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カイル殿下に強引に引きずられ、会場の重厚な扉を抜けようとしたその時です。
「待ちたまえ! その女を逃がしてはならない!」
鋭い制止の声とともに、王宮守備隊の騎士たちが私たちの行く手を阻みました。
先頭に立っているのは、アルヴィス王子の側近であるバルト卿です。
私は内心でガッツポーズを決めました。
(あら、まだ何かイベントが残っていましたの? 素晴らしいわ!)
私はカイル殿下の腕をすり抜け、あえて騎士たちの前に立ちはだかりました。
そして、これ以上ないほど不遜な態度で鼻を鳴らします。
「まあ、しつこい方。わたくしとアルヴィス殿下の縁は、たった今、綺麗さっぱり切れたはずですわ。これ以上、何の御用かしら?」
バルト卿は忌々しげに私を睨みつけ、懐から一通の書状を取り出しました。
「ミクル・フォン・アストレア。貴女の私室から、リリィ殿下の飲み物に混入されたとされる毒物の瓶が発見された。これは明白な証拠だ!」
会場の貴族たちが再びざわめき立ちます。
「毒殺未遂まで……」「なんて恐ろしい女だ」という声が耳に届きます。
しかし、私の怒りの沸点は、彼らとは全く違う場所にありました。
「……毒? ただの毒瓶が見つかった程度で、わたくしを捕らえようというのですか?」
私は扇子を握りしめ、ワナワナと肩を震わせました。
バルト卿はそれを「恐怖」だと勘違いしたのか、勝ち誇ったような笑みを浮かべます。
「そうだ。言い逃れはできんぞ!」
「ふざけないでくださいまし!」
私の怒号が響き渡り、バルト卿の笑顔が凍りつきました。
私は彼に一歩歩み寄り、その胸ぐらを掴まんばかりの勢いで詰め寄ります。
「わたくしを誰だと思っておいでですか! アストレア公爵家の至宝、ミクル・フォン・アストレアですわよ! そのわたくしが、リリィさんのような小娘を排除するために、わざわざ自室に証拠が残るような素人同然の手口を使うとお思いですの!?」
「な、何……?」
「侮辱ですわ! これはわたくしの『悪の美学』に対する、最大級の侮辱ですわ! もしわたくしが毒を使うのであれば、最低でも隣国を一つ滅ぼすほどの猛毒を、一滴の曇りもないクリスタル瓶に入れて用意いたしますわ!」
私はバルト卿の手にある書状を奪い取り、それを紙吹雪のように引き裂いてぶちまけました。
「そんな、どこの馬の骨とも知れない薬師が作ったような安物の毒でわたくしを裁こうなんて、100年……いえ、1000年早くてよ! 冤罪をかけるにしても、もっとこう、国家転覆の計略とか、禁忌の魔法の儀式とか、わたくしに相応しい大きなスケールの悪事を用意しなさいな!」
あまりの剣幕に、騎士たちは一歩、また一歩と後退りしていきます。
彼らの目には、恐怖を通り越して「この女、何を言っているんだ?」という困惑の色が浮かんでいます。
「わたくしが悪役を演じるのは、それが完璧な芸術だからですわ! そんな小粒な、セコい、三流の悪事と一緒にしないでいただけますかしら! おーっほっほっほ!」
私が高笑いしながら言い放つと、背後から大きな拍手が聞こえてきました。
「素晴らしい! 正論だ、ミクル殿! 君ほどの器であれば、確かにそんな小細工は必要ない。偽造した証拠の質があまりに低すぎて、彼女の自尊心を傷つけてしまったようだな!」
カイル殿下が、感銘を受けたという顔で私の隣に並びました。
彼はバルト卿を鋭い眼光で射抜きます。
「アルヴィスの側近よ。我が婚約者となる女性を、これ以上その程度の低い言いがかりで引き止めるな。もし彼女が本当に悪事を働きたいと言うのなら、私が喜んでそのための軍勢を貸し出そう」
「き、騎士団長閣下……それはいくら何でも……」
バルト卿は顔を青白くさせ、ガチガチと歯を鳴らしました。
隣国の最強騎士団長がバックについた「自称・稀代の悪女」ほど、手に負えない存在はありません。
「さあ、行こう。ミクル殿。君に相応しい、もっと広大で、もっと刺激的な場所へ!」
カイル殿下は私の腰を強引に抱き寄せると、そのまま会場の外へと連れ出しました。
今度は誰も、私たちを止める勇気を持つ者は現れませんでした。
夜風が頬を撫で、ようやく私の頭が少しだけ冷えてきました。
(……やってしまったわ。怒りに任せて、『もっと大きな悪事をさせろ』なんて口走ってしまいましたわ……)
馬車に放り込まれた瞬間、私は顔から火が出るほどの羞恥心に襲われました。
しかし、向かい側に座るカイル殿下は、瞳をキラキラと輝かせて私を見つめています。
「ミクル殿、先ほどの啖呵、実に惚れ惚れした! 君はやはり、この国に収まるような小さな器ではなかったということだ」
「……殿下、あの、今の話はあくまでわたくしのプライドの問題でありまして……」
「分かっている! 君は誇り高いのだな。安心しろ、我が国へ着けば、君のその溢れんばかりの『悪意』という名の情熱を、存分に発揮できる場所を用意してやる!」
(嫌な予感しかいたしませんわ……!)
