愛が重すぎると言われまして。婚約破棄された悪役令嬢。

恋の箱庭

文字の大きさ
20 / 28

20

しおりを挟む
「……ははは! カインよ、道連れだ! この屋敷に仕掛けられた自爆装置が今、作動した! あと三十秒で、すべてが灰に帰るのだ!」


 床に伏したレイヴン卿が、狂ったように笑いながら最後の手を打ちました。


 ズズズ、と足元から不気味な地鳴りが響き始め、壁には亀裂が走り、天井からは巨大なシャンデリアが落下してきます。


「……ノワール、逃げろ! ここは私が食い止める。君だけでも、アンと一緒に外へ!」


 カイン卿が私を突き飛ばすようにして、崩れゆく出口を指差しました。


 あらあら。カイン卿ったら、何を仰っていますの?


「お断りしますわ、カイン卿。……愛する方を置いて、自分だけ生き延びるなんて。……それは私の『重すぎる辞書』には載っておりませんの」


「……ノワール! だが、もう時間がない! この瓦礫の山を突破して外へ出るには、私の足では間に合わないんだ!」


「……ふふ。……ならば、私の足を使えばよろしいだけですわ」


 私は、カイン卿の腰にスッと手を回しました。


「……え? ノワール、何を――」


「失礼いたしますわね。……『愛の運搬(キャリー)』――!」


 私は、自分より頭一つ分背の高いカイン卿を、軽々と「お姫様抱っこ」で持ち上げました。


「……なっ!? ななな、ノワール!? 君、私を……持ち上げたのか!?」


「ええ。……この方が、空気抵抗が少なくて、重心のコントロールもしやすいのですわ。……さあ、アン! 私の背中にしっかり掴まってちょうだい!」


「了解いたしました、お嬢様。……加速時の衝撃に備えます」


 アンが私の背中に飛び乗ると、私は一気に脚力を解放しました。


 ドドォォォン! という爆発音と共に、背後で広間が崩落します。


 私は、降ってくる瓦礫を空中で蹴り飛ばし、足場にしてさらに高く跳躍しました。


「……飛ぶわよ、カイン卿! ……舌を噛まないように、私にしっかり抱きついていてくださいな!」


「……。……。ああ、分かった。……もはや、君に身を任せるしかないようだな……!」


 カイン卿が私の首に腕を回した瞬間、私は屋敷の三階の窓を突き破り、夜空へと飛び出しました。


 背後で『霧の屋敷』が巨大な火柱を上げて爆発し、崩れ落ちていきます。


 私は夜風を切り裂きながら、近くの巨木の枝をしならせて着地の衝撃を逃がし、音もなく地面に降り立ちました。


 ……ふぅ。……「普通の令嬢の、優雅な脱出」としては、百点満点ですわね。


「……。……。ノワール。……君は、本当に……底が知れないな」


 地面に下ろされたカイン卿が、少し顔を赤くしながら、乱れた前髪を整えました。


「……お姫様抱っこをされる騎士団長など、前代未聞だ。……だが、君の腕の中は……驚くほど安定していて、不思議と安心した」


「おほほ。……カイン卿、光栄ですわ。……私の腕力は、すべて『殿下をどこへでもお運びする』ために鍛え上げたものですけれど。……これからは、カイン卿専用の乗り物(?)として活用させていただきますわね」


「……乗り物、か。……ふっ、悪くないな。……君に運ばれるなら、地獄の果てでも構わない」


 カイン卿は、爆炎を背景に、私の額にそっとキスをしました。


 ……ああ。……なんてロマンチックな結末かしら。


 一方その頃。王宮のバルコニー。


「……あああ! 今、遠くの空で、巨大な火柱が上がった気がする!」


 セドリック殿下が、震えながら夜空を指差していました。


「殿下、またですか? ……あれはただの、雷か何かでしょう」


 ルルネさんが冷めた目で見ていますが、セドリック殿下のパニックは止まりません。


「違う! 今の火柱の中に、ノワールが、ノワールがお姫様抱っこで誰かを運んでいるシルエットが見えたんだ! ……あんなの、あいつにしかできない業(わざ)だ!」


「……殿下、視力が良すぎませんか?」


「ノワールのことだけは、一キロ先でも分かるんだよ! ……ああ、あのお姫様抱っこ……。……かつて私が、風邪を引いた時に、あいつが寝室まで運んでくれたあの温もり……。……今度は、別の男を運んでいるのかぁぁぁ!」


 セドリック殿下は、地面に突っ伏して号泣し始めました。


「……戻ってきてくれノワール! ……私が悪かった! ……重くてもいい! ……首が折れるほど抱きしめられてもいいから、私を運んでくれぇぇぇ!」


 殿下の魂の叫びは、夜の静寂に虚しく響くばかりでした。


 一方、私は。


「……さあ、カイン卿。……屋敷も片付きましたし、次は……カイン卿の寝室の、完璧な警備プランを練り直しましょうか?」


「……ああ。……一晩中、たっぷりとな」


 カイン卿の不敵な笑みに、私の愛は、ますます密度を増していくのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました

相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。 ――男らしい? ゴリラ? クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。 デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。

皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。 この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。 そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。 ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。 なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。 ※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

妻の私は旦那様の愛人の一人だった

アズやっこ
恋愛
政略結婚は家と家との繋がり、そこに愛は必要ない。 そんな事、分かっているわ。私も貴族、恋愛結婚ばかりじゃない事くらい分かってる…。 貴方は酷い人よ。 羊の皮を被った狼。優しい人だと、誠実な人だと、婚約中の貴方は例え政略でも私と向き合ってくれた。 私は生きる屍。 貴方は悪魔よ! 一人の女性を護る為だけに私と結婚したなんて…。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定ゆるいです。

彼は亡国の令嬢を愛せない

黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。 ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。 ※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。 ※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。

わたしはくじ引きで選ばれたにすぎない婚約者だったらしい

よーこ
恋愛
特に美しくもなく、賢くもなく、家柄はそこそこでしかない伯爵令嬢リリアーナは、婚約後六年経ったある日、婚約者である大好きな第二王子に自分が未来の王子妃として選ばれた理由を尋ねてみた。 王子の答えはこうだった。 「くじで引いた紙にリリアーナの名前が書かれていたから」 え、わたし、そんな取るに足らない存在でしかなかったの?! 思い出してみれば、今まで王子に「好きだ」みたいなことを言われたことがない。 ショックを受けたリリアーナは……。

処理中です...