愛が重すぎると言われまして。婚約破棄された悪役令嬢。

恋の箱庭

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「……お嬢様。いえ、夫人。領民たちから、また嘆願書が届いております。『ノワール様ファンクラブ』の会員数が一万人を突破したため、定例集会のために広場を開放してほしい、とのことです」


 領主館の執務室で、アンが呆れ顔で書類の山を指差しました。


「まあ。一万人だなんて。……私がこの街の『埃』を少しばかりお掃除しただけで、皆様、大袈裟ですわね」


「……夫人。貴女が『お掃除』と称して、スラム街のボスを素手で制圧し、更生施設(強制労働キャンプ)に送った姿が、彼らには『降臨した戦女神』に見えたそうですよ」


 あらあら。普通の主婦として振る舞ったつもりでしたのに、どうしてこうも目立ってしまうのかしら。


 その時、執務机で書類に向かっていたカイン卿が、バキリとペンをへし折りました。


「……却下だ。……ノワール、君の姿をこれ以上、有象無象の目に晒す必要はない。……君の笑顔は、私一人のための『専有財産』だ」


「まあ、カイン卿! ……そんなに強く私を束縛してくださるの? ……ああ、幸せすぎて、今朝仕掛けた『侵入者撃退用の落とし穴』の深さを、さらに二メートル深くしてしまいそうですわ!」


 カイン卿の重すぎる独占欲に、私は胸が高鳴りました。……これこそが、私が求めていた愛の形ですわ!


 さて、本日はそんな愛しいカイン卿の誕生日。

 私は、彼のためにとっておきのプレゼントを用意しておりました。


「……アン。例のブツを運んでちょうだい。……カイン卿の日頃の疲れを癒すために開発した、私の愛の結晶よ」


「……夫人。これ、どう見ても新手の拷問器具……いえ、小型の攻城兵器に見えますが」


 アンが運び込んだのは、無数の突起と、怪しげな魔導回路が露出した、巨大な金属製の椅子でした。


「失礼ね。これは『全細胞対応型・超高周波愛のマッサージチェア』よ。……カイン卿の筋肉の繊維一本一本にまで、私の愛(物理振動)を届けるために、出力は通常の百倍にしてありますわ」


「……百倍。……夫人、それはもうマッサージではなく、細胞破壊兵器です」


 夜。寝室にて。

 私はカイン卿をその椅子に座らせました。


「……ノワール。……これは、君が私のために作ってくれたのか?」


「ええ、カイン卿。……さあ、リラックスして。……私の愛を、全身で受け止めてくださいな」


 私がスイッチを入れた瞬間。

 ブォォォン! という、地鳴りのような低周波音が響き渡りました。


「……ぐっ!? ……の、ノワール、これは……!?」


「あら、最初は少し驚きますわよね。……でも大丈夫。すぐに慣れますわ。……さあ、出力を上げますわよ? ……愛の深さ(最大出力)――!」


 ガガガガガガッ!

 凄まじい振動がカイン卿を襲い、彼の身体が残像のようにブレ始めました。

 それだけではありません。振動は床を伝わり、壁を揺らし、窓ガラスがビリビリと悲鳴を上げ始めました。


「……ふ、夫人! ……屋敷が! 屋敷が共振し始めています! ……このままでは崩壊します!」


 アンが慌てて飛び込んできましたが、私は恍惚の表情でレバーを握りしめていました。


「見て、アン! ……カイン卿が、私の愛の振動で、あんなに震えていらっしゃるわ! ……もっと、もっと深く愛して差し上げなくては!」


 パリン! という音と共に、寝室の窓ガラスが粉々に砕け散りました。

 さらに、天井のシャンデリアが落下し、床に巨大な穴が開きました。


 ドォォォン!

 最終的に、マッサージチェアが爆発し、黒煙が充満しました。


「……けほっ、げほっ。……あら、少し張り切りすぎてしまいましたかしら?」


 私が扇子で煙を払うと、そこには服がボロボロになり、髪が爆発したカイン卿が、瓦礫の中で立ち尽くしていました。


「……カイン卿! ……申し訳ありません、愛が重すぎて、物理的な限界を超えてしまったようですわ!」


 私が駆け寄ると、カイン卿はふらつきながらも、私を強く抱きしめました。


「……いや。……素晴らしい。……全身の骨が砕け散るかと思ったが……君の愛の『衝撃』、確かに細胞レベルで刻み込まれた」


「まあ、カイン卿……!」


「……これほどの振動(あい)を受け止められるのは、世界で私一人だけだ。……そうだろう、ノワール?」


 カイン卿は、半壊した屋敷の中で、煤(すす)だらけの顔で満足げに微笑みました。


 一方その頃、王宮。


「……痛い! ……肩が、肩が凝って仕方ないんだルルネ!」


 セドリック殿下が、湿布を貼りながら情けなく叫んでいました。


「……殿下。ただの肩凝りでしょう? ……自分で揉んでください」


「違う! ……ノワールがいた頃は、私が『肩が重い』と呟く一秒前に、彼女が背後に現れて、神業のような指圧で凝りを瞬殺していたんだ! ……あの、正確無比なツボ押しが恋しいぃぃぃ!」


「……殿下。……今頃ノワール様は、カイン卿の骨を振動で砕いている最中かもしれませんわよ? ……貴方には荷が重すぎますわ」


 ルルネさんは冷たく言い放ち、手元のノートに「ノワール様、愛のマッサージで屋敷を解体」と書き込みました。


 私の重すぎる愛は、癒しすらも破壊に変えてしまう威力を持っていましたが。

 それを受け止めてくれる旦那様がいる限り、今日も我が家は(物理的に揺れながらも)平和なのですわ。
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