要請しようとしているようです」
「まあ。お父様までそんなデマを」
私は、そっとティーカップを置いた。
「娘が馬車で寝ていただけで『国家転覆の魔王』になるなんて、我が家の教育方針にはありませんでしたのに。……これは、直接お会いして、誤解を解(と)かなければなりませんわね」
「直接会う、だと? アマリリス、お前、本陣に乗り込む気かよ!」
ゼクスさんが身を乗り出して叫んだ。
「当たり前ではありませんか。放っておいたら、私、今度は『銀河を滅ぼす暗黒神』くらいに格上げされてしまいそうですもの。その前に、王子の口を美味しいお菓子で塞いで差し上げなくては」
「しかし、アマリリス様。本陣にはまだ、王子の息のかかった近衛兵たちが残っています。彼らは我々のように、胃袋で説得できるほど話が通じるかどうか……」
バルカス将軍が懸念を口にする。
私はふふ、と不敵に微笑んだ。
「話が通じないのなら、通じるまで『おもてなし』を続けるだけですわ。……皆様、準備はよろしいかしら? これから王子の本陣まで、パレードを敢行いたしますわよ!」
「パレード……? 進軍じゃなくて、パレードかよ」
ゼクスさんが頭を抱えたが、その表情にはどこか楽しげな色が混じっていた。
「よし、野良犬騎士団! それに元聖騎士団の連中も! お嬢様の『真相究明パレード』の準備だ! 武器は磨け、ただし鞘からは抜くな! 一番いい服を着て、一番いい香りを漂わせろ!」
「「「「「おー!!」」」」」
砦の中に、再び活気が戻った。
私はトランクを開け、中から「究極の和解用スイーツセット」の材料を取り出した。
(待っていなさいな、ウィルフレッド王子。私の名誉を汚した罪、たっぷりの生クリームとバターで償わせて差し上げますわ)
一方で、王国の本陣。
「……陛下! 見えました、あの光です! アマリリスが隣国の魔術師たちと協力して、我が軍を焼き尽くしている光景です!」
ウィルフレッド王子は、遠くでキラキラと輝く(パーティーの残光)を指差し、国王に訴えていた。
「……。なんということだ。あのアマリリスが、それほどまでに邪悪な力を持っていたとは。我が娘ながら、信じがたい……」
公爵でもある国王は、苦渋に満ちた表情で天を仰いだ。
そこへ、地響きのような音が聞こえてきた。
「む? なんだ、あの音は。……行進曲か?」
「陛下! 報告します! 前方より、大量のバラの花びらを撒き散らしながら、得体の知れない黄金の馬車が接近中! ……あ、あれは、バルカス将軍の軍勢を従えた、アマリリス様です!!」
「……何だと!?」
王子の顔から、一気に血の気が引いていった。
1
あなたにおすすめの小説
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~
ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。
騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。
母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。
そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。
望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。
※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。
※表紙画像はAIで作成したものです
断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る
黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」
パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。
(ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)
【完結】公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
何も決めなかった王国は、静かに席を失う』
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。
だが――
彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。
ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。
婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。
制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく――
けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。
一方、帝国は違った。
完璧ではなくとも、期限内に返事をする。
責任を分け、判断を止めない。
その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。
王国は滅びない。
だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。
――そして迎える、最後の選択。
これは、
剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。
何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる