念願の異世界に召喚されたけど役に立ちそうもないんでその辺で遊んでます~森で謎の姉妹に出会って本物の勇者を目指すことに~

朱衣なつ

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第97話 海の男

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 俺達は気絶している双子を縛り上げて、残った手下共を片付けることにする。

 周囲を見渡すと海賊達のほとんどはすでに鎮圧されており、残った数人が僅かに抵抗を続けているだけの状態のようだ。

 俺もそれの手伝いをしようと思っていたら
、船員達に混じってリネットの声がこちらに届いてくる。

 「よーし! 練習の成果を見せてあげるわ!」

 リネットは杖を持って魔法を使おうとしているようだ。

 この数日間練習していた魔法を試してみるようだが果たして……。

 杖を掲げ「《アイスクラッシュ!》」と叫ぶ。

 いつの間にそんな魔法を習得したのか知らないが、拳を握って見守ることにする。

 すると、杖の先端から一口サイズの氷が出現し、少し離れた海賊に向かってヒョロヒョロと飛んでいく。

 海賊にポスッと当たるも、当たった本人はそれに気付いてない様子で船員達と戦っている。

 あっ……。

 その様子を見てリネットは「もういいわ!」と怒り、結局杖で海賊達に殴りかかりにいく。

 俺達と一緒に魔法の練習をしてたの知ってたけど、《アイスソリッド》がようやく安定して発動するくらいだったからな……。

 ともあれ、みんなの活躍もあって船に乗り込んできた海賊達を全員捕らえる。

 残った二隻はバルバロス号から発射された火球で船体が燃えていて、それを消化するので手一杯の様子だ。
 
 ゼダックさんが拡声器でその二隻にこちらの状況を伝えて降伏を呼び掛けるが、二隻とも煙を上げながら退却していく。

 「ようし! あいつ等はもう追う必要はねえ。お前達ご苦労だったな!」

 上着を肩に掛けてタンクトップ姿のゼダックさんが、俺達と船員に向かって親指を立てる。

 それに船員は勝利の雄叫びを上げる。

 その声に、縄で縛り上げられていた双子の一人が目を覚まし、ゼダックさんの肩に入れられたタトゥーを見て驚愕する。

 「ん? あ? ああっ! そ、それは!」

 「目を覚ましたか? 俺の船をたまたま襲ったのは運が無かったな」

 ゼダックはパイプを吹かしニッと笑う。

 その直後に目を覚ましたもう一人の男もタトゥーを見て声を上げる。

 「あ、あんた! もしかして数々の海賊を海に沈めてきたという、伝説の海賊狩り船団ローレライの船長、ゼダック=ダグラスじゃないのか!?」

 「ん? 俺のことを知ってるのか? まあ、昔の話だけどな。お前等海賊も相変わらず懲りねえ連中だな」

 「なんでそんな男がこんなところを一隻で渡航してるんだよ! それに噂だととっくの昔に引退したって聞いたぞ」

 「俺も歳だから引退してのんびりやってたんだがよ。何人かの若い衆が俺とまた航海したいって言うから、たまに依頼があればこうやって一緒に乗ってるんだ」

 「若い衆って……全員親父ばっかじゃねえか。知らなかったとはいえ、そんな連中が乗ってる船に手を出すんじゃなかった……」

 双子の大男達は口を揃えてガックリとうなだれる。

 ゼダックは捕らえた海賊達を運ぶよう船員に指示して、レグルス達の方に向き直る。
 
 「ただの盗人かと思ったがお前達も中々やるじゃねえか! 見直したぜ」

 「いや、聞けばあなたは有名な方だそうで。そんな人にそう言われるとなんだか照れますね」

 「そう謙遜することはねえ、お前達もそれなりの人間なんじゃないか?」

 確かに。この船の乗組員が強いのは納得したけど、レグルスさん達も負けず劣らずの強者っぷりだったしな。

 「私達は元々ダルカデルのギルドに所属していた人間なんです。ですが年も取ってきたし子供も居ますので、今は引退して漁師として働いてる身なんですよ」

 「どおりで見事な腕前だったわけだ。あのアンドラってやつも同じなのか?」

 「アンドラさんは我々に一から漁業を教えてくれた人で昔からの漁師です。ただ、最近は今みたいに海賊が増えてきて、中々漁に出れなくなってきてるんです。それでお金に困ったアンドラさんは……」

 「海賊の真似事をしたってわけかい。俺達が海賊狩りを止めたころには随分減ってたと思ったんだがなあ。お前達も大変だな」

 「なんでも仕事が無くなった冒険者達が海賊に転職してるらしいんです」

 「ほう? 冒険者が海賊になるってのは穏やかじゃねえな」

 「海賊以外にもまっとう働いている者も大勢います。問題は、現在ギルドの仕事があまり受けられない環境らしくて、みんな仕事にあぶれてるみたいなんです」

 参ったな。そんなことになってるのか。ダルカデルに着いたら冒険者ギルドに行ってみようと思ってるのに、何か問題が起きてるなら相手にされないかもしれないぞ。

 「なんだか面倒くせえことになってんだな。そんな話聞くとお前達を余計に突き出しづらくなるぜ」
 
 「やったことは事実ですし、止められなかった我々の責任もあります。なので適切な処置をして下さい」

 レグルスにそう言われゼダックは一つの決断を下す。

 「よし! だったらこの船にいる間は拘束させてもらおう。そしてこの船を降りたら、このボウズ達の手伝いをしてやれ。それで今回の件はチャラにしてやる」

 ゼダックの審判にレグルス達は動揺するが、その後すぐにホッとした顔をなる。

 「もちろんそれは構いませんが。それでいいんですか?」

 「まあ別にお前等が何かやったわけじゃねえし、アンドラとかいうのを止めたのも事実だ。忙しいから後のことはドナイルと適当に話してくれや」

 良かった。レグルスさん達は悪い人じゃなさそうだし、このまま罪に問われるのは可哀想だと思ってたんだ。

 俺はデッキから去って行くゼダックさんを追いかけてお礼を言う。

 「ゼダックさん! 俺が言うのも何ですけど、レグルスさん達のことありがとうございました」

 「おう! お前ダルカデルに行ったことないんだろ? だったらあいつ等に色々教えてもらうといいぜ」 

 「ええ、まったく知らないんで助かりますよ。それにしてもゼダックさんが海賊狩りの船長してただなんて思いませんでしたよ」
 
 「元々俺達は沈没船とかを引き上げるトレジャーハンターだったんだがよ。あまりにも海賊共が俺達の邪魔してきやがったから、途中で海賊狩りに切り替えたんだ」

 「船員さん達が手慣れた動きで対処してたのは、前に海賊と何度も戦ったことがあったからなんですね」

 「随分潰してやったからな。海賊はいいぜ? ぶん殴っても怒られるどころか感謝されるからな! おまけに金もたんまりもってやがる。どうだボウズ? お前もやってみないか?」
 
 「いや、それはちょっと俺には豪胆過ぎるというか……」

 「はっはっ! まあ、やる気になったらいつでも言ってこいや」

 俺はデッキから降りていくゼダックさんを見送り、レグルスさん達に声を掛けに戻る。

 一悶着あったけど多分明日にはダルカデルに着くだろうから、また忙しくなりそうだな。
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