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「……ああ、メアリア。君という人は……。僕の魂を、これほどまでに揺さぶるなんて……。幸せすぎて、意識が……遠のいて……」
ドサッ。
目の前で、王国最強の騎士でもあるはずのウィルフレッド殿下が、恍惚とした表情を浮かべたまま床に沈みました。
あまりの感動に、脳の許容範囲を超えてしまったようです。
「……殿下? ちょっと、殿下!? 寝ている場合ではありませんわよ! 私の罵倒を聞いて怒りなさい! 衛兵を呼んで私を地下牢へ放り込みなさいな!」
私は倒れた殿下の肩を掴んで揺さぶりましたが、彼は幸せそうな寝息を立てるばかりです。
会場内は、かつてないほどの混乱に包まれました。
「殿下が倒れられたぞ!」「メアリア様の愛の言葉が強すぎたのだ!」「なんて熱烈な情愛……! これぞ真のロマンスだわ!」
貴族たちが口々に叫び、なぜか拍手喝采が巻き起こります。
……もうダメですわ。この会場に、まともな思考回路を持った人間は一人も残っていませんのね。
「……メアリア様。これ、チャンスじゃないですか?」
横から、口の周りに生クリームをつけたリリアンがひょいと顔を出しました。
「チャンス? 何のチャンスですの、ハツカネズミ」
「逃げ出すチャンスですよ! 殿下が気絶して、衛兵も感動で泣いて動けない今なら、王宮から脱出し放題ですわ! ほら、あそこでカシアン様が手招きしていますし」
リリアンが指差した先。
会場の大きな扉の影で、カシアンが馬の鞭を片手に、ニヤリと不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていました。
(……カシアン!)
私は、気絶している殿下を一瞥しました。
このままここにいれば、殿下が目を覚ました瞬間に、結婚式の準備が爆速で始まることでしょう。
私の「悪役令嬢としての散り際」を守るには、今この瞬間、全てを捨てて逃げ出すしかありません!
「……アンナ! 荷物は!?」
「馬車に積み込み済みですわ、お嬢様。いつでも国境を越えられます」
「……流石ですわ、私のメイド! リリアン、あなたはどうしますの?」
「私はここに残って、殿下が起きたら『メアリア様は、あなたを一人前の王にするために、あえて孤独という試練を与えに旅立たれました』って適当に言っておきますわ。これでお菓子食べ放題の生活は安泰です!」
「……最後まで適当なヒロインですわね。……感謝いたしますわ!」
私はドレスの裾を思い切り掴み上げると、気絶した殿下を飛び越え、カシアンの元へと全力で駆け出しました。
「カシアン! 私を連れて行きなさい! 今すぐ、ここではないどこかへ!」
「遅いぞ、メアリア。待ちくたびれて、馬が寝てしまうところだった」
カシアンは私の手を取り、力強く引き寄せました。
彼はそのまま、私を抱き上げるようにして王宮の廊下を走り抜けます。
「……おい、メアリア。いいのか? このまま逃げたら、お前は本当に『王太子を捨てて騎士と駆け落ちした、稀代の悪女』として歴史に刻まれることになるぞ」
「……望むところですわ! それこそが私の求めていた『悪の称号』ではありませんか! 殿下の隣で聖女として崇められるより、あなたと共に行方不明になる方が、百倍マシですわよ!」
私は彼の胸に顔を埋め、叫ぶように答えました。
「……そうか。なら、俺の『悪の相棒』として、一生逃げ回ってもらうからな」
カシアンは楽しそうに笑うと、待機させていた漆黒の駿馬に私を乗せ、自らも飛び乗りました。
「行くぞ! 追っ手が来る前に、国境を越える!」
馬が嘶き、私たちは夜の王都を疾風のように駆け抜けました。
背後にある王宮では、今頃、目を覚ましたウィルフレッド殿下が「メアリアが僕を自由にするために、自ら悪名を被って去っていった……! ああ、なんて尊いんだ!」と号泣していることでしょう。
でも、もう関係ありません。
私は今、かつてないほどの自由を感じていました。
「……カシアン! 私、絶対に幸せになんてなりませんからね! 世界一不幸せで、世界一性格の悪い、最高に贅沢な隠居生活を送って差し上げますわ!」
「ああ、分かってるよ。お前のその『最悪な幸せ』、俺が全部叶えてやる」
月明かりの下、私たちは王都を離れ、未踏の地へと向かいます。
これが、私、メアリア・フォン・グロースターが最後に選んだ、台本にない「無理やりなハッピーエンド」……いえ、最高の「バッドエンド」の始まりだったのでした。
