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第73 強引に
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「ところでフィオ、あんたはどうなんだい? この世界にはもう慣れたのかい?」
「うん、大変だけどみんなと楽しくやってるよ」
「それは良かった。あんただけ年下だし、うちからの唯一の選抜者だから少し気になってたんだよ」
「私ももう子供じゃないから大丈夫だよ、おばあちゃん」
「ところで、あんたのボムなんとかはイデアルム出来たのかい?」
「ポムリンだよ。まだ出来てないし勉強もしたくないから帰りたくないよ」
「はっはっは、ボムリンじゃなかったか。そうさね、帰ったらイヤでもやらなきゃいけないからね。まあでもそんなに焦ることはないさ。自分のペースでゆっくりやるのが大事だよ」
イネス先生が優しい口調でフィオに語りかける。
俺達には厳しいイネス先生だがフィオには甘いのか?
「なあリネット。イネス先生ってフィオには特別優しくないか? おばあちゃんとか言ってたけどフィオはイネス先生の孫とか?」
「違うわよ。フィオは現役の学生で先生は直接指導してないからあんなに優しいのよ。フィオにも色々事情があってね。先生が私生活のことを気にかけてるから『おばあちゃん』って呼んでるの」
「そっか……。明るいフィオにも色々あるんだな。そういやリネットは自分でエリートとか言ってたけどどっかで働いてるのか?」
「そうよ。フィオ以外の私達は……んーと、何て言えばいいのかしら。要はエスプリマで国を守る機関に勤めてるのよ。と言ってもまだ新米なんだけどね」
「ほえー。何気にみんなスゴいんだな。俺なんか何もやりたいことなくてフラフラしてるから、リネット達を見習わないとな」
俺は褒めてるつもりだったがリネットは少し元気が無くなってしまう。
「でも今回の作戦が私達を狙って立てられたものだって聞いたら、エリートも何もないわ。新人なのに抜擢されて喜んでいたけど、ぬか喜びもいいところよ」
「それを抜きにしても十分立派だと思うけどな。それにしてもエスプリマを使ってそんなことやってる機関によくその若さで入れたな」
「昨日の言った学校で専門の科目を学んだ後に、面接と簡単な実技だけでうちの機関に入れるから、入るのはそう難しくないわ」
「ってことは、リネットが居るその機関はほとんど学校を卒業した人間で構成されてるわけだ」
「全員ではないけどそうなるわね。だから一緒にこの世界に来たノーマって子も、専攻は違ったけど学生時代からの友人よ」
「それでイネス先生はトレインがスパイだってことに気付いたのか」
「特に今回招集されたのは全員学校の卒業生だったからね。情報が改竄されてたの完全に盲点だったわ」
「あいつは何者なんだろうな。エクシエルさんも知らなかったみたいだけどさ」
リネットがトレインのことを思い出し拳をきつく握りしめる。
「どこの誰だか知らないけど絶対あいつの正体を暴いてみせるわ……。ちなみにエクシエルさんはうちの機関の偉い人なのよ」
「へえ、まだ若いだろうに。でもそんなスゴい人がよく来てくれたな」
「オルビルトさんが私達の機関に人員だけ確保させて、作戦には一切関与出来ないよう根回ししてたらしくてね。その時点でエクシエルさんは懐疑的になってて様子を窺ってたらしいのよ」
「それら全てがサーシャを狙うために仕組んだ作戦ってわけだ」
「そういうことになるわね……。姉さんはオルビルトさんとほとんど面識がなかったはずだから、多分父さんか義兄さんのこと調べてたんでしょうね」
にしてもサーシャ一人のためにかなり大掛かりな計画を練ってるみたいだし、それだけの人員を割くことが出来る人物ってことか。
そうこうしているとサルブレム城に着いたので、顔見知りの門番にクリケット達のことを話して確認に行ってきてもらう。
少し待っているとロンベル大臣の部屋に通され、中に入るとクリケットも一緒に居て俺達を出迎える。
「約束通り来たのか少年。さあ、どうしてあそこに居たのか話してもらおうか。……ん? 後ろのご婦人達は誰だ?」
「昨日俺があそこに居た理由を説明しろってことなんですよね? それについてこちらのイネスさんからロンベルさんに話があるそうなんで、先にいいですか?」
俺がそう言ってイネス先生を紹介する。
