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「……皆様、卒業おめでとうございます。今日から皆様は、我が『アマリリス流・おもてなし』の伝道師ですわ」
私は、ピカピカに磨かれた卒業証書(金属製で鏡の代わりになりますわ)を、一期生たちに手渡した。
彼らの瞳には、かつての怠惰や傲慢さは微塵もありません。あるのは「塵一つ許さない」という、清掃の鬼としての鋭い眼光です。
「お嬢様! 学んだ全てを活かし、母国の王宮をバラの香りで満たして参ります!」
「いい意気込みですわ。……さあ、行ってらっしゃいな。汚れあるところに、アマリリス流の裁きを!」
数日後。
母国フローライト王国の王宮から、悲鳴にも似た「報告」が砦に届き始めた。
「……おい、アマリリス。お前の教え子たちが、あっちの国でとんでもない騒ぎを起こしてるぞ」
ゼクスさんが、通信魔法鏡を片手に呆れ顔で私の部屋に飛び込んできた。
「あら、騒ぎ? お料理が美味しすぎて、国王様が失神でもなさいましたかしら?」
「そんな可愛いもんじゃねえよ。……『お掃除の徹底』だ。あいつら、王宮の隅々まで磨き上げようとして、隠されていた『秘密の地下室』や『二重底の机』を次々に見つけ出しちまったんだ」
「……二重底の机?」
私は小首を傾げた。
「ええ、そうですわ。埃は、そういう見えにくい場所にこそ溜まるものですもの。徹底的に拭き掃除をするように教えましたわよ?」
「その『拭き掃除』の最中に、長年隠されていた裏帳簿や、他国との密約書、さらには役人たちが着服していた金貨の山がゾロゾロ出てきたんだとよ!」
ゼクスさんが魔法鏡の映像を見せてくれた。
そこには、真っ白なエプロンをつけた卒業生たちが、真っ青な顔の役人たちを隅に追いやり、床から剥がした隠し扉を指差して「ここ、ワックスがけが甘いですわよ!」と一喝している姿が映っていた。
「……まあ。不正を暴くつもりなんて毛頭ありませんでしたのに。皆様、真面目にお掃除をなさっただけですわね」
「真面目すぎるんだよ! おかげで母国の財務大臣から地方の代官まで、芋蔓式に御用だ。お前の学校の卒業生は、今や『歩く嘘発見器』って恐れられてるぞ」
「あら。嘘も汚れも、この世には不要なものですわ。……お父様も、これで少しは政治がやりやすくなったのではありませんこと?」
私が優雅に紅茶を啜っていると、魔法鏡の中からさらなる悲鳴が聞こえてきた。
「ひ、ひえぇぇ! 私のクローゼットの奥を拭かないでくれ! そこには私の『秘密のポエム集』が……ああっ、白日の下にさらされるぅぅ!」
……ウィルフレッド王子の声ですわね。
「王子……。不正を隠す勇気はないくせに、ポエムを隠す場所だけは一丁前だったんですのね」
私は、画面の向こうで卒業生に「このポエム、韻の踏み方が不潔ですわ」と添削されている王子を見て、そっと鏡を伏せた。
「……ゼクスさん。教育というのは、時に意図しない副産物を生むものですわね」
「副産物で国家の腐敗が解消されるなんて、前代未聞だぞ。……まあ、お前らしいけどな」
ゼクスさんは溜息をつきながらも、私のために新しいお湯を沸かし始めた。
「でもお嬢様。これでお前の名声はさらに高まった。もはや『聖女』を通り越して、ただの『裁きの女神』だぜ?」
「あら。女神だなんて、そんな大層な。私はただ、世界を少しだけ綺麗にして、美味しいものを食べていたいだけですわ」
私は窓の外に広がる、平和で清潔な美食特区を眺めた。
汚れが落ちれば、人の心も少しは清らかになる。……もしならないのであれば、もう一度ワックスで磨き直して差し上げるだけですわ。
一方で、王宮の自室で「ポエム集」を没収され、床掃除を命じられたウィルフレッド王子は。
「なぜだ……! なぜアマリリスは、私の心(ポエム)まで土足でお掃除していくのだ!? もう隠せる場所はどこにもない……世界が、世界が彼女の潔癖さに支配されていくぅぅ!」