ドサッ。
目の前で、王国最強の騎士でもあるはずのウィルフレッド殿下が、恍惚とした表情を浮かべたまま床に沈みました。
あまりの感動に、脳の許容範囲を超えてしまったようです。
「……殿下? ちょっと、殿下!? 寝ている場合ではありませんわよ! 私の罵倒を聞いて怒りなさい! 衛兵を呼んで私を地下牢へ放り込みなさいな!」
私は倒れた殿下の肩を掴んで揺さぶりましたが、彼は幸せそうな寝息を立てるばかりです。
会場内は、かつてないほどの混乱に包まれました。
「殿下が倒れられたぞ!」「メアリア様の愛の言葉が強すぎたのだ!」「なんて熱烈な情愛……! これぞ真のロマンスだわ!」
貴族たちが口々に叫び、なぜか拍手喝采が巻き起こります。
……もうダメですわ。この会場に、まともな思考回路を持った人間は一人も残っていませんのね。
「……メアリア様。これ、チャンスじゃないですか?」
横から、口の周りに生クリームをつけたリリアンがひょいと顔を出しました。
「チャンス? 何のチャンスですの、ハツカネズミ」
「逃げ出すチャンスですよ! 殿下が気絶して、衛兵も感動で泣いて動けない今なら、王宮から脱出し放題ですわ! ほら、あそこでカシアン様が手招きしていますし」
リリアンが指差した先。
会場の大きな扉の影で、カシアンが馬の鞭を片手に、ニヤリと不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていました。
(……カシアン!)
私は、気絶している殿下を一瞥しました。
このままここにいれば、殿下が目を覚ました瞬間に、結婚式の準備が爆速で始まることでしょう。
私の「悪役令嬢としての散り際」を守るには、今この瞬間、全てを捨てて逃げ出すしかありません!
「……アンナ! 荷物は!?」
「馬車に積み込み済みですわ、お嬢様。いつでも国境を越えられます」
「……流石ですわ、私のメイド! リリアン、あなたはどうしますの?」
「私はここに残って、殿下が起きたら『メアリア様は、あなたを一人前の王にするために、あえて孤独という試練を与えに旅立たれました』って適当に言っておきますわ。これでお菓子食べ放題の生活は安泰です!」
「……最後まで適当なヒロインですわね。……感謝いたしますわ!」
私はドレスの裾を思い切り掴み上げると、気絶した殿下を飛び越え、カシアンの元へと全力で駆け出しました。
「カシアン! 私を連れて行きなさい! 今すぐ、ここではないどこかへ!」
「遅いぞ、メアリア。待ちくたびれて、馬が寝てしまうところだった」
カシアンは私の手を取り、力強く引き寄せました。
彼はそのまま、私を抱き上げるようにして王宮の廊下を走り抜けます。
「……おい、メアリア。いいのか? このまま逃げたら、お前は本当に『王太子を捨てて騎士と駆け落ちした、稀代の悪女』として歴史に刻まれることになるぞ」
「……望むところですわ! それこそが私の求めていた『悪の称号』ではありませんか! 殿下の隣で聖女として崇められるより、あなたと共に行方不明になる方が、百倍マシですわよ!」
私は彼の胸に顔を埋め、叫ぶように答えました。
「……そうか。なら、俺の『悪の相棒』として、一生逃げ回ってもらうからな」
カシアンは楽しそうに笑うと、待機させていた漆黒の駿馬に私を乗せ、自らも飛び乗りました。
「行くぞ! 追っ手が来る前に、国境を越える!」
馬が嘶き、私たちは夜の王都を疾風のように駆け抜けました。
背後にある王宮では、今頃、目を覚ましたウィルフレッド殿下が「メアリアが僕を自由にするために、自ら悪名を被って去っていった……! ああ、なんて尊いんだ!」と号泣していることでしょう。
でも、もう関係ありません。
私は今、かつてないほどの自由を感じていました。
「……カシアン! 私、絶対に幸せになんてなりませんからね! 世界一不幸せで、世界一性格の悪い、最高に贅沢な隠居生活を送って差し上げますわ!」
「ああ、分かってるよ。お前のその『最悪な幸せ』、俺が全部叶えてやる」
月明かりの下、私たちは王都を離れ、未踏の地へと向かいます。
これが、私、メアリア・フォン・グロースターが最後に選んだ、台本にない「無理やりなハッピーエンド」……いえ、最高の「バッドエンド」の始まりだったのでした。
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