婚約破棄?悪役令嬢のノルマも達成ということですね?

恋の箱庭

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「……何ですの、これは? 何かの冗談かしら。それとも、私の目がついに節穴になったのかしら?」


私は、看守長が恭しく差し出してきた、金装飾が施された羊皮紙を二度見、三度見しました。


そこには、国王陛下の印章とともに、私の心臓を止めるに十分な破壊力を持った一文が記されていました。


『グロースター公爵令嬢メアリアに対し、その類まれなる徳行と監獄改革の功績を認め、全ての罪(?)を免じ、特赦を与えるものとする』


「……特赦? 私が? 功績?」


私は震える指でその紙を指差しました。
看守長は、まるで救世主を見つめるような聖らかな瞳で頷きます。


「はい! メアリア様! あなたの噂は王都へも届いております。凶悪犯たちを更生させ、看守たちの規律を正し、さらには近隣の村を経済的に潤わせたという、その『聖女の如き振る舞い』が陛下を動かしたのです!」


「違いますわ! 私は彼らを奴隷のようにこき使い、村からは美味しいものを独占するために高い金を払って……いえ、買い叩こうとしただけですわ!」


「ああ、その謙虚さ……! どこまでもご自身を『悪』と称し、周囲の感謝を拒むそのお姿! もはや神話の登場人物のようです!」


看守長がまた泣き始めました。
この塔に来てから、この男は脱水症状になるのではないかというほど泣いてばかりです。


「お嬢様、おめでとうございます。これでようやく不潔な(お嬢様基準)監獄から解放されますね。帰ったらすぐに、薔薇のお風呂を用意させましょう」


アンナが平然とした顔で、すでに荷造りを始めています。


「おめでたくありませんわよ、アンナ! 特赦なんて、悪役令嬢としてのキャリアに最大級の泥を塗る行為ですわ! 『あいつ、実は良い奴だったんだな』なんて同情されて、どうやって後世に名を残せと言うのです!?」


私は羊皮紙を千切り捨てようとしましたが、看守長に「それは国宝級の価値があります!」と必死で止められました。


「それに、見てください、アンナ。特赦の条件に『王都へ戻り、次期王妃教育の特別顧問に就任すること』なんて書いてありますわ! 教育!? 顧問!? 私が!?」


「お嬢様がリリアン様に授けたアドバイスが、あまりに効果絶大だったせいで、教育長官が泣いて喜んでいるそうです。ぜひメアリア様の『悪を律する心(軍隊式指導)』を国の基準にしたいと」


「……もう、嫌ですわ」


私はバルコニーの手すりに縋り付き、美しい辺境の景色を眺めました。
あんなに苦労して手に入れた「追放」の座。
あんなに努力して築き上げた「監獄の支配者(独裁者)」の地位。
それらが今、たった一枚の紙切れによって「聖女の里帰り」へと書き換えられようとしています。


「……メアリア様、帰っちゃうんですか?」


横から、不満げな声が聞こえてきました。
いつの間に現れたのか、リリアンが(通信ではなく実物で)私のそばに立っていました。
あ、そういえば彼女、私の指導に耐えかねて数日前にこっそりこの塔に避難してきたのでしたわ。


「リリアン。あなたこそ、王都へ戻って殿下の側を支えなさい。ヒロインの義務を放棄してどうしますの」


「嫌ですよぉ。今の殿下、メアリア様の話題になると三時間は止まらないんですもん。『今日のメアリアなら、この料理に何と言うだろうか?』とか言って、食事のたびに議論が始まるんですよ? そんなのついていけません!」


「……殿下の病状、私がいない間に深刻化していますわね」


私は深く溜息をつきました。
このままここで逃げていても、事態は悪化する一方のようです。
王都では私がいないせいで、私の虚像がどんどん美化され、巨大な「聖女メアリア像」が構築されているのでしょう。


「……分かりましたわ。帰りましょう。王都へ、あの呪わしい王宮へ!」


私はバッと扇子を広げ、カツンと床を鳴らしました。


「ただし! 私は特赦を甘んじて受けるために帰るわけではありません。王都の連中が抱いている、その『聖女』という幻想を、私の手で完膚なきまでに叩き潰すためですわ!」


「あら、お嬢様。また新しい『悪役修行』の始まりですね」


「当然です! 顧問? 結構ですわ! 教育現場を徹底的に混乱させ、王宮の秩序を崩壊させて差し上げます。殿下には『やっぱりメアリアは追放しておくべきだった』と、涙を流して後悔させてやるのです!」


「その意気です、メアリア様! 私も付いていきます! メアリア様の後ろに隠れて、美味しいお菓子だけ食べますわ!」


「あなたは少しはシャキっとなさい、ハツカネズミ!!」


私はアンナに命じ、最も派手で、最も「贅沢を象徴する」漆黒のドレスを用意させました。
真珠とダイヤモンドをこれでもかと散りばめた、見るからに強欲そうな装いです。


王都の皆様、そしてウィルフレッド様。
お望み通り、「聖女(自称・極悪人)」が戻って差し上げますわ。


その代わり……、覚悟しておくことですわね。
私の第二章は、これまで以上に「最悪」で「不愉快」なものになりますわよ!


私は高笑いを上げながら、迎えに来た豪華な馬車へと乗り込みました。
見送る看守や囚人たちが「メアリア様、万歳!」「またのご入所をお待ちしております!」と叫んでいる声は、あえて無視することに決めたのでした。
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