王子、貴方のポエムも、一度水に流して書き直した方がよろしいかと思いますわよ。
私は、ピカピカに磨かれた卒業証書(金属製で鏡の代わりになりますわ)を、一期生たちに手渡した。
彼らの瞳には、かつての怠惰や傲慢さは微塵もありません。あるのは「塵一つ許さない」という、清掃の鬼としての鋭い眼光です。
「お嬢様! 学んだ全てを活かし、母国の王宮をバラの香りで満たして参ります!」
「いい意気込みですわ。……さあ、行ってらっしゃいな。汚れあるところに、アマリリス流の裁きを!」
数日後。
母国フローライト王国の王宮から、悲鳴にも似た「報告」が砦に届き始めた。
「……おい、アマリリス。お前の教え子たちが、あっちの国でとんでもない騒ぎを起こしてるぞ」
ゼクスさんが、通信魔法鏡を片手に呆れ顔で私の部屋に飛び込んできた。
「あら、騒ぎ? お料理が美味しすぎて、国王様が失神でもなさいましたかしら?」
「そんな可愛いもんじゃねえよ。……『お掃除の徹底』だ。あいつら、王宮の隅々まで磨き上げようとして、隠されていた『秘密の地下室』や『二重底の机』を次々に見つけ出しちまったんだ」
「……二重底の机?」
私は小首を傾げた。
「ええ、そうですわ。埃は、そういう見えにくい場所にこそ溜まるものですもの。徹底的に拭き掃除をするように教えましたわよ?」
「その『拭き掃除』の最中に、長年隠されていた裏帳簿や、他国との密約書、さらには役人たちが着服していた金貨の山がゾロゾロ出てきたんだとよ!」
ゼクスさんが魔法鏡の映像を見せてくれた。
そこには、真っ白なエプロンをつけた卒業生たちが、真っ青な顔の役人たちを隅に追いやり、床から剥がした隠し扉を指差して「ここ、ワックスがけが甘いですわよ!」と一喝している姿が映っていた。
「……まあ。不正を暴くつもりなんて毛頭ありませんでしたのに。皆様、真面目にお掃除をなさっただけですわね」
「真面目すぎるんだよ! おかげで母国の財務大臣から地方の代官まで、芋蔓式に御用だ。お前の学校の卒業生は、今や『歩く嘘発見器』って恐れられてるぞ」
「あら。嘘も汚れも、この世には不要なものですわ。……お父様も、これで少しは政治がやりやすくなったのではありませんこと?」
私が優雅に紅茶を啜っていると、魔法鏡の中からさらなる悲鳴が聞こえてきた。
「ひ、ひえぇぇ! 私のクローゼットの奥を拭かないでくれ! そこには私の『秘密のポエム集』が……ああっ、白日の下にさらされるぅぅ!」
……ウィルフレッド王子の声ですわね。
「王子……。不正を隠す勇気はないくせに、ポエムを隠す場所だけは一丁前だったんですのね」
私は、画面の向こうで卒業生に「このポエム、韻の踏み方が不潔ですわ」と添削されている王子を見て、そっと鏡を伏せた。
「……ゼクスさん。教育というのは、時に意図しない副産物を生むものですわね」
「副産物で国家の腐敗が解消されるなんて、前代未聞だぞ。……まあ、お前らしいけどな」
ゼクスさんは溜息をつきながらも、私のために新しいお湯を沸かし始めた。
「でもお嬢様。これでお前の名声はさらに高まった。もはや『聖女』を通り越して、ただの『裁きの女神』だぜ?」
「あら。女神だなんて、そんな大層な。私はただ、世界を少しだけ綺麗にして、美味しいものを食べていたいだけですわ」
私は窓の外に広がる、平和で清潔な美食特区を眺めた。
汚れが落ちれば、人の心も少しは清らかになる。……もしならないのであれば、もう一度ワックスで磨き直して差し上げるだけですわ。
一方で、王宮の自室で「ポエム集」を没収され、床掃除を命じられたウィルフレッド王子は。
「なぜだ……! なぜアマリリスは、私の心(ポエム)まで土足でお掃除していくのだ!? もう隠せる場所はどこにもない……世界が、世界が彼女の潔癖さに支配されていくぅぅ!」
王子、貴方のポエムも、一度水に流して書き直した方がよろしいかと思いますわよ。
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