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「……メアリア様! 大変ですわ、一大事ですわよ!」
私がカシアンの告白という未曾有の事態から、ようやく脳内の「悪役ファイル」を再起動させていた時のことです。
自室の扉を派手に蹴破るような勢いで(実際には侍従が慌てて開けましたが)、隣国のイザベラ王女が飛び込んできました。
その後ろでは、相変わらずマカロンを頬張っているリリアンが「あ、メアリア様、お邪魔しますー」とのんびり付いてきています。
「何事ですの、イザベラ王女。そんなに髪を振り乱して……。悪役たるもの、パニックの時こそ優雅に扇子で顔を隠し、『計画通りですわ』と不敵に微笑むのが作法でしょう?」
私は手際よく、彼女に冷めたハーブティーを差し出しました。
「そんなこと言っている場合じゃありませんわ! 私の国……ヴァロワ王国の強硬派が、この国にクーデターを仕掛けようとしていますの!」
「……クーデター?」
私は思わず、手に持っていた扇子を落としそうになりました。
クーデター。それは、悪役令嬢が夢にまで見た、国を揺るがす最大級の「悪行」。
「まあ……! ついに、本物の『悪』が動き出しましたのね! それで? いつ、どこから攻めてくるのかしら。私も喜んで、裏切りの手引きをさせていただきますわよ!」
私は期待に瞳を輝かせました。
これですわ! 国を売る悪女。これ以上の断罪フラグは存在しませんわ!
「違いますわよ、メアリア様! あいつら、私のことも『役立たずの王女』として切り捨てるつもりなんですわ! しかも、その作戦計画書を盗み見てしまったのですが……内容がもう、目も当てられないほど『小物』なんですの!」
イザベラ王女がテーブルに叩きつけたのは、数枚の羊皮紙でした。
私はワクワクしながらそれを手に取り……、そして三秒で顔をしかめました。
「……何ですの、この計画は。『夜会の最中に、給仕に変装して殿下のワインに眠り薬を入れる』? 『その隙に、城の裏門から三十人の兵士で突入する』? ……幼稚園の泥棒ごっこの方が、まだマシな計画を立てますわよ!」
私はその紙を、ゴミ箱にシュートしたい衝動を抑えて怒鳴りました。
「いいですか、イザベラ! 国家転覆を狙うなら、まず物流と通信を遮断し、軍の上層部を金と女で抱き込み、王家の血筋を汚すような偽の噂を街中に広めておくのが基本ですわ! こんな……『眠り薬』なんて、三流の恋愛小説の使い古されたネタじゃありませんこと!」
「そうですわよね!? 私もメアリア様に教わった『悪の美学』に照らし合わせたら、あまりのダサさに吐き気がして、こうして知らせに来たんですわ!」
イザベラ王女も、憤慨した様子で胸を張りました。
どうやら彼女、私の指導のせいで、中途半端な悪行が許せない体質になってしまったようです。
「……お嬢様。話が逸れておりますが、これ、放っておくとウィルフレッド殿下が(眠り薬で)危ないのでは?」
アンナが、いつものように冷静なツッコミを入れました。
「……ああ、そうでしたわね。あんなおめでたい殿下でも、一応はこの国の主権者。……でも、この程度の『下手な悪役』に国を乗っ取られるなんて、私のプライドが許しませんわ!」
私は立ち上がり、窓の外に広がる王宮の庭園を見下ろしました。
「リリアン! マカロンを食べるのを止めなさい! アンナ、すぐに監獄で教育した『元囚人ボランティア団』に連絡を! 彼らの裏工作技術を、今こそ『美学のない悪』を駆逐するために使わせますわ!」
「……お嬢様。それ、結局は国を守ることになりませんか?」
「違いますわ! 私は、私以外の『無能な悪』がこの国で幅を利かせるのが我慢ならないだけですわ! 真の悪役令嬢として、悪の質を担保する義務がありますのよ!」
私は不敵な笑みを浮かべました。
「イザベラ王女。あなたには、その強硬派の連中を『誘い出す』役目を命じます。彼らに言いなさい。『メアリアという女狐が、殿下との仲を裂かれて絶望している。今なら彼女を内通者にできる』……とね!」
「……! 流石はメアリア様! 自分の悪評を餌にするなんて、最高にクールな悪女ですわ!」
イザベラ王女が目をキラキラさせて頷きました。
(フフフ……。これで、私は『敵国と通じた売国奴』という汚名を着ることができる。……そしてクーデターが失敗した後、私は全ての罪を背負って、今度こそ国外追放……!)
完璧なシナリオですわ。
誰にも邪魔させません。ウィルフレッド殿下にも、ましてやあの騎士団長にも!