やや面を食らったのか、クリケットはそれ以上何も言わずイネス先生にソファーに座るよう促す。
イネス先生は「突然すまないね」と言い腰を下ろすと、ロンベル大臣が相変わらずオドオドとした喋り方で対応をする。
「あの……一体どのようなご用件なんでしょうか? 今国王が不在中ですし、町も大変なんで手短にお願いしたいんですけど」
それを受けて、イネス先生は自分達が異世界からこの世界を助けに来た人間であるということを簡単に伝え、続けてこの世界での協力要請も依頼する。
突然のことに二人が唖然としてイネス先生の話を聞き、ロンベル大臣がハンカチを取りだして頬を拭く。
「ははっ……いきなりそんなこと言われてもね。えーと……他の世界から……ですか? 」
「そうだよ。昨日は私がソウタにあの玉を守ってくれと頼んだんだ。申し訳ないがあんた達だけではあの連中を止めるのは無理なんだ」
「その話を信じろと言われましても……ねえ?」
対応に困ったロンベル大臣がクリケットに助けてもらおうとする。
クリケットもにわかには信じられないといった表情を浮かべ、腕を組んで聞いている。
「失礼だがご婦人。私にはその話を本当か嘘どうかの判断は出来ないが、たとえ本当であってもこの世界のことには口出ししないでもらいたい」
「そういうと思ったよ。そりゃあ唐突にこんな話をしても信じられないだろうね。こっちも口なんか出したくないがそうもいかないんだ」
「……そこの少女達は身内なのか? ならここに来る前に一度病院に行った方がいい」
そう言われてリネットが突っかかりに行こうとするも、イネス先生がそれを制止する。
「止めないで先生! この人本当に失礼だわ!」
「いいんだリネット。どうだいお嬢さん、 このババアの妄想にもう少しだけ付き合ってくれないかい? あんたこの国の騎士団員らしいね?」
イネス先生の質問にクリケットは訝しげな顔をして頷く。
「そうだが? それが貴方の話とどう結び付くんでしょう?」
「いやなに、このソウタって子は勇者候補から外れたらしいが、私の見立てではあんたよりも強いと思うんだがね」
「はははっ、それこそ妄想ですな。その少年のことをご存知ないのか? その少年の能力はその辺の農夫以下なのですよ? 私はこの国の副団長を務めてる身。相手になろうはずもない」
「この子は私達の世界の人間じゃないが間違なくあんたよりも強い。このババアが妄想で言ってるのか試してみないかい?」
ん? ちょっと待て。話が変な方向にいってないか?
「やるまでもないが、それで大人しく帰ってくださるならいいでしょう」
「この子が負けたら大人しく帰るとしよう、だけどこの子が勝ったら信じなくてもいいが協力はしてもらうよ。ほらソウタ、さっきの木刀出しな」
「ええ! 俺が戦うんですか?!」
「あんたが戦わなくて誰が戦うんだい。私の話が本当になるか嘘になるかは、あんたに掛かってるんだからね」
「いやいや! イネス先生も俺のこと知ってるでしょう? リネットかフィオにやらせた方が良いですって!」
「こういうタイプは、絶対に勝てる相手に負けると立ち直れないくらい気持ちが折れるんだ。だからあんたが適正なんだよ」
「そうじゃなくて、この大事な局面を任されも困りますよ」
「大丈夫だよ。どんな奴か知らないけどエスプリマを使う相手とも互角に戦ったんだろ? リネットにもいいとこ見せてあげな」
「そこまで言うなら分かりましたよ。リネットにいいとこは見せないですけど、やれるだけやってみましょうか。それにちょっと……」
イネス先生のことを信じないのは仕方ないけど、人をバカにした感じの言い方にムカついてたのは事実なんだよな。
「ん? 『それにちょっと』なんだい?」
「いえ何でもありませんよ。じゃあどこに行きましょうか?」
「うん、大変だけどみんなと楽しくやってるよ」
「それは良かった。あんただけ年下だし、うちからの唯一の選抜者だから少し気になってたんだよ」
「私ももう子供じゃないから大丈夫だよ、おばあちゃん」
「ところで、あんたのボムなんとかはイデアルム出来たのかい?」
「ポムリンだよ。まだ出来てないし勉強もしたくないから帰りたくないよ」
「はっはっは、ボムリンじゃなかったか。そうさね、帰ったらイヤでもやらなきゃいけないからね。まあでもそんなに焦ることはないさ。自分のペースでゆっくりやるのが大事だよ」
イネス先生が優しい口調でフィオに語りかける。
俺達には厳しいイネス先生だがフィオには甘いのか?
