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「フフ……、フフフフフ! 見ていなさいリリアン。これが『本物の悪』によるプロデュースですわ!」
魔導通信を切った後、私はバルコニーで一人、高笑いを上げていました。
リリアンに授けた『地獄の特訓メニュー』。
三日間の断食、深夜の礼拝、そして何を聞かれても「メアリア様の不在が胸に痛みますわ」とだけ答える沈黙の行。
これだけやれば、いくらおめでたい殿下でも「あ、この女、ちょっと頭がおかしいのかしら」と引くに違いありません。
そして、その裏で糸を引いているのがこの私だと知れば、私の悪評は王都中に再燃することでしょう!
「お嬢様。その『悪そうな顔』をしながら、リリアン様のために栄養満点の乾燥スープの素を梱包するのはお止めになってはいかがですか?」
アンナが、私がせっせと箱に詰めていた「断食明け用の特製非常食」を指差しました。
「……これは、リリアンが途中で死んでしまったら私の教育計画が台無しになるから、仕方のない処置ですわ! 悪役たるもの、駒の管理は徹底すべきですもの!」
「お嬢様は、本当に面倒見のいい悪役でございますね」
アンナの皮肉を無視し、私は箱を閉じました。
さあ、これであとは王都からの「リリアン、殿下に嫌われる」という吉報を待つだけですわ。
しかし、三日後。
魔導鏡に映し出されたリリアンの姿は……。
『メ、メアリア様……! 奇跡ですわ! 奇跡が起きましたの!』
鏡の向こうのリリアンは、やつれてはいるものの、なぜか後光が差しているかのような神々しい笑みを浮かべていました。
「……なんですの、その宗教画のような顔は。殿下に愛想を尽かされたショックで、本当におかしくなりましたの?」
『違いますわ! 殿下が……殿下が、私の沈黙の行を見て「リリアン! 君はメアリアの気高さを継承し、言葉ではなく魂で僕と語ろうとしているんだね!」って、号泣しながら跪いたんですのよ!』
「…………は?」
『さらに、断食についても「自分を律し、飢えた民の気持ちを理解しようとするその姿勢……。メアリアの教育は、なんと深く、慈愛に満ちているんだ!」って、国中の貴族に吹聴して回ったんです!』
リリアンが興奮気味に、鏡をガシガシと叩きます。
『今や王都では、私とメアリア様は「魂で繋がった美しき師弟」として語り草ですわ! 私の株も上がりましたけど、メアリア様の「聖女」としての格が、もはや神の領域にまで達しようとしています!』
私は、持っていたティーカップを床に落としました。
……カシャーン、という虚しい音が、ピカピカの床に響きます。
「……どうして……、どうしてなんですの……」
「お嬢様、落ち着いてください。床は後で看守たちが喜び勇んで磨きますから」
アンナが冷静に答えましたが、私の耳には届きません。
「私は……私は、彼女を『変な女』に仕立て上げて、ついでに私の『陰険な裏工作』を露呈させるつもりでしたのに! どうしてそれが『慈愛に満ちた教育』になるんですのよ!」
『メアリア様! 殿下が「次は何をすればいいか、メアリアに聞いてくれ!」って仰ってます! 次は……次は何をすればいいですか!?』
鏡の中のリリアンは、もはや「教育される快感」に目覚めてしまったような、キラキラとした目で私を見つめています。
「……っ、こうなったら、毒を食らわば皿までですわ! リリアン、次は『夜会の中心で、殿下のファッションセンスを大声で罵倒しなさい』!」
『ええっ!? ウィル様のセンスを!? でも、あの方、いつも同じような軍服ですよ?』
「だからですわ! 『殿下、その代わり映えのしない格好、見ていて反吐が出ますわ! メアリア様なら、もっと季節の移ろいを感じさせる装いを提案してくださったはずです!』と言いなさい!」
これです。
これなら、王子のプライドを傷つけ、かつ私の「傲慢なわがまま」を強調できるはず。
『分かりましたわ! メアリア様の仰る通りに!』
通信が切れ、静寂が戻りました。
「……アンナ。今度こそ、今度こそ成功しますわよね?」
「……お嬢様。これまでの経験上、殿下が『メアリアは僕に、王としてのファッションリーダーの自覚を促してくれているんだ!』と解釈し、明日には王宮がファッションショー会場になる未来しか見えませんが」
「……縁起でもないことを言わないでちょうだい!」
私は震える手で、新しいお茶を口にしました。
しかし、そのお茶はなぜか、私の涙の味がして少しだけ塩っぱかったのです。
翌日、王都からの報告。
『ウィルフレッド殿下、メアリア様の助言を受け、毎日三回の衣装替えを閣僚会議の条件に設定。「外見を整えることは、国の威信を整えることだ」と熱弁を振るい、国民から「美意識の高い王」と絶賛される』
「………………お父様、お母様。お先に失礼いたしますわ」
私はバルコニーから、そのまま絶望の底へとダイブしたい気持ちを抑え、今日もまた「完璧な高笑い」の練習を始めるのでした。
魔導通信を切った後、私はバルコニーで一人、高笑いを上げていました。
リリアンに授けた『地獄の特訓メニュー』。
三日間の断食、深夜の礼拝、そして何を聞かれても「メアリア様の不在が胸に痛みますわ」とだけ答える沈黙の行。
これだけやれば、いくらおめでたい殿下でも「あ、この女、ちょっと頭がおかしいのかしら」と引くに違いありません。
そして、その裏で糸を引いているのがこの私だと知れば、私の悪評は王都中に再燃することでしょう!
