馬車ジャック!?入学も婚約破棄もまだですわよ?

恋の箱庭

文字の大きさ
24 / 28

24

しおりを挟む
「……皆様、ついにこの日が参りましたわ! 我が『自由美食特区』、本日正式に開園ですわよ!」

私の号令と共に、かつて国境を隔てていた巨大な石門が、ゆっくりと開放された。

左右から押し寄せるのは、母国のフローライト王国と、隣国のエメリン女王国の民たち。

彼らはもはや武器を手にしていません。右手にフォーク、左手にナプキン。その瞳には、平和への渇望……いえ、新作の『ふわとろ厚焼きパンケーキ』への情熱が宿っております。

「おい、アマリリス! 開門から三分でパンケーキの整理券が完売したぞ! 整理券を求めて、行列が隣国の王都まで伸びそうな勢いだ!」

ゼクスさんが、額に汗を浮かべながらも、どこか誇らしげに報告に走ってきた。

「あら、それは素晴らしいですわね。ゼクスさん、行列の皆様には『バラの香りの冷却スプレー』と『一口サイズのフィナンシェ』を配布して差し上げて。おもてなしは、並んでいる時から始まっていますのよ」

「……。お前、いつか本気で『おもてなし』で世界を統一しそうだな」


そんな平和で幸福な喧騒の中。

突如として、空気の読めない派手なファンファーレが鳴り響いた。

「皆のもの、道を開けよ! この特区の真の主役であり、アマリリスの最愛の婚約者……ウィルフレッド王子の御なりであるぞ!」

黄金の装飾をこれでもかと盛り付けた馬車が、行列を強引に掻き分けて広場に乗り込んできた。

中から現れたのは、キラキラと輝く(自称)悲劇のヒーロー、ウィルフレッド王子。

「……アマリリス! 寂しかっただろう? 私が直々にこの『美食特区』とやらを視察し、特別に君との婚約破棄を撤回してやろうというのだ! さあ、泣いて喜ぶがいい!」


広場が、凍りついたような静寂に包まれた。

パンケーキを食べていた子供が手を止め、ワインを飲んでいた老人が吹き出した。

私は、手に持っていた泡立て器をそっと置き、優雅な足取りで王子の前へ進み出た。

「……あら。どちら様かと思えば、予約リストに載っていない『飛び込みのお客様』ですわね」

「な……!? お客様だと? アマリリス、私だ! 君の王子様だぞ!」

「いいえ。この特区において、貴方は王子でも何でもありませんわ。……ゼクスさん、この方の服装チェックをお願いしてよろしいかしら?」


ゼクスさんが、無表情で王子の前に立ち塞がった。

「……おい、そこのキラキラ野郎。うちの特区は『清潔感』が絶対条件だ。その馬車の車輪、泥がついたまま入ってきやがったな。……それに、その服。金糸が一本ほつれてるぞ。美観を損なう不祥事だ」

「なっ、なんだ貴様は! 無礼だぞ、私は王子だぞ!」

「ここでは『お客様』か『不審者』の二択だ。……お嬢様、どうしますか? 行列に並んでいる三千人の皆様は、この派手な馬車が邪魔でイライラしていらっしゃいますが」


私は扇子をパチンと閉じ、王子の顔をまじまじと見つめた。

「ウィルフレッド様。……あいにくですが、本日の特別席は、両国の平和のために尽力された『お掃除親衛隊(元反乱軍)』の皆様で満席ですの。……どうしても入園したいとおっしゃるなら、あちらの行列の最後尾にお並びいただけます?」

「な、ななな……! 私が、平民たちと一緒に並べというのか!?」

「当然ですわ。ここでは『お行儀の良さ』こそが爵位。……あら、それとも、あちらの『ジャガイモ剥き特設会場』で、バルゴ伯爵と一緒にボランティア活動をなさるかしら?」

私が指差した先では、すっかり改心した(?)バルゴ伯爵が、高速でジャガイモの皮を剥きながら「王子……こちら側は楽しいですよ……」と虚ろな目で手招きしていた。


「ひ、ひいいぃぃ! な、なんなんだここは! 魔女の砦の次は、狂った食いしん坊たちの巣窟か!? もういい、帰らせてもらう!」

王子は馬車に飛び乗り、脱兎のごとく逃げ去っていった。

その際、馬車からバラバラとお宝(自称)がこぼれ落ちたが、誰も拾おうとはしなかった。

「……ふぅ。お掃除完了ですわね。……さて、ゼクスさん。今の騒ぎでお待たせしてしまった皆様に、お詫びの『特製・生キャラメル』を配りましょうか」

「了解だ。……アマリリス、お前、さっきの王子の顔見たか? ジャガイモの皮みたいな色してたぜ」

「ウフフ、それは素材の良さが活かされた素晴らしい表情でしたわね」


私たちは顔を見合わせて笑い、再び賑やかなお祭りの渦の中へと戻っていった。

特区の平和は、今日も私の美味しいお料理とお掃除、そしてゼクスさんの鋭いツッコミによって守られている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る

黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。 (ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

何も決めなかった王国は、静かに席を失う』

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。 だが―― 彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。 ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。 婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。 制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく―― けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。 一方、帝国は違った。 完璧ではなくとも、期限内に返事をする。 責任を分け、判断を止めない。 その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。 王国は滅びない。 だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。 ――そして迎える、最後の選択。 これは、 剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。 何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

処理中です...