喜んで!悪役令嬢を極めすぎて王子にドン引きされました!

恋の箱庭

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展望塔の静寂の中、私はカイル殿下の逞しい胸を借りて、これまでの人生で一番の「素顔」を晒していました。

先ほど殿下は「気づいていた」と仰いました。
でも、どこまで知られているのでしょうか。
私のこの「悪役令嬢」という生き方が、どれほど綿密に計算された、血の滲むような「演技」の結晶であるかということを。

私は震える手で殿下のシャツを掴み、涙でボロボロになった顔を上げました。

「……殿下。気づいていたなんて、そんな生易しいものではありませんわよ。わたくしの口から、本当のことをすべてぶちまけて差し上げますわ!」

私は殿下の胸を突き放し、鼻をすすりながら彼を指差しました。
もはや優雅な扇子も、高慢な笑みもありません。

「いいですか! わたくしが毎日欠かさない、あの『おーっほっほっほ!』という高笑い。あれ、毎朝鏡の前で三十分間、喉の筋肉を痛めない発声練習をしている努力の賜物なんですのよ!」

カイル殿下は目を丸くして、私の話に聞き入っています。

「あのバサリと扇子を開く動作だって、指の関節を痛めないように、そして最も威圧感が出る角度を計算して、寝る前に百回は素振りをしていますわ! わたくしの指筋、実はそこらの文官よりずっと鍛えられてますのよ!」

「指筋の素振りだと……。なんというストイックな……」

カイル殿下が呟きましたが、私は止まりません。

「それに! あの『トゲトゲのドレス』だって、本当は肩が凝って仕方ありませんわ! 重いですし、座る時に自分の尻に刺さりそうになって、内心では冷や汗だらだらなんですの! 全然『無敵』なんかじゃありませんわ!」

私は一気に捲し立てました。
これまで誰にも言えなかった、悪役令嬢の「裏側」の苦労話です。

「わたくし、本当は毒なんて一滴も持っていませんし、呪いの儀式なんて怖くて近づけませんわ! 好きな食べ物は魔獣の心臓じゃなくて、甘くて柔らかいプリンですの! 趣味は嫌がらせじゃなくて、一人で静かにお花に水を上げることなんですのよ!」

私は息を切らしながら、最後の「告白」を叩きつけました。

「わたくしの正体は、覇王でも姐さんでもありません! ただの、少しばかり演技にこだわりのある、地味で小心者の女なんですの! これでもまだ、わたくしを愛しているなんて言えますの!?」

私は肩で息をしながら、カイル殿下の反応を待ちました。
これだけ幻滅するような事実を並べ立てれば、流石の筋肉王子も愛想を尽かすはず。

しかし、カイル殿下の反応は、私の予想を斜め上に突き抜けました。

「……ミクル。君は、君はなんて……恐ろしい女性なんだ!」

カイル殿下は顔を上気させ、わなわなと拳を握りしめました。

「高笑いのために毎朝三十分のトレーニング、扇子の素振り百回、そして自分を刺す恐怖に耐えながらの重装甲ドレス……。それは、もはや『演技』の域を超えている! 君は、自分自身を鍛え上げることで、完璧な『悪の化身』をこの世に顕現させていたのだな!」

「違いますわ! ただの趣味と見栄ですわよ!」

「いや! そのストイックさ、その克己心! 地味な自分を隠し、理想の強さを演じ続けるというその行為こそ、ヴァルハルトの戦士が目指すべき『不屈の精神』そのものではないか!」

カイル殿下は感動のあまり、私の両手を握りしめてぶんぶんと振り回しました。

「プリンが好き? いいじゃないか! 甘いものは筋肉の回復を助ける最高の栄養素だ! 花に水をやる? それは生命の尊さを知る者のみができる、高潔な慈愛の心だ!」

「…………」

私は、自分の言葉がすべて「強者のエピソード」として浄化されていく様子を、呆然と眺めるしかありませんでした。

「ミクル、君が『ただの女』だと言うのなら、世の中の戦士たちは皆、赤子同然だ! 演技でこれほどの覇気を纏える君は、やはり本物の天才だよ!」

カイル殿下は私の手を離すと、その場で満足そうに胸板を叩きました。

「安心しろ、ミクル。君のその『地味な本性』という名の、最高の秘匿事項……。私が墓場まで守り抜こう! そして、君が望むなら、明日からはプリンを主食にした特別メニューを厨房に作らせようではないか!」

「……プリンだけだと栄養が偏りますわよ。せめてパンも付けてくださいな」

私は、もう反論する気力もなくなり、溜息混じりに答えました。

(……この方、やっぱりダメですわ。わたくしがどれだけ自分を下げようとしても、自動的に神格化してしまいますのね)

でも、不思議ですわ。
本当の自分をさらけ出したのに、カイル殿下の愛は冷めるどころか、より一層暑苦しく燃え上がっている。
それが、今の私には……何よりも心強く、そして心地よく感じられたのです。

「……殿下。わたくし、もう一度だけ言いますわよ。わたくし、本当にわがままですからね? これからは『悪役令嬢』の演技の合間に、プリンを要求したり、愚痴をこぼしたりしますわよ?」

「ああ、いくらでも聞こう! 君の愚痴は、私にとって最高の子守唄だ!」

私は再びカイル殿下の胸に顔を埋め、今度は幸せな溜息をつきました。

「……全く。世界一、おかしな殿下ですわ」

月光が照らす展望塔で、私たちの奇妙で、それでいて最高に純粋な関係が、ようやく本当のスタートを切ったのでした。
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