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「……ははは。全部、知っていたのか……」
私は、展望塔の冷たい石畳の上に、そのまま膝から崩れ落ちました。
先ほどまでの、すべてを曝け出した清々しさはどこへやら。
今の私を支配しているのは、地球の裏側まで穴を掘って埋まりたいという、猛烈な羞恥心だけですわ。
「知っていた、どころではないぞ、ミクル。君の部屋の前の廊下は、夜になると最高の『劇場』に早変わりするからな。衛兵たちが交代の時間を惜しむほどだ」
カイル殿下は、さも愉快そうに腕を組み、私の頭上から爆弾を落とし続けました。
「劇場!? 衛兵さんたちまで聞いていたんですの!? わたくしの、あの、人様には決して聞かせられない独り言を!?」
「ああ。昨日の夜などは特に傑作だったぞ。『跪きなさいなんて言っちゃったけれど、本当はわたくしの方が震えて膝がガクガクでしたわー!』という叫び声の後、枕を何度も叩く音が聞こえてきた時は、流石に私も吹き出しそうになった」
(――死にたい。今すぐ、このドレスのトゲで自分を刺して、永遠の眠りにつきたいですわ!)
私は両手で顔を覆いました。
指の間から漏れる熱気が、顔面が沸騰していることを教えてくれます。
私が「完璧な悪役令嬢」としての誇りを守るために、夜な夜な一人で行っていた血の滲むような反省会。
それが、まさか筒抜けだったなんて。
「あ、あの『駄犬』という呼び名についての考察も、聞こえていましたの……?」
私は消え入りそうな声で、恐る恐る尋ねました。
「ああ。『わたくし、犬は好きだけれど、あんなに強そうなドーベルマンみたいな人たちを犬扱いするなんて、無礼にも程がありますわよね!? 噛まれたらどうしましょう!』というやつか? 安心しろ、ボルグたちはそれを聞いて『姐さんは我々のことを、高貴な猟犬として見てくださっている!』とさらに感激していたぞ」
「あの人たちの脳内変換、どうなっていますのよ! ポジティブが過ぎますわ!」
私はもはや、怒っていいのか泣いていいのか分かりませんでした。
私が「やってしまいましたわー!」と絶望していたすべての言葉が、この国の住人たちのフィルターを通すと、なぜか「慈愛」や「覇気」に変わってしまう。
この国、本当に一度、精神科の医師を招いたほうがよろしいですわ。
「ミクル。君は、自分の弱さを必死に隠して、強者の振りをしている。だが、その隠しきれない『人間らしさ』が、壁越しに漏れ聞こえてくるたびに、私は君を愛おしいと思ったのだ」
カイル殿下は、座り込む私の前に屈み込み、目線を合わせました。
その瞳は、いつになく優しく、包み込むような光を湛えています。
「自分を偽ってまで、理想の自分を演じ続ける。それは、並大抵の覚悟でできることではない。君のその『反省会』こそが、私にとっては最高の人間性の証明だった。ミクル、君は本当に、強くて、そして最高に可愛い女性だ」
「……っ。可愛いなんて、わたくしの辞書にはない言葉ですわよ」
私は顔を背けましたが、カイル殿下の手が、私の震える手をそっと握りました。
「いいじゃないか。これからは、夜の反省会も二人でやろう。君が『やってしまった』と嘆くなら、私が『いや、格好良かったぞ』と全肯定してやる。どうだ、悪い話ではないだろう?」
「……最悪ですわ。殿下と一緒に反省会なんて、羞恥プレイ以外の何物でもありませんわよ」
私は不貞腐れたように唇を尖らせましたが、繋がれた手の温かさは、決して離したくないほど心地よいものでした。
「でも……まあ。わたくしの情けない姿を知った上で、それでも隣にいろと仰るなら。……付き合って差し上げても、よくてよ」
「ははは! その言い回し、やはり君は最高の悪役令嬢だ!」
カイル殿下は私を軽々と抱き上げ、そのままくるくると回りました。
夜風が私の頬を撫で、ようやく顔の火照りが少しだけ引いていくのを感じました。
(……わたくしの秘密は、もう秘密ではなくなりましたわ。でも、どうしてかしら)
肩の荷が下りたような、不思議な開放感。
これからは、演じている自分も、素の自分も、すべてを丸ごと愛してくれるこの男の隣で、生きていけばいい。
それは、かつて私が夢見ていた「のんびりスローライフ」よりも、ずっと刺激的で、ずっと幸せな未来のように思えました。
「さあ、戻ろう。明日の朝食には、最高のプリンを用意させてある。……あ、そうだ。明日の朝の高笑いの練習は、私も一緒にやっていいか?」
「絶対に、お断りですわよ!」
私はカイル殿下の胸元をポカポカと叩きながら、展望塔を後にしました。
悶絶するほどの恥ずかしさの先に、私はようやく、本当の意味で私の居場所を見つけたのでした。
私は、展望塔の冷たい石畳の上に、そのまま膝から崩れ落ちました。
先ほどまでの、すべてを曝け出した清々しさはどこへやら。
今の私を支配しているのは、地球の裏側まで穴を掘って埋まりたいという、猛烈な羞恥心だけですわ。
「知っていた、どころではないぞ、ミクル。君の部屋の前の廊下は、夜になると最高の『劇場』に早変わりするからな。衛兵たちが交代の時間を惜しむほどだ」
カイル殿下は、さも愉快そうに腕を組み、私の頭上から爆弾を落とし続けました。
「劇場!? 衛兵さんたちまで聞いていたんですの!? わたくしの、あの、人様には決して聞かせられない独り言を!?」
「ああ。昨日の夜などは特に傑作だったぞ。『跪きなさいなんて言っちゃったけれど、本当はわたくしの方が震えて膝がガクガクでしたわー!』という叫び声の後、枕を何度も叩く音が聞こえてきた時は、流石に私も吹き出しそうになった」
(――死にたい。今すぐ、このドレスのトゲで自分を刺して、永遠の眠りにつきたいですわ!)