馬車は夜の闇を切り裂き、隣国ヴァルハルトへとひた走ります。
私の「悪役令嬢として静かに暮らす」という計画は、早くも修正を余儀なくされていました。
「待ちたまえ! その女を逃がしてはならない!」
鋭い制止の声とともに、王宮守備隊の騎士たちが私たちの行く手を阻みました。
先頭に立っているのは、アルヴィス王子の側近であるバルト卿です。
私は内心でガッツポーズを決めました。
(あら、まだ何かイベントが残っていましたの? 素晴らしいわ!)
私はカイル殿下の腕をすり抜け、あえて騎士たちの前に立ちはだかりました。
そして、これ以上ないほど不遜な態度で鼻を鳴らします。
「まあ、しつこい方。わたくしとアルヴィス殿下の縁は、たった今、綺麗さっぱり切れたはずですわ。これ以上、何の御用かしら?」
バルト卿は忌々しげに私を睨みつけ、懐から一通の書状を取り出しました。
「ミクル・フォン・アストレア。貴女の私室から、リリィ殿下の飲み物に混入されたとされる毒物の瓶が発見された。これは明白な証拠だ!」
会場の貴族たちが再びざわめき立ちます。
「毒殺未遂まで……」「なんて恐ろしい女だ」という声が耳に届きます。
しかし、私の怒りの沸点は、彼らとは全く違う場所にありました。
「……毒? ただの毒瓶が見つかった程度で、わたくしを捕らえようというのですか?」
私は扇子を握りしめ、ワナワナと肩を震わせました。
バルト卿はそれを「恐怖」だと勘違いしたのか、勝ち誇ったような笑みを浮かべます。
「そうだ。言い逃れはできんぞ!」
「ふざけないでくださいまし!」
私の怒号が響き渡り、バルト卿の笑顔が凍りつきました。
私は彼に一歩歩み寄り、その胸ぐらを掴まんばかりの勢いで詰め寄ります。
「わたくしを誰だと思っておいでですか! アストレア公爵家の至宝、ミクル・フォン・アストレアですわよ! そのわたくしが、リリィさんのような小娘を排除するために、わざわざ自室に証拠が残るような素人同然の手口を使うとお思いですの!?」
「な、何……?」
「侮辱ですわ! これはわたくしの『悪の美学』に対する、最大級の侮辱ですわ! もしわたくしが毒を使うのであれば、最低でも隣国を一つ滅ぼすほどの猛毒を、一滴の曇りもないクリスタル瓶に入れて用意いたしますわ!」
私はバルト卿の手にある書状を奪い取り、それを紙吹雪のように引き裂いてぶちまけました。
「そんな、どこの馬の骨とも知れない薬師が作ったような安物の毒でわたくしを裁こうなんて、100年……いえ、1000年早くてよ! 冤罪をかけるにしても、もっとこう、国家転覆の計略とか、禁忌の魔法の儀式とか、わたくしに相応しい大きなスケールの悪事を用意しなさいな!」
あまりの剣幕に、騎士たちは一歩、また一歩と後退りしていきます。
彼らの目には、恐怖を通り越して「この女、何を言っているんだ?」という困惑の色が浮かんでいます。
「わたくしが悪役を演じるのは、それが完璧な芸術だからですわ! そんな小粒な、セコい、三流の悪事と一緒にしないでいただけますかしら! おーっほっほっほ!」
私が高笑いしながら言い放つと、背後から大きな拍手が聞こえてきました。
「素晴らしい! 正論だ、ミクル殿! 君ほどの器であれば、確かにそんな小細工は必要ない。偽造した証拠の質があまりに低すぎて、彼女の自尊心を傷つけてしまったようだな!」
カイル殿下が、感銘を受けたという顔で私の隣に並びました。
彼はバルト卿を鋭い眼光で射抜きます。
「アルヴィスの側近よ。我が婚約者となる女性を、これ以上その程度の低い言いがかりで引き止めるな。もし彼女が本当に悪事を働きたいと言うのなら、私が喜んでそのための軍勢を貸し出そう」
「き、騎士団長閣下……それはいくら何でも……」
バルト卿は顔を青白くさせ、ガチガチと歯を鳴らしました。
隣国の最強騎士団長がバックについた「自称・稀代の悪女」ほど、手に負えない存在はありません。
「さあ、行こう。ミクル殿。君に相応しい、もっと広大で、もっと刺激的な場所へ!」
カイル殿下は私の腰を強引に抱き寄せると、そのまま会場の外へと連れ出しました。
今度は誰も、私たちを止める勇気を持つ者は現れませんでした。
夜風が頬を撫で、ようやく私の頭が少しだけ冷えてきました。
(……やってしまったわ。怒りに任せて、『もっと大きな悪事をさせろ』なんて口走ってしまいましたわ……)
馬車に放り込まれた瞬間、私は顔から火が出るほどの羞恥心に襲われました。
しかし、向かい側に座るカイル殿下は、瞳をキラキラと輝かせて私を見つめています。
「ミクル殿、先ほどの啖呵、実に惚れ惚れした! 君はやはり、この国に収まるような小さな器ではなかったということだ」
「……殿下、あの、今の話はあくまでわたくしのプライドの問題でありまして……」
「分かっている! 君は誇り高いのだな。安心しろ、我が国へ着けば、君のその溢れんばかりの『悪意』という名の情熱を、存分に発揮できる場所を用意してやる!」
(嫌な予感しかいたしませんわ……!)
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