「なあリネット。イネス先生ってフィオには特別優しくないか? おばあちゃんとか言ってたけどフィオはイネス先生の孫とか?」
「違うわよ。フィオは現役の学生で先生は直接指導してないからあんなに優しいのよ。フィオにも色々事情があってね。先生が私生活のことを気にかけてるから『おばあちゃん』って呼んでるの」
「そっか……。明るいフィオにも色々あるんだな。そういやリネットは自分でエリートとか言ってたけどどっかで働いてるのか?」
「そうよ。フィオ以外の私達は……んーと、何て言えばいいのかしら。要はエスプリマで国を守る機関に勤めてるのよ。と言ってもまだ新米なんだけどね」
「ほえー。何気にみんなスゴいんだな。俺なんか何もやりたいことなくてフラフラしてるから、リネット達を見習わないとな」
俺は褒めてるつもりだったがリネットは少し元気が無くなってしまう。
「でも今回の作戦が私達を狙って立てられたものだって聞いたら、エリートも何もないわ。新人なのに抜擢されて喜んでいたけど、ぬか喜びもいいところよ」
「それを抜きにしても十分立派だと思うけどな。それにしてもエスプリマを使ってそんなことやってる機関によくその若さで入れたな」
「昨日の言った学校で専門の科目を学んだ後に、面接と簡単な実技だけでうちの機関に入れるから、入るのはそう難しくないわ」
「ってことは、リネットが居るその機関はほとんど学校を卒業した人間で構成されてるわけだ」
「全員ではないけどそうなるわね。だから一緒にこの世界に来たノーマって子も、専攻は違ったけど学生時代からの友人よ」
「それでイネス先生はトレインがスパイだってことに気付いたのか」
「特に今回招集されたのは全員学校の卒業生だったからね。情報が改竄されてたの完全に盲点だったわ」
「あいつは何者なんだろうな。エクシエルさんも知らなかったみたいだけどさ」
リネットがトレインのことを思い出し拳をきつく握りしめる。
「どこの誰だか知らないけど絶対あいつの正体を暴いてみせるわ……。ちなみにエクシエルさんはうちの機関の偉い人なのよ」
「へえ、まだ若いだろうに。でもそんなスゴい人がよく来てくれたな」
「オルビルトさんが私達の機関に人員だけ確保させて、作戦には一切関与出来ないよう根回ししてたらしくてね。その時点でエクシエルさんは懐疑的になってて様子を窺ってたらしいのよ」
「それら全てがサーシャを狙うために仕組んだ作戦ってわけだ」
「そういうことになるわね……。姉さんはオルビルトさんとほとんど面識がなかったはずだから、多分父さんか義兄さんのこと調べてたんでしょうね」
にしてもサーシャ一人のためにかなり大掛かりな計画を練ってるみたいだし、それだけの人員を割くことが出来る人物ってことか。
そうこうしているとサルブレム城に着いたので、顔見知りの門番にクリケット達のことを話して確認に行ってきてもらう。
少し待っているとロンベル大臣の部屋に通され、中に入るとクリケットも一緒に居て俺達を出迎える。
「約束通り来たのか少年。さあ、どうしてあそこに居たのか話してもらおうか。……ん? 後ろのご婦人達は誰だ?」
「昨日俺があそこに居た理由を説明しろってことなんですよね? それについてこちらのイネスさんからロンベルさんに話があるそうなんで、先にいいですか?」
俺がそう言ってイネス先生を紹介する。
やや面を食らったのか、クリケットはそれ以上何も言わずイネス先生にソファーに座るよう促す。
イネス先生は「突然すまないね」と言い腰を下ろすと、ロンベル大臣が相変わらずオドオドとした喋り方で対応をする。
