悪役令嬢は断罪される前に、既に攻略済ですわ。

恋の箱庭

文字の大きさ
23 / 28

23

しおりを挟む
「……そこまでです、カボチャ……いえ、レオン殿下」


私の目の前で、鋭い金属音が響いた。


突進してきたレオン王子の剣を、銀色の杖一本で軽々と受け止めた男がいる。
隣国の公使、フィナンシェ伯爵だ。


「フィナンシェ……! 貴様、他国の内政に干渉するつもりか!」


「内政干渉? 心外ですね。私はただ、大切なビジネスパートナーが野蛮な暴力に晒されるのを放っておけなかっただけですよ。……それに、女性に剣を向けるのは、我が国では最低の恥辱とされています」


フィナンシェが杖を軽く捻ると、王子の剣が弾き飛ばされた。


「……お、おのれ! 騎士団、何をしている! 今すぐこの不届き者たちを捕らえろ!」


王子が叫ぶが、騎士たちは動けない。
なぜなら、彼らの背後にはいつの間にか、凄まじい数の「壁」が築かれていたからだ。


「……ちょっと、あれは何かしら?」


私が目を凝らすと、サロンの常連客である貴婦人たち、そして街の逞しい女性たちが、手に手に日傘や買い物カゴ、果ては麺棒を持って、騎士団を包囲していた。


「殿下! ミルフィー様を連れて行くなら、私たちを倒してからになさい!」


「そうよ! 私たちの憩いの場を壊すなんて、絶対に許さないんだから!」


女性たちの怒号が、王子の軍勢を圧倒する。
それは、私がこの数ヶ月で施してきた「自立のための教育」が結実した瞬間だった。


「お姉様! 今です! マブダチの逆襲、開始ですよ!」


背後から、クララがものすごい勢いで飛び出してきた。
彼女の手には、いつの間にか特大の「生クリーム袋」が握られている。


「なっ、クララ! 何をする気だ!」


「これでお口を封じます! マブダチ特製・ノンシュガー超硬質ホイップ攻撃!」


クララが勢いよく袋を絞ると、王子の顔面に、コンクリートのように硬い生クリームが直撃した。


「ぶふぉっ!? め、目が、前が見えん!」


「さらに、これです! お姉様に教わった『淑女の回し蹴り』!」


クララはドレスの裾を大胆に捲り上げると、かつて庭園の藁人形で鍛えた鋭いキックを、王子の腹部に見舞った。


「ぐはぁぁっ!!」


王子は馬から転げ落ち、生クリームまみれで地面を転がった。


「……お見事です、クララ様。角度、スピード、そして『カボチャを粉砕する』という殺意。すべてにおいて満点でございます」


エクレアがどこからか取り出した採点パネルで「10点」を掲げる。


「……クララ。貴女、いつの間にあんな技を習得したのよ」


「お姉様を守るためなら、私、熊とも戦えます! さあ、騎士団の皆さん! これ以上暴れるなら、皆さんの奥様やお母様に、今日の殿下の情けない姿を詳しく書いた手紙を送りつけますよ!」


クララの脅迫……いえ、交渉術に、騎士たちが一斉に剣を収めた。
彼らにとって、家で待つ妻の怒りは、王子の命令よりも何倍も恐ろしい。


「……負け、負けたのか、私が……。真実の愛の力で、悪を滅ぼすはずの私が……」


生クリームで真っ白になった王子が、力なく地面に這いつくばる。


「殿下。貴方が『悪』と呼んだものは、ただの『自立した女性たちの意志』ですわ。……そして、貴方の『真実の愛』は、ただの『独りよがりな執着』だった。……それが、今日の答えです」


私は、動けなくなった王子を冷たく見下ろした。


街中の女性たちが歓声を上げ、クララを英雄のように担ぎ上げる。
マブダチの逆襲。それは、暴力ではなく、絆と、少しばかりの物理的なキックによって、完璧な勝利を収めたのだった。


「お姉様! 勝ちました! 今夜はパーティーですね!」


「ええ。……でもその前に、クララ。貴女のそのクリームだらけの顔を拭きなさい。……ほら、じっとしていなさいな」


私はいつものようにハンカチを取り出し、誇らしげに笑うマブダチの顔を、優しく、丁寧に拭ってあげた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

処理中です...