万歳!国外追放?まあ、なんて素敵なのでしょう!

恋の箱庭

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王宮の裏庭に、突如として不吉な黒い渦が巻き起こった。
それは、アニエスに辱めを受け続けたリリアーヌが、禁断の魔導書を使って召喚した「冥界の番犬・ケルベロス」……の、はずだった。

「出でよ、すべてを焼き尽くす暗黒の獣! あのアニエスを、恐怖のどん底に突き落としておしまい!」

リリアーヌの叫びと共に、渦の中から三つの首を持つ、身の丈三メートルはあろうかという巨大な黒犬が姿を現した。
その目は血のように赤く、鋭い牙からは毒液が滴り落ち、大地を焦がしている。

「な……なんだ、あの怪物は!? 衛兵! アニエスを、アニエスを今すぐ避難させろ!」

駆けつけたセドリックが腰の剣を抜き、叫ぶ。
ギルベルトもまた、顔を強張らせてアニエスの前に立ちはだかった。

「アニエス、下がって! これは冗談じゃ済まない、本物の魔獣だ!」

しかし、二人の王子の背後から、アニエスがひょいと顔を出した。
彼女の瞳は、これまでにないほどキラキラと輝き、頬は興奮で上気している。

「まあ……! お二人とも、見てくださいまし! なんて立派な『三つ子のもふもふワンちゃん』でしょう!」

「……もふもふ? アニエス、あれのどこがもふもふなんだ! 鱗だぞ、あれは!」

「あら、セドリック殿下。これは最新の『撥水加工済み・ツヤツヤ毛並み』ですわよ! しかも首が三つもあるなんて……なんてお得なセットなのかしら。一度のブラッシングで三頭分楽しめるなんて、お掃除しがいがありますわね!」

アニエスは王子の制止を華麗なステップですり抜けると、咆哮を上げるケルベロスの目の前まで歩み寄った。

「グルゥゥゥ……ガアアアッ!!」

ケルベロスが威嚇の咆哮を上げ、巨大な爪を振り上げる。
だが、アニエスは微動だにせず、ドレスのポケットから「特製・お徳用干し肉(特大サイズ)」を取り出した。

「はい、ワンちゃん! お手ですわよ! ハイ、お手!」

「ガ……ッ!?」

ケルベロスの真ん中の首が、空中で止まった。
目の前に差し出された肉の香りと、アニエスから溢れ出す「一切の恐怖がない純粋な威圧(という名の無邪気)」に、魔獣の野生の直感が警報を鳴らしたのだ。

「あらあら、恥ずかしがらなくてよろしいのよ? ほら、右の首さんも、左の首さんも。みんな仲良く『お座り』ですわ!」

アニエスが、例のピコピコハンマーでケルベロスの鼻先を「ピコッ」と叩いた。

――ピコッ。

その瞬間、冥界最強の番犬の心の中で、何かが折れた。
三つの首が同時にペタンと地面につき、巨大な尻尾が千切れんばかりに左右に振られ始めた。

「まあ、賢い子たちね! よしよし、いい子ですわよ、チョコちゃん、バニラちゃん、ミントちゃん!」

「……勝手に名前をつけてる。しかも三つ別々に」

ギルベルトが呆然と呟く中、アニエスは巨大な魔獣の首元に抱きつき、その凶悪な牙を「立派な歯並びですわね!」と褒め称え始めた。

「殿下、見てくださいまし! この子たち、とっても寂しがっていたみたいですわ。きっと、飼い主さんがいなくて迷子になっていたのね。……あ、リリアーヌ様! あんなところに!」

木陰で震えていたリリアーヌを見つけ、アニエスは満面の笑みで手招きをした。

「リリアーヌ様! こんなに素敵な大型犬を連れてきてくださるなんて、ありがとうございます! 私、ちょうど『王宮・ドッグラン計画』を立ち上げようと思っていたところなんですの!」

「……ひ、ひいいいいっ! なんで私のケルベロスが、あんな女に懐いているのよぉぉ! 噛みつきなさいよ! 食べちゃいなさいよぉ!」

リリアーヌが半狂乱で命じるが、ケルベロス……もとい、チョコ・バニラ・ミントちゃんは、リリアーヌの方を振り返り、「ウルル……」と低く唸った。
その目は、「お前、あのお姉さんを怒らせるようなことを言うなよ。ピコピコハンマーが怖いだろ」とでも言いたげだった。

「あら、ワンちゃん。そんなに怖いお顔をしちゃダメよ。リリアーヌ様は、私たちが仲良くなれたのが嬉しくて感動していらっしゃるの。……さあ、リリアーヌ様もご一緒に! みんなでレッツ・お散歩ですわ!」

「嫌あああああ! 来ないでぇぇぇ!」

リリアーヌは、自分を追いかけてくる巨大な魔獣(と、その後ろを笑顔で走るアニエス)を見て、悲鳴を上げながら逃げ出していった。

「まあ、リリアーヌ様ったら、なんて健脚なのかしら! これぞまさに、愛犬との『障害物競走・デスマッチ』ですわね!」

アニエスは軽やかに走り去り、後には静寂と、深いため息をつく二人の王子だけが残された。

「……セドリック。僕、もう確信したよ。アニエスを敵に回すのは、神様に喧嘩を売るより無謀だってね」

「……ああ。あいつは、悪意をすべて『エンターテインメント』に変えてしまう。……ケルベロスさえも、ただの『大型犬』に成り下がるんだからな」

セドリックは剣を収め、遠くから聞こえてくる「ピコッ」という音と、リリアーヌの断末魔のような悲鳴を、遠い目で聞き流すのだった。
こうして、リリアーヌの最後にして最大の陰謀は、アニエスの「ドッグトレーナー・デビュー」によって、平和的(?)に幕を閉じたのである。
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