「あの……一体どのようなご用件なんでしょうか? 今国王が不在中ですし、町も大変なんで手短にお願いしたいんですけど」
それを受けて、イネス先生は自分達が異世界からこの世界を助けに来た人間であるということを簡単に伝え、続けてこの世界での協力要請も依頼する。
突然のことに二人が唖然としてイネス先生の話を聞き、ロンベル大臣がハンカチを取りだして頬を拭く。
「ははっ……いきなりそんなこと言われてもね。えーと……他の世界から……ですか? 」
「そうだよ。昨日は私がソウタにあの玉を守ってくれと頼んだんだ。申し訳ないがあんた達だけではあの連中を止めるのは無理なんだ」
「その話を信じろと言われましても……ねえ?」
対応に困ったロンベル大臣がクリケットに助けてもらおうとする。
クリケットもにわかには信じられないといった表情を浮かべ、腕を組んで聞いている。
「失礼だがご婦人。私にはその話を本当か嘘どうかの判断は出来ないが、たとえ本当であってもこの世界のことには口出ししないでもらいたい」
「そういうと思ったよ。そりゃあ唐突にこんな話をしても信じられないだろうね。こっちも口なんか出したくないがそうもいかないんだ」
「……そこの少女達は身内なのか? ならここに来る前に一度病院に行った方がいい」
そう言われてリネットが突っかかりに行こうとするも、イネス先生がそれを制止する。
「止めないで先生! この人本当に失礼だわ!」
「いいんだリネット。どうだいお嬢さん、 このババアの妄想にもう少しだけ付き合ってくれないかい? あんたこの国の騎士団員らしいね?」
イネス先生の質問にクリケットは訝しげな顔をして頷く。
「そうだが? それが貴方の話とどう結び付くんでしょう?」
「いやなに、このソウタって子は勇者候補から外れたらしいが、私の見立てではあんたよりも強いと思うんだがね」
「はははっ、それこそ妄想ですな。その少年のことをご存知ないのか? その少年の能力はその辺の農夫以下なのですよ? 私はこの国の副団長を務めてる身。相手になろうはずもない」
「この子は私達の世界の人間じゃないが間違なくあんたよりも強い。このババアが妄想で言ってるのか試してみないかい?」
ん? ちょっと待て。話が変な方向にいってないか?
「やるまでもないが、それで大人しく帰ってくださるならいいでしょう」
「この子が負けたら大人しく帰るとしよう、だけどこの子が勝ったら信じなくてもいいが協力はしてもらうよ。ほらソウタ、さっきの木刀出しな」
「ええ! 俺が戦うんですか?!」
「あんたが戦わなくて誰が戦うんだい。私の話が本当になるか嘘になるかは、あんたに掛かってるんだからね」
「いやいや! イネス先生も俺のこと知ってるでしょう? リネットかフィオにやらせた方が良いですって!」
「こういうタイプは、絶対に勝てる相手に負けると立ち直れないくらい気持ちが折れるんだ。だからあんたが適正なんだよ」
「そうじゃなくて、この大事な局面を任されも困りますよ」
「大丈夫だよ。どんな奴か知らないけどエスプリマを使う相手とも互角に戦ったんだろ? リネットにもいいとこ見せてあげな」
「そこまで言うなら分かりましたよ。リネットにいいとこは見せないですけど、やれるだけやってみましょうか。それにちょっと……」
イネス先生のことを信じないのは仕方ないけど、人をバカにした感じの言い方にムカついてたのは事実なんだよな。
「ん? 『それにちょっと』なんだい?」
「いえ何でもありませんよ。じゃあどこに行きましょうか?」
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