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「……ははは! カインよ、道連れだ! この屋敷に仕掛けられた自爆装置が今、作動した! あと三十秒で、すべてが灰に帰るのだ!」
床に伏したレイヴン卿が、狂ったように笑いながら最後の手を打ちました。
ズズズ、と足元から不気味な地鳴りが響き始め、壁には亀裂が走り、天井からは巨大なシャンデリアが落下してきます。
「……ノワール、逃げろ! ここは私が食い止める。君だけでも、アンと一緒に外へ!」
カイン卿が私を突き飛ばすようにして、崩れゆく出口を指差しました。
あらあら。カイン卿ったら、何を仰っていますの?
「お断りしますわ、カイン卿。……愛する方を置いて、自分だけ生き延びるなんて。……それは私の『重すぎる辞書』には載っておりませんの」
「……ノワール! だが、もう時間がない! この瓦礫の山を突破して外へ出るには、私の足では間に合わないんだ!」
「……ふふ。……ならば、私の足を使えばよろしいだけですわ」
私は、カイン卿の腰にスッと手を回しました。
「……え? ノワール、何を――」
「失礼いたしますわね。……『愛の運搬(キャリー)』――!」
私は、自分より頭一つ分背の高いカイン卿を、軽々と「お姫様抱っこ」で持ち上げました。
「……なっ!? ななな、ノワール!? 君、私を……持ち上げたのか!?」
「ええ。……この方が、空気抵抗が少なくて、重心のコントロールもしやすいのですわ。……さあ、アン! 私の背中にしっかり掴まってちょうだい!」
「了解いたしました、お嬢様。……加速時の衝撃に備えます」
アンが私の背中に飛び乗ると、私は一気に脚力を解放しました。
ドドォォォン! という爆発音と共に、背後で広間が崩落します。
私は、降ってくる瓦礫を空中で蹴り飛ばし、足場にしてさらに高く跳躍しました。
「……飛ぶわよ、カイン卿! ……舌を噛まないように、私にしっかり抱きついていてくださいな!」
「……。……。ああ、分かった。……もはや、君に身を任せるしかないようだな……!」
カイン卿が私の首に腕を回した瞬間、私は屋敷の三階の窓を突き破り、夜空へと飛び出しました。
背後で『霧の屋敷』が巨大な火柱を上げて爆発し、崩れ落ちていきます。
私は夜風を切り裂きながら、近くの巨木の枝をしならせて着地の衝撃を逃がし、音もなく地面に降り立ちました。
……ふぅ。……「普通の令嬢の、優雅な脱出」としては、百点満点ですわね。
「……。……。ノワール。……君は、本当に……底が知れないな」
地面に下ろされたカイン卿が、少し顔を赤くしながら、乱れた前髪を整えました。
「……お姫様抱っこをされる騎士団長など、前代未聞だ。……だが、君の腕の中は……驚くほど安定していて、不思議と安心した」
「おほほ。……カイン卿、光栄ですわ。……私の腕力は、すべて『殿下をどこへでもお運びする』ために鍛え上げたものですけれど。……これからは、カイン卿専用の乗り物(?)として活用させていただきますわね」
「……乗り物、か。……ふっ、悪くないな。……君に運ばれるなら、地獄の果てでも構わない」
カイン卿は、爆炎を背景に、私の額にそっとキスをしました。
……ああ。……なんてロマンチックな結末かしら。
一方その頃。王宮のバルコニー。
「……あああ! 今、遠くの空で、巨大な火柱が上がった気がする!」
セドリック殿下が、震えながら夜空を指差していました。
「殿下、またですか? ……あれはただの、雷か何かでしょう」
ルルネさんが冷めた目で見ていますが、セドリック殿下のパニックは止まりません。
「違う! 今の火柱の中に、ノワールが、ノワールがお姫様抱っこで誰かを運んでいるシルエットが見えたんだ! ……あんなの、あいつにしかできない業(わざ)だ!」
「……殿下、視力が良すぎませんか?」
「ノワールのことだけは、一キロ先でも分かるんだよ! ……ああ、あのお姫様抱っこ……。……かつて私が、風邪を引いた時に、あいつが寝室まで運んでくれたあの温もり……。……今度は、別の男を運んでいるのかぁぁぁ!」
セドリック殿下は、地面に突っ伏して号泣し始めました。
「……戻ってきてくれノワール! ……私が悪かった! ……重くてもいい! ……首が折れるほど抱きしめられてもいいから、私を運んでくれぇぇぇ!」
殿下の魂の叫びは、夜の静寂に虚しく響くばかりでした。
一方、私は。
「……さあ、カイン卿。……屋敷も片付きましたし、次は……カイン卿の寝室の、完璧な警備プランを練り直しましょうか?」
「……ああ。……一晩中、たっぷりとな」
カイン卿の不敵な笑みに、私の愛は、ますます密度を増していくのでした。
床に伏したレイヴン卿が、狂ったように笑いながら最後の手を打ちました。
ズズズ、と足元から不気味な地鳴りが響き始め、壁には亀裂が走り、天井からは巨大なシャンデリアが落下してきます。
「……ノワール、逃げろ! ここは私が食い止める。君だけでも、アンと一緒に外へ!」
カイン卿が私を突き飛ばすようにして、崩れゆく出口を指差しました。
あらあら。カイン卿ったら、何を仰っていますの?
