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王宮のメインホールへと続く、豪華絢爛な大階段。
こここそが、悪役令嬢がヒロインを突き落とし、王子に決定的な絶望を与える聖地。
私は今日、ついにこの「禁断の手」に染まる決意を固めていた。
「……マリア、本当にやるの? さすがに階段は危ないわよ。私、運動神経は悪くないけど、転び方までは習っていないわ」
隣でガタガタと震えているのは、前回の失敗に懲りずに呼び出された親友ソフィアだ。
「大丈夫よ、ソフィア。本当に突き落としたりしませんわ。私があなたの背中に手を触れた瞬間に、あなたが『キャー!』と叫んで座り込めばいいだけですの」
「……それ、殿下が見ていたら、ただの不自然な寸劇に見えないかしら?」
「いいえ! 殿下のあのフィルターなら、不自然な動きも『劇的なドラマ』に変換されるはずですわ。さあ、殿下がいらしたわよ!」
階段の下から、ケイン様を伴ったレオンハルト殿下が歩いてくる。
私はソフィアの背後に回り、扇をバサリと広げた。
「オーーッホッホ! ソフィア様、そんなところに立っていると危ないですわよ? 例えば……こうして差し上げたらどうかしら!」
私は叫びながら、ソフィアの背中に向かって勢いよく両手を突き出した。
「キャ、キャー(棒読み)」
ソフィアが予定通りの悲鳴を上げる。
しかし、ここで計算外の事態が発生した。
私の足元には、昨日ワックスがけをされたばかりの、ピカピカの床。
そして、私が履いているのは、気合を入れすぎて新調した「滑りやすい最高級のシルク靴」。
スカッ。
手応えがない。
ソフィアに触れる寸前、私の足が面白いほど綺麗に後方へ滑った。
「……え? あ、あばばばば!」
「マリア!? ちょっと、そっちの方が危ないわよ!」
突き落とすはずだった私が、重心を崩して階段の縁から真っ逆さまにダイブした。
視界が回転する。
ああ、終わった。悪役令嬢になる前に、無能令嬢として地面の染みになるのね……。
「マリア!!」
鋭い叫び声と共に、視界に金色の閃光が走った。
ドサッ、という鈍い音。
しかし、痛みはない。代わりに、全身を包み込むような温かさと、爽やかなシトラスの香りが鼻をくすぐった。
「……ひ、生きてる?」
恐る恐る目を開けると、そこには私を横抱きにし、必死の形相で私を見つめるレオンハルト様の顔があった。
「ああ、神よ……! 無事でよかった、マリア。君を失ったら、僕は今日この場で帝国を滅ぼしていたかもしれない」
「で、殿下。あの、重いですわよね? 降ろしてくださって結構ですのよ?」
「降ろせるわけがないだろう! こんなに震えているじゃないか」
レオンハルト様は私をさらに強く抱きしめた。
……いや、震えているのは、自業自得の恥ずかしさのせいなのですが。
「マリア……君は、なんて慈悲深いんだ。僕は今、すべてを理解したよ」
「……はい?」
出た。
王子の「超絶解釈」タイムだ。
レオンハルト様は、階段の上で呆然としているソフィアを見上げた。
「ソフィア嬢。君は、靴の紐が解けていたか、あるいは体調を崩してふらついていたんだろう? マリアは君が階段から落ちるのを察知し、自らがクッションになるために、あえて先に身を投げ出したんだね」
「……えっ?」
ソフィアが困惑の表情を浮かべる。
私も困惑している。私は今、彼女を突き落とそうとしたはずなのですが。
「君は自分の命を懸けて、親友を守った。その……『自分が悪役に見えるようなセリフ』を叫びながら。それは、助けた後にソフィア嬢が気まずい思いをしないように、わざと憎まれ口を叩いたんだろう?」
「ち、違いますわ! 私は純粋に彼女を……!」
「言わなくていい。君の『不器用な優しさ』には、言葉も出ないよ。ケイン! 今すぐ階段に世界最高級の滑り止めマットを敷き詰めろ! あと、マリアのこの勇気ある行動を称え、記念硬貨の発行を検討するんだ!」
「殿下、いい加減にしてください。それはただの転倒です。物理法則に従っただけの自爆です」
ケイン様の冷静なツッコミも、もはや背景音に過ぎない。
「マリア、今日はもう何もさせないよ。君のその尊い体が傷つかないよう、寝室まで僕が運んで、一晩中君の安全を確認し続けるからね」
「一晩中!? それ、別の意味で私の身が危ない気がしますわ!!」
私は殿下の腕の中で暴れたが、彼はそれを「照れ隠しのダンス」と受け取り、幸せそうに微笑みながら階段を駆け上がっていった。
悪役令嬢への道。
第七の作戦は、物理法則すら味方につけた王子の盲目的な愛の前に、完膚なきまでに叩き潰されたのであった。
