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昨夜の「一人反省会」のせいで少し目が腫れていないか心配でしたが、鏡の中の私は今日も完璧に冷徹な悪役令嬢でした。
ふう、と一つ溜息をついてから、私は気合を入れ直して部屋を出ました。
すると、廊下には既にカイル殿下が立っていました。
背後には、何やら巨大な木箱を抱えた騎士たちが数人控えています。
(……嫌な予感がしますわ。あの箱の大きさ、まさか大型の魔獣の生首でも入っているんじゃありませんこと!?)
私は内心の動揺を隠し、扇子を優雅に広げて彼を睨みました。
「あら、殿下。朝からそんな大きな荷物を運ばせて、わたくしの部屋を物置にするつもりかしら?」
カイル殿下は、私の刺々しい言葉に怯むどころか、太陽のような眩しい笑顔を向けました。
「おはよう、ミクル! いや、君が我が国に来てからというもの、騎士たちの士気は上がる一方だ。その感謝の印として、私から個人的に贈り物をしたくてな」
彼は騎士たちに合図を送りました。
重厚な木箱が床に置かれ、蓋が開けられます。
私は「ひっ」と短い悲鳴を上げそうになるのを必死で堪えました。
中から出てきたのは、血なまぐさい魔獣の素材でも、最新式の重い鉄球でもありませんでした。
「……え?」
そこに収められていたのは、淡いスミレ色の生地に、繊細なレースが幾重にも重なった、この国では見たこともないほど可憐なドレスでした。
「アストレア王国から最高の職人を呼び寄せて作らせた。君の瞳の色に似合うと思ってな。……どうだ、気に入らないか?」
カイル殿下は、珍しく少しだけ不安そうな表情で私の顔を覗き込んできました。
あの「筋肉こそ全て」と言わんばかりの彼が、わざわざ私の故郷の流行を調べ、こんなにも繊細なものを用意してくれた。
(……不意打ちは、反則ですわ)
ドクン、と心臓が跳ねました。
いつもは「覇気だ」「戦いだ」と騒がしい彼が、今はただの一人の男性として、私の喜ぶ顔を待っている。
その不器用な優しさに、私の胸の奥がじんわりと熱くなりました。
「……ふん。相変わらず、趣味が悪いですわね」
私はわざと顔を背け、冷たく言い放ちました。
そうしないと、今にも顔が真っ赤に染まってしまいそうだったからです。
「こんなひらひらした布切れ、わたくしの美貌を飾り立てるには少しばかり力不足ですわ。……ですが、せっかく用意したものを捨てさせるのも、公爵令嬢としての慈悲に欠けますわね」
私はドレスの裾を指先で軽く撫でました。
滑らかなシルクの感触が、心地よく指先に伝わります。
「仕方ありませんわ。一度だけ、袖を通して差し上げてもよくてよ」
「本当か! ああ、やはり君は優しいな、ミクル!」
カイル殿下はパッと表情を輝かせ、私の手を両手で包み込みました。
相変わらずの怪力ですが、不思議と今はその熱さが嫌ではありませんでした。
「君がこのドレスを纏って私の隣に立てば、どんな強敵も戦意を喪失するだろう。……いや、私自身が君の美しさに平伏してしまいそうだ」
「……お、おーっほっほっほ! 当たり前ですわ! わたくしを誰だと思っておいでかしら!」
私は激しく動揺する心を隠すために、精一杯の高笑いを響かせました。
でも、握られた手の温かさが、いつまでも消えずに残っていました。
(……ダメですわ、ミクル。絆されてはダメ。わたくしは悪役令嬢。恋に浮かれるヒロインではありませんのよ)
自分にそう言い聞かせながらも、私はこっそりとカイル殿下の横顔を盗み見ました。
筋肉だらけで暑苦しいと思っていたその顔が、今は少しだけ、格好よく見えてしまったのです。
「……あーあ。わたくしの人生、どんどん予定とズレていきますわね」
ポツリと漏らした独り言は、嬉しそうにドレスの説明をするカイル殿下の声に、優しくかき消されていきました。
ふう、と一つ溜息をついてから、私は気合を入れ直して部屋を出ました。
すると、廊下には既にカイル殿下が立っていました。
背後には、何やら巨大な木箱を抱えた騎士たちが数人控えています。
(……嫌な予感がしますわ。あの箱の大きさ、まさか大型の魔獣の生首でも入っているんじゃありませんこと!?)
