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半壊したダンスホールに、重厚なトランペットの音が鳴り響いた。
「国王陛下、並びに王妃殿下のお成りーーー!」
その宣言と共に、呆然と立ち尽くす学生たちの間を縫って、この国の最高権力者である国王夫婦が姿を現した。
彼らの目に飛び込んできたのは、瓦礫の山、崩れた壁、そして中庭に突き刺さった巨大なシャンデリア。
そして、その中心で泥にまみれて抱き合う、第一王子と公爵令嬢の姿であった。
「……シリウスよ。これは、一体どういう状況だ? 卒業パーティーが、なぜ戦場跡のようになっている?」
国王の声が、静まり返ったホールに低く響く。
シャリーは、ハッと我に返った。
(……ああ、そうだわ。……私、……王家の家宝を壊し、……パーティーを台無しにし、……あろうことか、……シリウス様をデコピンで殺しかけた……!)
絶望が彼女を襲う。
彼女は、シリウスの腕からすり抜けるようにして、その場に平伏した。
「……陛下。……すべては、……わたくしの、……責任です。……シリウス様には、……一切の非はございません。……わたくし、……いかなる刑罰も……受け入れる、覚悟です……」
シャリーが顔を上げた瞬間、その「覚悟」による殺気が最大風速を記録した。
「ひっ……!」
百戦錬磨の国王さえも、思わず一歩後ずさるほどの凄まじい眼光。
「……そ、……その目は、……まさか、……この国を、……乗っ取る……つもりか?」
「……ちがい……ます。……修道院でも、……極北の監獄でも、……どこへでも……参ります……。……ただ、……どうか……」
シャリーは、シリウスを見上げた。
「……シリウス様だけは、……お許し、ください……」
(せめて、最後くらい……可愛くお別れしたかったけれど。……やっぱり、私には無理なのね……)
シャリーの目から、再び大粒の涙がこぼれ落ちた。
しかし。
「待ってください、父上!」
シリウスが、シャリーの前に立ちはだかった。
「この惨状は、……すべて、……僕たちの『愛の形』が少しばかり大きすぎた結果なのです!」
「……愛の形……? ……これがか?」
国王が、壁に空いた巨大な穴を指さす。
「そうです! シャリーは、……僕を守るために、……あのシャンデリアを片手で受け止め、……そして、……投げ飛ばしたのです! その勇気、……その腕力、……これこそが次期王妃にふさわしい資質だとは思いませんか!」
「……シリウス、さま……?」
シャリーが唖然として見上げる中、シリウスは熱っぽく語り続けた。
「僕は、……今まで彼女を誤解していました。……彼女の厳しさは誠実さであり、……彼女の沈黙は思慮深さであり、……彼女の怪力は僕への守護だったのです! 父上、……僕は、……彼女との婚約破棄を、……全面的に取り消します!」
ホールに、どよめきが走った。
「……取り消す、だと? ……あんなに『命が危ない』と、……毎日僕に泣きついてきていたではないか」
「……それは、……過去の話です! ……今の僕は、……彼女の拳の中にこそ、……真実の安らぎがあると確信しています!」
(……シリウス様、……安らぎの定義が、……少しおかしくなっていませんか……?)
シャリーは戸惑ったが、シリウスの目は、これまでになく真っ直ぐに自分に向けられていた。
そこへ、ララ・メルが滑り込むように跪いた。
「陛下! これ以上の説明は不要です! 見てください、このお二人の絆を! これほどまでに『物理的な強度』を持った愛が、これまでの歴史にあったでしょうか! シャリー様がいれば、我が国の国防は安泰ですわ!」
「……メル男爵令嬢、……君は……」
「私は、この愛の証人です! さあ、陛下! お二人の仲を、正式に認めると仰ってください!」
国王は、しばらくの間、壊れた壁と、泥だらけの息子、そして般若のような顔で涙を流す公爵令嬢を交互に見つめていた。
やがて、彼は深く溜息をつき、笑い出した。
「……ふっ、……ははは! ……よかろう! ……これほどまでに騒々しく、……これほどまでに強固な婚約者がいるなら、……我が国の将来も、……別の意味で楽しみだ」
王妃も、扇を口元に当てて微笑んだ。
「……あら、……シャリーさん。……そのドレス、……汚れを落としたら、……きっと素敵よ。……婚礼の儀には、……もっと頑丈な生地を選びましょうね」
「…………っ!!」
シャリーの胸に、熱いものが込み上げた。
(……認められた。……私、……シリウス様と、……ずっと一緒に……いていいのね……!)