私は両手で顔を覆いました。
指の間から漏れる熱気が、顔面が沸騰していることを教えてくれます。
私が「完璧な悪役令嬢」としての誇りを守るために、夜な夜な一人で行っていた血の滲むような反省会。
それが、まさか筒抜けだったなんて。
「あ、あの『駄犬』という呼び名についての考察も、聞こえていましたの……?」
私は消え入りそうな声で、恐る恐る尋ねました。
「ああ。『わたくし、犬は好きだけれど、あんなに強そうなドーベルマンみたいな人たちを犬扱いするなんて、無礼にも程がありますわよね!? 噛まれたらどうしましょう!』というやつか? 安心しろ、ボルグたちはそれを聞いて『姐さんは我々のことを、高貴な猟犬として見てくださっている!』とさらに感激していたぞ」
「あの人たちの脳内変換、どうなっていますのよ! ポジティブが過ぎますわ!」
私はもはや、怒っていいのか泣いていいのか分かりませんでした。
私が「やってしまいましたわー!」と絶望していたすべての言葉が、この国の住人たちのフィルターを通すと、なぜか「慈愛」や「覇気」に変わってしまう。
この国、本当に一度、精神科の医師を招いたほうがよろしいですわ。
「ミクル。君は、自分の弱さを必死に隠して、強者の振りをしている。だが、その隠しきれない『人間らしさ』が、壁越しに漏れ聞こえてくるたびに、私は君を愛おしいと思ったのだ」
カイル殿下は、座り込む私の前に屈み込み、目線を合わせました。
その瞳は、いつになく優しく、包み込むような光を湛えています。
「自分を偽ってまで、理想の自分を演じ続ける。それは、並大抵の覚悟でできることではない。君のその『反省会』こそが、私にとっては最高の人間性の証明だった。ミクル、君は本当に、強くて、そして最高に可愛い女性だ」
「……っ。可愛いなんて、わたくしの辞書にはない言葉ですわよ」
私は顔を背けましたが、カイル殿下の手が、私の震える手をそっと握りました。
「いいじゃないか。これからは、夜の反省会も二人でやろう。君が『やってしまった』と嘆くなら、私が『いや、格好良かったぞ』と全肯定してやる。どうだ、悪い話ではないだろう?」
「……最悪ですわ。殿下と一緒に反省会なんて、羞恥プレイ以外の何物でもありませんわよ」
私は不貞腐れたように唇を尖らせましたが、繋がれた手の温かさは、決して離したくないほど心地よいものでした。
「でも……まあ。わたくしの情けない姿を知った上で、それでも隣にいろと仰るなら。……付き合って差し上げても、よくてよ」
「ははは! その言い回し、やはり君は最高の悪役令嬢だ!」
カイル殿下は私を軽々と抱き上げ、そのままくるくると回りました。
夜風が私の頬を撫で、ようやく顔の火照りが少しだけ引いていくのを感じました。
(……わたくしの秘密は、もう秘密ではなくなりましたわ。でも、どうしてかしら)
肩の荷が下りたような、不思議な開放感。
これからは、演じている自分も、素の自分も、すべてを丸ごと愛してくれるこの男の隣で、生きていけばいい。
それは、かつて私が夢見ていた「のんびりスローライフ」よりも、ずっと刺激的で、ずっと幸せな未来のように思えました。
「さあ、戻ろう。明日の朝食には、最高のプリンを用意させてある。……あ、そうだ。明日の朝の高笑いの練習は、私も一緒にやっていいか?」
「絶対に、お断りですわよ!」
私はカイル殿下の胸元をポカポカと叩きながら、展望塔を後にしました。
悶絶するほどの恥ずかしさの先に、私はようやく、本当の意味で私の居場所を見つけたのでした。
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