私は内心の動揺を隠し、扇子を優雅に広げて彼を睨みました。
「あら、殿下。朝からそんな大きな荷物を運ばせて、わたくしの部屋を物置にするつもりかしら?」
カイル殿下は、私の刺々しい言葉に怯むどころか、太陽のような眩しい笑顔を向けました。
「おはよう、ミクル! いや、君が我が国に来てからというもの、騎士たちの士気は上がる一方だ。その感謝の印として、私から個人的に贈り物をしたくてな」
彼は騎士たちに合図を送りました。
重厚な木箱が床に置かれ、蓋が開けられます。
私は「ひっ」と短い悲鳴を上げそうになるのを必死で堪えました。
中から出てきたのは、血なまぐさい魔獣の素材でも、最新式の重い鉄球でもありませんでした。
「……え?」
そこに収められていたのは、淡いスミレ色の生地に、繊細なレースが幾重にも重なった、この国では見たこともないほど可憐なドレスでした。
「アストレア王国から最高の職人を呼び寄せて作らせた。君の瞳の色に似合うと思ってな。……どうだ、気に入らないか?」
カイル殿下は、珍しく少しだけ不安そうな表情で私の顔を覗き込んできました。
あの「筋肉こそ全て」と言わんばかりの彼が、わざわざ私の故郷の流行を調べ、こんなにも繊細なものを用意してくれた。
(……不意打ちは、反則ですわ)
ドクン、と心臓が跳ねました。
いつもは「覇気だ」「戦いだ」と騒がしい彼が、今はただの一人の男性として、私の喜ぶ顔を待っている。
その不器用な優しさに、私の胸の奥がじんわりと熱くなりました。
「……ふん。相変わらず、趣味が悪いですわね」
私はわざと顔を背け、冷たく言い放ちました。
そうしないと、今にも顔が真っ赤に染まってしまいそうだったからです。
「こんなひらひらした布切れ、わたくしの美貌を飾り立てるには少しばかり力不足ですわ。……ですが、せっかく用意したものを捨てさせるのも、公爵令嬢としての慈悲に欠けますわね」
私はドレスの裾を指先で軽く撫でました。
滑らかなシルクの感触が、心地よく指先に伝わります。
「仕方ありませんわ。一度だけ、袖を通して差し上げてもよくてよ」
「本当か! ああ、やはり君は優しいな、ミクル!」
カイル殿下はパッと表情を輝かせ、私の手を両手で包み込みました。
相変わらずの怪力ですが、不思議と今はその熱さが嫌ではありませんでした。
「君がこのドレスを纏って私の隣に立てば、どんな強敵も戦意を喪失するだろう。……いや、私自身が君の美しさに平伏してしまいそうだ」
「……お、おーっほっほっほ! 当たり前ですわ! わたくしを誰だと思っておいでかしら!」
私は激しく動揺する心を隠すために、精一杯の高笑いを響かせました。
でも、握られた手の温かさが、いつまでも消えずに残っていました。
(……ダメですわ、ミクル。絆されてはダメ。わたくしは悪役令嬢。恋に浮かれるヒロインではありませんのよ)
自分にそう言い聞かせながらも、私はこっそりとカイル殿下の横顔を盗み見ました。
筋肉だらけで暑苦しいと思っていたその顔が、今は少しだけ、格好よく見えてしまったのです。
「……あーあ。わたくしの人生、どんどん予定とズレていきますわね」
ポツリと漏らした独り言は、嬉しそうにドレスの説明をするカイル殿下の声に、優しくかき消されていきました。
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