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地下室での「命の狙撃宣言」から数日。
学園の廊下は、異様な静寂に包まれていた。
正確には、第一王子シリウスの周囲だけが、重装歩兵部隊のような物々しい空気に支配されている。
「……いたか。……どこだ。……フォンス令嬢は、今どこに潜んでいる!?」
シリウスは、制服の下に特注のチェインメイルを仕込み、左右を屈強な近衛騎士に固めさせながら、不自然なほどキョロキョロと周囲を警戒していた。
「王子、落ち着いてください。先ほどから、角を曲がるたびに盾を構えるのは少々目立ちすぎます」
「うるさい! あいつは『捕まえたら覚悟しろ』と言ったんだ! あの大理石を粉砕する握力で捕まえられたら、僕の脊椎は一瞬で煎餅(せんべい)のように砕かれる!」
シリウスの瞳には、慢性的な睡眠不足による深い隈が刻まれている。
そこへ、長い廊下の向こうから、一際冷たくて鋭い「圧」が迫ってきた。
「……っ! きた……。……あの、処刑人の足音だ!」
カツ……カツ……と、規則正しく響くヒールの音。
現れたのは、漆黒のベールを纏い、まるで葬列に参列するかのような装いのシャリー・フォンスだった。
(……シリウス様。……今日も、お元気そうでよかった。……本当は、駆け寄って抱きつきたいけれど……。……私は、暗殺者。……彼を怖がらせないための、偽りの悪女……!)
シャリーは、ベールの下で唇を噛み締めていた。
彼女なりに「私は敵ですよ、だから避けてくださいね」というメッセージを込めた服装だった。
しかし、その姿は周囲には「……いよいよ、喪服を着てターゲットを仕留めに来た」という、不退転の決意を固めた暗殺者にしか見えない。
「……しりうす……さま」
シャリーは、数メートル手前で立ち止まり、低く、重い声をかけた。
「……ひっ! ……な、なんだ! 宣言通り、僕を仕留めに来たのか!?」
シリウスは騎士たちの後ろに隠れ、震える指先で彼女を指した。
「……これを。……お返し……に」
シャリーは、懐から「銀色に光る棒状の物体」を取り出した。
(先日、シリウス様が落とされた万年筆を直しておいたの。……銀磨きでピカピカにして、魔力で芯を強化しておいたわ。……大切に使ってほしいから)
シャリーは、その万年筆をシリウスに向けて差し出した。
しかし、魔力によって異常な輝きを放つその棒は、シリウスの目には「……最新式の、暗殺用隠し武器」にしか見えなかった。
「ぎゃあああああああ! 出た! 銀の杭(くい)だ! 僕の心臓に打ち込むつもりだ!」
「……杭……? ……ちがいます。……これは……」
「近寄るな! その凶器を仕まえ! 魔力が漏れ出しているじゃないか!」
シャリーは、悲しげに瞳を伏せた。
(……ああ。……万年筆ですら、凶器に見えてしまうのね。……私の存在が、もう、彼にとっては暴力そのものなんだわ……)
「……わかり……ました。……ここへ、……おいて……おきます」
シャリーは、床にそっと万年筆を置いた。
その仕草は、周囲には「……爆弾を設置した。逃げても無駄だ」という不敵な宣告に見えた。
「シャリー様! 今日も一段と『死の天使』といった風情で最高です!」
そこへ、柱の陰からララ・メルが飛び出してきた。
「……ララ様。……やっぱり、……だめだわ。……暗殺者のふりをするのも……むなしくなって……きたわ……」
「何を言っているんですか! 今の『銀の杭(万年筆)』の受け渡し、最高にハードボイルドな恋のやり取りでしたよ! 『これで私の心にトドメを刺して』という裏メッセージ、私は受け取りました!」
ララが王子の足元に転がった万年筆を拾い上げ、無理やりシリウスに押し付ける。
「王子! 見てください、この磨き上げられた表面! あなたの姿が映るほどですよ! これは『君の瞳に映る私を見て』という熱烈なサインです!」
「ララ……君、本当に頭がおかしくなったのか!? これ、どう見ても重力魔法が付与されてるぞ! ペン一本で僕の腕が折れるほど重いんだよ!」
シリウスは、万年筆のあまりの重み(シャリーの過剰な魔力強化のせい)に、両手で持つのも精一杯の状態だった。
「……しりうす……さま。……それは、……重い……愛……ですので」
(……愛を込めて、丈夫にしたから、一生壊れないわ!)
「……ひっ! ……物理的に重いんだよ! ……わかった、わかったから! ……今日は、これで勘弁してくれ! ……僕は、……授業があるんだ!」
シリウスは、超重量の万年筆を引きずるようにして、騎士たちと共に逃げ去っていった。
「……にげられて……しまったわ」
シャリーは、ベールを少し持ち上げ、寂しげに王子の後ろ姿を見送った。
(……愛は、重すぎても……いけないのね。……加減が、……むずかしいわ……)
「シャリー様、落ち込まないでください! 次は学園祭です! ダンスパーティーですよ!」
ララが、次なるイベントを指差して力説する。
「……だんす。……シリウス様、……私と、……踊って……くださるかしら」
「踊らせます! 物理的にステップを封じ込めてでも、あなたの腕の中に収めてみせますから!」
(……物理的に、封じ込める……? ……それ、……また……怖がられないかしら?)