「お嬢様。その『悪そうな顔』をしながら、リリアン様のために栄養満点の乾燥スープの素を梱包するのはお止めになってはいかがですか?」
アンナが、私がせっせと箱に詰めていた「断食明け用の特製非常食」を指差しました。
「……これは、リリアンが途中で死んでしまったら私の教育計画が台無しになるから、仕方のない処置ですわ! 悪役たるもの、駒の管理は徹底すべきですもの!」
「お嬢様は、本当に面倒見のいい悪役でございますね」
アンナの皮肉を無視し、私は箱を閉じました。
さあ、これであとは王都からの「リリアン、殿下に嫌われる」という吉報を待つだけですわ。
しかし、三日後。
魔導鏡に映し出されたリリアンの姿は……。
『メ、メアリア様……! 奇跡ですわ! 奇跡が起きましたの!』
鏡の向こうのリリアンは、やつれてはいるものの、なぜか後光が差しているかのような神々しい笑みを浮かべていました。
「……なんですの、その宗教画のような顔は。殿下に愛想を尽かされたショックで、本当におかしくなりましたの?」
『違いますわ! 殿下が……殿下が、私の沈黙の行を見て「リリアン! 君はメアリアの気高さを継承し、言葉ではなく魂で僕と語ろうとしているんだね!」って、号泣しながら跪いたんですのよ!』
「…………は?」
『さらに、断食についても「自分を律し、飢えた民の気持ちを理解しようとするその姿勢……。メアリアの教育は、なんと深く、慈愛に満ちているんだ!」って、国中の貴族に吹聴して回ったんです!』
リリアンが興奮気味に、鏡をガシガシと叩きます。
『今や王都では、私とメアリア様は「魂で繋がった美しき師弟」として語り草ですわ! 私の株も上がりましたけど、メアリア様の「聖女」としての格が、もはや神の領域にまで達しようとしています!』
私は、持っていたティーカップを床に落としました。
……カシャーン、という虚しい音が、ピカピカの床に響きます。
「……どうして……、どうしてなんですの……」
「お嬢様、落ち着いてください。床は後で看守たちが喜び勇んで磨きますから」
アンナが冷静に答えましたが、私の耳には届きません。
「私は……私は、彼女を『変な女』に仕立て上げて、ついでに私の『陰険な裏工作』を露呈させるつもりでしたのに! どうしてそれが『慈愛に満ちた教育』になるんですのよ!」
『メアリア様! 殿下が「次は何をすればいいか、メアリアに聞いてくれ!」って仰ってます! 次は……次は何をすればいいですか!?』
鏡の中のリリアンは、もはや「教育される快感」に目覚めてしまったような、キラキラとした目で私を見つめています。
「……っ、こうなったら、毒を食らわば皿までですわ! リリアン、次は『夜会の中心で、殿下のファッションセンスを大声で罵倒しなさい』!」
『ええっ!? ウィル様のセンスを!? でも、あの方、いつも同じような軍服ですよ?』
「だからですわ! 『殿下、その代わり映えのしない格好、見ていて反吐が出ますわ! メアリア様なら、もっと季節の移ろいを感じさせる装いを提案してくださったはずです!』と言いなさい!」
これです。
これなら、王子のプライドを傷つけ、かつ私の「傲慢なわがまま」を強調できるはず。
『分かりましたわ! メアリア様の仰る通りに!』
通信が切れ、静寂が戻りました。
「……アンナ。今度こそ、今度こそ成功しますわよね?」
「……お嬢様。これまでの経験上、殿下が『メアリアは僕に、王としてのファッションリーダーの自覚を促してくれているんだ!』と解釈し、明日には王宮がファッションショー会場になる未来しか見えませんが」
「……縁起でもないことを言わないでちょうだい!」
私は震える手で、新しいお茶を口にしました。
しかし、そのお茶はなぜか、私の涙の味がして少しだけ塩っぱかったのです。
翌日、王都からの報告。
『ウィルフレッド殿下、メアリア様の助言を受け、毎日三回の衣装替えを閣僚会議の条件に設定。「外見を整えることは、国の威信を整えることだ」と熱弁を振るい、国民から「美意識の高い王」と絶賛される』
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