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「……今日こそは、今日こそは殿下の堪忍袋の緒をぶち切って差し上げますわ!」
私は鏡の前で、不敵な笑みを浮かべていた。
昨日の「ブドウジュース事件」は一生の汚点。
殿下の過保護によって私の悪事はすべて「可愛らしいわがまま」というフィルターを通されてしまった。
ならば、次は『強欲な悪女』を演じるまでです。
この国で最も忌み嫌われるのは、真心を踏みにじる傲慢な女性。
殿下が用意してくださる素晴らしい贈り物を、鼻で笑って投げ捨てる。
これぞ、誠実な殿下が最も軽蔑する振る舞いに違いありませんわ!
ちょうどその時、ノックの音と共に、いつものように輝くような笑顔を湛えたレオンハルト殿下が入ってきた。
「おはよう、マリア。昨日のジュースの酔いは冷めたかい? 今日は君に、特別なプレゼントを持ってきたんだ」
「あら、また贈り物ですの? 殿下も暇人ですわね。まあ、一応見て差し上げますわ。オーッホッホッホ!」
私は椅子に深く腰掛け、足を組んで殿下を見下ろした。
レオンハルト殿下は、後ろに控えていたケイン様から小さな革の箱を受け取る。
「君の瞳に似た、最高級のサファイアで作らせたネックレスだよ。職人が三ヶ月かけて磨き上げた逸品だ」
箱が開かれた瞬間、目の前が青い光に包まれた。
確かに美しい。私のような無能令嬢には、身につけることすら躊躇われるほどの代物だ。
……でも、ここで怯んではいけませんわ!
「……なんですの、これ。たったこれだけ? 粒が小さすぎて、砂利かと思いましたわ。こんな安物、ベル家の犬の首輪にもなりませんことよ!」
私は鼻で笑い、差し出された箱をテーブルの上でバシィッ! と弾き飛ばした。
サファイアが床を転がり、虚しく壁に当たって止まる。
静まり返る室内。
よし……! やりましたわ!
殿下の誠実な真心がこもったプレゼントを、私は今、完膚なきまでに侮辱しました!
レオンハルト様は、床に転がったネックレスをじっと見つめている。
さあ、怒鳴りなさい! 私に愛想を尽かして、「二度と顔を見せるな」と叫ぶのです!
「……ああ、そうか。マリア、君は……」
レオンハルト様が、ポツリと呟いた。
その声は震えている。怒りのあまり震えているのね!?
「君は、僕という人間を試していたんだね?」
「……え? 試す?」
「こんな既製品の宝石一つで、君という稀代の女性を満足させられると思っていた、僕の浅はかさを……。マリア、君は本物を見抜く力を持っているんだ」
レオンハルト様は、ハッとした表情で私を見つめ返した。
その瞳には、軽蔑どころか、新境地に目覚めたかのような熱い輝きが宿っている。
「殿下。一応言っておきますが、それは帝国で三つとない国宝級のサファイアです」
ケイン様の冷静な補足が入るが、殿下の耳には届かない。
「マリアが言った通りだ! 研磨された後の宝石など、死んだ石に過ぎない。君は、石そのものではなく、その『源流』を求めているんだろう? 君という気高い女性に相応しいのは、誰かが用意した小石ではなく、大地の鼓動そのものだ!」
「……殿下? 話のスケールが、なんだかおかしな方向へ……」
「ケイン! 今すぐ隣国にあるサファイアの鉱山を買い取れ! 採掘権から周辺の土地まですべてだ。これからは、マリアが自ら鉱山に足を運び、気に入った原石を好きなだけ掘り出せるようにする!」
「殿下、本気ですか。外交問題になりますよ」
「マリアの笑顔のためなら、戦争も辞さない! 彼女は『安物は要らない』と言った。つまり、世界の富の源泉を寄越せという、支配者としての宣言なんだ。……ああ、マリア! 君のその強欲さ、なんて格好いいんだ!」
レオンハルト様は、呆然とする私の手を取り、跪いてその甲に熱いキスを落とした。
「ち、違いますわ! 私はただ、あなたの贈り物をバカにしたかっただけで、鉱山を経営したいなんて一言も……!」
「謙遜しなくていい。君のその飽くなき向上心が、僕を奮い立たせる。今日から君は、帝国最大の鉱山主だ。さあ、今すぐ視察の準備をしよう!」
「待ってください! 私、宝石の鑑定なんてできませんし、泥だらけになって穴を掘るなんて嫌ですわ!!」
「大丈夫だよ、マリア。君は椅子に座って指をさすだけでいい。君が『これ』と言った場所を、僕が自らスコップで掘り進めてみせるからね」
「王子の仕事じゃありませんわーーーーー!!!」
私の「贈り物拒否作戦」は、王子の「突き抜けた誠実さ」と「異常な財力」のせいで、私が一国の資源を独占する一大事業へと発展してしまった。
どうして。どうして性格の悪さをアピールしたはずが、向上心の塊のような偉大な女性として尊敬されてしまうのか。
悪役令嬢への道。
第十一の作戦は、宝石よりも硬い王子の盲目的な愛によって、私の肩書きをまた一つ重く(物理的にも経済的にも)するだけで終わったのであった。
私は鏡の前で、不敵な笑みを浮かべていた。
昨日の「ブドウジュース事件」は一生の汚点。
殿下の過保護によって私の悪事はすべて「可愛らしいわがまま」というフィルターを通されてしまった。
ならば、次は『強欲な悪女』を演じるまでです。
この国で最も忌み嫌われるのは、真心を踏みにじる傲慢な女性。
殿下が用意してくださる素晴らしい贈り物を、鼻で笑って投げ捨てる。
これぞ、誠実な殿下が最も軽蔑する振る舞いに違いありませんわ!
