万歳!国外追放?まあ、なんて素敵なのでしょう!

恋の箱庭

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王宮の最上階、夕日に染まる「空中庭園」。
そこには、逃げ場を失った(と本人は思っていないが)アニエスと、決死の覚悟を固めた二人の王子がいた。

セドリックとギルベルトは、アニエスの左右の手をそれぞれしっかりと握り、逃がさないという強い意志を示している。

「アニエス、よく聞いてくれ。もう『演劇の練習』だの『防犯の打ち合わせ』だのという言い訳は一切禁止だ」

セドリックが、かつてないほど低い、真剣な声で告げた。

「そうだよ、アニエス。君はいつも僕たちの言葉を『お仕事』に変換してしまうけれど、今から言うことは、君の人生に関わる、たった一つの真実なんだ」

ギルベルトも、悪戯っぽい笑みを消し、一人の男としての眼差しで彼女を見つめる。

アニエスは、二人のあまりの迫力に、ぱちくりと目をしばたたかせた。

「まあ……。お二人とも、なんて険しいお顔でしょう。これはもしや、新種の『我慢比べ大会』の決勝戦ですの? 先に笑った方が、お徳用の干し肉を全額奢るという……!」

「「違う!!」」

二人の王子の絶叫が、夕暮れの空に響き渡った。

「いいか、アニエス。私は、君という『人間』を愛しているんだ。事務能力が欲しいわけじゃない。君に側にいてほしい。私の妻として、王妃として、一生を共にしてほしいんだ!」

セドリックが、魂を削るような思いで、禁断の直球を投げ込んだ。

「僕もだ、アニエス。君がメイドとして優秀だから側に置きたいんじゃない。君の笑顔に救われたんだ。君を、僕だけのものにしたい。……『結婚』してほしいんだ。仕事じゃなく、家族としてね」

ギルベルトも、逃げ道を塞ぐように「結婚」という言葉を強調した。

アニエスは、固まった。
風に揺れる花々の音だけが、沈黙の中に響く。
彼女の脳内では、今、空前絶後の「情報処理」が行われていた。

(……ケッコン? カゾク……?)

アニエスは、自分の左右の手を握る、温かくて大きな手の感触を改めて意識した。
これまでは「握力の訓練」だと思っていたが、そこから伝わってくるのは、ひたむきで、熱い、混じり気のない「情愛」だった。

(……あら? もしや……これは……)

アニエスの思考回路が、数千、数万の「天然変換」を突き抜け、ついに一つの真実へと辿り着いた。

「まあ……! 殿下、ギルベルト様……。ひょっとして、お二人とも……本気で、私のことを『女の子』として見てくださっていたんですの……?」

セドリックは、がっくりと膝をついた。
ギルベルトは、天を仰いで笑い出した。

「……今さら!? 今さらそこに気づくのか、アニエス!」

「ああ、そうですわ……! やっと分かりましたわ! これまでの『愛している』も『側にいてくれ』も、全部、演劇のセリフではなく、本物の……本物の『求愛行動』だったのですわね!」

アニエスは、顔をごうごうと赤く染めた。
天然すぎて鈍感の極みだった彼女が、初めて「一人の女性」として、恋の熱に当てられた瞬間だった。

「まあ……どうしましょう! 私、自分が『鋼鉄の防犯システム』だとばかり思い込んでいて……。お二人の純情を、全部『業務用』として処理してしまっておりましたわ!」

アニエスは、申し訳なさそうに、そして恥ずかしそうに、もじもじと身をよじった。

「あ、アニエス……。ようやく、ようやく伝わったのか……」

セドリックは、あまりの感動に目頭を熱くした。
言葉の通じない宇宙人と、ようやく共通言語を見つけたような、そんな奇跡的な心地だった。

「さて、アニエス。ようやく話の土俵に乗ってくれたね。……それで、答えはどうだい? ラ・メール王国のセドリックか、ヴァンドーム王国のギルベルトか。……君は、どちらの手を取りたい?」

ギルベルトが、優しく、しかし残酷な選択を迫った。
アニエスは、左右の王子の顔を、交互にじっと見つめた。

自分を追い出し、それでも追いかけてきてくれた、不器用で必死な元婚約者。
自分を拾い上げ、新しい世界と楽しさを教えてくれた、ナンパで優しい雇い主。

アニエスの心は、かつてないほどに揺れ動いた。
だが、そこはアニエス。
彼女の出す結論は、やはり普通の令嬢とは一線を画していた。

「……分かりましたわ。お二人の熱いお気持ち、しかと受け止めました! ですが、私、今の今まで自分が『防犯グッズ』だと思って生きて参りましたから、急に『お嫁さん』になるなんて、なんだか贅沢すぎる気がいたしますの!」

「贅沢なものか! 君にはその資格がある!」

セドリックが叫ぶが、アニエスはふふっ、と太陽のような笑顔を浮かべた。

「ありがとうございます。……決めましたわ。私、一番『ワクワクする未来』を選びますわね!」

アニエスは、そっと自分の手を二人から離した。
そして、夕日に向かって大きく深呼吸をし、高らかに宣言した。

「セドリック殿下、ギルベルト様! 本日の『最終面接』の結果は……明日の朝、王宮の正門前で発表させていただきますわ! 私、これから一晩かけて、お父様に相談……いえ、自分自身の心と『深夜の座談会』を開催して参ります!」

「「……座談会……」」

二人の王子は、最後までアニエスらしい言葉に脱力しながらも、その真剣な表情を見て、静かに頷いた。

「分かった。明日、正門前で待っている」

「最高の答えを、期待しているよ。アニエス」

アニエスは、カシャカシャと(まだ少し残っていた)アーマーの一部を鳴らしながら、脱兎のごとく走り去っていった。
彼女の背中には、初めて「恋する令嬢」の、可愛らしい戸惑いが宿っていた。

こうして、史上最大の天然悪役令嬢を巡る恋の争いは、ついに決着の時を迎えようとしていた。
アニエスが選ぶのは、過去のやり直しか、新しい未来か。
あるいは、それらを遥かに超越した「アニエス流の斜め上」か――。
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