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学園の裏庭、普段は誰も寄り付かない湿った茂みの奥。
そこには、折れた枝と泥にまみれ、虚空を見つめながら「……無。……私は、無……」と呟き続ける公爵令嬢の姿があった。
昨夜の三階からのダイブ。
肉体は無傷だが、その心は粉々に砕け散り、今や彼女からは「公爵令嬢」としてのオーラではなく、「数百年放置された呪いの古井戸」のような湿った殺気が溢れ出していた。
「……修道院。……いや、未開のジャングル。……あるいは、地の底。……どこか、シリウス様の耳に、私の声が届かない場所へ……」
「いい加減になさーーーい!!」
耳をつんざくような絶叫と共に、茂みが物理的に爆発した。
現れたのは、ボロボロの作業着に身を包み、手にはなぜか巨大なスパナを握りしめたララ・メルだった。
「……ら、らら様。……どうして、そんな、武器を……」
「武器ではありません、愛の矯正器具です! シャリー様! あなたという人は、どうしてこうも後ろ向きなんですか! 三階から飛び降りて無傷なその強靭なメンタルを、少しは恋愛に向けてください!」
ララは、シャリーの泥だらけの襟首を掴んで激しく揺さぶった。
「……だめよ。……シリウス様、泣いて……いらしたわ。……『食べないで』って。……私は、捕食者なのよ……」
「それは比喩だって言ったでしょうが! もういいです、あなたたちの『じれじれ』を見守る私の心臓は、もう限界を迎えました! 読者……いえ、観客のストレスを考えたことがありますか!?」
ララは鼻息荒く、シャリーを地面から引きずり起こした。
「こうなったら、最終手段です。正面突破が無理なら、物理的に逃げ場をなくすしかありません!」
「……にげばを……なくす?」
「ええ。今のあなたたちに必要なのは、言葉のキャッチボールではありません。回避不能の『密室』です!」
その頃、ようやく微熱が下がって登校してきたシリウスは、廊下でガタガタと震えていた。
「……窓が。……窓が割れていた。……あいつは、重力さえも味方につけたのか。……次は、天井から降ってくるに違いない……」
シリウスは、背後の気配に敏感になりすぎて、通りがかった猫にさえ「ひっ、暗殺猫か!?」と叫ぶ始末だった。
そこへ、ララが満面の笑みで近づいてきた。
「あ、王子! ちょうど良かったです! 実は、旧校舎の地下室に『王家の呪いを解く伝説の鏡』が隠されているという情報を掴みまして!」
「呪いを解く鏡……? そんなものが本当にあるのかい?」
「あります! それを使えば、ほら、シャリー様に対する『恐怖の呪い』も解けるかもしれませんよ?」
シリウスの瞳が、希望に輝いた。
「本当か!? それを覗けば、彼女が普通の……いや、せめて人間程度には見えるようになるのかい?」
「保証します! さあ、こちらへ!」
ララに誘導され、シリウスは旧校舎の重い扉を潜った。
さらに地下へと続く階段を下り、埃っぽい石造りの小部屋へと案内される。
「……あれ? ララ、鏡なんてどこにも……」
シリウスが振り返った瞬間。
「……しりうす……さま?」
暗闇の隅に、泥まみれで目が血走ったシャリーが立っていた。
「ぎゃああああああああ! 出たぁ! 地下の怨霊だ!」
「今です!!」
ララが叫ぶと同時に、地下室の鉄の扉が「ガチャン!!」と重厚な音を立てて閉まった。
「な、なんだ!? 開けてくれ! ララ、開けてくれ!」
シリウスが扉を叩くが、外側から頑丈なかんぬきがかけられる音が響く。
「無駄ですよ王子! そこはかつて異端者を収容していた、魔法も通用しない特別製の地下室です! シャリー様の握力でも、扉を壊すには三時間はかかるでしょう!」
扉の小窓から、ララの冷徹な……しかし愛に満ちた(?)目が覗く。
「いいですか、お二人さん。そこでじっくり話し合ってください。お互いの本音を吐き出すまで、そこからは一歩も出しませんからね! 食料はありませんが、愛があればお腹はいっぱいになるはずです! では、ごきげんよう!」
「ララ様!? 待って、私……私、まだ心の準備が……!」
シャリーが慌てて扉に駆け寄る。
「……みしっ。……みしみしっ」
シャリーの手が触れただけで、厚さ十センチの鉄扉が悲鳴を上げた。
「ひいっ! 壊れる! 扉が壊れる前に僕の精神が壊れる! フォンス令嬢、お願いだからそこに座って! 動かないで! 僕の視界の端っこにいて!」
シリウスは部屋の反対側の隅に張り付き、涙目で訴えた。
「……し、しりうす、さま……。……ごめんなさい。……おどかす、つもりは……なかったの……」
シャリーは、その場に力なく膝をついた。
暗闇の中、月明かりさえ届かない地下室。
「……ぐすっ。……私……。……あなたに、嫌われたくて……いたわけじゃ……ないのに……」
シャリーの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
その涙は、暗闇の中でキラリと光り、シリウスの目にも届いた。
「……えっ。……君、泣いているのかい?」
「……だって……。……こわい、って……。……ゆめの中でまで、私に……ころされる、って……」
不器用すぎる令嬢の、初めての吐露。
鉄扉の外では、ララが壁に耳を当てて「……キタキタキタ……! これですよ、このシチュエーション!」と小躍りしていた。
密室に閉じ込められた二人。