「……シリウス、さま……!」
シャリーは、喜びのあまり立ち上がり、シリウスの胸に飛び込んだ。
「……あっ、……シャリー、……ま……」
「バキィッ!!」
「……ごふぉっ!?」
抱きついた衝撃で、シリウスの肋骨が少しだけ悲鳴を上げ、二人の足元の床がまた一歩、深く陥没した。
「……あ、……ごめんなさい! ……また、……力が……」
「……はは、……大丈夫だよ。……これくらい、……愛の重みに比べれば、……かすり傷……だ……」
シリウスは白目を剥きかけながらも、シャリーの頭を優しく撫でた。
周囲の生徒たちから、今日一番の、そして温かな拍手が送られる。
「……シャリー様! 次は、結婚式での『愛の爆発』を期待していますよ!」
ララが、どこからか取り出した紙吹雪を撒き散らしながら叫んだ。
数ヶ月後。
王都の教会で行われた結婚式では、シャリーの「誓いのキス」のあまりの照れと緊張により、教会のステンドグラスが全て振動で粉砕されたが、それは「祝福の破裂」として末代まで語り継がれることになる。
公爵令嬢シャリー・フォンス。
彼女の顔は相変わらず怖く、彼女の握力は相変わらず岩を砕くが。
その隣には、いつも幸せそうに(そして少し震えながら)微笑む王子の姿があった。
「……シャリー。……今日も、……君は、……世界一、……怖い……いや、……可愛いよ」
「……ふふ。……シリウス、さま。……愛して……いますわ」
シャリーが微笑む(睨みつける)と、二人の間に、冷たくて温かい、ダイヤモンドダストがキラキラと舞い上がった。
不器用すぎる令嬢の、規格外なラブコメディ。
これにて、一件落着――。
「国王陛下、並びに王妃殿下のお成りーーー!」
その宣言と共に、呆然と立ち尽くす学生たちの間を縫って、この国の最高権力者である国王夫婦が姿を現した。
彼らの目に飛び込んできたのは、瓦礫の山、崩れた壁、そして中庭に突き刺さった巨大なシャンデリア。
そして、その中心で泥にまみれて抱き合う、第一王子と公爵令嬢の姿であった。
「……シリウスよ。これは、一体どういう状況だ? 卒業パーティーが、なぜ戦場跡のようになっている?」
国王の声が、静まり返ったホールに低く響く。
シャリーは、ハッと我に返った。
(……ああ、そうだわ。……私、……王家の家宝を壊し、……パーティーを台無しにし、……あろうことか、……シリウス様をデコピンで殺しかけた……!)
絶望が彼女を襲う。
彼女は、シリウスの腕からすり抜けるようにして、その場に平伏した。
「……陛下。……すべては、……わたくしの、……責任です。……シリウス様には、……一切の非はございません。……わたくし、……いかなる刑罰も……受け入れる、覚悟です……」
シャリーが顔を上げた瞬間、その「覚悟」による殺気が最大風速を記録した。
「ひっ……!」
百戦錬磨の国王さえも、思わず一歩後ずさるほどの凄まじい眼光。
「……そ、……その目は、……まさか、……この国を、……乗っ取る……つもりか?」
「……ちがい……ます。……修道院でも、……極北の監獄でも、……どこへでも……参ります……。……ただ、……どうか……」
シャリーは、シリウスを見上げた。
「……シリウス様だけは、……お許し、ください……」
(せめて、最後くらい……可愛くお別れしたかったけれど。……やっぱり、私には無理なのね……)
シャリーの目から、再び大粒の涙がこぼれ落ちた。
しかし。
「待ってください、父上!」
シリウスが、シャリーの前に立ちはだかった。
「この惨状は、……すべて、……僕たちの『愛の形』が少しばかり大きすぎた結果なのです!」
「……愛の形……? ……これがか?」
国王が、壁に空いた巨大な穴を指さす。
「そうです! シャリーは、……僕を守るために、……あのシャンデリアを片手で受け止め、……そして、……投げ飛ばしたのです! その勇気、……その腕力、……これこそが次期王妃にふさわしい資質だとは思いませんか!」
「……シリウス、さま……?」
シャリーが唖然として見上げる中、シリウスは熱っぽく語り続けた。
「僕は、……今まで彼女を誤解していました。……彼女の厳しさは誠実さであり、……彼女の沈黙は思慮深さであり、……彼女の怪力は僕への守護だったのです! 父上、……僕は、……彼女との婚約破棄を、……全面的に取り消します!」
ホールに、どよめきが走った。
「……取り消す、だと? ……あんなに『命が危ない』と、……毎日僕に泣きついてきていたではないか」
「……それは、……過去の話です! ……今の僕は、……彼女の拳の中にこそ、……真実の安らぎがあると確信しています!」
(……シリウス様、……安らぎの定義が、……少しおかしくなっていませんか……?)
