喜んで!悪役令嬢を極めすぎて王子にドン引きされました!

恋の箱庭

文字の大きさ
3 / 28

3

しおりを挟む
カイル殿下に強引に引きずられ、会場の重厚な扉を抜けようとしたその時です。

「待ちたまえ! その女を逃がしてはならない!」

鋭い制止の声とともに、王宮守備隊の騎士たちが私たちの行く手を阻みました。
先頭に立っているのは、アルヴィス王子の側近であるバルト卿です。

私は内心でガッツポーズを決めました。
(あら、まだ何かイベントが残っていましたの? 素晴らしいわ!)

私はカイル殿下の腕をすり抜け、あえて騎士たちの前に立ちはだかりました。
そして、これ以上ないほど不遜な態度で鼻を鳴らします。

「まあ、しつこい方。わたくしとアルヴィス殿下の縁は、たった今、綺麗さっぱり切れたはずですわ。これ以上、何の御用かしら?」

バルト卿は忌々しげに私を睨みつけ、懐から一通の書状を取り出しました。

「ミクル・フォン・アストレア。貴女の私室から、リリィ殿下の飲み物に混入されたとされる毒物の瓶が発見された。これは明白な証拠だ!」

会場の貴族たちが再びざわめき立ちます。
「毒殺未遂まで……」「なんて恐ろしい女だ」という声が耳に届きます。

しかし、私の怒りの沸点は、彼らとは全く違う場所にありました。

「……毒? ただの毒瓶が見つかった程度で、わたくしを捕らえようというのですか?」

私は扇子を握りしめ、ワナワナと肩を震わせました。
バルト卿はそれを「恐怖」だと勘違いしたのか、勝ち誇ったような笑みを浮かべます。

「そうだ。言い逃れはできんぞ!」

「ふざけないでくださいまし!」

私の怒号が響き渡り、バルト卿の笑顔が凍りつきました。
私は彼に一歩歩み寄り、その胸ぐらを掴まんばかりの勢いで詰め寄ります。

「わたくしを誰だと思っておいでですか! アストレア公爵家の至宝、ミクル・フォン・アストレアですわよ! そのわたくしが、リリィさんのような小娘を排除するために、わざわざ自室に証拠が残るような素人同然の手口を使うとお思いですの!?」

「な、何……?」

「侮辱ですわ! これはわたくしの『悪の美学』に対する、最大級の侮辱ですわ! もしわたくしが毒を使うのであれば、最低でも隣国を一つ滅ぼすほどの猛毒を、一滴の曇りもないクリスタル瓶に入れて用意いたしますわ!」

私はバルト卿の手にある書状を奪い取り、それを紙吹雪のように引き裂いてぶちまけました。

「そんな、どこの馬の骨とも知れない薬師が作ったような安物の毒でわたくしを裁こうなんて、100年……いえ、1000年早くてよ! 冤罪をかけるにしても、もっとこう、国家転覆の計略とか、禁忌の魔法の儀式とか、わたくしに相応しい大きなスケールの悪事を用意しなさいな!」

あまりの剣幕に、騎士たちは一歩、また一歩と後退りしていきます。
彼らの目には、恐怖を通り越して「この女、何を言っているんだ?」という困惑の色が浮かんでいます。

「わたくしが悪役を演じるのは、それが完璧な芸術だからですわ! そんな小粒な、セコい、三流の悪事と一緒にしないでいただけますかしら! おーっほっほっほ!」

私が高笑いしながら言い放つと、背後から大きな拍手が聞こえてきました。

「素晴らしい! 正論だ、ミクル殿! 君ほどの器であれば、確かにそんな小細工は必要ない。偽造した証拠の質があまりに低すぎて、彼女の自尊心を傷つけてしまったようだな!」

カイル殿下が、感銘を受けたという顔で私の隣に並びました。
彼はバルト卿を鋭い眼光で射抜きます。

「アルヴィスの側近よ。我が婚約者となる女性を、これ以上その程度の低い言いがかりで引き止めるな。もし彼女が本当に悪事を働きたいと言うのなら、私が喜んでそのための軍勢を貸し出そう」

「き、騎士団長閣下……それはいくら何でも……」

バルト卿は顔を青白くさせ、ガチガチと歯を鳴らしました。
隣国の最強騎士団長がバックについた「自称・稀代の悪女」ほど、手に負えない存在はありません。

「さあ、行こう。ミクル殿。君に相応しい、もっと広大で、もっと刺激的な場所へ!」

カイル殿下は私の腰を強引に抱き寄せると、そのまま会場の外へと連れ出しました。
今度は誰も、私たちを止める勇気を持つ者は現れませんでした。

夜風が頬を撫で、ようやく私の頭が少しだけ冷えてきました。

(……やってしまったわ。怒りに任せて、『もっと大きな悪事をさせろ』なんて口走ってしまいましたわ……)

馬車に放り込まれた瞬間、私は顔から火が出るほどの羞恥心に襲われました。
しかし、向かい側に座るカイル殿下は、瞳をキラキラと輝かせて私を見つめています。

「ミクル殿、先ほどの啖呵、実に惚れ惚れした! 君はやはり、この国に収まるような小さな器ではなかったということだ」

「……殿下、あの、今の話はあくまでわたくしのプライドの問題でありまして……」

「分かっている! 君は誇り高いのだな。安心しろ、我が国へ着けば、君のその溢れんばかりの『悪意』という名の情熱を、存分に発揮できる場所を用意してやる!」

(嫌な予感しかいたしませんわ……!)

馬車は夜の闇を切り裂き、隣国ヴァルハルトへとひた走ります。
私の「悪役令嬢として静かに暮らす」という計画は、早くも修正を余儀なくされていました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...