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会場の盛り上がりが最高潮に達したその時、王宮の重厚な扉が、これ以上ないほど情けない音を立てて開かれました。
そこに立っていたのは、煌びやかな礼服を泥で汚し、息を切らしたアストレア王国の第一王子、アルヴィスでした。
「待て! その手を離せ、カイル殿下! ミクル、迎えに来たぞ!」
静まり返る会場。
私はカイル殿下の腕の中で、扇子をパタリと閉じました。
「あら、アルヴィス殿下。招待状もお送りしていないのに、随分と野蛮な入場の仕方ですわね。わたくしのドレスが砂埃を被ってしまったら、どう責任を取ってくださるのかしら?」
私はあえて冷徹な眼差しを向けました。
しかし、アルヴィスは私の言葉を「恐怖の裏返し」だと脳内変換したようです。
「ミクル、怖がらなくていい! 君が隣国で『覇王』だの『姐さん』だのと名乗って、必死に虚勢を張っているのは分かっている。慣れない筋肉に囲まれて、さぞ辛かっただろう!」
アルヴィスは勝手に目頭を熱くしながら、私に向かって一歩踏み出しました。
周囲の騎士たちが槍を構えようとしましたが、カイル殿下が手制止します。
「安心しろ、ミクル。私は決意したのだ。君がリリィに行った(とされる)数々の嫌がらせ、そして王宮を混乱させた罪……。それらすべてを、私がこの広い心で『許してやる』!」
会場に、冷え冷えとした沈黙が流れました。
ヴァルハルトの将軍たちが「今の、ギャグか?」と顔を見合わせています。
「さあ、戻ってこい! 君にはやはり、私の側近として……いや、公爵令嬢として、また裏から私を支える仕事が山ほどあるんだ! 感謝して、私の手を取るがいい!」
私は、三秒ほどの間を置きました。
そして、腹の底からこみ上げてくる笑いを、もはや堪えることができませんでした。
「――おーっほっほっほ! おーっほっほっほっほ!!」
私の高笑いが、石造りの天井に反響します。
アルヴィスは満足げに頷きました。
「そうか、嬉しすぎて笑いが止まらないのだな?」
「いいえ、殿下。貴方のあまりの滑稽さに、お腹の皮が捩れそうですわ。おーっほっほっほ!」
私は笑い涙を指先で拭い、氷のような微笑みを彼に突き刺しました。
「許してやる? どの口が、そのような身勝手な言葉を吐くのかしら。わたくし、今この瞬間が、人生で最も幸せなんですのよ? 毎日美味しいお肉を食べて、大好きな筋肉に囲まれて、そして何より……」
私はカイル殿下の逞しい腕に、自ら寄り添いました。
「わたくしの『覇気』を、心から愛してくれる方が隣にいますの。貴方のような、わたくしの能力を便利使いすることしか考えていない、器の小さな男性のもとへ戻る理由が、どこにありますの?」
「な、何だと……!? 覇気!? お前、毒を飲まされたのか!? そんなトゲだらけのドレスを着せられて、洗脳されているんだな!」
アルヴィスは逆上し、私の腕を掴もうと手を伸ばしました。
しかし、その指先が私の肩に触れる直前。
鋭利に磨かれた「黒曜石のトゲ」が、彼の指先をチクリと突きました。
「いたっ!!」
「あら、失礼。わたくしのドレスは『害虫』を寄せ付けない仕様になっていますの。不用意に触れると、大怪我をなさいますわよ?」
私は扇子で口元を隠し、冷酷に言い放ちました。
アルヴィスの顔が、怒りと屈辱で真っ赤に染まります。
「ミ、ミクル! お前はアストレア王国の恩を忘れたのか! お前がいなくなってから、どれだけ事務作業が滞っていると思っているんだ!」
「それは貴方の無能の結果であって、わたくしの知ったことではありませんわ。どうぞ、お帰りに。これ以上わたくしの夜会を汚すというのなら、わたくしの可愛い『駄犬』たちが、貴方を国境まで投げ飛ばして差し上げますわよ」
私の合図とともに、副団長ボルグをはじめとする騎士たちが、一斉に筋肉を隆起させて歩み出しました。
「あ、アルヴィス殿下……少し、外でお話ししましょうか」
ボルグの巨大な手が、アルヴィスの肩をガシッと掴みました。
「ひいっ」と情けない声を上げる元婚約者。
私は彼が引きずられていく背中に向かって、最後の一撃を放ちました。
「さようなら、アルヴィス殿下。リリィさんとお幸せに。あ、そうそう。わたくしが管理していた予備費、彼女がもう使い果たしている頃ではありませんかしら? おーっほっほっほ!」
扉が閉まると同時に、会場は再び爆発的な歓声に包まれました。