シャリーの不安をよそに、物語は学園最大のイベント、学園祭へと進んでいく。
そこでは、「暗殺者」と「怯える王子」のダンスという、史上最も物騒なロマンスが待ち受けていたのである。
学園の廊下は、異様な静寂に包まれていた。
正確には、第一王子シリウスの周囲だけが、重装歩兵部隊のような物々しい空気に支配されている。
「……いたか。……どこだ。……フォンス令嬢は、今どこに潜んでいる!?」
シリウスは、制服の下に特注のチェインメイルを仕込み、左右を屈強な近衛騎士に固めさせながら、不自然なほどキョロキョロと周囲を警戒していた。
「王子、落ち着いてください。先ほどから、角を曲がるたびに盾を構えるのは少々目立ちすぎます」
「うるさい! あいつは『捕まえたら覚悟しろ』と言ったんだ! あの大理石を粉砕する握力で捕まえられたら、僕の脊椎は一瞬で煎餅(せんべい)のように砕かれる!」
シリウスの瞳には、慢性的な睡眠不足による深い隈が刻まれている。
そこへ、長い廊下の向こうから、一際冷たくて鋭い「圧」が迫ってきた。
「……っ! きた……。……あの、処刑人の足音だ!」
カツ……カツ……と、規則正しく響くヒールの音。
現れたのは、漆黒のベールを纏い、まるで葬列に参列するかのような装いのシャリー・フォンスだった。
(……シリウス様。……今日も、お元気そうでよかった。……本当は、駆け寄って抱きつきたいけれど……。……私は、暗殺者。……彼を怖がらせないための、偽りの悪女……!)
シャリーは、ベールの下で唇を噛み締めていた。
彼女なりに「私は敵ですよ、だから避けてくださいね」というメッセージを込めた服装だった。
しかし、その姿は周囲には「……いよいよ、喪服を着てターゲットを仕留めに来た」という、不退転の決意を固めた暗殺者にしか見えない。
「……しりうす……さま」
シャリーは、数メートル手前で立ち止まり、低く、重い声をかけた。
「……ひっ! ……な、なんだ! 宣言通り、僕を仕留めに来たのか!?」
シリウスは騎士たちの後ろに隠れ、震える指先で彼女を指した。
「……これを。……お返し……に」
シャリーは、懐から「銀色に光る棒状の物体」を取り出した。
(先日、シリウス様が落とされた万年筆を直しておいたの。……銀磨きでピカピカにして、魔力で芯を強化しておいたわ。……大切に使ってほしいから)
シャリーは、その万年筆をシリウスに向けて差し出した。
しかし、魔力によって異常な輝きを放つその棒は、シリウスの目には「……最新式の、暗殺用隠し武器」にしか見えなかった。
「ぎゃあああああああ! 出た! 銀の杭(くい)だ! 僕の心臓に打ち込むつもりだ!」
「……杭……? ……ちがいます。……これは……」
「近寄るな! その凶器を仕まえ! 魔力が漏れ出しているじゃないか!」
シャリーは、悲しげに瞳を伏せた。
(……ああ。……万年筆ですら、凶器に見えてしまうのね。……私の存在が、もう、彼にとっては暴力そのものなんだわ……)
「……わかり……ました。……ここへ、……おいて……おきます」
シャリーは、床にそっと万年筆を置いた。
その仕草は、周囲には「……爆弾を設置した。逃げても無駄だ」という不敵な宣告に見えた。
「シャリー様! 今日も一段と『死の天使』といった風情で最高です!」
そこへ、柱の陰からララ・メルが飛び出してきた。
「……ララ様。……やっぱり、……だめだわ。……暗殺者のふりをするのも……むなしくなって……きたわ……」
「何を言っているんですか! 今の『銀の杭(万年筆)』の受け渡し、最高にハードボイルドな恋のやり取りでしたよ! 『これで私の心にトドメを刺して』という裏メッセージ、私は受け取りました!」
ララが王子の足元に転がった万年筆を拾い上げ、無理やりシリウスに押し付ける。
「王子! 見てください、この磨き上げられた表面! あなたの姿が映るほどですよ! これは『君の瞳に映る私を見て』という熱烈なサインです!」
「ララ……君、本当に頭がおかしくなったのか!? これ、どう見ても重力魔法が付与されてるぞ! ペン一本で僕の腕が折れるほど重いんだよ!」
シリウスは、万年筆のあまりの重み(シャリーの過剰な魔力強化のせい)に、両手で持つのも精一杯の状態だった。
「……しりうす……さま。……それは、……重い……愛……ですので」
(……愛を込めて、丈夫にしたから、一生壊れないわ!)
「……ひっ! ……物理的に重いんだよ! ……わかった、わかったから! ……今日は、これで勘弁してくれ! ……僕は、……授業があるんだ!」
シリウスは、超重量の万年筆を引きずるようにして、騎士たちと共に逃げ去っていった。
「……にげられて……しまったわ」
シャリーは、ベールを少し持ち上げ、寂しげに王子の後ろ姿を見送った。
(……愛は、重すぎても……いけないのね。……加減が、……むずかしいわ……)
「シャリー様、落ち込まないでください! 次は学園祭です! ダンスパーティーですよ!」
ララが、次なるイベントを指差して力説する。
「……だんす。……シリウス様、……私と、……踊って……くださるかしら」
「踊らせます! 物理的にステップを封じ込めてでも、あなたの腕の中に収めてみせますから!」
(……物理的に、封じ込める……? ……それ、……また……怖がられないかしら?)
シャリーの不安をよそに、物語は学園最大のイベント、学園祭へと進んでいく。
そこでは、「暗殺者」と「怯える王子」のダンスという、史上最も物騒なロマンスが待ち受けていたのである。
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