「さあ、始めますわよ。……世界一華やかで、世界一性格の悪い、迎撃作戦(おもてなし)を!」
私は高笑いを上げながら、作戦計画書(という名の、敵を完膚なきまでに叩き潰すための地獄のスケジュール表)を書き始めたのでした。
私がカシアンの告白という未曾有の事態から、ようやく脳内の「悪役ファイル」を再起動させていた時のことです。
自室の扉を派手に蹴破るような勢いで(実際には侍従が慌てて開けましたが)、隣国のイザベラ王女が飛び込んできました。
その後ろでは、相変わらずマカロンを頬張っているリリアンが「あ、メアリア様、お邪魔しますー」とのんびり付いてきています。
「何事ですの、イザベラ王女。そんなに髪を振り乱して……。悪役たるもの、パニックの時こそ優雅に扇子で顔を隠し、『計画通りですわ』と不敵に微笑むのが作法でしょう?」
私は手際よく、彼女に冷めたハーブティーを差し出しました。
「そんなこと言っている場合じゃありませんわ! 私の国……ヴァロワ王国の強硬派が、この国にクーデターを仕掛けようとしていますの!」
「……クーデター?」
私は思わず、手に持っていた扇子を落としそうになりました。
クーデター。それは、悪役令嬢が夢にまで見た、国を揺るがす最大級の「悪行」。
「まあ……! ついに、本物の『悪』が動き出しましたのね! それで? いつ、どこから攻めてくるのかしら。私も喜んで、裏切りの手引きをさせていただきますわよ!」
私は期待に瞳を輝かせました。
これですわ! 国を売る悪女。これ以上の断罪フラグは存在しませんわ!
「違いますわよ、メアリア様! あいつら、私のことも『役立たずの王女』として切り捨てるつもりなんですわ! しかも、その作戦計画書を盗み見てしまったのですが……内容がもう、目も当てられないほど『小物』なんですの!」
イザベラ王女がテーブルに叩きつけたのは、数枚の羊皮紙でした。
私はワクワクしながらそれを手に取り……、そして三秒で顔をしかめました。
「……何ですの、この計画は。『夜会の最中に、給仕に変装して殿下のワインに眠り薬を入れる』? 『その隙に、城の裏門から三十人の兵士で突入する』? ……幼稚園の泥棒ごっこの方が、まだマシな計画を立てますわよ!」
私はその紙を、ゴミ箱にシュートしたい衝動を抑えて怒鳴りました。
「いいですか、イザベラ! 国家転覆を狙うなら、まず物流と通信を遮断し、軍の上層部を金と女で抱き込み、王家の血筋を汚すような偽の噂を街中に広めておくのが基本ですわ! こんな……『眠り薬』なんて、三流の恋愛小説の使い古されたネタじゃありませんこと!」
「そうですわよね!? 私もメアリア様に教わった『悪の美学』に照らし合わせたら、あまりのダサさに吐き気がして、こうして知らせに来たんですわ!」
イザベラ王女も、憤慨した様子で胸を張りました。
どうやら彼女、私の指導のせいで、中途半端な悪行が許せない体質になってしまったようです。
「……お嬢様。話が逸れておりますが、これ、放っておくとウィルフレッド殿下が(眠り薬で)危ないのでは?」
アンナが、いつものように冷静なツッコミを入れました。
「……ああ、そうでしたわね。あんなおめでたい殿下でも、一応はこの国の主権者。……でも、この程度の『下手な悪役』に国を乗っ取られるなんて、私のプライドが許しませんわ!」
私は立ち上がり、窓の外に広がる王宮の庭園を見下ろしました。
「リリアン! マカロンを食べるのを止めなさい! アンナ、すぐに監獄で教育した『元囚人ボランティア団』に連絡を! 彼らの裏工作技術を、今こそ『美学のない悪』を駆逐するために使わせますわ!」
「……お嬢様。それ、結局は国を守ることになりませんか?」
「違いますわ! 私は、私以外の『無能な悪』がこの国で幅を利かせるのが我慢ならないだけですわ! 真の悪役令嬢として、悪の質を担保する義務がありますのよ!」
私は不敵な笑みを浮かべました。
「イザベラ王女。あなたには、その強硬派の連中を『誘い出す』役目を命じます。彼らに言いなさい。『メアリアという女狐が、殿下との仲を裂かれて絶望している。今なら彼女を内通者にできる』……とね!」
「……! 流石はメアリア様! 自分の悪評を餌にするなんて、最高にクールな悪女ですわ!」
イザベラ王女が目をキラキラさせて頷きました。
(フフフ……。これで、私は『敵国と通じた売国奴』という汚名を着ることができる。……そしてクーデターが失敗した後、私は全ての罪を背負って、今度こそ国外追放……!)
完璧なシナリオですわ。
誰にも邪魔させません。ウィルフレッド殿下にも、ましてやあの騎士団長にも!
「さあ、始めますわよ。……世界一華やかで、世界一性格の悪い、迎撃作戦(おもてなし)を!」
私は高笑いを上げながら、作戦計画書(という名の、敵を完膚なきまでに叩き潰すための地獄のスケジュール表)を書き始めたのでした。
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