私は、カイル殿下の熱い視線を感じながら、勝利の美酒を口にするのでした。
そこに立っていたのは、煌びやかな礼服を泥で汚し、息を切らしたアストレア王国の第一王子、アルヴィスでした。
「待て! その手を離せ、カイル殿下! ミクル、迎えに来たぞ!」
静まり返る会場。
私はカイル殿下の腕の中で、扇子をパタリと閉じました。
「あら、アルヴィス殿下。招待状もお送りしていないのに、随分と野蛮な入場の仕方ですわね。わたくしのドレスが砂埃を被ってしまったら、どう責任を取ってくださるのかしら?」
私はあえて冷徹な眼差しを向けました。
しかし、アルヴィスは私の言葉を「恐怖の裏返し」だと脳内変換したようです。
「ミクル、怖がらなくていい! 君が隣国で『覇王』だの『姐さん』だのと名乗って、必死に虚勢を張っているのは分かっている。慣れない筋肉に囲まれて、さぞ辛かっただろう!」
アルヴィスは勝手に目頭を熱くしながら、私に向かって一歩踏み出しました。
周囲の騎士たちが槍を構えようとしましたが、カイル殿下が手制止します。
「安心しろ、ミクル。私は決意したのだ。君がリリィに行った(とされる)数々の嫌がらせ、そして王宮を混乱させた罪……。それらすべてを、私がこの広い心で『許してやる』!」
会場に、冷え冷えとした沈黙が流れました。
ヴァルハルトの将軍たちが「今の、ギャグか?」と顔を見合わせています。
「さあ、戻ってこい! 君にはやはり、私の側近として……いや、公爵令嬢として、また裏から私を支える仕事が山ほどあるんだ! 感謝して、私の手を取るがいい!」
私は、三秒ほどの間を置きました。
そして、腹の底からこみ上げてくる笑いを、もはや堪えることができませんでした。
「――おーっほっほっほ! おーっほっほっほっほ!!」
私の高笑いが、石造りの天井に反響します。
アルヴィスは満足げに頷きました。
「そうか、嬉しすぎて笑いが止まらないのだな?」
「いいえ、殿下。貴方のあまりの滑稽さに、お腹の皮が捩れそうですわ。おーっほっほっほ!」
私は笑い涙を指先で拭い、氷のような微笑みを彼に突き刺しました。
「許してやる? どの口が、そのような身勝手な言葉を吐くのかしら。わたくし、今この瞬間が、人生で最も幸せなんですのよ? 毎日美味しいお肉を食べて、大好きな筋肉に囲まれて、そして何より……」
私はカイル殿下の逞しい腕に、自ら寄り添いました。
「わたくしの『覇気』を、心から愛してくれる方が隣にいますの。貴方のような、わたくしの能力を便利使いすることしか考えていない、器の小さな男性のもとへ戻る理由が、どこにありますの?」
「な、何だと……!? 覇気!? お前、毒を飲まされたのか!? そんなトゲだらけのドレスを着せられて、洗脳されているんだな!」
アルヴィスは逆上し、私の腕を掴もうと手を伸ばしました。
しかし、その指先が私の肩に触れる直前。
鋭利に磨かれた「黒曜石のトゲ」が、彼の指先をチクリと突きました。
「いたっ!!」
「あら、失礼。わたくしのドレスは『害虫』を寄せ付けない仕様になっていますの。不用意に触れると、大怪我をなさいますわよ?」
私は扇子で口元を隠し、冷酷に言い放ちました。
アルヴィスの顔が、怒りと屈辱で真っ赤に染まります。
「ミ、ミクル! お前はアストレア王国の恩を忘れたのか! お前がいなくなってから、どれだけ事務作業が滞っていると思っているんだ!」
「それは貴方の無能の結果であって、わたくしの知ったことではありませんわ。どうぞ、お帰りに。これ以上わたくしの夜会を汚すというのなら、わたくしの可愛い『駄犬』たちが、貴方を国境まで投げ飛ばして差し上げますわよ」
私の合図とともに、副団長ボルグをはじめとする騎士たちが、一斉に筋肉を隆起させて歩み出しました。
「あ、アルヴィス殿下……少し、外でお話ししましょうか」
ボルグの巨大な手が、アルヴィスの肩をガシッと掴みました。
「ひいっ」と情けない声を上げる元婚約者。
私は彼が引きずられていく背中に向かって、最後の一撃を放ちました。
「さようなら、アルヴィス殿下。リリィさんとお幸せに。あ、そうそう。わたくしが管理していた予備費、彼女がもう使い果たしている頃ではありませんかしら? おーっほっほっほ!」
扉が閉まると同時に、会場は再び爆発的な歓声に包まれました。
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