こここそが、悪役令嬢がヒロインを突き落とし、王子に決定的な絶望を与える聖地。
私は今日、ついにこの「禁断の手」に染まる決意を固めていた。
「……マリア、本当にやるの? さすがに階段は危ないわよ。私、運動神経は悪くないけど、転び方までは習っていないわ」
隣でガタガタと震えているのは、前回の失敗に懲りずに呼び出された親友ソフィアだ。
「大丈夫よ、ソフィア。本当に突き落としたりしませんわ。私があなたの背中に手を触れた瞬間に、あなたが『キャー!』と叫んで座り込めばいいだけですの」
「……それ、殿下が見ていたら、ただの不自然な寸劇に見えないかしら?」
「いいえ! 殿下のあのフィルターなら、不自然な動きも『劇的なドラマ』に変換されるはずですわ。さあ、殿下がいらしたわよ!」
階段の下から、ケイン様を伴ったレオンハルト殿下が歩いてくる。
私はソフィアの背後に回り、扇をバサリと広げた。
「オーーッホッホ! ソフィア様、そんなところに立っていると危ないですわよ? 例えば……こうして差し上げたらどうかしら!」
私は叫びながら、ソフィアの背中に向かって勢いよく両手を突き出した。
「キャ、キャー(棒読み)」
ソフィアが予定通りの悲鳴を上げる。
しかし、ここで計算外の事態が発生した。
私の足元には、昨日ワックスがけをされたばかりの、ピカピカの床。
そして、私が履いているのは、気合を入れすぎて新調した「滑りやすい最高級のシルク靴」。
スカッ。
手応えがない。
ソフィアに触れる寸前、私の足が面白いほど綺麗に後方へ滑った。
「……え? あ、あばばばば!」
「マリア!? ちょっと、そっちの方が危ないわよ!」
突き落とすはずだった私が、重心を崩して階段の縁から真っ逆さまにダイブした。
視界が回転する。
ああ、終わった。悪役令嬢になる前に、無能令嬢として地面の染みになるのね……。
「マリア!!」
鋭い叫び声と共に、視界に金色の閃光が走った。
ドサッ、という鈍い音。
しかし、痛みはない。代わりに、全身を包み込むような温かさと、爽やかなシトラスの香りが鼻をくすぐった。
「……ひ、生きてる?」
恐る恐る目を開けると、そこには私を横抱きにし、必死の形相で私を見つめるレオンハルト様の顔があった。
「ああ、神よ……! 無事でよかった、マリア。君を失ったら、僕は今日この場で帝国を滅ぼしていたかもしれない」
「で、殿下。あの、重いですわよね? 降ろしてくださって結構ですのよ?」
「降ろせるわけがないだろう! こんなに震えているじゃないか」
レオンハルト様は私をさらに強く抱きしめた。
……いや、震えているのは、自業自得の恥ずかしさのせいなのですが。
「マリア……君は、なんて慈悲深いんだ。僕は今、すべてを理解したよ」
「……はい?」
出た。
王子の「超絶解釈」タイムだ。
レオンハルト様は、階段の上で呆然としているソフィアを見上げた。
「ソフィア嬢。君は、靴の紐が解けていたか、あるいは体調を崩してふらついていたんだろう? マリアは君が階段から落ちるのを察知し、自らがクッションになるために、あえて先に身を投げ出したんだね」
「……えっ?」
ソフィアが困惑の表情を浮かべる。
私も困惑している。私は今、彼女を突き落とそうとしたはずなのですが。
「君は自分の命を懸けて、親友を守った。その……『自分が悪役に見えるようなセリフ』を叫びながら。それは、助けた後にソフィア嬢が気まずい思いをしないように、わざと憎まれ口を叩いたんだろう?」
「ち、違いますわ! 私は純粋に彼女を……!」
「言わなくていい。君の『不器用な優しさ』には、言葉も出ないよ。ケイン! 今すぐ階段に世界最高級の滑り止めマットを敷き詰めろ! あと、マリアのこの勇気ある行動を称え、記念硬貨の発行を検討するんだ!」
「殿下、いい加減にしてください。それはただの転倒です。物理法則に従っただけの自爆です」
ケイン様の冷静なツッコミも、もはや背景音に過ぎない。
「マリア、今日はもう何もさせないよ。君のその尊い体が傷つかないよう、寝室まで僕が運んで、一晩中君の安全を確認し続けるからね」
「一晩中!? それ、別の意味で私の身が危ない気がしますわ!!」
私は殿下の腕の中で暴れたが、彼はそれを「照れ隠しのダンス」と受け取り、幸せそうに微笑みながら階段を駆け上がっていった。
悪役令嬢への道。
第七の作戦は、物理法則すら味方につけた王子の盲目的な愛の前に、完膚なきまでに叩き潰されたのであった。
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