逃げ場のない空間で、ついに本音が交差し始める――はずだった。
そこには、折れた枝と泥にまみれ、虚空を見つめながら「……無。……私は、無……」と呟き続ける公爵令嬢の姿があった。
昨夜の三階からのダイブ。
肉体は無傷だが、その心は粉々に砕け散り、今や彼女からは「公爵令嬢」としてのオーラではなく、「数百年放置された呪いの古井戸」のような湿った殺気が溢れ出していた。
「……修道院。……いや、未開のジャングル。……あるいは、地の底。……どこか、シリウス様の耳に、私の声が届かない場所へ……」
「いい加減になさーーーい!!」
耳をつんざくような絶叫と共に、茂みが物理的に爆発した。
現れたのは、ボロボロの作業着に身を包み、手にはなぜか巨大なスパナを握りしめたララ・メルだった。
「……ら、らら様。……どうして、そんな、武器を……」
「武器ではありません、愛の矯正器具です! シャリー様! あなたという人は、どうしてこうも後ろ向きなんですか! 三階から飛び降りて無傷なその強靭なメンタルを、少しは恋愛に向けてください!」
ララは、シャリーの泥だらけの襟首を掴んで激しく揺さぶった。
「……だめよ。……シリウス様、泣いて……いらしたわ。……『食べないで』って。……私は、捕食者なのよ……」
「それは比喩だって言ったでしょうが! もういいです、あなたたちの『じれじれ』を見守る私の心臓は、もう限界を迎えました! 読者……いえ、観客のストレスを考えたことがありますか!?」
ララは鼻息荒く、シャリーを地面から引きずり起こした。
「こうなったら、最終手段です。正面突破が無理なら、物理的に逃げ場をなくすしかありません!」
「……にげばを……なくす?」
「ええ。今のあなたたちに必要なのは、言葉のキャッチボールではありません。回避不能の『密室』です!」
その頃、ようやく微熱が下がって登校してきたシリウスは、廊下でガタガタと震えていた。
「……窓が。……窓が割れていた。……あいつは、重力さえも味方につけたのか。……次は、天井から降ってくるに違いない……」
シリウスは、背後の気配に敏感になりすぎて、通りがかった猫にさえ「ひっ、暗殺猫か!?」と叫ぶ始末だった。
そこへ、ララが満面の笑みで近づいてきた。
「あ、王子! ちょうど良かったです! 実は、旧校舎の地下室に『王家の呪いを解く伝説の鏡』が隠されているという情報を掴みまして!」
「呪いを解く鏡……? そんなものが本当にあるのかい?」
「あります! それを使えば、ほら、シャリー様に対する『恐怖の呪い』も解けるかもしれませんよ?」
シリウスの瞳が、希望に輝いた。
「本当か!? それを覗けば、彼女が普通の……いや、せめて人間程度には見えるようになるのかい?」
「保証します! さあ、こちらへ!」
ララに誘導され、シリウスは旧校舎の重い扉を潜った。
さらに地下へと続く階段を下り、埃っぽい石造りの小部屋へと案内される。
「……あれ? ララ、鏡なんてどこにも……」
シリウスが振り返った瞬間。
「……しりうす……さま?」
暗闇の隅に、泥まみれで目が血走ったシャリーが立っていた。
「ぎゃああああああああ! 出たぁ! 地下の怨霊だ!」
「今です!!」
ララが叫ぶと同時に、地下室の鉄の扉が「ガチャン!!」と重厚な音を立てて閉まった。
「な、なんだ!? 開けてくれ! ララ、開けてくれ!」
シリウスが扉を叩くが、外側から頑丈なかんぬきがかけられる音が響く。
「無駄ですよ王子! そこはかつて異端者を収容していた、魔法も通用しない特別製の地下室です! シャリー様の握力でも、扉を壊すには三時間はかかるでしょう!」
扉の小窓から、ララの冷徹な……しかし愛に満ちた(?)目が覗く。
「いいですか、お二人さん。そこでじっくり話し合ってください。お互いの本音を吐き出すまで、そこからは一歩も出しませんからね! 食料はありませんが、愛があればお腹はいっぱいになるはずです! では、ごきげんよう!」
「ララ様!? 待って、私……私、まだ心の準備が……!」
シャリーが慌てて扉に駆け寄る。
「……みしっ。……みしみしっ」
シャリーの手が触れただけで、厚さ十センチの鉄扉が悲鳴を上げた。
「ひいっ! 壊れる! 扉が壊れる前に僕の精神が壊れる! フォンス令嬢、お願いだからそこに座って! 動かないで! 僕の視界の端っこにいて!」
シリウスは部屋の反対側の隅に張り付き、涙目で訴えた。
「……し、しりうす、さま……。……ごめんなさい。……おどかす、つもりは……なかったの……」
シャリーは、その場に力なく膝をついた。
暗闇の中、月明かりさえ届かない地下室。
「……ぐすっ。……私……。……あなたに、嫌われたくて……いたわけじゃ……ないのに……」
シャリーの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
その涙は、暗闇の中でキラリと光り、シリウスの目にも届いた。
「……えっ。……君、泣いているのかい?」
「……だって……。……こわい、って……。……ゆめの中でまで、私に……ころされる、って……」
不器用すぎる令嬢の、初めての吐露。
鉄扉の外では、ララが壁に耳を当てて「……キタキタキタ……! これですよ、このシチュエーション!」と小躍りしていた。
密室に閉じ込められた二人。
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