シャリーは戸惑ったが、シリウスの目は、これまでになく真っ直ぐに自分に向けられていた。
そこへ、ララ・メルが滑り込むように跪いた。
「陛下! これ以上の説明は不要です! 見てください、このお二人の絆を! これほどまでに『物理的な強度』を持った愛が、これまでの歴史にあったでしょうか! シャリー様がいれば、我が国の国防は安泰ですわ!」
「……メル男爵令嬢、……君は……」
「私は、この愛の証人です! さあ、陛下! お二人の仲を、正式に認めると仰ってください!」
国王は、しばらくの間、壊れた壁と、泥だらけの息子、そして般若のような顔で涙を流す公爵令嬢を交互に見つめていた。
やがて、彼は深く溜息をつき、笑い出した。
「……ふっ、……ははは! ……よかろう! ……これほどまでに騒々しく、……これほどまでに強固な婚約者がいるなら、……我が国の将来も、……別の意味で楽しみだ」
王妃も、扇を口元に当てて微笑んだ。
「……あら、……シャリーさん。……そのドレス、……汚れを落としたら、……きっと素敵よ。……婚礼の儀には、……もっと頑丈な生地を選びましょうね」
「…………っ!!」
シャリーの胸に、熱いものが込み上げた。
(……認められた。……私、……シリウス様と、……ずっと一緒に……いていいのね……!)
「……シリウス、さま……!」
シャリーは、喜びのあまり立ち上がり、シリウスの胸に飛び込んだ。
「……あっ、……シャリー、……ま……」
「バキィッ!!」
「……ごふぉっ!?」
抱きついた衝撃で、シリウスの肋骨が少しだけ悲鳴を上げ、二人の足元の床がまた一歩、深く陥没した。
「……あ、……ごめんなさい! ……また、……力が……」
「……はは、……大丈夫だよ。……これくらい、……愛の重みに比べれば、……かすり傷……だ……」
シリウスは白目を剥きかけながらも、シャリーの頭を優しく撫でた。
周囲の生徒たちから、今日一番の、そして温かな拍手が送られる。
「……シャリー様! 次は、結婚式での『愛の爆発』を期待していますよ!」
ララが、どこからか取り出した紙吹雪を撒き散らしながら叫んだ。
数ヶ月後。
王都の教会で行われた結婚式では、シャリーの「誓いのキス」のあまりの照れと緊張により、教会のステンドグラスが全て振動で粉砕されたが、それは「祝福の破裂」として末代まで語り継がれることになる。
公爵令嬢シャリー・フォンス。
彼女の顔は相変わらず怖く、彼女の握力は相変わらず岩を砕くが。
その隣には、いつも幸せそうに(そして少し震えながら)微笑む王子の姿があった。
「……シャリー。……今日も、……君は、……世界一、……怖い……いや、……可愛いよ」
「……ふふ。……シリウス、さま。……愛して……いますわ」
シャリーが微笑む(睨みつける)と、二人の間に、冷たくて温かい、ダイヤモンドダストがキラキラと舞い上がった。
不器用すぎる令嬢の、規格外なラブコメディ。
これにて、一件落着――。
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