「お断りしますわ、カイン卿。……愛する方を置いて、自分だけ生き延びるなんて。……それは私の『重すぎる辞書』には載っておりませんの」
「……ノワール! だが、もう時間がない! この瓦礫の山を突破して外へ出るには、私の足では間に合わないんだ!」
「……ふふ。……ならば、私の足を使えばよろしいだけですわ」
私は、カイン卿の腰にスッと手を回しました。
「……え? ノワール、何を――」
「失礼いたしますわね。……『愛の運搬(キャリー)』――!」
私は、自分より頭一つ分背の高いカイン卿を、軽々と「お姫様抱っこ」で持ち上げました。
「……なっ!? ななな、ノワール!? 君、私を……持ち上げたのか!?」
「ええ。……この方が、空気抵抗が少なくて、重心のコントロールもしやすいのですわ。……さあ、アン! 私の背中にしっかり掴まってちょうだい!」
「了解いたしました、お嬢様。……加速時の衝撃に備えます」
アンが私の背中に飛び乗ると、私は一気に脚力を解放しました。
ドドォォォン! という爆発音と共に、背後で広間が崩落します。
私は、降ってくる瓦礫を空中で蹴り飛ばし、足場にしてさらに高く跳躍しました。
「……飛ぶわよ、カイン卿! ……舌を噛まないように、私にしっかり抱きついていてくださいな!」
「……。……。ああ、分かった。……もはや、君に身を任せるしかないようだな……!」
カイン卿が私の首に腕を回した瞬間、私は屋敷の三階の窓を突き破り、夜空へと飛び出しました。
背後で『霧の屋敷』が巨大な火柱を上げて爆発し、崩れ落ちていきます。
私は夜風を切り裂きながら、近くの巨木の枝をしならせて着地の衝撃を逃がし、音もなく地面に降り立ちました。
……ふぅ。……「普通の令嬢の、優雅な脱出」としては、百点満点ですわね。
「……。……。ノワール。……君は、本当に……底が知れないな」
地面に下ろされたカイン卿が、少し顔を赤くしながら、乱れた前髪を整えました。
「……お姫様抱っこをされる騎士団長など、前代未聞だ。……だが、君の腕の中は……驚くほど安定していて、不思議と安心した」
「おほほ。……カイン卿、光栄ですわ。……私の腕力は、すべて『殿下をどこへでもお運びする』ために鍛え上げたものですけれど。……これからは、カイン卿専用の乗り物(?)として活用させていただきますわね」
「……乗り物、か。……ふっ、悪くないな。……君に運ばれるなら、地獄の果てでも構わない」
カイン卿は、爆炎を背景に、私の額にそっとキスをしました。
……ああ。……なんてロマンチックな結末かしら。
一方その頃。王宮のバルコニー。
「……あああ! 今、遠くの空で、巨大な火柱が上がった気がする!」
セドリック殿下が、震えながら夜空を指差していました。
「殿下、またですか? ……あれはただの、雷か何かでしょう」
ルルネさんが冷めた目で見ていますが、セドリック殿下のパニックは止まりません。
「違う! 今の火柱の中に、ノワールが、ノワールがお姫様抱っこで誰かを運んでいるシルエットが見えたんだ! ……あんなの、あいつにしかできない業(わざ)だ!」
「……殿下、視力が良すぎませんか?」
「ノワールのことだけは、一キロ先でも分かるんだよ! ……ああ、あのお姫様抱っこ……。……かつて私が、風邪を引いた時に、あいつが寝室まで運んでくれたあの温もり……。……今度は、別の男を運んでいるのかぁぁぁ!」
セドリック殿下は、地面に突っ伏して号泣し始めました。
「……戻ってきてくれノワール! ……私が悪かった! ……重くてもいい! ……首が折れるほど抱きしめられてもいいから、私を運んでくれぇぇぇ!」
殿下の魂の叫びは、夜の静寂に虚しく響くばかりでした。
一方、私は。
「……さあ、カイン卿。……屋敷も片付きましたし、次は……カイン卿の寝室の、完璧な警備プランを練り直しましょうか?」
「……ああ。……一晩中、たっぷりとな」
カイン卿の不敵な笑みに、私の愛は、ますます密度を増していくのでした。
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