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「……皆様、準備はよろしいかしら? 本日より三日間、この国境砦にて『第一回・国境大食祭』を開催いたしますわよ!」
私の高らかな宣言と共に、砦の広場に祝砲(幻影魔法のクラッカーですわ)が鳴り響いた。
エメリン女王陛下との友好条約締結を祝した、国家規模のガーデンパーティー。
広場には、両国から集まった人々が、言葉の壁を越えて(というか料理の美味しさに圧倒されて)笑顔で溢れかえっている。
「おい、アマリリス! 追加の『厚切りベーコン串』が千本単位で消えていくぞ! 聖騎士団の連中が、給仕を忘れて自分たちで食い始めてやがる!」
ゼクスさんが、額に汗を浮かべながら、空になった巨大な大皿を抱えて厨房に飛び込んできた。
「あら、それは不祥事ですわね。ゼクスさん、彼らには後でお掃除三倍の刑を与えておいて。……それより、本日のメインディッシュ『友好の巨大クロカンブッシュ』の様子はどうかしら?」
「ああ、高さ二メートルのシュークリームの塔だろ? あんなもん、どうやって作るのかと思ったが……。ギデオンたちが、魔法で崩れないように必死に支えてるよ」
祭りの熱気が最高潮に達しようとしていた、その時。
厨房の裏口から、見慣れない給仕服を着た一人の男が、スルスルと忍び込んできた。
彼は周囲をキョロキョロと見渡し、懐から小さな小瓶を取り出す。
「……ふふふ。アマリリスめ、お前の栄光もここまでだ。この『魔物の涙』を一口飲めば、誰であろうと三日三晩、腹を下してのたうち回ることになる……。そうすれば、この祭りは阿鼻叫喚の地獄絵図だ!」
男は、仕上げを待つソースの鍋に小瓶を傾けようとした。
「……あら。そこの方、そのネクタイの結び目、三ミリほど左に寄っていますわよ?」
「ひゃいっ!?」
背後から声をかけると、男は面白いように飛び上がった。
私は、特大の泡立て器を肩に担ぎ、優雅な足取りで彼に歩み寄った。
「……。あ、アマリリス!? いつの間に後ろに!」
「お客様かしら? それとも、新しいバイトの志願者? ……いえ、その給仕服の生地、我が砦の指定品よりも安物ですわね。さては、ウィルフレッド王子のところの側近さんかしら?」
私は、彼の懐からこぼれ落ちそうになった小瓶を、素早い動きで奪い取った。
「なっ、返せ! それは……それは、秘伝の隠し味だ!」
「隠し味? まあ。……ゼクスさん、ちょっとこちらへいらして?」
「なんだよ、今度は肉の仕込みか? ……って、おい、そいつは王子の太鼓持ちのバルゴ伯爵じゃねえか!」
ゼクスさんが目を鋭く光らせ、男の襟首を掴み上げた。
「バルゴさん、と仰るのね。……隠し味だというのなら、まずは貴方が味見をなさるのが筋ですわよね?」
私はにっこりと微笑み、奪った小瓶の蓋を開けた。
「よ、よせ! それは……それは人間が飲むものでは……!」
「あら。お客様に出そうとしていたものを、自分は飲めないなんて。そんな不潔な態度は、美食の聖地では万死に値しますわよ?」
私が泡立て器を構えると、バルゴ伯爵は腰を抜かして震え上がった。
「は、白状します! 王子に命じられたんです! 祭りを台無しにして、アマリリスの評判を地に落とせば、公爵家に戻ってこざるを得なくなるはずだと!」
「……。やっぱり、あの王子か」
ゼクスさんが深い溜息をついた。
「……お父様のところへ戻る? そんな理由で、私の神聖なキッチンに不純物を持ち込もうとしたのですか?」
私の声から、一瞬だけ温度が消えた。
「ゼクスさん。この方を、地下の『ジャガイモ剥き部屋』へ。……本日の来客数は一万人を超えていますの。ジャガイモの皮、最低でも五万個分は剥いていただかないと、おもてなしが間に合いませんわ」
「はっ! 了解だ、お嬢様。……おいバルゴ、地獄の皮剥きタイムの始まりだ。指の指紋がなくなるまで働いてもらうぜ!」
「ひ、ひえぇぇ! 王子ぃ、助けてくださぁぁい!」
バルゴ伯爵が引きずられていく声を背に、私は再び泡立て器を回し始めた。
「……さて。不純物もお掃除できましたし、最高のクロカンブッシュを完成させましょうか」
一方、国境の反対側。
「……まだか! バルゴからの報告はまだか! そろそろ砦から、集団食中毒の悲鳴が聞こえてきてもいい頃だろう!?」
ウィルフレッド王子は、豪華な椅子をガタガタと揺らしながら、遠くの砦を眺めていた。
しかし、聞こえてきたのは悲鳴ではなく、「アマリリス様万歳!」という、地響きのような大歓声であった。
「……なぜだ……。なぜ、何をやっても彼女の評価が上がってしまうんだ……!!」