ちょうどその時、ノックの音と共に、いつものように輝くような笑顔を湛えたレオンハルト殿下が入ってきた。
「おはよう、マリア。昨日のジュースの酔いは冷めたかい? 今日は君に、特別なプレゼントを持ってきたんだ」
「あら、また贈り物ですの? 殿下も暇人ですわね。まあ、一応見て差し上げますわ。オーッホッホッホ!」
私は椅子に深く腰掛け、足を組んで殿下を見下ろした。
レオンハルト殿下は、後ろに控えていたケイン様から小さな革の箱を受け取る。
「君の瞳に似た、最高級のサファイアで作らせたネックレスだよ。職人が三ヶ月かけて磨き上げた逸品だ」
箱が開かれた瞬間、目の前が青い光に包まれた。
確かに美しい。私のような無能令嬢には、身につけることすら躊躇われるほどの代物だ。
……でも、ここで怯んではいけませんわ!
「……なんですの、これ。たったこれだけ? 粒が小さすぎて、砂利かと思いましたわ。こんな安物、ベル家の犬の首輪にもなりませんことよ!」
私は鼻で笑い、差し出された箱をテーブルの上でバシィッ! と弾き飛ばした。
サファイアが床を転がり、虚しく壁に当たって止まる。
静まり返る室内。
よし……! やりましたわ!
殿下の誠実な真心がこもったプレゼントを、私は今、完膚なきまでに侮辱しました!
レオンハルト様は、床に転がったネックレスをじっと見つめている。
さあ、怒鳴りなさい! 私に愛想を尽かして、「二度と顔を見せるな」と叫ぶのです!
「……ああ、そうか。マリア、君は……」
レオンハルト様が、ポツリと呟いた。
その声は震えている。怒りのあまり震えているのね!?
「君は、僕という人間を試していたんだね?」
「……え? 試す?」
「こんな既製品の宝石一つで、君という稀代の女性を満足させられると思っていた、僕の浅はかさを……。マリア、君は本物を見抜く力を持っているんだ」
レオンハルト様は、ハッとした表情で私を見つめ返した。
その瞳には、軽蔑どころか、新境地に目覚めたかのような熱い輝きが宿っている。
「殿下。一応言っておきますが、それは帝国で三つとない国宝級のサファイアです」
ケイン様の冷静な補足が入るが、殿下の耳には届かない。
「マリアが言った通りだ! 研磨された後の宝石など、死んだ石に過ぎない。君は、石そのものではなく、その『源流』を求めているんだろう? 君という気高い女性に相応しいのは、誰かが用意した小石ではなく、大地の鼓動そのものだ!」
「……殿下? 話のスケールが、なんだかおかしな方向へ……」
「ケイン! 今すぐ隣国にあるサファイアの鉱山を買い取れ! 採掘権から周辺の土地まですべてだ。これからは、マリアが自ら鉱山に足を運び、気に入った原石を好きなだけ掘り出せるようにする!」
「殿下、本気ですか。外交問題になりますよ」
「マリアの笑顔のためなら、戦争も辞さない! 彼女は『安物は要らない』と言った。つまり、世界の富の源泉を寄越せという、支配者としての宣言なんだ。……ああ、マリア! 君のその強欲さ、なんて格好いいんだ!」
レオンハルト様は、呆然とする私の手を取り、跪いてその甲に熱いキスを落とした。
「ち、違いますわ! 私はただ、あなたの贈り物をバカにしたかっただけで、鉱山を経営したいなんて一言も……!」
「謙遜しなくていい。君のその飽くなき向上心が、僕を奮い立たせる。今日から君は、帝国最大の鉱山主だ。さあ、今すぐ視察の準備をしよう!」
「待ってください! 私、宝石の鑑定なんてできませんし、泥だらけになって穴を掘るなんて嫌ですわ!!」
「大丈夫だよ、マリア。君は椅子に座って指をさすだけでいい。君が『これ』と言った場所を、僕が自らスコップで掘り進めてみせるからね」
「王子の仕事じゃありませんわーーーーー!!!」
私の「贈り物拒否作戦」は、王子の「突き抜けた誠実さ」と「異常な財力」のせいで、私が一国の資源を独占する一大事業へと発展してしまった。
どうして。どうして性格の悪さをアピールしたはずが、向上心の塊のような偉大な女性として尊敬されてしまうのか。
悪役令嬢への道。
第十一の作戦は、宝石よりも硬い王子の盲目的な愛によって、私の肩書きをまた一つ重く(物理的にも経済的にも)するだけで終わったのであった。
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