王子が絶望のあまり机に頭をぶつけた頃、砦では、バルゴ伯爵が涙を流しながら超高速でジャガイモを剥き続けていた。
私の高らかな宣言と共に、砦の広場に祝砲(幻影魔法のクラッカーですわ)が鳴り響いた。
エメリン女王陛下との友好条約締結を祝した、国家規模のガーデンパーティー。
広場には、両国から集まった人々が、言葉の壁を越えて(というか料理の美味しさに圧倒されて)笑顔で溢れかえっている。
「おい、アマリリス! 追加の『厚切りベーコン串』が千本単位で消えていくぞ! 聖騎士団の連中が、給仕を忘れて自分たちで食い始めてやがる!」
ゼクスさんが、額に汗を浮かべながら、空になった巨大な大皿を抱えて厨房に飛び込んできた。
「あら、それは不祥事ですわね。ゼクスさん、彼らには後でお掃除三倍の刑を与えておいて。……それより、本日のメインディッシュ『友好の巨大クロカンブッシュ』の様子はどうかしら?」
「ああ、高さ二メートルのシュークリームの塔だろ? あんなもん、どうやって作るのかと思ったが……。ギデオンたちが、魔法で崩れないように必死に支えてるよ」
祭りの熱気が最高潮に達しようとしていた、その時。
厨房の裏口から、見慣れない給仕服を着た一人の男が、スルスルと忍び込んできた。
彼は周囲をキョロキョロと見渡し、懐から小さな小瓶を取り出す。
「……ふふふ。アマリリスめ、お前の栄光もここまでだ。この『魔物の涙』を一口飲めば、誰であろうと三日三晩、腹を下してのたうち回ることになる……。そうすれば、この祭りは阿鼻叫喚の地獄絵図だ!」
男は、仕上げを待つソースの鍋に小瓶を傾けようとした。
「……あら。そこの方、そのネクタイの結び目、三ミリほど左に寄っていますわよ?」
「ひゃいっ!?」
背後から声をかけると、男は面白いように飛び上がった。
私は、特大の泡立て器を肩に担ぎ、優雅な足取りで彼に歩み寄った。
「……。あ、アマリリス!? いつの間に後ろに!」
「お客様かしら? それとも、新しいバイトの志願者? ……いえ、その給仕服の生地、我が砦の指定品よりも安物ですわね。さては、ウィルフレッド王子のところの側近さんかしら?」
私は、彼の懐からこぼれ落ちそうになった小瓶を、素早い動きで奪い取った。
「なっ、返せ! それは……それは、秘伝の隠し味だ!」
「隠し味? まあ。……ゼクスさん、ちょっとこちらへいらして?」
「なんだよ、今度は肉の仕込みか? ……って、おい、そいつは王子の太鼓持ちのバルゴ伯爵じゃねえか!」
ゼクスさんが目を鋭く光らせ、男の襟首を掴み上げた。
「バルゴさん、と仰るのね。……隠し味だというのなら、まずは貴方が味見をなさるのが筋ですわよね?」
私はにっこりと微笑み、奪った小瓶の蓋を開けた。
「よ、よせ! それは……それは人間が飲むものでは……!」
「あら。お客様に出そうとしていたものを、自分は飲めないなんて。そんな不潔な態度は、美食の聖地では万死に値しますわよ?」
私が泡立て器を構えると、バルゴ伯爵は腰を抜かして震え上がった。
「は、白状します! 王子に命じられたんです! 祭りを台無しにして、アマリリスの評判を地に落とせば、公爵家に戻ってこざるを得なくなるはずだと!」
「……。やっぱり、あの王子か」
ゼクスさんが深い溜息をついた。
「……お父様のところへ戻る? そんな理由で、私の神聖なキッチンに不純物を持ち込もうとしたのですか?」
私の声から、一瞬だけ温度が消えた。
「ゼクスさん。この方を、地下の『ジャガイモ剥き部屋』へ。……本日の来客数は一万人を超えていますの。ジャガイモの皮、最低でも五万個分は剥いていただかないと、おもてなしが間に合いませんわ」
「はっ! 了解だ、お嬢様。……おいバルゴ、地獄の皮剥きタイムの始まりだ。指の指紋がなくなるまで働いてもらうぜ!」
「ひ、ひえぇぇ! 王子ぃ、助けてくださぁぁい!」
バルゴ伯爵が引きずられていく声を背に、私は再び泡立て器を回し始めた。
「……さて。不純物もお掃除できましたし、最高のクロカンブッシュを完成させましょうか」
一方、国境の反対側。
「……まだか! バルゴからの報告はまだか! そろそろ砦から、集団食中毒の悲鳴が聞こえてきてもいい頃だろう!?」
ウィルフレッド王子は、豪華な椅子をガタガタと揺らしながら、遠くの砦を眺めていた。
しかし、聞こえてきたのは悲鳴ではなく、「アマリリス様万歳!」という、地響きのような大歓声であった。
「……なぜだ……。なぜ、何をやっても彼女の評価が上がってしまうんだ……!!」
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